パーキンソン病で立てなくなってきたときのリハビリ|原因と対策・自宅でできる工夫
立てないには、理由があります。
椅子から腰が上がらない。立った瞬間にふらつく。足が床に張りついて動けない。それはパーキンソン病における「立てなさ」かもしれません。原因は一つではなく、いくつもが重なっていることがほとんどです。しくみと、今日から自宅でできる立て直し方を整理します。

「立てなくなってきた」、その戸惑い。
ソファから立ち上がろうと何度も体を揺すっても、腰が上がらない。立った瞬間、目の前が暗くなってしゃがみ込んでしまう。あるいは、立てても一歩がなかなか出ない——。「できるとき」と「できないとき」の差に、ご本人もご家族も戸惑うことが少なくありません。
でも、知ってほしいのです。その変動は、本人の甘えや気の緩みではなく、原因を分けて対策すれば立て直せることが多いということを。
パーキンソン病では、動作の遅さやこわばり、バランス反射の低下、すくみ、さらには自律神経の変化による立ちくらみなど、複数の要因が重なって「立てなさ」が生まれます。まずはしくみを知り、そのうえで原因ごとの立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
立てなくなる、そのしくみと特徴。
「立てなさ」は単一の症状ではなく、複数の要因が重なって起こるのが特徴です。震えや小字症とは異なる、立位・起立に特有の特徴を整理しておきましょう。
| 特徴 | どういうことか |
|---|---|
| 原因が重なる | 動作の遅さ・バランス低下・筋力低下・不安などが同時に関わっていることが多い |
| 時間帯で変わる | 薬の効き方や体調により、同じ一日の中でも立てる・立てないの差が出やすい |
| 手がかりで変わる | 手すりや目印、リズムのある声かけがあると動き出しやすくなる |
| 不安が体を硬くする | 転倒への不安が緊張を生み、かえって動きにくさを強めることがある |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。原因が重なっているなら、一つずつ分けて対処すればよい。手がかりで変わるなら、手がかりを用意すればよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:原因を分ければ、対策が見える。
立てなさの対処でいちばん手早く効くのが、「立てない」をひとまとめにせず、どのタイプに近いかを分けて考えることです。自宅でも、次の3ステップで整理できます。

ステップ1:どの場面で立てないかを観察する。動き出しが遅いのか、立った瞬間にふらつくのか、足がすくむのか、立ちくらみがあるのか。まずは場面を分けて書き出してみます。
ステップ2:環境をひとつだけ変える。椅子の高さ、手すりの位置、床の目印など、まず一つだけ変えて様子を見ます。一度に変えすぎると、何が効いたか分かりにくくなります。
ステップ3:小さな成功を毎日1回積む。うまく立てた場面を、本人と一緒に確認します。成功の記憶が、次の動作への安心感につながります。
原因の組み合わせは人によって違うため、「これさえやれば良い」という一つの正解はありません。だからこそ、観察して、環境を整えて、小さな成功を積み重ねるという順番が近道になります。合う工夫の組み合わせは人それぞれなので、理学療法士・作業療法士と一緒に調整すると、より早く見つかります。
立ち方と、環境のコツ。
原因を分けたら、動き方と環境でさらに立ちやすくなります。合言葉は「倒してから、上げる」。腰を浮かせる前に、いったんお辞儀をするように上体を前に倒し、重心を足の上まで移してから立つと、少ない力で立ち上がれます。
動き出しにくいときは、「せーの」「イチ、ニ」と声に出す、床にテープで目印の線を引いてまたぐつもりで一歩を出す、といった手がかりが助けになります。立った直後はすぐ歩き出さず、2〜3秒その場で静止して体勢を確かめる習慣も安心につながります。座面の高さや肘掛けの有無、手すりの位置といった環境の見直しも、本人の努力を減らす有効な工夫です。体を大きく動かす練習を重ねておくと、立位動作も安定しやすくなるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

視覚・聴覚・体性感覚の手がかり(キュー)を用いて動作を引き出す訓練は、パーキンソン病のリハビリテーションで広く用いられている代表的なアプローチのひとつです。歩行や立ち上がり、方向転換のしやすさに関わる動作の手がかりとして、自宅でも取り入れやすい工夫です。
効果の出方や適した手がかりの種類には個人差があり、進行度によっても変わります。ご自身に合った取り入れ方は、理学療法士・作業療法士に相談しながら決めることをおすすめします。訓練は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、環境や手がかりを足してその場で立ちやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、バランス能力や筋力そのものを底上げする回復的アプローチです。立てなさへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. バランス・姿勢反射の再学習。立位での重心移動や外乱への対応を段階的に練習し、崩れた姿勢を立て直す反射を引き出します。
2. 大きく動く運動学習。あえて大きな動作を繰り返し、脳が縮めてしまう動きの幅を、立ち上がりから歩行まで一連の流れで立て直します。
3. 下肢筋力と姿勢の土台。太もも・お尻・体幹の筋力を高め、前傾しすぎない姿勢を保つ土台をつくり、立位が崩れにくい身体をつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、手がかりで正しい動きを引き出しながら、バランスと筋力そのものを底上げし、少しずつ手がかりを外していくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
重心移動や姿勢のコントロールを重視した運動は、立位バランスの安定に向けたリハビリテーションで広く取り入れられている考え方です。太極拳のようなゆっくりとした重心移動を伴う運動も、その一例としてしばしば紹介されます。立位バランスは、繰り返しの練習によって養われる側面があるとされています。
効果の程度や適した運動の種類・強度には個人差があり、進行度によっても変わります。バランス運動は転倒リスクを伴うため、自己流で強度を上げず、専門的な評価のもとで安全に行ってください。
脳リハ.comのYouTubeでは、体を動かす体操を配信しています。立ち上がりや下肢の力を保つ動画がある場合は、土台づくりとして無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際の立ち上がり動作やふらつきの様子を評価したうえで、どの原因が強く関わっているかを見極め、その人に合った動作の工夫・環境調整・運動プログラムを組み立てます。「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、数週間の単位で急に立ちにくさが強まった、転倒や転びそうになる回数が増えた、立った瞬間に意識が遠のいたことがある、といったときです。立てなさの原因は一つとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 立てなくなってきたのは、パーキンソン病が進行しているということですか?
Q. 立ちくらみと、動作の遅さによる立てなさは、どう見分ければよいですか?
Q. 自宅でできる立ち上がりの練習はありますか?

Q. 立てなさは運動やリハビリで良くなりますか?
Q. 足がすくんで動けなくなったとき、家族はどう声をかければよいですか?

Q. 急に立てなくなった場合や転倒が増えた場合は、どうすればよいですか?
立てなさの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている立ち上がり・立位の場面を一緒に確認し、原因の見極め・環境調整・動作の工夫を、その人に合わせて組み立てます。実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
立てる工夫が見えてきます。

立てなくなると、外出や人との関わりそのものが億劫になり、気持ちも沈みがちです。「立つこと」が一日の中心的な不安になっている方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、「立てない」の中身を分けるだけで、驚くほど対策が見えてくるということです。動作の遅さなのか、バランスなのか、立ちくらみなのか。原因が分かれば、工夫は必ずあります。
立ち上がりや立位でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う立ち方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。立てなさの原因には複数の要因が関わります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年7月6日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)