パーキンソン病でタクシーの乗り降り|原因と対策・自宅でできる工夫
せまい戸口は敵、リズムは味方です。
タクシーのドアの前で、急に足が止まってしまう。乗り込んだあとに、ふらついたり、疲れが強く出たりする。それはパーキンソン病のすくみ足・姿勢反射障害・起立性低血圧など、いくつかの原因が重なって起きていることがあります。しくみを知り、今日から車の乗り降りで使える工夫を整理します。

ドアの前で、固まってしまう。
通院や外出のたびにタクシーを呼ぶけれど、いざドアの前に立つと、足が地面に張り付いたように動かなくなる。運転手さんを待たせている気まずさで、余計に焦ってしまう。やっと乗り込めても、座席に腰を下ろした瞬間にふらついたり、乗り終えるとどっと疲れが出る——。そんな声を、ご家族からもよく伺います。
でも、知ってほしいのです。それは「せまい場所」と「焦り」が重なると誰にでも起こりやすい反応で、動き方と手順を変えるだけで、通り抜けやすくなるということを。
パーキンソン病では、歩く・立ち上がる・向きを変えるといった動作が少しずつ変化し、車の乗り降りのような「せまい空間で・方向を変えながら・素早く動く」場面で特に困難が出やすくなります。まずはその背景にある原因を整理し、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
乗り降りが難しくなる、原因。
タクシーや車の乗り降りは、実はとても複雑な動作です。「せまい」「曲がる」「座る・立つ」「急ぐ」が一度に重なるため、パーキンソン病のいくつかの症状が同時に表面化しやすい場面なのです。原因を一つずつ整理してみましょう。
| 原因 | どういうことか |
|---|---|
| すくみ足 | 戸口や方向転換など、せまく・曲がる場所で足が一時的に出なくなる |
| 動作緩慢・固縮 | 動きが遅く小さくなり、関節も固くなるため、体をかがめる・ひねる動作に時間がかかる |
| 姿勢反射障害 | バランスを立て直す反応が遅れ、体を傾けたときにふらつきやすい |
| 起立性低血圧 | 座った姿勢から立ち上がった直後に血圧が下がり、めまいや立ちくらみが出る |
| 二重課題・焦り | 会話や荷物と動作が重なる、待たせている焦りがあると、すくみ足が強まりやすい |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。せまさや焦りが引き金になるなら、動き出す前にその引き金をほどけばよいのです。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:戸口を「儀式」に変える。
すくみ足への対処でいちばん手早く効くのが、動き出す前に、決まった手順(儀式)を挟むことです。毎回同じ手順を踏むと、脳が「次はこう動く」という見通しを持てるようになり、足が止まりにくくなります。次の3ステップを、乗り降りのたびに繰り返してみてください。
ステップ1:ドアの前で、一度止まる。ドアが開いたら、すぐに動こうとせず、まず1〜2秒立ち止まります。焦って踏み出すことが、かえって足を止めてしまう引き金になります。
ステップ2:「いち、に、さん」で動き出す。止まったら、声に出して(難しければ心の中で)数を数え、そのリズムに合わせて最初の一歩を出します。数える・かけ声をかけるといった聴覚のリズムは、足を動かすきっかけになりやすいことが知られています。
ステップ3:動く順番を、いつも同じにする。「手を座席やドア枠に置く→体の向きを変える→腰を下ろす」というように、毎回同じ順番で動きます。順番を決めておくと、次に何をするか迷わずに済み、動作がスムーズになります。
この3ステップは、家の玄関や部屋の戸口でも同じように使えます。大切なのは、せまい場所を「危険な穴」として身構えるのではなく、決まった手順をこなす「いつもの動作」として体に覚えさせること。合うリズムや手順は人それぞれなので、作業療法士と一緒に調整すると近道です。

乗り降りの手順と、道具のコツ。
3ステップに加えて、座席の選び方や乗る前後の一手間でも、乗り降りはぐっと楽になります。「急がない・つかまる・時間をおく」が合言葉です。
座席は、足を伸ばしやすい助手席や、ドアが大きく開く車種を選べると乗り降りが楽になります。乗る前には、ドア枠や座席の背もたれなど、しっかりした場所に手を添えてから体重を移すようにしましょう。腰を下ろしたら、すぐに立ち上がったり動いたりせず、数秒ゆったり座ってから次の動作に移ると、起立性低血圧によるふらつきを防ぎやすくなります。滑りにくい靴底の靴を選ぶ、荷物は乗り降りの動作が終わってから持ち直す、といった工夫も助けになります。会話は、動作が落ち着いてからにするのがおすすめです。動きながらの会話や荷物の受け渡しは、二重課題としてすくみ足を強めることがあります。運転手さんには「乗り降りに少し時間がかかります」とひとこと伝えておくと、お互いに焦らずに済みます。体を大きく動かす習慣をつけておくことも、乗り降りの安定につながるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

パーキンソン病の方に、音のリズムや視覚・体性感覚の手がかりを使った自宅での歩行・移乗練習を行ってもらった無作為化比較試験(RESCUE試験)では、練習を行ったグループで歩行速度や生活の中の動きやすさが改善し、すくみ足のある方でも一定の効果がみられたと報告されています。
限界:効果には個人差があり、手がかりを外した後の効果の持続には差がみられています。進行に伴って効果も変動します。リハビリ練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、手順やリズムを足してその場で動きやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、せまい場所や方向転換そのものに対する動きの土台を立て直す回復的アプローチです。乗り降りの困難への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. キューイングの個別化。聴覚(リズム・かけ声)、視覚(目印)、体性感覚(手を添える位置)のうち、その人にいちばん響く手がかりを見極め、実際の乗り降り動作で練習します。
2. 方向転換とバランスの練習。体をひねる・重心を移す動作を、安全な環境で繰り返し、姿勢反射障害による立て直しの遅れを補う練習をします。
3. 血圧変動への配慮。起立性低血圧が疑われる場合は、立ち上がり方の工夫や生活上の注意点を、主治医の管理と連携しながら確認します。
STROKE LABが軸足を置くのは、手がかりで正しい動きを引き出し、成功体験を積みながら、実際の乗り降り動作に近い形で繰り返し練習するという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
動きの「大きさ」に焦点をあてた集中的な運動療法(LSVT BIG)を検証した無作為化比較試験では、別の運動や自宅練習より運動症状の指標が大きく改善し、その効果が16週間後にも維持されていたと報告されています。方向転換や立ち座りを含む大きな動きを繰り返し学習することは、乗り降りのような複合動作の土台づくりにもつながる考え方です。
限界:この研究は全身運動を対象としたもので、乗り降り動作そのものを主要な指標にしたものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。集中的な訓練には決められた頻度や条件があり、専門的な評価と指導が前提です。
脳リハ.comのYouTubeでは、手や体を大きく動かす体操を配信しています。乗り降りの土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その人がどの場面で・どの原因によって乗り降りに困っているのかを一緒に確認し、手がかりの種類、座席の選び方、動く順番を、その人に合わせて調整します。実際に使っているタクシーや車、自宅の椅子を題材にすると、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、乗り降りの際に転倒やヒヤリとする場面が増えてきた、立ち上がるたびに強いめまいや立ちくらみがある、すくみ足の頻度が急に増えてきた、といったときです。乗り降りの困難の原因は一つとは限りません。自己判断せず、神経内科・主治医で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. タクシーに乗ろうとすると足が動かなくなります。これはパーキンソン病の症状ですか?

Q. 車から降りたあとに立ちくらみがするのですが、乗り降りと関係ありますか?
Q. 自宅でできる乗り降りの練習はありますか?
Q. 乗り降りの困難はリハビリで良くなりますか?
Q. タクシーの運転手に何か伝えたほうがよいですか?
Q. 乗り降りのしにくさは、すべてすくみ足が原因ですか?
乗り降りの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている乗り降りの場面を一緒に確認し、手がかりの種類・座席の選び方・動く順番を、その人に合わせて組み立てます。実際に使う車や座席を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
動き出しは変わります。

タクシーのドアの前で固まってしまう。その瞬間、運転手さんを待たせている気まずさや、ご家族の「大丈夫?」という心配の視線が、余計に体を固くしてしまうことがあります。「もう外出は無理かもしれない」とあきらめかけている方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、ドアの前で1秒立ち止まり、決まった手順でリズムに乗るだけで、動き出しは驚くほど変わることがあるということです。せまい場所を味方につけ、急がず、つかまり、時間をおく。ちょっとした工夫で、出かけられる場面はまだまだ広がります。
乗り降りでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う動き方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。乗り降りの困難には転倒やめまいを伴うこともあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年9月11日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(リズムなどの手がかりを使った在宅練習で歩行関連の動きやすさが改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Ebersbach G, et al. Comparing exercise in Parkinson’s disease—the Berlin LSVT BIG study. Mov Disord. 2010;25(12):1902-1908.(動きの大きさに焦点をあてた集中的運動療法が運動症状を有意に改善し、16週後も効果が維持されたと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)