鼻をかめない子|呼吸・口鼻の使い分けと模倣の支援
鼻をかめない子|呼吸・口鼻の使い分けと模倣の支援
「フンして」と言っても口から息が出る。ティッシュを持つと止まってしまう。鼻水がある日は急にできなくなる。鼻をかむ動作は、単に強く息を出すだけではありません。鼻の通り、鼻呼気、口と鼻の切り替え、片鼻を押さえる手の操作、模倣、感覚、手順が短い時間の中でつながる生活動作です。家庭でできる関わりから、専門施設での見方まで整理します。

「フン」ができないのは、息の強さだけではありません。
鼻をかめないと、「もっと強くフンして」と声をかけたくなります。しかし、口からは強く吹けるのに鼻からは出せない子もいます。これは単純な呼吸の強さではなく、空気の出口を口から鼻へ切り替える運動学習でつまずいている可能性があります。
さらに実際の鼻かみでは、ティッシュを持つ、鼻へ当てる、片側を指で押さえる、口を閉じる、反対側からやさしく息を出す、左右を変える、終わったティッシュを捨てるという手順が連続します。だからこそ、できないときは「鼻かみ」という一つの能力として判断せず、どの工程で止まっているかを分けて見ることが大切です。
鼻をかむ動作を、5つの工程に分けてみる。
| 鼻かみに必要な要素 | 家庭で見てほしいポイント | つまずくと見えやすい様子 |
|---|---|---|
| ① 鼻の通り道 | 安静時に鼻呼吸できるか。左右差が極端でないか。 | いつも口呼吸。片側だけ鼻息が弱い。鼻づまりが強い。 |
| ② 呼気経路の切り替え | 口で「ふー」のあと、口を閉じて鼻から息を出せるか。 | 「フン」と言っても口から空気が出る。 |
| ③ 口を閉じる保持 | 鼻から息を出す間、口が開いていないか。 | 鼻息を出そうとすると口も開く。 |
| ④ 片鼻操作とタイミング | 片方を押さえながら、反対側から息を出せるか。 | 手を使うと呼吸が止まる。押さえる側を毎回間違える。 |
| ⑤ 模倣・感覚・実生活化 | 見本あり/なし、鼻水あり/なしで変化するか。 | 練習ではできるのに、実際に鼻水があると止まる。 |

何歳からできる? 発達にはかなり幅があります。
米国小児科学会が運営するHealthyChildren.orgでは、2〜3歳頃から鼻かみを教える案内があります。一方で、鼻から息を出すこと、片鼻を押さえること、見本をまねることなど複数の要素が必要なため、同じ年齢でもでき方には幅があります。
3歳だからできるべき、5歳だから遅い、と年齢だけで決める必要はありません。口では吹ける、鼻息は出せる、見本があるとできるなど、できている工程を土台に次の課題を作る方が、子どもにとって分かりやすい支援になります。
まずは「鼻から息が出る」を、見えるようにする。
鼻息は目に見えません。子どもにとっては「鼻から出して」という言葉だけでは、何を変えればよいか分かりにくいことがあります。そこで、ティッシュの細い短冊などを使って、息の結果を見えるようにすると理解しやすくなります。
| 段階 | 家庭での関わり | 進める目安 |
|---|---|---|
| STEP 1 | 口で「ふー」とティッシュを動かす | 「息を出す」と結果がつながる |
| STEP 2 | 口を閉じ、鼻の前のティッシュを鼻息で動かす | 口を開けず鼻から息が出る |
| STEP 3 | 親の見本と同時に行う | 見本を見ながら鼻呼気へ切り替えられる |
| STEP 4 | 片方の鼻を軽く押さえて反対側から出す | 手の操作を加えても呼吸が止まらない |
| STEP 5 | 実際のティッシュで、左右を順番にやさしくかむ | 生活場面でも自分から行える |
鼻づまりが強い、体調が悪い、鼻の周囲が痛い日は、いつもよりできなくて当然です。練習は「できない日を頑張らせる」より、鼻が通りやすく、子どもが遊びとして取り組める日に短く繰り返す方が負担を減らせます。
鼻づまりが続くなら、練習より先に確認を。
鼻かみが苦手でも、すべてが発達や運動学習の問題とは限りません。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、小児の鼻づまりの背景として、かぜ、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、アデノイドなどを挙げています。鼻が物理的に通りにくい状態では、練習だけで解決しようとしないことが大切です。
・いつも口で呼吸している
・強いいびきが続く
・左右どちらかだけ極端に通りにくい
・粘り気の強い鼻汁が長く続く
・耳の痛み、聞こえにくさを伴う
・睡眠や食事、日中の活動に影響している
医学的な評価・診断・薬の使用などは医療機関の領域です。STROKE LABでは、医療上の問題が整理されたうえで、生活動作として「どう教えると分かりやすいか」「どこで動作が止まっているか」を一緒に考える立場です。
研究から見えている「鼻息を学ぶ」ということ。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、鼻をすすらず、片方ずつ静かにかむことを案内しています。また、ティッシュを口で動かす練習から、鼻の前へ移して片方ずつ鼻息で動かす段階づけも紹介されています。
この情報から言える範囲:家庭での安全な教え方の基本を示すもので、発達特性ごとの介入効果を比較した研究ではありません。
2〜6歳の子どもを対象に、鼻から出る呼気を視覚的に評価する装置を検討した研究があります。3歳以上の子どもでは、初回から課題を実施できた例が多く報告されています。
この研究から言える範囲:鼻呼気を「見える情報」にして観察する考え方は支持されますが、鼻かみ練習そのものの効果を示した研究ではありません。
自閉スペクトラム症の子ども3名を対象とした小規模研究では、鼻かみを5工程へ分け、見本提示と段階づけを使って教えています。参加者は17または21セッションで鼻かみを習得し、口呼気から鼻呼気への切り替えが難しい例も報告されました。
限界:対象はASD児3名のみです。一般の子ども全体へ効果をそのまま当てはめることはできません。「工程を分けて観察する」という臨床的なヒントとして扱うのが適切です。
専門施設では、どこで止まっているかを見分ける。
鼻をかめない子に同じ指示を繰り返しても、どこで動作が止まっているかは分かりません。そこで、口からなら吹けるか、口を閉じるとどうなるか、ティッシュで鼻息を見えるようにすると変わるか、見本と同時ならできるか、片鼻を押さえた瞬間に止まるか、と条件を一つずつ変えて反応を比較します。
たとえば、「見本があるとできるが、言葉だけではできない」なら、呼吸能力そのものより、見本から自己実行へ移る学習過程を考えます。「鼻水がないときはできるが、鼻水があるとできない」なら、鼻閉だけでなく、濡れた感覚、ティッシュ接触、注意の分散、手順負荷を確認します。
その場で一度成功したら終わりではありません。同じ目標動作を、家庭・園・外出先など環境を変えて確認し、成功しやすい条件と崩れやすい条件を整理します。「できる能力」と「生活で自分から使えること」は別に評価するのが、生活動作を扱ううえで重要です。
| 観察される困りごと | 考えるボトルネック | 確認する評価・観察 | 介入の方向 | 生活で確認する変化 |
|---|---|---|---|---|
| 「フン」で口から息が出る | 口→鼻の呼気切り替え | 口呼気/鼻呼気を別々に出せるか | 鼻息の見える化+同時模倣 | 声かけだけでも鼻呼気へ切り替わる |
| 鼻息は出るが、片鼻操作で止まる | 手と呼吸のタイミング | 手の操作だけ/呼気だけ/同時条件を比較 | 別々に成功→同時へ再統合 | 左右を順番に自分で行える |
| 見本ならできるが、言葉だけではできない | 模倣依存・指示理解 | 同時模倣→遅延模倣→見本なし | 見本を段階的に減らす | 保護者の見本なしでも始められる |
| 練習ではできるが鼻水時に失敗する | 鼻閉・感覚・課題負荷 | 健康時/鼻水時、ティッシュ接触、疲労の差 | 実環境へ段階的に近づける | 家庭・園で実際に鼻水を処理できる |

練習室の「できた」を、毎日の鼻かみへ。
鼻息でティッシュを動かせても、それだけでは生活動作として完成していません。実生活では、鼻水に気づく、ティッシュを取る、鼻へ当てる、片方ずつかむ、汚れたティッシュを捨てる、必要なら手を洗うところまでが一連の行動です。
家庭や園では、鼻息の強さだけでなく、「ティッシュを自分から取れたか」「片側ずつ行えたか」「声かけが何回必要だったか」「鼻水があるときにもできたか」などを確認します。成功回数が増え、必要な声かけが減ることが、生活で使える力への変化です。
保護者が療法士のように毎回細かく教える必要はありません。短く、失敗が続きすぎない形で、できた工程を生活の中に残すことが大切です。家庭では生活を守る工夫を、専門施設では評価にもとづいて学びやすい条件を探し、できる力を生活で使える力へつなげます。
STROKE LABでは、鼻かみだけを単独で見るのではなく、模倣、手順、感覚、姿勢、呼吸、手の使い方など、生活動作を構成する要素を分けて確認します。鼻づまりなど医学的な問題が疑われる場合は、医療機関での確認を優先します。
保護者からよくいただく質問。
Q. 何歳くらいから鼻をかめるようになりますか?
Q. 鼻をかめないのは呼吸が弱いからですか?
Q. 家庭ではどんな練習から始めればよいですか?
Q. 片方ずつ鼻をかむ必要がありますか?
Q. どんなときに耳鼻咽喉科へ相談した方がよいですか?
Q. 専門施設では何を見てもらえますか?
生活動作を、小さな「できる」に分けて考える。
STROKE LAB(東京・大阪)は、神経疾患や発達上の困りごとを含む生活動作を、機能解剖と動作分析の視点から整理する自費セラピー施設です。鼻かみのような一見小さな生活動作も、「できる・できない」だけで終わらせず、どの工程が学びやすく、どの条件で崩れるのかを確認し、家庭で続けられる形へつなげます。医学的な診断や鼻づまりの治療は医療機関を尊重し、私たちは生活と動きの側から併走します。
責めずにほどいていく。

子どもの生活動作は、大人には簡単に見えることがあります。しかし、実際には複数の感覚、姿勢、呼吸、手の操作、注意、模倣が短い時間の中でつながっています。
私たちが大切にしているのは、できない動作を何度も繰り返すのではなく、「どこまでならできるか」を見つけ、そこから次の一歩を組み立てることです。
鼻かみも同じです。医療機関で確認すべきことと、生活の中で練習できることを分けながら、お子さんとご家族にとって無理のない方法を一緒に考えます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。生活動作を「できない」で終わらせず、姿勢・感覚・運動の連鎖として見る視点は、お子さんの日常動作を考えるうえでも土台になります。
- STROKE LABの小児セラピー
- ストロー飲みが苦手な子|口・呼吸・姿勢の協調を育てる
- うがいができない子|口の動き・呼吸・手順理解の支援
- 身だしなみが苦手な子|整容動作を小さく分けて考える
本記事は、公的な耳鼻咽喉科情報と小児の鼻呼気・鼻かみ学習に関する研究、およびSTROKE LABの臨床的な課題分析の枠組みをもとに構成しています。診断・治療に代わるものではありません。鼻づまりや鼻汁など医学的な症状が続く場合は、耳鼻咽喉科など医療機関へご相談ください。
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会:幼児の鼻副鼻腔炎.最終更新 2022年12月1日.
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会:鼻の症状「鼻がつまる」.
- Study on the Development of a New Device with Dual Cameras for Evaluating Expiratory Nasal Flow. 2020. PMID: 33253348.
- Gajić A, Arsić B, Bašić A, Maćešić-Petrović D. Teaching Children with Autism Spectrum Disorders Nose Blowing. Isagoge. 2021;1(7):12-21.
- American Academy of Pediatrics, HealthyChildren.org: Runny Nose with Lots of Discharge—Blow or Suction the Nose.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)