二分脊椎の子どもの歩行とリハビリ|下肢麻痺と装具の考え方
二分脊椎の歩行を、麻痺レベルと装具選択から支える
「将来、歩けるようになりますか」「車椅子を使うと、歩く力が落ちませんか」——二分脊椎の移動について、保護者が抱く不安は一つではありません。歩行の可能性は麻痺レベルだけで決まらず、残っている筋力、感覚、関節の形、装具、成長、疲労、生活環境によって変わります。大切なのは、歩く形を整えることではなく、その子の一日を広げる移動方法を設計することです。

「歩けるか」だけでは、移動の可能性は語れない。
二分脊椎の子どもの移動を考えるとき、最初に起こりやすいのが「歩行か、車椅子か」という二者択一です。しかし、実際の生活はそれほど単純ではありません。家の中では歩けても、長い校舎の移動では疲れ切ってしまうことがあります。反対に、学校では車椅子を使い、リハビリや短い移動では立位・歩行を活用することで、授業や遊びへの参加が広がることもあります。
移動の目標は、見た目にきれいに歩くことでも、車椅子を避けることでもありません。必要な場所へ安全に移り、その後にしたい活動へエネルギーを残せることです。そのため、歩行能力、歩行速度、持久力、皮膚、転倒、自己管理、環境を一緒に評価します。
限界:推奨には専門家合意を含み、すべてが比較試験で証明されているわけではありません。個別の医学的判断に代わるものではありません。
二分脊椎では、脊髄から脚への指令と感覚が変わる。
二分脊椎は、胎児期に脊椎や脊髄を包む組織が十分に形成されない神経管閉鎖障害です。髄膜瘤、脊髄髄膜瘤、潜在性二分脊椎などがあり、下肢の運動・感覚、排尿・排便、足部や脊柱の形、水頭症など、影響は一人ひとり異なります。
歩行に直接関わるのは、脊髄のどの高さまで神経機能が保たれているかです。ただし、画像上の高さと、実際に働く筋の高さは一致しないことがあります。さらに左右差もあるため、診断名や画像だけではなく、股関節を曲げる、膝を伸ばす、足首を上げる、つま先で床を押すといった筋の働きを左右別に確認します。
二分脊椎では、脳性麻痺に多い痙性とは異なり、脊髄・末梢神経由来の弛緩性麻痺が中心です。力が入りにくい筋を、残っている筋、関節の位置、靱帯、装具、杖、歩行器、上肢、体幹で補いながら動作を成立させます。

麻痺レベルとHoffer分類は、未来を固定する表ではない。
麻痺レベルは、移動方法を考える大切な手がかりです。一般に高いレベルほど下肢の筋力が限られ、立位・歩行には長下肢装具や歩行器など、より多くの外的支持が必要になります。低いレベルでは短下肢装具で地域内歩行が可能な場合がありますが、足部変形や疲労、体重増加によって歩行効率が変わります。
| おおよその機能レベル | 動作で見やすい特徴 | 検討される移動支援 |
|---|---|---|
| 胸髄〜上位腰髄 | 下肢を自力で支える筋が限られ、上肢と体幹への依存が大きい | 立位装置、骨盤帯付き長下肢装具、歩行器、車椅子 |
| 中位腰髄 | 股関節屈曲・膝伸展を使えるが、骨盤安定や脚の振り出しに代償が出やすい | 長下肢装具または短下肢装具、杖、歩行器、距離に応じた車椅子 |
| 下位腰髄〜仙髄 | 歩行可能でも、足関節底屈筋の弱さ、足部変形、膝屈曲位、疲労が出ることがある | 短下肢装具、靴調整、必要時の杖・車椅子併用 |
Hoffer分類は、地域内を歩けるか、家庭内を歩けるか、治療場面でのみ歩くか、歩行を移動に用いないかを整理する機能分類です。現在の状況を共有するには有用ですが、同じ子どもでも家・学校・屋外で分類が変わることがあります。分類は可能性の上限ではなく、今の移動実態を言葉にする道具として使います。
弛緩性麻痺では、代償が歩行をつくっている。
筋力が弱いと、子どもは別の方法で身体を前へ運びます。股関節外転筋が弱ければ、支持脚側へ体幹を傾け、骨盤の落下を減らします。足関節底屈筋が弱ければ、立脚後半に床を押し返せず、膝を曲げたまま進んだり、骨盤や体幹の回旋を大きくしたりします。脚を振り出す筋が弱ければ、骨盤を持ち上げる、外へ回す、上肢で歩行器を押して身体を浮かせる戦略を使います。
ここで重要なのは、代償を見つけてすぐに消さないことです。その動きがなければ一歩を出せない場合があります。一方で、代償が大きすぎると、上肢痛、腰痛、疲労、転倒、関節への負担につながります。専門的な動作分析では、必要な代償と、生活を狭める代償を分けることから始めます。
歩行は、足首ではなく全身と時間で見る。
二分脊椎の歩行評価では、足部の向きだけでなく、立脚初期の膝の安定、立脚中期の脛骨前傾、立脚後期の床を押す力、遊脚期の足部クリアランス、骨盤回旋、体幹側屈、上肢支持を一連の流れとして見ます。装具の設定が少し変わるだけでも、床反力と膝の位置関係が変わるためです。
さらに、最初の10歩だけでは判断しません。速度を上げたとき、荷物を持ったとき、方向転換、坂道、長い廊下、午前と午後、装具を数時間使用した後を比べます。家では歩けても学校で崩れる場合、能力不足ではなく、距離・時間制約・混雑・荷物・トイレ動線がボトルネックになっていることがあります。
装具は「固定具」ではなく、動きを再配分する道具。
二分脊椎では、足部を変形から守り、立位基底面をつくり、弱い筋の働きを補うために装具を用います。子どもの装具は足元だけでなく、膝・骨盤・体幹を含めて見直すことが大切です。短下肢装具、床反力を利用する装具、長下肢装具、骨盤帯を含む装具などがあり、必要な支持は麻痺レベルと目標によって異なります。
AFOは足首を支える一方、足首の動きを制限することで、膝や立ち上がりへ影響します。硬さ、足関節角度、足部と下腿の位置、靴の踵高が変わると、膝を伸ばす方向の力にも、曲げる方向の力にも変化し得ます。そのため「この診断にはこの装具」と決めず、装具を着けた瞬間の安定だけでなく、歩幅、速度、エネルギー、方向転換、椅子からの立ち上がり、皮膚まで比較します。
限界:小規模研究が多く、長期的な生活参加への効果は十分に確立していません。装具処方・調整は主治医と義肢装具士の領域です。

成長による変化を、「努力不足」にしない。
子どもは成長します。脚が長くなり体重が増えると、同じ筋力でも身体を支える負担は大きくなります。装具が小さくなる、関節拘縮や足部変形が進む、歩行速度が生活の要求に追いつかないなど、以前できていたことが難しくなる場合があります。それは、本人の努力が足りないためとは限りません。
感覚低下がある部位では、痛みが少なくても皮膚損傷や骨折が起こることがあります。装具を外した直後だけでなく、赤みが消えるまでの時間、汗、靴下のしわ、腫れ、左右差を確認します。皮膚の傷、水疱、強い腫れ、変形の急な進行があれば、装具使用を続けず相談します。
専門施設で、さらに期待できること。
家庭でできるのは、毎日の皮膚確認、装具の着脱、無理のない運動機会、疲れ方の記録、成功しやすい環境づくりです。専門施設では、その記録と生活上の困りごとを、筋力、感覚、関節、装具、歩行局面、疲労、環境へ分解し、複数の介入候補を比較します。
| 困りごと | 評価仮説 | 介入と調整 | 生活で再評価 |
|---|---|---|---|
| 膝を曲げて歩き疲れる | 底屈筋弱化、AFO角度、股・膝拘縮、体重 | 装具ありなし・速度別比較、可動域、短時間反復、距離配分 | 教室移動後の集中、帰宅後と翌日の疲労 |
| 体幹を大きく振る | 股外転筋弱化、脚長差、回旋変形、支持基底面 | 必要代償を残し、杖位置・装具・側方移動課題を比較 | 混雑時の接触、荷物を持った移動、腰痛 |
| 学校で車椅子が増えた | 距離、時間制約、混雑、荷物、疲労、装具不適合 | 歩行と車椅子の併用、休憩、動線、学校共有 | 体育・休み時間・校外活動へ参加できたか |
| 装具で皮膚が赤くなる | 感覚低下、成長、回旋、装具内のずれ、湿気 | 使用中止判断、装具士への情報整理、短時間試用 | 赤みの消失時間、自己点検、再発の有無 |
介入は、筋力訓練だけではありません。残存筋を使いやすくする姿勢と課題、関節可動域、立ち上がり・方向転換・坂道など実課題の反復、上肢と体幹の過負荷を抑える補助具、持久力と身体活動、学校環境を組み合わせます。成功率が低すぎると代償と恐怖が増えるため、最初は短い距離・安定した環境で成功をつくり、その後に速度、距離、荷物、二重課題を一つずつ加えます。
その場で歩容が変わっても、生活で使えなければ十分ではありません。一定期間後に、歩数だけでなく、転倒、皮膚、疼痛、授業参加、遊び、家族の介助量、本人が移動方法を選べるかを再評価します。これが、エビデンスと臨床を生活へつなぐプロセスです。
歩行と車椅子は、活動を広げるチーム。
歩くことには、立位経験、関節可動域、移乗、同じ目線での活動などの価値があります。一方、長い距離を歩くために体力を使い切り、授業・遊び・外出を諦めるなら、移動全体を見直す必要があります。
車椅子は「歩行を諦めた印」ではありません。自分で速度を選び、友達と一緒に移動し、荷物を運び、長い外出へ参加するための道具です。短距離歩行と長距離車椅子を併用し、必要に応じて立位や歩行練習を続けることもできます。
限界:観察研究であり、個々の活動量を決めるものではありません。
- どの距離・時間で歩容が変わるか
- 午前と午後、平日と休日の疲労差
- 移動後に授業・遊びへ参加できるか
- 装具を外した後の皮膚と赤みの消失時間
- 転倒、痛み、排泄、睡眠、翌日の活動変化
- 本人が歩行・車椅子・休憩を選べているか
よくある質問。
歩行を整えるのではなく、その子の一日を広げる。
STROKE LABでは、診断名や麻痺レベルだけで介入を決めません。残存筋がどの局面で働き、どの代償で一歩をつくり、装具が膝・骨盤・体幹へどう影響し、どの距離から疲労や皮膚問題が生じるかを整理します。
そして、歩行練習の結果を施設内で終わらせず、園・学校・外出へ移します。歩行と車椅子の使い分け、介助量、休憩、動線、本人の自己選択まで含めて、成長に合わせて再設計します。医療機関での診断・治療・装具処方を尊重し、その方針と生活の間をつなぐことが私たちの役割です。
その子の可能性として育てる。

二分脊椎のお子さんの歩行には、残っている筋力を最大限に使う工夫と、身体を守る工夫の両方が必要です。歩くことを大切にしながら、歩くことだけに可能性を閉じ込めない視点も欠かせません。
私たちは、一歩の動作と、一日の生活を同じ評価の中で見ることを大切にしています。装具、歩行器、車椅子を含め、本人が移動を選び、学び、遊び、社会へ参加できる方法を一緒に組み立てます。
医療機関での長期フォローとあわせて、歩き方や生活での使い分けを詳しく整理したい方は、ご相談ください。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。運動を局所だけで捉えず、姿勢・感覚・運動の連鎖として見る視点は、脊髄由来の麻痺で残存機能と代償を読み解く際にも重要な土台になります。
本記事は、二分脊椎の診療ガイドライン、装具・歩行研究と、STROKE LABの機能解剖・動作分析の枠組みをもとに構成しています。診断・治療・装具処方に代わるものではありません。最終確認日:2026年7月11日。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)