vol.65:リーチ動作における麻痺側上肢の開始姿勢と筋活動の関係性とは?
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カテゴリー
上肢,脳科学
タイトル
麻酔したサルの上肢の初期位置の違いによる脊髄運動出力の調節
Modulation of spinal motor output by initial arm postures in anesthetized monkeys?PubMedへ
Yaguchi H et al:J Neurosci. 2015 Apr 29;35(17):6937-45
内 容
概 要
●随意運動の適切な実行には,四肢の初期位置に基づいた感覚運動変換が必要である。例えば,目標物へのリーチ動作を成功するためには運動開始時の四肢の位置に応じて異なる筋群の動員が必要である。
●動作前の四肢の開始姿勢に応じて異なる運動プログラムを実行する必要があります。
●無限に可変な初期状態に対応する為に,どのようにCNSを作成し円滑に運動指令を調整するのか、その方法は完全には理解されていない。
●この開始姿勢は固有受容器および皮膚受容体によって最初に感知されます。
●これらの受容体からの一次求心性線維の信号の集合体による活性は,CNS内でそれらを統合することによって四肢の状態の局所的変化として表されます。
●灰白質の中間領域に位置する脊髄介在ニューロン(INs)は,より高次からの下行路の大部分からの投影を受けます。また,異なるモダリティおよび受容野を有する末梢の一次求心性神経からの収束入力を受けます。それらは自発的運動の準備と実行に重要な役割があることが示唆されている。したがって,入力の収束性の性質を介して初期位置の配置が脊髄介在ニューロンの随意運動のコマンドに表出され,統合されると仮定することは妥当です。
●上肢と手の動きを制御するために,霊長類における重要な役割を果たすことができる姿勢依存性の脊髄神経機構があるということを提案します。
実験1
●3匹の猿にマルチチャンネル微小電極アレイを脊髄のC6セグメントに移植し,筋電図電極を12本の筋肉(5本手・4本肘・3本の肩の筋肉)に埋め込んだ
●脊髄内微小刺激(ISMS)を適用し,筋電図(EMG)を用いて誘発された痙攣反応を記録
●電極埋め込み箇所?手の筋肉:内転筋,第1背側骨間筋(FDI),浅指屈筋,橈側手根伸筋,橈側手根屈筋
肘の筋:腕橈骨筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋長頭,上腕三頭筋短頭
肩の筋肉:三角筋の鎖骨部,三角筋後部,大胸筋
●各電極:筋肉対における誘発された応答の大きさおよび発症潜伏期を,うつ伏せに寝かされた猿の手の位置を水平面内の7つの位置に体系的に変化させることによって調査
実験1の結果
Yaguchi H et al:2015?PubMedへ
●第1背側骨間筋における有意なEMG応答が7つの姿勢全てで観察されました。その応答の大きさは姿勢の間で異なりました。
●手が額(7番)の近くに置かれた時に最も大きい応答が得られ,手が(4番)中央にあるときに最も小さい応答が得られました。
●手の初期位置に応じて脊髄刺激による筋反応は変化しました。
●初期位置依存性(姿勢依存性)は観察した脊髄部位-筋ペアの80%で観察されました。
●より細かい特徴を見ていく付加実験では,手・肘・肩の筋肉における姿勢依存性を示す応答の割合はそれぞれ89%,81%,および70%でした。つまり近位筋に比べて手の筋肉の大部分が姿勢依存性(角度依存性)を示しました。
●標的筋によって,姿勢依存応答が異なる可能性が示唆された。屈筋と伸筋の間に差異は見出されませんでした。
実験2
●脊髄内部位の興奮性は,直接経路(例えば分節反射経路)または脳幹を通るより間接的な経路および皮質等から信号を受けます。
●より高次の部分からマスクまたは調節される可能性があり,これらの直接的および間接的な姿勢依存性のメカニズムを解明するために脊髄を上頚部レベル(C2)で切断して,切断前後の姿勢依存性の比較を可能にしました。
●対照実験(1)の後,神経鞘を引き裂くことによってC2レベルで切断しました。切断を確認するために,ゼラチンスポンジを脊髄の切断端の間の空間に挿入しました。30分の間隔の後,ISMSは対照実験と同じ手順で適用されました。
実験2の結果
●C2レベルで切断された後も,筋紡錘の出力の姿勢依存性は維持されていました。
●これらの結果は,頚髄における興奮性は脊髄反射経路を通る初期の上肢の姿勢によって影響されることを示唆しています。
Yaguchi H et al:2015?PubMedへ
今後の課題
●姿勢依存性の根底にあるメカニズムは,高次だけでなく脊髄反射経路内など末梢にも存在し得ます。しかし,今回の実験の条件下で結論付ける事は未だ出来ず,さらなる研究が求められます。
●同じパラメータを使用するISMSは,四肢の初期姿勢に依存して,著しく異なる四肢運動を引き起こす可能性があります。ISMS適用時の刺激電極の周辺のニューロンの興奮性と四肢の姿勢との関係を知らなければ研究は達成されない可能性があります。
私見・明日への臨床アイデア
●ただ筋力トレーニングを闇雲に行うよりも,姿勢はじめ筋アライメント(筋各セグメントまで)考慮し,治療介入していくことが動作のはじめ運動の動員から変化させることに大事だと思わせる。
●出力だけでなく入力も考える。
●治療の位置にこだわることは,同じ練習でも質が変化すると思われる。
臨床後記:更新日(2021/2/13)
●脳卒中患者に対する上肢治療において、開始姿勢の変化はリーチ動作中の筋活動を変化させる。開始姿勢で失敗しているケースも多い。同様の練習を行うにおいても、より質の良い筋活動下での運動を行うには開始姿勢から修正が必要である。
●逆に、開始姿勢を柔軟に変化させる能力を有することで、様々な方向や動作場面を行いやすくする筋活動の初期状態を構築できると思う。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)