【令和版】リハビリテーションにおける目標設定とGoal attainment scaling(GAS)

どのようなポイントや評価表があるのでしょうか?

今回はGoal attaimnent scalingを中心に目標について考えてみましょう。
目次
はじめに
理学療法士/作業療法士とクライエントとの間で行われる目標設定は、リハビリテーションの複雑かつ基本的な部分です。
目標設定とは、「リハビリテーション専門家や学際的なチームが、患者やその家族と一緒に目標を取り決める正式なプロセス」です。
効果的なリハビリテーションについて証拠に基づいて説明しています。
目標設定は、特定の結果に向けてリハビリテーションの介入を行うために使用され、その結果、患者の満足度を高め、回復を向上させることができます。
また、目標設定を共有することで、多職種チームのメンバーを調整し、共通の目標に向かって協力し、重要なことを見落とさないようにすることができます。
目標は、リハビリテーション介入の成功を評価するためにも使用できます。
目標設定のスタンダード基準はありませんが、達成可能で意味のある結果に向けてリハビリテーション介入を導くために目標設定が優先されます。
リハビリテーションにおける目標設定の基礎となる理論、方法、およびエビデンスに関する文献は増え続けています。
目標設定の基本
目標設定は心理学に基づいており、人間は行動を変え、目標に向かって努力することができるという信念に基づいています。
目標設定がリハビリテーションにとって重要なのは、それが機能的で実生活の活動に直結している場合は特に、患者さんに動機付けを与えることができるからです。
意味のある目標は、患者さんの参加意欲を高め、目標を達成するためにリハビリテーションに参加する動機となります。
例えば、人工股関節置換術後にリハビリテーションを受けている高齢の患者さんが、自宅で配偶者と一緒に自立した生活をしたいと考えているとします。
そのためには、患者さんが自立して動けるようになる必要があり、理学療法や作業療法に参加・実践していけることが重要です。
目標設定は、リハビリテーションの焦点をクライエント中心に保つためにも重要です。
目標設定は、医療専門家が、医療専門家に都合のよいこと(違いがある場合)ではなく、患者にとって最もよいこと、最も意味のあることを考えて介入を計画するのに役立ちます。
生物心理社会的モデルの文脈で目標を考えることは、この患者中心の焦点を維持するのに役立ちます。
批判的な吟味・内省と、高度な相互作用とコミュニケーションスキルのさらなる訓練は、このような全体的なアプローチを行うのに役立ちます。
目標は、短期、中期、長期など、時間によって定義することができます。
例えば、患者さんが機能的な作業を自立して行えるようになることや、歩行器を使って一定の距離を歩けるようになることなどです。
マズローの欲求階層
マズローの欲求階層
目標は階層的に考えることができます。マズローは、人は生理的欲求を第一の目標とすることを示唆しています。
生理的欲求が満たされると、人は次のレベル、安全・安心などの目標を立てるようになります。
目標設定の方法
目標設定とは、患者やクライアントの結果について話し合い、計画し、記録するプロセスです。
それは、治療セッション中の理学療法士/作業療法士と患者との会話のように単純な場合もあれば、多職種チームと患者とのミーティングでより複雑で構造的な場合もあります。
文献によると、患者の関与を高めるために、意思決定支援ツール(例:プロンプトシート、ワークブック)を使用した、よりフォーマルで構造的なアプローチが提唱されています。
また、患者の社会的支援者(家族や友人など)も、患者が特定の目標を達成するために果たすべき役割がある場合には、目標設定に参加するよう呼びかけることができます。
SMARTの活用
目標設定の一般的な方法の一つは、SMART目標に由来しています。
SMARTゴールは、プロジェクトマネジメントの分野で生まれました。いくつかのバリエーションがありますが、一般的には、頭文字をとって次のように呼ばれています。
S 具体的 Specific
M 測定可能 Measurable
A 達成可能,割り当て可能 Attainable,Assignable
R 現実的 Realistic
T 時間的制約 Time-related
MEANINGの活用
リハビリテーションに関連する可能性のある、目標設定のための行動や活動を下支えし、思い出させ、再考を支援するための用語と頭字語です。
M 意味のある Meaning
E ポジティブな心理状態 Engage
A 心理的な基準 Anchor
N 交渉する Negotiate
I 意図と実行のギャップ Intention-implementation gap
N 新しい目標 New goals
G 行動変容としての目標 Goals as behaviour change
Goal attainment scaling(GAS)目標達成スケールの紹介
リハビリテーション研究に根ざしたもう一つのシステムが、ターナー・ストークスによる「目標達成スケーリング(Goal attainment scaling:GAS)」です。
GASは「目標の達成度を定量化するための数学的手法」です。
GASは、目標設定のプロセスを説明し、目標が達成されたかどうかを5段階評価で測定し、集計することができます。
個々のスコアは、患者や医療従事者にとっての目標の相対的な重要性や、目標達成の困難さのいずれかを反映して、重み付けすることができます。
STROKELAB代表金子も世界作業療法士連盟大会(2014)で発表しました。
GASは一般的に心理的側面やADLの大枠で目標設定されやすいですが、学会では細かな機能面(車いす立ち上がりで手すりの押し方など)について段階付けしました。
機能的側面の細かな目標設定でもGASは有用で、クライエントのニーズを引き出すCOPMとの相性が良いと思います。

論文紹介
カテゴリー
療法士専門系
タイトル
Goal attainment scaling(GAS)の活用
Goal attainment scaling as a clinical measurement technique in communication disorders: a critical reviewPubMed Ralf W. Schlosser et al.(2004)
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・患者の個別性に合わせた目標を立て、それを数値化して示す評価というものはほとんどない。臨床・研究共に有用と感じ本論文に至る。
内 容
Goal attainment scaling(GAS)
・Goal attainment scaling(GAS)は、目標に対する個々の進捗状況を評価するための手法です。
・本稿の目的は、
(a)コミュニケーション障害の分野にGASを導入すること(コミュニケーション障害の分野に関しての内容は本稿では割愛させて頂く)
(b)批判的レビューを提供すること
(c)現場におけるGASを活用する価値・方向性を探ることの三つである。
・この活動の結果、
参加者はGASに関わる手順を覚えることができる。
参加者は、クライアントの進捗状況を評価する方法として、GASの肯定的な属性を理解することができるようになる。
参加者はGASの信頼性と有効性を高めるための問題を特定することができる。
・Smith(1994)は、このスケールの基準点についていくつかの考慮事項を提示している。
予期される結果(0)を決定する際に、臨床家は、治療が成功するという前提に基づいて、治療終了時または予め指定された治療適用時間の間、クライアントの状態を正確に予測しなければならない。
・予想される結果のレベルは、臨床医が実際に何が臨床的に有意義であり、このクライアントがフォローアップ時に達成する可能性が高いと真に信じているものでなければならない。
・期待レベルが設定された後、2つの中間レベル(期待される結果(≧1)、期待される結果(≒1)未満)が決定される。これらの結果は、クライアントで起こり得る可能性があり、現実的に達成可能でなければなりません。
・最後に、極端なレベルが設定されます。これらの成果は、特定のクライアントにとって現実的に想定できるより上の成果(≥2)とはるかにマイナスな成果(≦2)です。
・Smith(1994)は、これらの極端なレベルが同様のクライアントの5〜10%で発生すると予想されることを示唆しています。
・GASの方法論では、5段階の尺度のそれぞれで得点するための基準は、フォローアップ時に指定するのではなく事前に指定しなければならないことが義務付けられています。
・基準には、観察からの直接的なデータまたはインタビューなどの間接的なデータを含む、さまざまな情報源からの証拠が含まれる場合があります。フォローアップでは、必要な証拠と比較してパフォーマンスが評価されます。
・達成に向けていつ進捗を評価すべきか?治療は、あらかじめ指定された最大数のセッションが完了した後、または少なくとも期待されるパフォーマンスを達成した後に終了する必要があります。
・臨床実習では、事前に指定された最大セッション数に達する前にクライアントが期待レベルに達した場合、難易度を上げるか、治療方針に合った別の目標に置き換えることでフォローアップガイドを変更できます。しかし、臨床研究では、治療の比較を行うためにフォローアップの日付と測定値を厳密に守らなければなりません。
・期待されるレベルは、最初に最良の2つの中間レベル(すなわち、予想される結果よりも多く、予想される結果よりも少ない)および極端なレベル(すなわち、最善の期待される結果、最悪の期待される結果) 可能性のある結果の範囲で中心点を表すため、期待されるレベルを最初に設定するのが理にかなっています。
・期待されたレベルが決定されると、期待されるレベルより若干良好で若干劣る結果を想定することが可能になり、その後、最良の予期される結果と最悪の予期される結果が続く(Smith、1994)。
・GASの主な強みは、個別化された長期的変化を評価する能力である。 GASは、
(a)ゴール到達度の格付け
(b)集計を通じた目標とクライアント間の比較可能性
(c)機能、障害、および健康(ICF)レベルとドメインの国際分類への適応性
(e)期待される成果に結びついたリンケージ
(f)ゴール達成のファシリテーターとなり得、チームで同一の目標を目指すエネルギー源となり得る。
GASのもう一つの強みは、目標と個人間で正当な比較ができることです。
・クライアント全体の目標の全体的な達成・反応性を知りたい場合があります。GASは変化の程度の尺度であるため、プログラム評価に不可欠な情報を提供できるとSmithは主張している。
・バイアスを最小限に抑えるためには、主観的データ(例えば、インタビュー、クライアントファイルの進捗ノート)だけでなく、直接観察データなどの客観的データに基づいてGASスコアを決定することが不可欠である。
私見・明日への臨床アイデア
・GASを用いる事で患者特有の課題を患者、チームで共有しファシリテート出来ると思われる。数値化する事で、各スケールとの相関を見たり、各個人間で比較でき、そしてそのデータの蓄積は予後予測の材料としても有用となってくると思われる。
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参考論文
・Wade DT. What is rehabilitation? An empirical investigation leading to an evidence-based description. Clin Rehabil. 2020
・ Turner-Stokes L. Goal attainment scaling (GAS) in rehabilitation: a practical guide. Clin Rehabil. 2009
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 4万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018)