vol.66:小脳は空間情報をどのように把握しているのか? 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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カテゴリー
脳科学
タイトル
ナビゲーション~小脳がどのように空間の感覚情報をモニターするか?
How the cerebellum may monitor sensory information for spatial representation?PubMedへ
Rondi-Reig L et al: Front Syst Neurosci. 2014 Nov 4;8:205
内 容
Introduction
・自分の環境内を移動しながら方向や位置の感覚を維持する能力は,基本的な認知機能である.人間およびより一般的に動物は,食物を得るための複雑な環境における空間的認知プロセスに頼り,危険を回避して家/巣を見つける.
・小脳は既にナビゲーション機能に参加していることが示されている.(Petrosini et al:1998;,Schmahmann and Sherman:1998;,Rondi-Reig et al:2002,Rondi-Reig and Burguiere:2005)
・まず,①自己運動の感覚情報をモニタリング し,②ナビゲーション回路と相互作用して空間の心的イメージを更新 することによって,自己運動中の方向および位置の感覚を維持することに関与する.
ナビゲーション中の自己運動情報
・小脳に限らず,一般的には前庭(並進および回転加速度),固有感覚(筋肉・腱および関節からのフィードバック情報),音響,さらには触覚などがある.自己運動情報は常に利用可能であり,ナビゲーション制約が何であれ,効果的に使用される.
※補足:Mittelstaedt(1980)によって,最初に外部の手がかりなしでナビゲートする能力を研究されている.動物は自己運動に頼ることができる.動物がランドマークで経路を学んだり,外部情報と自己運動のシグナルを競合させた後に,暗闇の中で目標を見つけることができる.
・小脳では、空間認知プロセスに参加することが示されている
小脳の後外側部は,聴覚-空間・視覚-空間・触覚-空間情報の処理を含む課題で選択的に活動する.心の中に思い浮かべたイメージ(心的イメージ)を回転変換する心的回転(mental rotation)に関与する.下図はmental rotationのイメージ図
※補足:空間認知を司る頭頂葉よりも4.5倍,視知覚を司る後頭葉の2.1倍,形態認知や記憶を司る側頭葉の3.5倍,小脳は活動を示した(Neural basis of mental rotation. Parsons LM et al 1995参照)
・小脳は,固有受容において重要な役割を果たす(Bhanpuri et al:2013)
・手足からの固有感覚情報(非意識性深部感覚)は、視覚前庭信号と統合することができる頸部および肩の固有感覚を除いて,
⇒脊髄小脳路 第二腰髄以下: 腹側脊髄小脳路または前脊髄小脳路
⇒第二腰髄から第一胸髄:背側脊髄小脳路(後側脊髄小脳路)
⇒第八頸髄から上位:副楔状側核小脳路 を通る
・能動的運動中に,運動皮質が末梢に運動指令を送る間に遠心性コピーが生成されて小脳に送られ,運動の感覚的結果の予測をする.Cullen(2004)はアクティブな動きの間,実際の動きが意図された動きと一致する場合にのみ,この前庭刺激に対するキャンセル信号が発生することを示した.
・NaatanenとMichie(1979)は,小脳が「逸脱事象からの入力と,以前の刺激の規則的な側面の感覚記憶表現との間の不一致」を検出すると提案している.実際の感覚状態と予測された感覚信号は新規性情報を提供する.
・小脳によって行われる感覚的予測は,運動およびナビゲーターの感覚状態の両方を考慮する.
既に遭遇したナビゲーションの文脈により予想される将来の感覚状態を予測することも可能である.
小脳で十分に形質転換された感覚情報は,神経細胞回路,特に海馬に信頼できる自己運動情報または新規性情報を提供することが見られた
・小脳は,予期される感覚状態について予測する事により,自発的行動によって発生した外部要因および自己運動から生じる予期しない自己運動を区別できることを示した.各モダリティからの情報は本質的には曖昧である.小脳は,様々な情報源に由来する多感覚シグナルを組み合わせて重み付けする位置にあるようである.小脳における多源信号の収束は,この曖昧さ回避に寄与し,信頼性の高い自己運動情報をナビゲーション構造に提供する可能性が高い
自己運動情報を小脳に伝える解剖学的経路について
・小脳への感覚の入力:
小脳皮質への主な入力は,両方ともに興奮性の苔状繊維(mossy fiber)および登上繊維(clibming fiber)である.総して前小脳システム (precerebellar system)と呼ばれている.「苔状線維」は,橋・延髄・前庭・三叉神経・脊髄などの様々な神経核に由来する.
これらの有益な情報は,身体や頭部ならびに大脳皮質から得られた周辺センサーからの情報を小脳に伝達する(Ruigrok、2004).無髄軸索である.「登上線維」は,すべて脳幹の下オリーブ核に存在する神経細胞由来であり,プルキンエ細胞の樹上突起に,直接グルタミン酸作動性シナプスを作る.
1個のプルキンエ細胞には1本の登上線維しか接触しないが,登上線維は平均7本のプルキンエ線維と接触する.末梢と大脳皮質から感覚性情報や運動性情報が伝わる.
Fig:マウス等げっ歯類およびウサギの小脳皮質に対する感覚入力の解剖学的投影(Rondi-Reig L et al:2014?Click!)
ナビゲーションに関する情報センサーの紹介
・ウィスカー(ひげセンサー)
・ナビゲーションプロセスにおける触覚ウィスカー信号の重要性も記載されている.海馬CA1ニューロンは,それらが出現した位置とともに触覚刺激をコード化することが示されている(Itskov et al:2011).周囲の世界の表現は,ウィスカーに媒介された接触感覚によって構築されることを示した(Diamond et al:2008).自己運動信号は,海馬の空間のコード化に明らかに影響を与えることができる.
・小脳が触覚ウィスカー情報を受け取り,その処理に関与している.特にウィスカーの刺激は,Crus IおよびCrus IIにおける単純および/または複雑なスパイク電気生理学的活性を誘発する.ウィスカーからの感覚入力は,三叉神経核(TGN)に入り,異なる経路(下図)を介して小脳皮質に到達する.
・小脳と海馬の間に解剖学的に記述された直接経路は存在しない.ナビゲーション関連細胞との小脳相互作用を可能にする神経解剖学的基質を提供する可能性のある2つの経路を提案する(下図)
Fig:小脳皮質に到達する異なるその他の経路(Rondi-Reig L et al:2014?Click!)
Fig:小脳との相互作用を可能にする可能性のある2つの経路(Rondi-Reig L et al:2014?Click!)
・頭部方向細胞(Head Direction cell)
・前海馬支脚において,動物の頭の向き(好きな方向・個々で違う)に反応して発火する(コンパスのような働き).HD細胞は内側嗅内皮質・背側被蓋核・外側乳頭体核・視床前核・膨大後部皮質・傍海馬支脚にも存在すると報告された.頭部方向情報の転送は必ずしも単方向ではないことに注意することが重要・
(1)Taube, J. S., Muller, R. U. & Ranck, J. B. Jr.: Head-direction cells recorded from the postsubiculum in freely moving rats. I. Description and quantitative analysis. J. Neurosci., 10, 420-435 (1990)
・場所細胞(place cell)
・動物が環境のなかの特定の場所を通り抜けるときや特定の場所にいる時に活動する.新奇な環境を探索すると,安定な場所細胞の活動が数分から数十分のうちに形成され(2),数日ないし数カ月後に同じ環境にきても同じ活動パターンが再現されうる.海馬,嗅内皮質に存在する.海馬と嗅内皮質は密に連絡している
(2)Frank, L. M., Stanley, G. B. & Brown, E. N.: Hippocampal plasticity across multiple days of exposure to novel environments. J. Neurosci., 24, 7681-7689 (2004)
・場所細胞のうち視覚情報だけでは場所細胞の25%で特定の発火を維持するのに十分であり,残りの75%の場所細胞による通常の局在発火には追加の運動関連情報が必要であった(Chen et al:2013).Ravassardらは,遠位視覚および非前庭自己運動キューが認知マップを生成するのに十分であるが,前庭および他の感覚的合図,例えば触覚および嗅覚合図が,場所細胞集団を完全に活性化するためには必要である.
・格子細胞(grid cell)—実験上のラットは空間上に三角形の仮想のグリッド(格子)を 置いているようである.要は地図にある経線や緯線のようなもので,あちこち動き回るときにある細胞からある細胞へと活性が受け継がれていくことで現在位置が把握される.
・移動した方向と距離を積み重ねていけば,これまでの経路(ルート)と現在地を把握できる.場所細胞に場所を教えるような役割.背内側嗅内皮質において最初に発見された.嗅内皮質において背側ほど空間情報の処理に重要である.
※下記2項目
日経BPnet ノーベル賞「空間を把握する脳のメカニズム」とは何か?を参照?Click!
・境界ベクトル細胞(boundary vector cell):海馬支脚には動物から一定の方向かつ一定の距離に壁が存在するときに活動する.行き止まりとなる壁などが「この先にある」と把握する細胞.
・ボーダー細胞(border cell):内側嗅内皮質に存在し,川や池や谷や崖などの環境の端にいると注意換気する細胞
私見・明日への臨床アイデア
・小脳に対しては運動の調整と言うイメージが強いが,幅を空間認知・ナビゲーションと広げてくれる内容であった
・空間を移動するということを考えると,自己運動情報の問題点への介入しつつ,積極的に実践環境での練習も進めナビゲーション細胞を活性化し,自己運動とナビゲーション双方の新規性情報を与え,実生活上予測対応できるようにしていく必要があると思う内容であった
・脳卒中急性期などでは,自分の体やベッドまたは周囲の環境を見たり触ったり,その他用いれる感覚で自己情報を積み重ねていき,動作においての文脈を繋げられるように導く必要があると考えた
氏名 Shuichi Kakusho
職種 理学療法士
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
脳卒中の動作分析 一覧はこちら
塾講師陣が個別に合わせたリハビリでサポートします
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)