【簡単!失語症評価】病棟やリハビリ場面、生活場面で観察できるポイントを解説!脳科学まで
失語症の評価バッテリーは、いつ・どれを選ぶべきか。
日常会話が成立していても、読解・呼称・書字を個別に確認しないと軽度失語は見逃されます。1回のセッションで拾える所見と、正式なバッテリーで確定すべき所見を整理します。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
発症から約3ヶ月、回復期病棟からの外来移行期。主訴は「会話に困っている自覚はないが、書類の記入が遅くなった」という軽度の訴えでした。
初回評価で担当OTが確認したのは指示理解・読解要約・呼称・書字の4課題でした。
田中OTは、佐藤さんの1回のセッション内で言語処理に関わる4つの機能を順に確認しました。まず「椅子に座ってください」「用紙にサインしてください」という単純な口頭指示を出し、遂行を観察します。
次に新聞記事を渡して読解と口頭での要約を求めました。佐藤さんは「新しい図書館が市の中心部に来春完成する」という内容を、細部まで正確に説明できました。
続いて物品名・人名を10個ずつ挙げる呼称課題、最後に氏名と簡単な一文を書く書字課題を行いました。いずれも大きな誤りなく遂行できています。
この4課題だけを見ると「問題なし」に見えます。しかしこれは正式なバッテリーによる重症度確定の代わりにはなりません。次章以降で、なぜこの4課題が選ばれているのか、そしてどこまで踏み込んだ評価が必要かを整理します。
失語症とは何か、どのくらいの頻度で出会うのか。
失語症とは、大脳の言語優位半球(多くは左半球)の損傷により、聴く・話す・読む・書くの言語機能が障害された状態を指します。運動麻痺や感覚障害とは独立して生じます。
脳卒中急性期における失語症の発生頻度は21〜38%と報告されています[SR/MA](Flowers et al., Arch Phys Med Rehabil, 2016)。約半数は6ヶ月以内に部分的〜完全に回復しますが、慢性期まで症状が残存する例も少なくありません。
言語処理は、指示理解・読解・呼称・書字という独立した下位機能の集合体です。1つの課題ができても、他の下位機能が保たれている保証にはなりません。評価バッテリーはこの下位機能を漏れなく拾うために設計されています。
評価に含めるべき3つの言語ドメイン
口頭指示の理解、文章の読解と要約。ウェルニッケ野・角回が関与します。
物品名・人名の想起、自発的な発話の流暢性。ブローカ野と側頭葉の連携が関与します。
思考を文章に変換する能力。頭頂葉の視覚運動統合と言語生成の統合機能です。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは脳神経疾患のスペシャリストが、言語・高次脳機能の状態を丁寧に評価し、ご本人・ご家族に合わせたリハビリ計画をご提案します。
4つの機能は、どの脳領域が支えているのか。

Hickok & Poeppel(2007)のdual-stream modelでは、意味理解を担う腹側経路(側頭葉)と、音韻から構音への変換を担う背側経路(頭頂-前頭葉)に機能が分かれるとされます[SR/MA]。この枠組みが、以下の各機能の責任病巣の理解を助けます。
指示理解に従う能力
前頭前野(prefrontal cortex)が指示内容の理解から行動計画・実行までを担います。側頭葉のウェルニッケ野(Wernicke’s area)は指示の言語的理解を支えます。両者の連携が崩れると、指示に従えても実行が遅延することがあります。
読解と内容説明
左角回(angular gyrus)は意味処理・読解の中枢です。ウェルニッケ野が言語理解を、ブローカ野(Broca’s area)が理解した内容の言語生成を担います。この3領域の連携で読解要約が成立します。
物品名・人名の呼称
上側頭回(superior temporal gyrus)は音韻情報処理、内側側頭回・海馬(hippocampus)は記憶検索を担います。前頭前野が検索結果の列挙を計画・実行します。
思考を文章に変換する書字
ブローカ野が言語生成、ウェルニッケ野が意味処理、頭頂葉の上頭頂小葉(superior parietal lobule)が視覚情報と手の動作を統合し、書字を支えます。
Hickok & Poeppel[SR/MA]:Nature Reviews Neuroscience誌(2007)の総説で、聴覚言語処理の腹側・背側二重経路モデルが提唱されました。この枠組みは失語症タイプの責任病巣解釈の標準的基盤として広く引用されています。
言葉が出にくい、を鑑別する。
「言葉が出にくい」という主訴は、失語症以外の要因でも生じます。運動性の問題か言語処理の問題かを、初回評価で切り分けることが重要です[専門家合意]。

| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 構音障害(Dysarthria) | 発話が不明瞭 | 書字・読解は保たれる。構音器官の運動麻痺が主体。 | 口腔顔面運動検査 |
| 失行症(Apraxia of Speech) | 発話開始が困難 | 言語理解・読解は保たれ、構音の運動プランニングの誤りが特徴。 | 系列運動課題 |
| 遂行機能障害 | 会話がまとまらない | 単語検索・呼称自体は保たれるが、話の構成・切替に難渋。 | D-KEFS |
| 初期認知症・軽度認知障害 | 語想起の低下 | 発症様式が緩徐で、病巣所見と時間経過が一致しない。 | MMSE/HDS-R、画像所見 |
WAB-Rの採点基準で迷わないための一覧。
Western Aphasia Battery-Revised(WAB-R)は、自発話・聴覚的理解・復唱・呼称の4下位検査から失語指数(Aphasia Quotient, AQ)を算出する標準化バッテリーです[複数RCT関連妥当性研究]。

| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 自発話 | 流暢性0-10点、内容伝達0-10点 | 2領域計20点満点 | 流暢性の高低でブローカ/ウェルニッケ分類の手がかりに |
| 聴覚的理解 | Yes/No質問、単語認知、系列命令 | 10点満点に換算 | 低値はウェルニッケ失語を示唆 |
| 復唱 | 単語〜文の復唱正答率 | 10点満点に換算 | 伝導失語の鑑別に重要な項目 |
| 呼称 | 物品呼称・文完成・語想起 | 10点満点に換算 | 健忘失語で選択的に低下しやすい |
信頼性・妥当性[単独RCT関連妥当性研究]:Risser & Spreen(J Clin Exp Neuropsychol, 1985)により再検査信頼性・併存的妥当性が確認されています。原著マニュアルはKertesz(PsychCorp, 2007)。
MCID[専門家合意]:WAB-RのAQに関する確立されたMCIDは報告が乏しく、臨床的には5〜10点程度の変化を有意義な変化の目安として扱う専門家合意が一般的です。単独の数値のみで機能変化を断定しないことが推奨されます。
評価結果を、どう介入計画に落とし込むか。
評価で下位機能の障害プロファイルが明確になったら、次は介入強度とアプローチを具体化します。Cochraneレビューでは、言語聴覚療法そのものの有効性と、強度が結果に影響することが示されています[SR/MA](Brady et al., Cochrane Database Syst Rev, 2016)。

WAB-R下位検査で最も低下している領域(呼称/理解/復唱)を特定します。
呼称低下には意味特徴分析法(SFA)、発話量低下にはConstraint-Induced Aphasia Therapy(CIAT)を検討します。
週2〜9時間、1回30〜60分を目安に、疲労耐性を見ながら段階的に頻度を上げます[SR/MA]。
4〜8週ごとにWAB-Rを再実施し、AQの推移で効果判定を行います。
Cherney et al.[SR/MA]:Stroke誌(2008)の系統的レビューで、高強度・高頻度の言語聴覚療法が良好な機能予後と関連することが示されています。実施可能な範囲での頻度最大化が推奨されます。

STROKE LABでは、神経解剖学に基づく評価と、エビデンスに基づく個別プログラムを組み合わせてご提案しています。
評価結果を、誰と、どう共有するか。
情報共有で起こりがちなすれ違い
- 「会話ができる」という看護記録だけで、読解・書字の困難が申し送りから漏れる。
- ST評価の専門用語(呼称・復唱等)がPT/OTに正確に伝わらず、環境調整に反映されない。
「AQ何点」だけでなく「復唱は保たれているが呼称が弱い」という具体的な内訳をカンファレンスで共有すると、他職種のアプローチが揃いやすくなります。
書字が困難な患者には、看護師・MSWにも「口頭指示中心で対応」と共有しておくと、日常生活場面での誤解が減ります。
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| ST | WAB-R/SLTA全項目 | SFA・CIAT等の言語訓練 | 下位機能プロファイルを他職種へ共有 |
| OT | 生活場面での指示理解・書字動作 | ADL場面での言語手がかり調整 | ST評価結果をADL指導に反映 |
| PT | 運動指示の理解度 | 単純化した口頭・視覚指示での運動学習 | 指示理解レベルに合わせた説明方法を共有 |
| 看護師 | 日常会話でのコミュニケーション支障 | Yes/Noで答えやすい問いかけの工夫 | 誤解に基づく安全管理リスクをST・OTに報告 |
| 医師 | 病巣・重症度の医学的評価 | 画像所見と機能予後の説明 | AQ推移を治療方針検討の参考情報として共有 |
| MSW | 社会復帰場面でのコミュニケーション課題 | 職場・家族への情報提供支援 | 機能的コミュニケーションの実用レベルをST評価から把握 |
新人が陥りやすい3つのつまずき。
冒頭の佐藤さんのケースのように、ベッドサイドの4課題だけで「問題なし」と結論づけてしまうのは、新人によくある落とし穴です。
先輩の見方
「4課題ができた」で終わらせず、「なぜこの4課題を選んだのか」を毎回言語化する癖をつけると、責任病巣の理解が深まります。
迷ったら、まずWAB-Rの自発話評価だけでも実施してみてください。流暢性の有無だけで、次に確認すべき方向性が変わります。
評価結果を、ゴール設定にどうつなげるか。
失語症の回復曲線は発症からの経過期間によって異なります。El Hachioui et al.(J Neurol, 2013)の1年間の縦断コホート研究では[観察研究]、多くの回復が発症後3〜6ヶ月に生じ、その後は緩やかになることが示されています。
初期AQが高いほど、また病巣が小さいほど良好な予後と関連する傾向があります[観察研究]。ゴール設定では、この経過を踏まえて短期(4週)・中期(8週)・長期(3ヶ月)の到達点を分けて設定しましょう。
「AQを80点まで」ではなく「病院からの電話連絡を一人で聞き取れるようになる」のように、生活場面に落とし込んだゴールを併記すると、本人・家族との共有がしやすくなります。
よくある質問。
WAB-Rは自発話・聴覚的理解・復唱・呼称の4領域からAQを算出する国際標準バッテリーです。SLTAは国内標準の26下位検査で、日本語の言語特性や保険請求実務に対応しています。研究・国際比較にはWAB-R、国内臨床報告にはSLTAが選ばれる傾向があります。
93.8はKertesz(2007)の原著マニュアルによるカットオフ値で、健常者データとの比較から設定されています。ただし年齢・教育歴で変動しうるため、下位項目の質的所見と併せて解釈することが専門家合意として推奨されます。
いいえ。軽度失語や失名詞失語では日常会話が一見流暢に成立することが多く、読解・書字・語想起課題まで実施しないと見逃されます。今回のケースのように指示理解や要約ができても、詳細な語想起・書字課題で軽微な所見が見つかることがあります。
急性期は病棟でのベッドサイドスクリーニング、回復期は正式なWAB-R/SLTAによる重症度評価と定期再評価(概ね4〜8週ごと)、生活期は機能的コミュニケーション評価という3段階での使い分けが一般的です。
Cochraneレビュー(Brady et al., 2016)では、より高頻度・高強度の言語聴覚療法が良好な機能予後と関連することが示されています。目安として週2〜9時間、実施可能な範囲で頻度を最大化しつつ疲労耐性にも配慮します。
はい。言語処理の背景には記憶検索(海馬・側頭葉内側)や実行機能(前頭前野)が関与するため、WMSやD-KEFSなど関連バッテリーを併用すると、言語症状の背景にある認知機能低下を切り分けやすくなります。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳神経疾患・整形外科疾患に対する自費リハビリ専門施設です。言語・高次脳機能の評価から個別プログラムの立案まで、専門スタッフが一貫して対応します。
「担当した回復期の患者さんは、日常会話は流暢でしたが、書類記入の遅さを訴えていました。WAB-Rを実施したところ呼称のみ選択的に低下しており、SFAを週4回・8週間実施したところ、AQが12点改善しました。数値化して初めて、家族にも変化を具体的に伝えられました。」— 言語聴覚士・臨床6年目・脳血管疾患担当
「新人時代、簡易課題だけで『問題なし』と申し送りし、後に正式評価で軽度失語が判明した経験があります。以来、必ず正式バッテリーの実施予定を初回評価時に立てるようにしています。」— 作業療法士・臨床9年目・回復期病棟経験者
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諦めないでください。

失語症は、周囲から見えにくい障害です。会話ができているように見えても、ご本人は言葉が出てこないもどかしさを日々感じています。
STROKE LABでは神経解剖学に基づく丁寧な評価から、生活に根差した個別プログラムをご提案しています。
言葉のリハビリに関するお悩みは、どんな些細なことでも構いません。ぜひ一度ご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)