2017.07.20歩行
vol.148:下肢機能的電気刺激療法と脳の可塑性 脳卒中/脳梗塞リハビリ論文サマリー
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カテゴリー
神経系、歩行
タイトル
慢性期脳卒中者の歩行改善のための移植型腓骨神経電気刺激は脳の可塑性に影響するか?:2つの症例報告
Brain plasticity after implanted peroneal nerve electrical stimulation to improve gait in chronic stroke patients: Two case reports. ?pubmed Thibaut A NeuroRehabilitation. 2017;40(2):251-258.
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・腓骨神経の電気刺激によって歩行が改善されることは理解していたが、電気刺激そのものもしくは改善された歩行によって脳にどういった影響があるのか興味があった。今回、症例報告ではあるが、電気刺激の前後で脳画像やPETを撮影し比較している研究を見つけ、読んでみたいと思った。
内 容
背景・目的
・脳卒中者の足関節背屈機能の低下に対しFES(functional electrical stimulation)が有効と言われており、歩行速度や足関節運動の向上が示されている。
・本研究では腓骨神経電気刺激が脳の代謝と皮質の可塑性に与える影響を検証する。
方法
・発症から1年以上経過し、下垂足を呈している脳卒中者2名
・被験者は手術によってActiGait stimulatorを移植(図1)
図1:ActiGait stimulator(腓骨神経電気刺激装置)
Thibaut A (2017)より引用
・移植から3週間後(電気刺激は未使用)、MRIとFDG-PET(ブドウ糖代謝を計測)を撮影し、術後1カ月でFESの使用を開始した。再度MRI等を撮影するのはFESの使用開始からから1年後とした。
・筋疲労や疼痛を考慮し、FESは漸増的に使用させた。
・歩行能力として6分間歩行、10m歩行、Four Square Step Test(FSST、動的バランスの評価。ステッピングを前後左右に行う)を手術から1カ月前と術後1年で計測した。
結果
・患者1
・15歳男性、25カ月前に脳動脈奇形による左脳出血
・FES使用から1年後、歩行は6分間歩行テストで230mの歩行距離増加、10m歩行テストで300m秒の速度改善、FSSTにおいて1.17秒の改善があった。
・患者2
・54歳男性、28カ月前に右脳梗塞
・FES使用から1年後、6分間歩行テストで10mの歩行距離延長、FSSTで3.5秒の改善が見られたが、10m歩行に変化はなかった。
図2:MRI結果
Thibaut A (2017)より引用
・患者1のベースラインの画像では、左半球の中心前回から半卵円中心と下前頭回まで脳空洞があり、左側脳室の拡大がある。また、患者2では右半球に脳軟化と中心前回・半卵円中心・放線冠の微小かつ複数の脳空洞が見られ、中心溝・前角・側脳室の拡大も認められた。
・ベースラインと1年後の脳画像に構造的な違いは見られなかった。
図3:FDG-PET結果
Thibaut A (2017)より引用
※青は糖代謝低下、赤は1年後からベースラインを引き、増加した部位。
・患者1
・ベースラインでは左の一次運動野、補足運動野、運動前野、帯状皮質、視床に局所的なブドウ糖代謝量の低下があった。1年後の画像では同部位に代謝の低下が認められるも、代謝量の増加が認められる(図3の下段)。
・患者2
・ベースラインでは右の運動前野、補足運動野、内側前頭回、帯状皮質に代謝の低下が認められた。1年後の画像では同部位の代謝低下があり、ベースラインとの比較で代謝量の増加がみられた(図3の下段)。
私見・明日への臨床アイデア
・2症例のケースレポートではあるが、1年間のFES刺激により歩行や動的バランスの改善と一次運動野の下肢領域の糖代謝向上がみられた。発症から1年(治療も含めると2年)経過した方でも動作や糖代謝に変化が見られたことは、慢性期の患者様に対してリハビリ継続の根拠となると考える。
・下垂足で転倒リスクが増加したり、歩行効率が低下したりする症例は多い。FESは効果が実証されており、患者に説明し医師と協力して導入できると良いと思う。
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