パーキンソン病のDBS(脳深部刺激療法)|適応・効果・リハビリとの関係
薬だけでは、うまくいかなくなってきた。その先の選択肢を、知る。
パーキンソン病のDBS(脳深部刺激療法)|適応・効果・リハビリとの関係。「手術」と聞くと不安が先に立ちますが、DBSは病気を治す治療ではなく、薬でコントロールしきれない症状の波を、電気刺激で穏やかにする治療です。仕組み、向いている方の目安、そしてリハビリとの関係を整理します。

「手術」という言葉を、告げられた日。
薬が効いている間は普通に動けるのに、切れると急に体が固まって動けなくなる。逆に効きすぎると、体が勝手にくねくねと動いてしまう。薬の量やタイミングを主治医と何度も調整してきたけれど、それでも波が大きい——そんな時期に、「DBSという選択肢もありますよ」と言われることがあります。
「手術」と聞くと、身構えてしまうのは自然なことです。でも知ってほしいのは、DBSは薬をやめるための治療ではなく、薬の効果をより安定させ、生活の波を穏やかにするための治療だということです。
パーキンソン病の治療は、薬物療法が基本です。ただ、長い経過の中で、薬の効果が短くなる「ウェアリングオフ」や、体が勝手に動いてしまう「ジスキネジア」が目立ち、薬の量や飲むタイミングの調整だけでは症状の波をコントロールしきれなくなる時期が訪れる方がいます。DBSは、そうした段階で検討される治療の選択肢のひとつです。全体のリハビリの考え方はリハビリ完全ガイドにまとめていますので、あわせてご覧ください。
DBSとは何か。しくみを知る。
DBS(Deep Brain Stimulation:脳深部刺激療法)は、脳の深い部分に細い電極(リード)を留置し、前胸部などに埋め込んだ刺激装置から弱い電気信号を送ることで、症状に関わる脳の異常な電気活動を整える治療です。かつて行われていた脳の組織を凝固・破壊する手術とは異なり、脳そのものを傷つける範囲が小さく、埋め込んだ後も症状に合わせて体外から刺激の強さを調整できる点が特徴です。
刺激する部位(標的)は、主に視床下核(STN)と淡蒼球内節(GPi)の2つがあり、どちらの部位を選ぶかは、目立つ症状や体調によって専門医が判断します。それぞれの特徴を整理しておきます。

| 標的部位 | 主な特徴 |
|---|---|
| 視床下核(STN) | 最も多く選ばれる標的。運動症状の改善とともに、薬の量を減らせる効果が比較的大きいとされる |
| 淡蒼球内節(GPi) | ジスキネジアへの効果が比較的安定しやすく、気分・認知面への影響が少ないとされることがある |
どちらを選んでも、DBSは病気の進行を止めたり治したりする根治治療ではありません。あくまで、薬物療法を土台としながら、症状の波を整えるための治療だと理解しておくことが大切です。
適応となる方、ならない方。
DBSは、パーキンソン病と診断された方なら誰でも受けられる治療ではありません。一般的に目安とされる考え方を紹介しますが、最終的な適応の判断は、検査や診察を重ねたうえで専門医が個別に行います。

向いていると考えられやすい傾向。パーキンソン病の診断が確かで、レボドパ(L-ドパ)によく反応する症状がある。薬の調整を尽くしてもウェアリングオフやジスキネジアが目立ち、日内変動で生活に支障が出ている。
慎重な判断が必要になりやすい傾向。認知症や、治療が不十分な精神症状(うつ・幻覚など)がある。パーキンソン病以外の類縁疾患(多系統萎縮症・進行性核上性麻痺など)でレボドパへの反応が乏しい。全身状態が手術に耐えられるか懸念がある。
これらはあくまで一般的な目安であり、実際にはMRIやレボドパへの反応をみる検査、認知機能・精神面の評価などを行ったうえで、専門医が総合的に判断します。
なお、DBSが検討されるのは病気の進行がある程度進んだ段階が一般的でしたが、近年は薬の調整に難渋し始めた比較的早い段階で検討されるケースも報告されています。時期の見極めも含めて、主治医とじっくり話し合うことが大切です。
効果とリスク、そしてリハビリとの関係。
DBSで比較的効果が出やすいのは、ウェアリングオフによる「オフ」の時間の短縮、ジスキネジアの軽減、薬の量を減らせることです。薬が効いている「オン」の時間が安定して長くなり、日中の活動範囲が広がったと感じる方が多くいます。
一方で、知っておいてほしい限界もあります。姿勢の崩れやすさ、すくみ足、話しにくさ、飲み込みにくさといった、体の軸に近い症状(軸性症状)は、DBSでも十分に改善しないことがあります。むしろ、手術後にバランスが崩れやすくなったと感じる方の報告もあり、こうした症状にはリハビリでの対応が重要になります。

進行期のパーキンソン病患者を対象に、視床下核DBS+薬物療法と、薬物療法のみを比較した無作為化比較試験では、DBS群で運動機能や日常生活動作、生活の質の指標がより大きく改善したと報告されています。同研究では、認知機能や気分の指標に大きな変化はみられませんでした。
限界:対象は薬の調整だけでは症状のコントロールが難しくなった進行期の患者です。効果や合併症の頻度には個人差があり、すべての方に同じ結果が得られるわけではありません。手術そのものに伴うリスク(出血・感染など)は別途評価されます。
リスクについても触れておきます。手術に伴うものとして出血や感染、機器の位置ずれや断線といったトラブルが報告されています。また刺激そのものによって、話しにくさや、まれに気分・行動面の変化(意欲の低下や衝動性の変化など)が出ることもあります。頻度は高くありませんが、こうした点は手術を担当する医師から個別に、具体的な数字とともに説明を受けることをおすすめします。
1. 刺激の調整期間を、体調を崩さずに乗り切るため。手術後、刺激の強さや電極の設定(プログラミング)は、数か月かけて少しずつ最適化されます。この間は症状が変動しやすく、筋力やバランスの練習を続けることで、調整期間中の生活動作を安定させやすくなります。
2. 軸性症状(歩行・姿勢・声・飲み込み)をカバーするため。DBSで改善しにくい姿勢反射障害やすくみ足、構音・嚥下の課題には、専門的な運動学習や練習が引き続き重要です。刺激だけに頼らない備えが、転倒予防や誤嚥予防につながります。
3. 薬が減った分の体力・機能を、動きで補うため。DBSによって薬の量が減ると、薬に頼っていた分の機能を、運動学習を通じて体で獲得し直す必要が出てくることがあります。術前からの体力づくりと、術後の継続的な運動が、この移行を助けます。
視床下核DBSを受けた患者を対象に、2週間の術後リハビリ(筋力強化とバランス練習を中心とした内容)の効果を調べた国内の研究では、退院時のバランス能力(Mini-BESTest)と歩行の指標(TUG)が、手術前・手術直後と比べて有意に改善したと報告されています。
限界:16名を対象とした後ろ向きの研究で、対象人数は多くありません。効果には個人差があり、リハビリの内容や期間、刺激の調整状況によっても変わります。運動機能の指標(UPDRS運動スコア)自体には、この研究では有意差が示されていません。
脳リハ.comのYouTubeでは、筋力やバランスを保つための体操を配信しています。手術を検討する時期から、無理のない範囲で体を動かす習慣を続けておくことをおすすめします。
相談から手術まで、どう進むか。
DBSは、思い立ってすぐ受けられる治療ではありません。一般的には、主治医への相談から始まり、レボドパへの反応をみる検査、MRIなどの画像検査、認知機能や精神面の評価を経て、脳神経外科・神経内科・場合によってはリハビリ職を含めたチームで適応が検討されます。ここに数週間から数か月かかることも珍しくありません。

手術・入院を経たあとは、刺激の設定を少しずつ調整していく通院期間が続きます。この期間、体力やバランスを維持しておくことが、調整をスムーズに進めるうえでも助けになります。専門的な自費リハビリの活用や費用の考え方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。まずは今できる体力づくりから、体操・自主トレ大全もあわせてご活用ください。
よくある質問。
Q. DBSはパーキンソン病を治す手術ですか?
Q. DBSはどんな人が受けられますか?
Q. DBSを受けると薬はやめられますか?
Q. DBSを受けるとリハビリは不要になりますか?

Q. DBSにはどんなリスクがありますか?
Q. 手術のあと、いつからリハビリを始められますか?
DBS前後のリハビリは、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。DBSを検討中の方には術前の体力づくりを、手術を終えた方には刺激の調整期間を見据えたバランス・歩行・生活動作の練習を、それぞれの状態に合わせて組み立てます。DBSの適応判断や刺激の設定は主治医・手術担当医の領域として尊重し、私たちは体の動きと生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
体は、動かして整えます。

DBSの手術を終えた方から、「刺激のおかげで薬が効いていた時間が長くなった。でも歩き方はまだ不安定で」というお話をよく伺います。刺激は、症状の波を整える力強い治療です。ただ、それだけで体のすべてが元通りになるわけではありません。
刺激で整った土台の上に、動きを積み重ねていく。それがリハビリの役目だと考えています。手術前の体力づくりから、調整期間を見据えた練習まで、その方の状況に合わせて一緒に組み立てます。
DBSを検討している方も、すでに受けられた方も、どうぞ一度ご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。DBSの適応可否や治療方針は個々の病状によって異なります。必ず神経内科・脳神経外科の主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月6日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 日本定位・機能神経外科学会:脳深部刺激療法(DBS)患者向け解説
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Deuschl G, Schade-Brittinger C, Krack P, et al. A randomized trial of deep-brain stimulation for Parkinson’s disease. N Engl J Med. 2006;355(9):896-908.(STN-DBS+薬物療法と薬物療法単独を比較し、運動機能・ADL・QOLの改善を報告。第1エビデンスボックスの出典)
- Sato K, Aita N, Hokari Y, et al. Balance and Gait Improvements of Postoperative Rehabilitation in Patients with Parkinson’s Disease Treated with Subthalamic Nucleus Deep Brain Stimulation (STN-DBS). Parkinsons Dis. 2019;2019:7104071.(術後2週間のリハビリでバランス・歩行指標が改善したと報告。第2エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)