【2026年版】GASのメリットデメリット 目標設定とGoal attainment scaling リハビリテーション
GAS(目標達成スケーリング)の採点基準と臨床応用を、新人セラピストのために整理する。
Goal Attainment Scaling(GAS)は、患者ごとに個別化した目標を設定し、−2から+2の5段階で達成度を定量化する評価法です。「目標を立てたが何点か分からない」という新人の悩みを、この記事で一気に解決します。
— GASの概要・採点方法・実施例を動画でわかりやすく解説しています。
要点5項目。
臨床現場でのGASとの出会い。
脳卒中後の患者さんに「2ヶ月後に自立して服を着られるようになる」という目標を立てた新人セラピスト。退院時に「できるようになったけど時間はかかる」という結果になり、「これは達成? 未達成?」と評価記録に困ってしまいます。
GASを使えば、「時間はかかるが自立できる」は0点(期待通り)、「ほぼ正常な時間で自立」は+1点と事前に定義しておくため、評価の曖昧さがなくなります。
目標設定はリハビリテーションの基本です。しかし「目標を立てる」ことと「達成度を定量化する」ことは別のスキルです。GASはこの2つをつなぐ評価ツールとして、リハビリテーション・精神医療・教育・社会ケアなど幅広い分野で活用されています。
STROKE LAB代表の金子は世界作業療法士連盟大会(2014)でGASを用いた発表を行っています。車いす立ち上がりの手すりの押し方という細かな機能的目標にGASを適用した事例で、機能的側面の段階付けにも有用であると報告しています。
GASの定義と適用領域。
GAS(Goal Attainment Scaling:ゴール達成スケーリング)は、介入の過程で患者が設定した個々の目標がどの程度達成されているかを評価する手法です。目標に対する進捗を−2から+2の5段階で定義することで、患者ごとに異なる目標を横断的に比較・評価できます。
GASは「定義された目標に対する進捗を測定する治療・評価ツール」です。各患者の目標は介入開始時に特定され、各目標に対して−2〜+2の5段階の達成レベルが事前に定義されます。
この方法の利点は、各患者の特定のニーズと予想される結果を個別に考慮している点です。異なる患者グループを扱う場合や、全患者に共通する標準的な結果測定が難しい場合に特に有用です。
GASが使える3つの主要領域。
脳卒中・脊髄損傷・整形外科疾患などのADL・移動・コミュニケーション目標に適用。介入効果の定量化と多職種間での目標共有に役立つ。
うつ・不安・認知機能低下など、標準化評価では捉えにくい個別の心理的目標を段階化できる。
特別支援教育・社会復帰支援などでも活用。個人間比較が難しい領域でプログラム全体の効果を示すデータとしても機能する。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABは脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。科学的根拠に基づく個別プログラムで、ご本人・ご家族の目標に寄り添ったリハビリを提供しています。
目標設定の理論的背景。
目標設定は心理学に根ざした概念で、「人間は行動を変え、目標に向かって努力できる」という信念に基づいています。Wade(2020)によるリハビリテーションの定義によれば、「リハビリテーション専門家や学際的チームが患者・家族と協力して目標を取り決める正式なプロセス」とされています。
意味のある目標は患者の参加意欲を高め、リハビリテーションに積極的に取り組む動機になります。たとえば人工股関節置換術後の患者が「自宅で配偶者と自立した生活をしたい」と考える場合、その目標が理学療法・作業療法への参加意欲を支えます。
マズローの欲求階層との関係。
目標設定は階層的に考えることができます。マズロー(Maslow)は、人はまず生理的欲求(呼吸・食事・排泄など)を第一の目標とし、それが満たされると安全・安心、さらに社会的欲求へと目標が移行することを示しています。リハビリテーションでは動作自立を基盤に、職場復帰や趣味再開へと段階的に目標が移行します。

Wade DT (2020): リハビリテーションの定義と実証的根拠に関するシステマティックレビュー。目標設定は「患者の満足度を高め回復を向上させる」と報告。Clin Rehabil. 2020.
臨床への示唆: 目標設定の共有は多職種チームの調整にも役立ち、重要なことを見落とさないようにする効果がある。生物心理社会的モデルの文脈で目標を考えることが患者中心の焦点維持に有効。
GASとSMART・MEANINGの比較。
目標設定のフレームワークはいくつか存在します。GASは達成度の定量化ツールとして、SMART・MEANINGは目標記述のフレームワークとして補完関係にあります。
GASはSMART・MEANINGのいずれとも組み合わせて使えます。特にMEANINGはリハビリテーション特有の心理的側面を重視しており、患者中心の目標設定プロセスを支援する際に有効です。患者の社会的支援者(家族・友人など)を目標設定に参加させることも推奨されています。
GASの採点基準と実施手順(完全版)。
5段階採点基準の完全定義。
| スコア | 達成レベル | 更衣動作の例(2ヶ月後) |
|---|---|---|
| −2 | 期待より大幅に低い 現状機能=ベースライン |
完全な介助なしには服を着ることができず、進歩は見られない |
| −1 | 期待より低い | 上達しているが、全ての留め具・重い衣服など大幅な介助が必要 |
| 0 | 期待通り(目標・基準値) | 自立して着られるが余分な時間が必要。ボタン・ジッパーに苦労する |
| +1 | 期待以上 | 自立して着られるが、靴紐を結ぶなど複雑な作業にはまだ苦労する |
| +2 | 大幅に期待以上 | 完全自立。全留め具含め脳卒中前に近い時間で着ることができる |
Turner-Stokes L. Goal attainment scaling (GAS) in rehabilitation: a practical guide. Clin Rehabil. 2009 より引用・翻訳。
GAS5ステップ実施手順。
患者(または家族)と臨床家が協力して、個別性があり具体的・測定可能な目標を特定します。目標は主観的感情ではなく、観察可能または定量化可能な結果に基づいている必要があります。
−2〜+2の5段階すべてを「介入開始前に」設定します。0点(期待値)から設定を始め、+1・−1、最後に+2・−2の順に決めると論理的です(Smith, 1994)。極端なレベル(+2・−2)は同様の患者の5〜10%で発生すると想定する水準に設定します。
介入期間中は目標達成状況を定期的にモニタリングし記録します。臨床実習では、期待レベルに早期到達した場合は難易度を上げるか別の目標に変更できます。ただし研究目的では、フォローアップ日付と測定値を厳守する必要があります。
介入後、事前に設定した基準に基づき各目標にスコアを付けます。バイアスを最小化するため、主観的データだけでなく直接観察データを基準とすることが重要です(Schlosser, 2004)。
各目標に重み(1〜5)をつけ、加重スコアの平均を換算表でTスコアに変換します。Tスコア50点が「期待通りの達成」を示します。複数の患者間でのプログラム評価にも活用できます。
GAS実施例①:肩の痛み・更衣・運転の複合目標。
| 目標 | −2 | −1 | 0(基準) | +1 | +2 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1a. 肩の痛みを減らす | VAS 9-10/10 | VAS 7-8/10 ☑ベースライン |
VAS 4-5/10 | VAS 2-3/10 ☑アウトカム |
VAS 0-1/10 |
| 1b. 夜間痛による覚醒 | 4回以上/夜 | 2-3回/夜 ☑ベースライン |
1回/夜 ☑アウトカム |
たまに/毎晩ではない | 覚醒なし |
| 2. 更衣動作 | カーディガンを着られない | 介助が必要 ☑ベースライン |
自立だが遅い ☑アウトカム |
ほぼ正常な時間で可 | 全上衣を正常時間で自立 |
| 3. 運転 | 不可・将来も選択肢にならない | 不可・評価後可能かも ☑ベースライン ☑アウトカム |
改造車で可・通常使用せず | 改造車で可・距離限定 | 改造車で通常距離を運転可 |
Turner-Stokes L. Goal attainment scaling (GAS) in rehabilitation: a practical guide. Clin Rehabil. 2009 より引用・翻訳。
GAS実施例②:発話・移動・料理・記憶の複合目標。
| 目標 | −2 | −1 | 0(期待値) | +1 | +2 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1. 発話の明瞭さ | 全く聞き取れない ☑ベースライン |
頻繁に繰り返しが必要 | 概ね理解できる ☑アウトカム |
明瞭・繰り返しはまれ | 完全に明瞭・繰り返し不要 |
| 2. 移動能力 | 援助なしでは移動不能 | 援助器具・他者の助けが必要 ☑ベースライン |
自立だが遅い・苦労する | 自立・快適だが通常より遅い ☑アウトカム |
自立・通常速度で移動可 |
| 3. 料理技能 | 準備の全段階に参加不能 | 簡単な作業は可・常に監視要 ☑ベースライン |
簡単な食事は自立・複雑は援助要 | ほとんど自立・複雑は一部困難 | 任意の食事を自立・自信をもって ☑アウトカム |
| 4. 記憶力 | リマインドしても頻繁に忘れる | 時折忘れるがリマインドで思い出す ☑ベースライン ☑アウトカム |
重要情報は概ね記憶・時折リマインド要 | 全重要情報を記憶・記憶欠如はまれ | 全情報を一貫して記憶・リマインド不要 |
Turner-Stokes L. Goal attainment scaling (GAS) in rehabilitation: a practical guide. Clin Rehabil. 2009 より引用・翻訳。
GASのメリット・デメリットとエビデンス。
Turner-Stokes L (2009): GASのリハビリテーションにおける実践ガイド。脳卒中患者でのGAS検者間信頼性ICC=0.97を報告。反応性・内容妥当性ともに良好。Clin Rehabil. 2009;23(4):362-370.
Schlosser RW (2004): コミュニケーション障害領域におけるGASの批判的レビュー。GASの主要な強みは(a)ゴール達成度の格付け、(b)目標・患者間の比較可能性、(c)ICF各レベルへの適応性と報告。チームで同一の目標を目指すエネルギー源となり得ると指摘。J Commun Disord. 2004.
臨床への示唆: バイアスを最小化するため、主観的データだけでなく直接観察データを基準とすることが必須。研究目的ではフォローアップ日付の厳守が比較の前提となる。

STROKE LABでは、患者さんおひとりおひとりに個別化したリハビリプログラムを提供しています。目標設定も丁寧に行い、ご本人・ご家族とともに回復の過程を確認しながら進めています。
多職種連携とGAS。
GASの強みの一つは「チームで同一の目標を目指すエネルギー源となる」点です(Schlosser, 2004)。目標設定を共有することで、多職種チームが共通の方向を向いて介入でき、重要なことを見落とさないようになります。患者の家族・友人も目標達成に関与する役割がある場合は、目標設定プロセスに参加させることが推奨されています。
多職種の役割分担とGAS。
| 職種 | GASにおける主な役割 | 目標ドメインの例 |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 移動・歩行・体力に関する目標の設定と評価 | 歩行距離・速度・補助具の使用レベル |
| OT(作業療法士) | ADL・IADL・認知・精神面の目標設定。COPMと連携してニーズを引き出す | 更衣・調理・記憶補助の自立度 |
| ST(言語聴覚士) | コミュニケーション・嚥下に関する目標の設定と評価 | 発話明瞭度・食事形態レベル・会話成立度 |
| 看護師 | 病棟でのGAS基準の日常的なモニタリングと記録 | 夜間痛による覚醒回数・服薬管理の自立度 |
| 医師 | 目標の医学的妥当性の確認・予後予測の共有 | 退院基準・運転再開可否・就労可否 |
| MSW(医療ソーシャルワーカー) | 社会参加・環境調整・家族支援に関する目標の調整 | 社会復帰・介護サービス利用・住環境改修 |
「GASの目標は週1回のカンファレンスで全職種が共有する。目標の達成基準が具体的に書かれているほど、看護師も病棟で同じ指標で観察できるようになる。」
「患者・家族に目標シートを見せながら一緒に確認すると、患者の参加意欲が格段に上がる。『あと一段階』という具体的な指針がモチベーションになる。」
「GASのデータを蓄積すると、疾患・年齢・機能レベルごとの予後予測の材料になる。チームで集計する習慣をつけてほしい。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
GASは強力なツールですが、適切に使わなければ「数値はあるが意味のない評価」になりかねません。新人臨床家が陥りやすい3つの罠を、先輩から後輩へ伝えておきます。
臨床判断の分岐点。
「GASを初めて使うときは、まず1つの目標だけで試してみてください。全目標でやろうとすると複雑すぎて挫折します。慣れてから複数目標に広げれば大丈夫。」
「目標を達成できなかった患者さんが落ち込まないよう、−1・−2の説明を丁寧にしておくことが大切です。『期待より低かったのではなく、次の目標への出発点』というリフレームが有効です。」
「GASの目標記述は、COPMで患者が語った言葉をそのまま使うのがコツ。患者自身の言葉が入ると目標の実感がわきます。」
予後とゴール設定の実際。
GASを臨床で有効活用するためには、予後予測と目標設定を連動させることが重要です。目標は「短期・中期・長期」の時間軸で設定でき、それぞれが患者の回復過程と対応します。
短期目標(2〜4週):ベッドから車いすへの移乗を最小介助で行える。ベッドサイドで5分間座位を保持できる。
中期目標(1〜2ヶ月):T字杖を使って院内を50m歩行できる。更衣を時間はかかるが自立してできる。
長期目標(3〜6ヶ月):自宅内を独歩で移動し日常生活を自立する。趣味活動(料理・散歩など)を再開できる。
GASのデータを蓄積することで、疾患・年齢・機能レベルごとの予後予測の材料になります。目標が達成できなかった場合は、難易度の再調整か目標そのものの変更を検討します。GASを用いることで患者特有の課題をチームで共有しファシリテートでき、各スケールとの相関を見たり、各個人間で比較することも可能です。
よくある質問(新人の疑問)。
GASとは、患者ごとに個別化した目標を設定し、−2から+2の5段階スケールで達成度を評価する方法です。0点が「期待通りの達成」、+1・+2が期待以上、−1・−2が期待未満を示します。
リハビリテーション・精神医療・教育など幅広い分野で活用されており、研究と臨床の両場面で有用です。
GAS Tスコアは各目標の重み(1〜5)と達成スコア(−2〜+2)を用いた計算式で算出します。各目標の加重スコアを合計して目標数で割り、換算表を使いTスコアに変換します。
Tスコア50が「期待通りの達成」、50超が期待以上の達成を意味します。複数患者のプログラム評価にも活用できます。
SMART目標は目標の記述方法(具体的・測定可能・達成可能・現実的・時間的制約)を規定するフレームワークです。GASはその目標に対して達成度を5段階で定量化する評価ツールです。
両者は補完関係にあり、SMART基準で目標を記述したうえでGASで採点するのが理想的です。
GASはリハビリテーション(脳卒中・脊髄損傷・整形外科疾患など)、精神健康、教育、社会ケアなど幅広い分野で使用できます。
ADLの大枠だけでなく、車いす立ち上がりの手すりの押し方など細かな機能的目標にも応用可能で、個別性が高い目標ほど有効です。
COPM(カナダ作業遂行測定)はクライエントのニーズを引き出すツールで、GASは引き出した目標を定量化・段階付けするツールです。
COPMで患者が優先する作業課題を特定し、GASでその達成度を評価することで、患者中心かつ数値化された目標管理が可能になります。
主に3つの罠があります。①0点(期待値)を楽観的に設定しすぎる「天井効果」、②介入後に事後的にレベルを設定する「後付け採点」、③目標を抽象的に記述して観察可能な基準にならない「曖昧な目標記述」です。
事前に観察可能な行動基準を明確にすることが重要です。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。脳科学と徒手技術を組み合わせた個別プログラムで、一人ひとりの目標に寄り添ったリハビリを提供しています。GASを活用した目標設定により、回復の過程をご本人・ご家族と一緒に確認しながら進めています。
— STROKE LABでの脳卒中リハビリテーションの実際の様子です。
「GASを使い始めてから、患者さんとの目標認識のズレが格段に減りました。数字で可視化すると患者さん自身も達成感が明確になり、次のセッションへの意欲が変わります。」— 作業療法士・臨床経験12年・脳卒中リハビリテーション専門
「COPMとGASの組み合わせを学んでから、自分の目標設定が変わりました。COPMで患者さんの言葉で目標を引き出し、GASで段階を一緒に決めると、患者さんが目標を本当に”自分ごと”として持てるようになります。」— 理学療法士・臨床経験8年・急性期・回復期経験
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諦めないでください。

脳卒中後に「もう良くならない」と言われた方、退院後のリハビリに悩んでいる方が、私たちのところへ来てくれます。でも、私は現場で何度も見てきました。正しいアプローチと目標設定があれば、退院後でも回復は続くことを。
STROKE LABでは、科学的根拠に基づいた個別プログラムと丁寧な目標設定で、ご本人の「やりたいこと」に向かって一緒に取り組みます。まずは無料相談で、現在の状態と希望を聞かせてください。
どんな状態でも、諦める前に一度ご相談ください。私たちにできることを、誠実にお伝えします。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)