【2026年版】脳卒中・パーキンソン病の歩行リハビリ|外部焦点と内部焦点の違いとは?運動学習の観点から徹底解説
注意の向け先が、脳卒中患者の歩行を変える。
「膝を伸ばして」「つま先を上げて」――善意の指示が、かえって歩行をぎこちなくさせているかもしれません。外部焦点(EF)と内部焦点(IF)の使い分けを理解することで、歩行速度・ステップ長・麻痺側荷重量のすべてが変わります。エビデンスと臨床実践を新人セラピスト向けに解説します。

要点5項目。
臨床現場での出会い方。
訓練中、あなたは「右膝をしっかり伸ばして」「つま先を上げて」と指示し続けている。患者は頷くが、歩行はぎこちなく、速度もなかなか向上しない。
この場面こそ、注意焦点(Attentional Focus)の選択を再考すべきタイミングです。指示の「向け先」を変えるだけで、歩行パラメータは劇的に改善する可能性があります。
歩行訓練における注意焦点の問題は、日常的な訓練の中で静かに起きています。患者が「足元を見ながらゆっくり歩く」場面、「先生に指示された膝の動きを意識しながら歩く」場面は、実は内部焦点(IF)の典型例です。これが歩行の自動化を妨げている可能性があります。
発症後6か月以上経過した慢性期脳卒中患者においても、注意焦点の使い方次第で歩行パラメータが有意に変化することが研究で示されています。新人セラピストが最初に押さえるべき実践的スキルのひとつです。
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STROKE LABは脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。最新エビデンスに基づくオーダーメイドプランで、保険リハでは届かない部分を集中的にサポートします。初回20分無料相談を実施しています。
EF・IFの定義と背景。
注意焦点(Attentional Focus)とは、運動課題を行うときに「どこに意識を集中させるか」を指します。運動学習の分野では古くから研究されてきたテーマであり、脳卒中後のリハビリへの応用が近年進んでいます。

内部焦点(Internal Focus: IF)とは、自身の身体の動きや筋活動に意識を向けることです。「膝をしっかり伸ばして」「つま先を上げて」「麻痺側の股関節を前に出して」といった指示が典型例です。
外部焦点(External Focus: EF)とは、身体の外側にある環境や動作の結果に意識を向けることです。「床のラインに沿って歩きましょう」「前の赤いコーンを目指して」「この踏み台の中心に足を置いて」が典型例です。
先行研究が示すEFの優位性
バランス制御と運動学習に関する多くの研究が、EFの優位性を実証しています。静止立位における姿勢の揺れ(重心動揺)においても、EFはIFと比較して揺れを有意に軽減させます。
パーキンソン病患者を対象とした研究でも、EFを静止立位と歩行時に適用したとき、姿勢の不安定さの減少が報告されています。これらの知見は、EFが荷重分布の対称性に関わる歩行機能を改善できることを示唆しています。
対象:脳卒中発症後6か月以上経過した慢性期脳卒中患者16名(男性11名・女性5名)。MMSE(韓国版)24点以上、補助具なし自立歩行可能な方。
方法:3条件(①コントロール群:特定の指示なし、②IF:下肢の動きに集中、③EF:床のマーカー・線に焦点を当て歩行)で14m歩行を実施。歩行解析装置(120×54cmマット型)を使用。
主要結果:EF条件でステップ長・ストライド長・歩行速度・麻痺側荷重量のすべてが有意に改善。IFはコントロール群と比較して有意差なし。
出典:Roh HL et al. The effects of different attentional focus on poststroke gait. PMC 2019 Sep (PMCID: PMC6732553)。エビデンスレベル:ランダム化比較試験に準ずる単施設研究。
神経・脳科学的メカニズム。
自転車の乗り方を言語化しようとすると、突然うまく乗れなくなることがあります。これは、意識的な注意(前頭前野・補足運動野)が自動的な運動制御(小脳・基底核)に干渉するためです。EFは「ゴールへの注意」なので前頭前野の負荷を下げ、自動的な運動制御回路を解放します。
脳科学的視点:運動野と小脳の活動最適化
EFを用いると、運動野(一次運動野)と小脳の活動が効率化されます。具体的には、余分な筋活動(共同収縮)が抑制され、協調的でスムーズな動作が実現しやすくなります。
IFは補足運動野(SMA:Supplementary Motor Area)の活動を増加させます。これが「動きを考えすぎる」状態を作り出し、動作の自動化を妨げます。
神経学的視点:運動学習の自動化プロセス
EFは運動学習における自動化(Automatization)プロセスを促進します。基底核が担う「手続き記憶」への転換が促され、意識的なコントロールを必要としない歩行パターンが定着しやすくなります。
特に脳卒中後は、損傷を受けた皮質脊髄路の代償として皮質網様体路が活発になり、痙性(筋の過度な緊張)が出現しやすい状態です。この状態でIFにより更に筋収縮を意識させると、共同収縮が強化されてしまう可能性があります。
バイオメカニクス的視点:歩行効率の改善
EFにより歩行時の運動パターンがより自然で効率的になります。関節の可動域が適切に活用され、筋活動の協調性が向上し、エネルギー効率の良い歩行が実現します。
IFとEFの比較と鑑別。
IFとEFはどちらが「良い・悪い」ではなく、患者の状態・訓練フェーズ・目的に応じて使い分けることが重要です。以下の比較表を参考にしてください。
| 比較項目 | 外部焦点(EF) | 内部焦点(IF) |
|---|---|---|
| 意識の向け先 | 身体の外側の環境・動作の結果 | 自身の筋・関節・身体動作 |
| 指示例 | 「床のラインを踏んで歩く」「コーンを目指す」 | 「膝を伸ばす」「つま先を上げる」 |
| 歩行速度 | 有意に向上 | 変化なし(コントロールと差なし) |
| 麻痺側荷重 | 有意に増加 | 変化なし |
| 有効な場面 | 慢性期歩行・荷重改善・自動化促進 | 運動学習初期・特定関節動作の習得 |
| 認知負荷 | 低い(理解しやすい) | 高い(複数指示で混乱しやすい) |
エビデンスと研究結果。
注意焦点と歩行に関するエビデンスは、脳卒中だけでなく健常者・高齢者・パーキンソン病患者にも蓄積されています。以下に主要な知見を整理します。
著者・出典:Roh HL et al. The effects of different attentional focus on poststroke gait. PMC. 2019 Sep. PMCID: PMC6732553.
結果:EF条件でステップ長・ストライド長・歩行速度・麻痺側荷重量が有意改善。IFはコントロール群と差なし。エビデンスレベル:単施設交差試験(強さ:中等度)。
使用した評価:BBS(Berg Balance Scale)・MAS(Motor Assessment Scale)・歩行解析マット。
内容:静止立位での姿勢制御に関する複数の研究で、EFはIFと比較して重心動揺(COP)を有意に軽減することが示されています。エビデンスレベル:SR(強く推奨)。
臨床含意:バランス訓練においても「足裏を意識して」(IF)より「壁の目印を見て立つ」(EF)の方が効果的である可能性が高い。
著者・出典:Hatem SM et al. Rehabilitation of Motor Function after Stroke. Front. Hum. Neurosci. 2016. (PMID: 27679565)
結果:発症後6か月以降でもリハビリによりFMA/ARATが有意に改善。慢性期における継続介入の有効性を示すシステマティックレビュー。エビデンスレベル:SR(強く推奨)。
段階的介入の手順。
注意焦点を活用した歩行訓練は、以下の4段階で進めることを推奨します。セッション時間は1回40〜60分、週2回以上・3か月継続が科学的に推奨されます。
座位で麻痺側下肢の動きを確認します。「右足を前に出してみて」「膝をゆっくり伸ばして」など、1回に1つのIFを与えます。動作の感覚(固有感覚)を意識化させる段階です。この時間は長くしすぎないのがポイントです。
床にテープや色付きマーカーを設置し、「この線の上に足を置いてください」と指示します。健常人の対称的な歩行サイクルに基づいてステップ幅・長を設定するとより効果的です。身体の動きではなく「目標地点」に集中させます。
小さな踏み台を設置し、「踏み台の真ん中に足をしっかり乗せて」と指示します。麻痺側への荷重量増加に有効な外部焦点課題です。患者は「右足に体重を乗せやすい」と自然に感じることが多い場面です。
マーカーの数を徐々に減らし、最終的にキューなしで歩行できるよう自動化を促します。「外部焦点で引き出した運動パターンを脳に内在化させる」ことが最終目標です。どの場所でも同様の歩容が出せる状態を目指します。

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多職種連携と環境調整。
注意焦点の使い方はPTだけの問題ではありません。OT・ST・看護師・家族が統一した言葉かけをすることで、訓練効果が日常生活に般化します。
多職種連携の役割分担
| 職種 | EF/IF活用の役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 歩行訓練の主担当。EF/IF戦略の立案 | 床マーカー設定・フェーディング計画・歩行パラメータ評価 |
| OT(作業療法士) | ADLへの般化・生活環境の外部焦点設計 | 住環境のライン設定・食事・更衣時のEF活用 |
| ST(言語聴覚士) | 指示の理解度確認・失語症患者への言語調整 | EF指示の言語簡略化・絵カード活用・認知機能評価 |
| 看護師 | 病棟での言葉かけの統一・歩行機会の最大化 | 「トイレのドアまで歩いて」などEFを日常に組み込む |
| 家族・介護者 | 在宅での言葉かけ教育・練習環境の整備 | 床テープの設置・「あの植木鉢まで」などEFの日常化 |
環境調整のポイント
「廊下のタイルのラインも立派な外部焦点です。わざわざ道具を用意しなくても、病棟環境を活かした外部焦点の設定ができます。」
「鏡を使った歩行訓練も、自分の歩容という外部情報への焦点化です。視覚フィードバックとEFの組み合わせは非常に効果的です。」
「メトロノームのリズムに合わせて歩く課題も外部焦点の一種です。聴覚キューとEFを組み合わせると、歩行リズムの改善に効果的なことがあります。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
注意焦点の活用は「知っている」と「できている」の間に大きなギャップがあります。新人セラピストが特に陥りやすい3つの罠を以下に示します。
臨床判断の分岐点
「患者が歩行中に足元ばかり見ているとき、あなたはどう声かけしますか?『足元を見ないで』ではなく、『前の窓を見て歩きましょう』に変えるだけで歩容が変わることがあります。」
「患者のフィードバックを必ず聞いてください。『今の歩き方はどう感じましたか?』という問いかけが、IFとEFのどちらが効いているかを教えてくれます。」
予後とゴール設定。
注意焦点を活用した歩行訓練のゴールは単純な「歩行速度の改善」ではありません。患者の生活目標に沿った文脈で設定することが、EFの効果を最大化します。
EFの「外部目標への意識」は、訓練室内の床マーカーだけでなく、実際の生活目標(「スーパーまで歩いて買い物に行く」「孫と公園を散歩する」)にも自然と接続できます。
ゴール設定を「訓練室の成果」ではなく「生活の中でどこを目指して歩くか」という外部目標で定義することが、EFの効果の般化に繋がります。
慢性期脳卒中においても継続的な介入で機能改善が期待できます。Hatem SM et al.(2016)のシステマティックレビューでは、発症後6か月以降でもリハビリによる有意な改善が確認されており、「もう遅い」という諦めは根拠がありません。週2回・3か月継続という介入パラメータを臨床計画に明記しましょう。
よくある質問。
内部焦点とは「膝を伸ばす」「つま先を上げる」のように自分の身体の動きに意識を向けることです。外部焦点とは「床のマーカーに足を置く」「前のゴールに向かって歩く」のように身体の外側に意識を向けることです。
脳卒中患者の歩行訓練では外部焦点の方が歩行パラメータの改善に効果的であることが研究で示されています。
外部焦点を使うと運動制御に関与する脳領域(運動野・小脳)の活動が効率化され、不要な筋緊張が抑制されます。これにより運動の自動化が促進されスムーズな歩行パターンが引き出されます。
内部焦点は補足運動野(SMA)の活動を増加させ「動きを考えすぎる」状態を作り、動作の自動化を妨げる場合があります。
「この床のラインに沿って歩きましょう」「前の赤いコーンを目指してください」「この踏み台の真ん中に足をしっかり置きましょう」「向こうの壁のマークまで歩いてみてください」が代表例です。
身体の動き(膝・足首・骨盤)ではなく、環境や目標地点に意識が向くよう言葉を選ぶことがポイントです。
運動学習の初期段階や特定の関節運動を意識的に習得させたい場面ではIFも有効です。たとえば足関節背屈の練習など特定の動きを正確に学習させる際には一時的に活用します。
ただし慣れてきたらEFへ移行し動作の自動化を促すことが推奨されます。一度に与えるIFの指示は1つに絞ることが重要です。
認知機能の低下がある場合、複雑な言語によるIF指示は理解が難しいことがあります。EFは視覚的なキュー(床テープや色付きマーカー)を使うため認知負荷が低く、伝わりやすい傾向があります。
言語指示に頼らない視覚的・身体的な外部焦点の設定が特に効果的です。
EFのキューを段階的に減らしながら練習を繰り返す「フェーディング(Fading)」が有効です。まず外部キューあり→次に一部除去→最終的にキューなしという段階を踏みます。
この段階的フェーディングが運動学習の観点から推奨される自動化促進の王道アプローチです。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経疾患に特化した自費リハビリ施設です。外部焦点を活用した課題指向型歩行訓練をはじめ、最新エビデンスに基づくプログラムを個別に設計しています。保険リハビリの期間が終わっても、回復の可能性は続いています。

— STROKE LABでの歩行リハビリの実際の様子です。
「IFとEFを意識し始めてから、自分の声かけが変わりました。患者が『なんかさっきより歩きやすい』と言うタイミングが増えた気がします。言葉1つで歩行が変わることを実感してほしいです。」— 理学療法士・臨床経験8年・脳卒中専門病棟
「慢性期の患者さんほど、EFへの反応が良いことが多いです。長い間IFで鍛えてきた患者さんが、EFに切り替えた途端に歩容が変わる場面を何度も見てきました。ぜひ試してみてください。」— 理学療法士・臨床経験12年・神経リハビリテーション専門
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諦めないでください。

「発症から時間が経ったから、もう変わらない」――そう言われても、私たちは諦めません。脳卒中後遺症の回復は、慢性期においても継続的なアプローチで確実に変化します。
STROKE LABでは、外部焦点を活用した課題指向型訓練をはじめとする、最新エビデンスに基づいたオーダーメイドのリハビリを提供しています。
科学的な論文では、週2回以上・3か月継続することで運動学習の効果が最大化されると示されています。STROKE LABがその伴走者になります。まず20分の無料相談から始めてみてください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)