もやもや病の子の学校生活|運動・音楽の授業での配慮
体育・音楽の場面で、過換気を避けながら参加を支える
「みんなと一緒に参加させてあげたい。でも、発作が起きたら怖い」——体育や音楽を前にした保護者の迷いは、どちらもお子さんを大切に思うからこそ生まれます。もやもや病の学校支援では、活動を一律に禁止するのではなく、どの条件で症状が起こりやすく、どう変えれば安全に参加できるかを、主治医・家庭・学校・専門職で具体化することが重要です。

「参加」と「安全」の間で迷う学校生活。
もやもや病の子どもは、見た目には元気で、普段は友だちと同じように過ごせることがあります。その一方で、走る、強く息を吐く、大声で歌う、暑い中で長く活動する、泣くといった場面で、一時的な手足の脱力、しびれ、言葉の出にくさ、頭痛などが現れることがあります。
この二者択一から抜け出すために必要なのが、病名だけで活動を決めるのではなく、お子さん固有の発作歴と主治医の判断を基盤に、活動の条件を分解して考えることです。
学校支援資料では、症状が安定している術後の子どもについて、必ずしも体育をすべて休む必要はない一方、激しい接触、頭部打撲、長距離走、過呼吸、脱水などへの個別配慮が示されています。また、音楽ではリコーダーや鍵盤ハーモニカ、強い歌唱が発作の誘因になる子どもがいるため、主治医と相談し、別の楽器や参加方法を検討するとされています。
なぜ「走る・吹く・泣く」で症状が出ることがあるのか。
もやもや病では、頭蓋内の内頸動脈終末部を中心に血管が狭くなり、脳へ血液を送る余力が小さくなることがあります。呼吸が速く深くなり、血液中の二酸化炭素が下がると、脳血管が収縮します。十分な血流の余力がない領域では、その変化が一過性の虚血症状につながる可能性があります。
日本の2021年版診療ガイドラインは、小児で過換気により虚血発作が誘発されることがあるため、激しい運動、吹奏楽器、熱い食べ物を吹く行為、風船などへの注意を示しています。欧州脳卒中機構のガイドラインも、脱水、発熱、過換気、低血圧を避けるよう専門家合意を示しています。ただし、学校活動の許容量を一律に決める研究は乏しく、個別判断が必要です。

体育は「参加か見学か」ではなく、負荷を分けて考える。
同じ体育でも、短距離走と持久走、涼しい体育館と真夏の校庭、個人練習と競争形式では負荷が異なります。活動名だけで判断すると、安全に参加できる可能性まで失うか、反対に見えない負荷を見落とすことがあります。
| 場面 | 確認する条件 | 参加を調整する例 |
|---|---|---|
| 持久走・鬼ごっこ | 連続時間、速度、競争、息の乱れ、気温、水分、発症までの時間 | 区間走にする、歩行を挟む、自分のペース、早めの休憩、役割参加を組み合わせる |
| 球技・接触競技 | 頭部打撲、術側付近への衝撃、転倒、急なダッシュ | 接触の少ない役割、ルール変更、守備範囲の調整、必要時の防具を主治医・学校と検討 |
| 水泳 | 息こらえ、連続泳、冷え、疲労、監視体制 | 短い距離、途中休憩、水中歩行、監視者と中止基準の明確化 |
| 運動会・校外活動 | 待機時間、暑熱、緊張、水分、移動距離、午後への疲労 | 日陰待機、出番の集約、早めの水分、休息場所、途中参加・途中退出を事前に決める |
術後で症状が安定している場合でも、創部や吻合部付近への打撲を避ける期間、接触競技の可否、運動再開の時期は個別です。学校生活管理表や医師の情報提供書を使い、「体育可・不可」だけでなく、具体的な制限条件を共有します。
音楽・給食では、「息を使う量」と「連続性」を変える。
リコーダー、鍵盤ハーモニカ、ハーモニカ、吹奏楽器、大きな声での合唱は、呼気を繰り返す活動です。しかし、「吹く活動はすべて禁止」と決めると、子どもの学習や所属感を不必要に狭めることがあります。医学的に許可された範囲で、呼気時間、連続回数、休憩、役割を調整します。
吹く小節と休む小節を決める。連続回数を減らし、運指だけの練習や打楽器を組み合わせます。
大声を求めず、座位、口唱、リズム、伴奏などを選べるようにし、合唱中も休める合図を決めます。
事前に冷ます、取り分ける、混ぜる、食事時間を延長するなど、急いで何度も吹く状況を減らします。

発作が完成する前の「その子らしくない変化」を見る。
教員が見るべきものは、呼吸数だけではありません。発作の最初の現れ方は、子どもごとに異なります。あらかじめ家庭で経験した前兆を整理し、学校で共通言語にしておきます。
| 観察する時点 | 見る変化 | 記録すること |
|---|---|---|
| 活動中 | 片手が楽器を支えにくい、指穴を押さえられない、片脚が遅れる、口角差、返事が短い、視線が止まる | 開始から何分、どの活動、左右、言葉・頭痛・意識の変化 |
| 活動直後 | 頭痛、脱力、ぼんやり、歩行、書字速度、会話の変化 | 休息で戻るまでの時間、水分、体温、本人の表現 |
| 30分後・帰宅後・翌朝 | 午後の集中低下、頭痛、強い眠気、宿題困難、翌朝の登校困難 | 遅れて現れる負担と、次の活動へ残る影響 |
新しい局所神経症状や意識変化は医療を優先します。一方、頭痛、疲労、注意の低下は、暑さ、睡眠、授業負荷、ストレスなど複数要因が重なります。発症条件と時間経過を記録し、主治医へ戻せる情報に変えることが大切です。
専門施設で、さらに期待できること。
専門施設の役割は、「体育は何分まで」「リコーダーは何回まで」と独自の安全基準を決めることではありません。脳血流や運動許可は主治医が判断します。そのうえで、家庭と学校から集めた事実を、呼吸、運動、姿勢、認知負荷、疲労、環境、参加へ分け、どの条件を変えると、症状を誘発せずに活動へ参加しやすくなるかを検討します。
| 観察される困りごと | 考えるボトルネック | 確認する評価・観察 | 介入・環境調整 | 難易度・量の調整 | 学校で見る変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| 楽器の途中で手が抜ける、言葉が詰まる | 連続呼気、強い呼気、緊張、姿勢保持、片麻痺、休息不足 | 一息の長さ、連続回数、左右差、発語、回復時間、授業後の頭痛 | 短いフレーズ、吹かない小節、運指、打楽器、座位支持、事前休憩 | 呼気時間と連続回数を同時に変えず、一項目ずつ調整 | 症状なく参加できる範囲、本人の不安、授業後の負担 |
| 持久走や鬼ごっこで頭痛・脱力 | 連続運動、速度、競争、暑熱、脱水、急停止、疲労蓄積 | 発症までの時間、呼吸の戻り、気温、水分、前後の神経症状 | 区間化、歩行挿入、競争回避、日陰休憩、水分、役割参加 | 速度、連続時間、休憩間隔のうち一つを変更 | 活動中だけでなく次時限、帰宅後、翌朝まで確認 |
| 家庭では平気だが学校で崩れる | 集団ペース、騒音、緊張、休みにくさ、自己申告の難しさ、二重課題 | 家庭と学校の条件差、午前午後差、休憩を申し出るタイミング | 休憩サイン、教員との合図、静かな場所、早期離脱、課題量調整 | 本人の申告を待つ段階から、前兆で予防する段階へ | 我慢せず早く休める、所属感を失わず参加できる |
たとえばリコーダーを一度吹けても、それだけでは学校支援になりません。座位が安定したからか、一息を短くしたからか、吹かない小節があったからか、緊張が少なかったからかを区別します。複数条件を同時に変えると、有効だった条件が分からなくなるため、可能な範囲で一項目ずつ変えます。
さらに、活動直後に症状がなくても、30分後の書字、午後の頭痛、帰宅後の疲労へ影響が残れば、学校生活全体としては負荷が高すぎる可能性があります。専門施設では、機能だけでなく、次の授業、下校、家庭生活までをアウトカムに含めます。
介入後は、療法士の前で再現できた条件を、教員が実施できる言葉へ翻訳します。「無理をさせない」ではなく、「最初は2フレーズごとに休む」「長距離走は歩行区間を入れる」「本人がこの合図を出したら開始前でも休む」のように、観察可能な支援へ変えます。
診療ガイドラインは、過換気、脱水、発熱などを虚血症状の誘因として扱います。運動・楽器の許可は個別です。
実際の学校課題を分解し、一項目ずつ難易度を変え、成功と症状の両方を再評価する課題特異的な設計を用います。
就学支援資料は、保護者、教員、養護教諭、主治医、療法士等の情報共有と合理的配慮の検討を重視します。

家庭・学校・医療を、「禁止事項」ではなく「行動できる情報」でつなぐ。
学校へ病名だけを伝えても、教員はどの場面で、何を見て、どう行動するか判断できません。反対に、細かな医学情報を大量に渡しても運用できません。共有する情報は、学校がその場で使える内容へ絞ります。
- 体育、持久走、水泳、接触競技の許可範囲
- 吹奏楽器、歌唱、熱い物を吹く行為の扱い
- 術後の頭部打撲、創部、運動再開時期
- 発作時の対応と救急要請の基準
- 学校での服薬、水分、発熱時の指示
- その子に最初に出る症状と左右
- 起こりやすい活動、気温、時間帯
- 休憩サイン、休ませる場所、再確認方法
- 保護者連絡と救急要請の手順
- 体育・音楽の代替課題と本人の希望
京都大学の就学支援マニュアルでは、医療者から学校への情報提供書に、治療経過、現在の状態、運動・音楽の制限、発作への対応、神経心理学的評価、支援提案などを含める枠組みが示されています。必要に応じて、保護者、担当教員、管理職、養護教諭、特別支援教育コーディネーター、主治医、療法士などで就学支援会議を行い、家庭・学校・病院で支援方針を一致させます。
よくある質問。
学校で育つことを、両方あきらめない。

もやもや病のお子さんの学校生活では、ご家族も先生方も「何か起きたら」という不安を抱えています。その不安を小さくするために必要なのは、ただ活動を減らすことではなく、症状の前兆、休む基準、参加の代替案を具体的にしておくことです。
私たちは、主治医の医学的方針を守りながら、できる活動の条件を見つけ、子どもが集団の一員でいられる形へつなぐことを大切にしています。
体育、音楽、給食、登下校、行事まで含めて整理したいときは、学校で起きている事実をお持ちください。評価し、主治医と学校へ戻せる言葉に変えていきます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。運動麻痺を「動かない」で終わらせず、姿勢・感覚・運動の連鎖として見る視点は、お子さんの回復を支えるうえでも土台になります。
- 子どものもやもや病|手足の脱力発作とリハビリで大切なこと
- もやもや病の手術後|バイパス術後のリハビリと日常の注意点
- 子どもの手足の力が急に抜ける|見逃せない脱力発作ともやもや病のサイン
- 子どもの脳梗塞・脳出血|小児の脳卒中とその後のリハビリ
本記事は、もやもや病の診療ガイドライン、公的な学校支援資料、医教連携マニュアルと、STROKE LABの臨床推論の枠組みをもとに構成しています。具体的な運動許可や発作対応は、必ず主治医の指示に従ってください(最終確認日:2026年7月11日)。
- Fujimura M, et al. 2021 Japanese Guidelines for the Management of Moyamoya Disease. Neurol Med Chir (Tokyo). 2022;62(4):165-170.
- Bersano A, et al. European Stroke Organisation Guidelines on Moyamoya Angiopathy. Eur Stroke J. 2023;8(1):55-84.
- 小児慢性特定疾病情報センター:もやもや病 概要。
- 全国特別支援学校病弱教育校長会・国立特別支援教育総合研究所:病気の子どもの理解のために もやもや病。
- 京都大学医学部附属病院もやもや病支援センター:医療関係者・教育関係者のためのもやもや病就学支援マニュアル。2023.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)