【2026年最新版】またぎ動作(ステップ動作)の筋活動を徹底解説|患側・非麻痺側の役割と脳卒中リハビリへの応用【論文レビュー】
脳卒中後のまたぎ動作は、なぜ相分けで考えると臨床判断が変わるのか。
脳卒中患者がまたぎ動作で転倒する原因は「筋力不足」だけではありません。Ma et al.(2017)のEMG研究が示すように、スイング相での異常な共同収縮(co-contraction)と相ごとのバランス破綻を段階的に把握することで、的確な介入ポイントが見えてきます。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
自宅玄関の段差(約10cm)をまたぐ動作を評価したところ、スイング相で患側の足首が持ち上がらず、つま先が段差にひっかかりそうになる場面が繰り返されました。
このとき、「足関節背屈筋力の強化」だけを処方することは本当に正しいのかを問うことが、本稿の出発点です。
またぎ動作は、脳卒中患者の退院後の日常生活で頻繁に求められる動作です。玄関の上がり框・浴槽への出入り・縁石・電車の乗降など、バリアフリーが整っていない環境では必ず遭遇します。
リハビリの現場では転倒リスクを理由に環境改修を早々に提案することもありますが、残存機能を最大限に活かす視点から、まず「なぜできないのか」を相ごとに分析する姿勢が重要です。
またぎ動作の定義と脳卒中後の課題。
またぎ動作(obstacle crossing:障害物越え)とは、前方の段差・障害物を片足ずつ越えて歩行を継続する動作です。単純な歩行とは異なり、スイング相での意図的な下肢クリアランス確保と、支持相での動的バランス制御が同時に求められます。
①スイング肢の下肢クリアランス確保(足を十分に上げる)②支持肢・体幹の動的安定(片足立ちの維持)③着地後の重心移動(次の一歩への移行)という3要素が同時進行します。
脳卒中後はこれらのいずれかまたは複合した障害が生じるため、「どの要素が主因か」を見極める分析眼が必要です。
またぎ動作の達成に必要な主要条件
跨ぐ側の股関節屈筋・膝関節屈筋・前脛骨筋(TA:足関節を背屈させる筋)の筋力が必須です。これらが不十分だと、スイング中にクリアランスを確保できず障害物に接触します。
またぎ動作の途中には片足立ちになる瞬間があります。前庭系(体の傾きを感知するセンサー)の機能と体幹の安定性が協働し、この瞬間の重心制御を担います。
深部感覚(固有受容感覚:自分の足の位置・動きを感じる感覚)が障害されると、足がどこにあるかわからず着地が不正確になります。感覚再教育が重要な介入となります。
注意力と動作計画力も重要です。安全にまたぐためには動作の事前計画と環境認識が必要です。認知リハビリテーションを通じてこれらを強化します。
痙縮(脳卒中後に起きる筋の過緊張)は動作を妨げる大きな要因です。ストレッチングや適切な薬物療法(医師との連携が必須)で管理することが重要です。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABは脳神経疾患専門の自費リハビリ施設です。またぎ動作・歩行・段差越えなど、退院後に残った生活上の不安に対して、専門セラピストが個別プログラムで対応します。まずは無料相談から始めてみてください。
神経筋メカニズム:co-contractionはなぜ起きるのか。
Ma et al.(2017)の研究では、脳卒中患者がまたぎ動作のスイング相において、前脛骨筋(TA:足首を上げる筋)と内側腓腹筋(MG:足首を下げる筋)が対照群より大きく・長く活性化することが示されました。
co-contraction(共同収縮)とは、本来交互に使うべき主動作筋と拮抗筋が同時に過剰収縮するパターンです。これは車でアクセルとブレーキを同時に踏むようなもの——関節の動きを制限し、動作効率を著しく下げます。
しかし一方で、脳卒中患者がco-contractionを使うのには理由があります。神経制御が低下した状態で関節を「固める」ことで転倒を防ぐ代償戦略です。一概に「悪い」とは言えません。
co-contractionとco-activationの違い(臨床での使い分け)
co-activation(協調活性)は、バランスに必要な量だけ主動作筋と拮抗筋が適切に協働する正常なパターンです。これは「正確なアクセルとブレーキの使い分け」に相当します。
Hu et al.の研究では、慢性脳卒中患者の運動機能回復過程を追跡し、運動機能が改善するにつれてCI値(co-contraction index:共同収縮の指標)が低下することが示されています。
研究対象: 脳卒中生存者8名(年齢・身長・性別一致の健常者8名と比較)
方法: 下肢長の10・20・30%高さの障害物を越える動作中に両下肢の大腿直筋(RF)・大腿二頭筋(BF)・前脛骨筋(TA)・内側腓腹筋(MG)から表面筋電図(sEMG)を記録。Berg Balance Scale(BBS)・FMA(Fugl-Meyer Assessment)との相関も分析。
主要結果: 脳卒中患者において4筋すべての活性化レベルが増大し、活性持続時間が延長。TA・MG間のco-contractionはスイング相で健常者より有意に大きかった。
エビデンスレベル: 小規模対照研究(エビデンス限定的・参考知見として活用)
— 脳卒中患者(上)と健常者(下)の筋活動パターン。丸印がスイング相のco-contraction増大を示す(Ma et al., 2017)
— 脳卒中患者は前後肢ともに対照群より相対的に大きなco-contractionを示した(Ma et al., 2017)
5相の相分けで介入ポイントを特定する。
またぎ動作を「できる・できない」の二値で捉えるのではなく、5つの相ごとに「何が足りないか」を仮説検証することが臨床的に有用です。以下は金子唯史(STROKE LAB)による動作分析の相分けフレームワークです。
— またぎ動作の5相分け(準備相〜終了相)の概観図
相ごとの評価ポイントと必要な要素
| 相 | 評価の問い | 主な必要要素 |
|---|---|---|
| ①準備相 | 静止立位は取れるか?片足への重心移動ができるか? | 足底感覚入力・体幹筋力・バランス能力 |
| ②下肢持ち上げ相 | 足を持ち上げられるか?支持側・体幹は安定できるか? | 股・膝・足関節屈筋筋力、co-contraction(FMAが高いとBF活性が大きい) |
| ③越える相 | 障害物を適切にまたげるか?着地はコントロールされているか? | 体幹・股関節のバランス反応、動作計画(前頭前野) |
| ④体重移動相 | 前方の足に安定して体重が乗せられるか? | 支持肢BF・RF活性、足底感覚、片足立ちバランス |
| ⑤終了相 | 両足で安定した立位に戻れるか? | 体幹・下肢の統合的バランス能力 |
評価尺度の選択と採点基準。
またぎ動作の評価には、研究でも使用されたBBSとFMAが有用です。それぞれの役割と採点基準を整理しておきましょう。
4点(正常):介助なく安全に課題を完全遂行できる
3点(軽度介助):監視(声かけ・見守り)があれば完全遂行できる、または時間がかかる
2点(中等度介助):課題を遂行できるが、軽い触れるような身体的介助が必要
1点(多大な介助):課題の一部はできるが、かなりの身体的介助が必要
0点(不可):介助なしでは課題を実行できない(転倒リスクあり)
介入の段階とエビデンスベースの実践。
またぎ動作の介入は、相分けで特定した問題点に対して段階的に組み立てます。以下の4フェーズは、準備から応用へ向かうグレーデッドアプローチです。
立位での重心移動訓練(10回×3セット)・前脛骨筋の背屈強化・片足立ち保持(手すり近位で10秒×5回)。痙縮が強い場合は先にストレッチングを実施。
テープや薄い障害物(5〜10cm)を手すり支持でまたぐ練習。スイング相でのクリアランス確認と着地コントロールに注目。FMAスコアとの相関が認められる難易度。
障害物の高さを段階的に上げる。この段階では代償パターンが増大するため、質的な観察(体幹の回旋・骨盤挙上代償の有無)が重要。安全確保を優先しながら練習量を確保する。
実際の段差(玄関框・浴槽)での練習。自宅環境評価に基づいた環境調整(手すり・ステップ台設置)と組み合わせ、患者と家族が安全に継続できる自主練習プログラムを設定する。
Lam et al.(2019):脳卒中後の歩行・バランス訓練における課題指向型アプローチのシステマティックレビュー。繰り返しの課題練習が歩行機能とバランス改善に有効(SR・エビデンス中程度)。
介入パラメータ目安:1セッション30〜45分・週3〜5回・4〜8週間継続が効果的とされる(Cochrane review, 2014準拠)。
痙縮管理:ボツリヌス毒素注射後2〜4週で可動域改善が得られる場合がある。薬物療法はリハビリと組み合わせることで効果が高まる(エビデンス中程度)。

脳神経疾患専門の自費リハビリ施設として、退院後に「また転ばないか」「段差を越えられるか」という不安を持つ患者さん・ご家族に向き合ってきました。専門セラピストが1対1で、生活に直結したプログラムを提供します。
多職種連携と環境調整の役割分担。
各職種の役割
| 職種 | 主な役割 | またぎ動作への貢献 |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 歩行・バランス・下肢機能 | 相分け評価・筋力強化・バランス訓練・またぎ動作練習の主担当 |
| OT(作業療法士) | ADL・認知・環境調整 | 玄関・浴室の環境評価・手すり設置提案・注意力向上訓練 |
| 看護師 | 日常観察・転倒予防 | 病棟でのまたぎ場面のリスク管理・服薬管理(痙縮薬等) |
| 医師 | 医学的管理・処方 | 痙縮に対するボツリヌス毒素注射・筋弛緩薬処方・予後判断 |
| MSW(社会福祉士) | 退院支援・福祉用具調整 | 住宅改修の助成申請・福祉用具(手すり・段差解消機)の調整 |
環境調整のポイント
「手すりは”退院後も使う場所”に設置する。トイレと浴室だけでなく、玄関の框(かまち)横も忘れずに確認してほしい。」
「ステップ台の高さは最初から高くしない。5〜10cmから始めて、患者が成功体験を積んでから少しずつ上げていく。」
「認知機能が低下している患者には、動作前に”今から段差を越えます”と声かけする習慣を家族にも指導しておく。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
またぎ動作の臨床では、経験が浅いうちに特定の判断ミスに陥りやすいポイントがあります。以下の3つは先輩から必ず引き継いでほしい「落とし穴」です。
臨床判断の分岐点:「どの相が問題か」のフローチャート思考
「”転んでから”では遅い。評価と仮説検証の習慣を、最初の1週間でつけてほしい。」
「動作が”できない”理由は1つじゃない。5相のどこで崩れているかを言えるようになると、カンファレンスでの説明力が一気に上がる。」
予後予測とゴール設定の考え方。
またぎ動作の回復予後はFMAスコアと相関しており、FMAスコアが高いほど筋活性化パターンが正常化し、動作の質も向上します。ただし、障害物高さが増すとFMAとの相関が消えることから、高い難易度の課題への般化には追加的な訓練が必要です。
短期ゴール(2〜4週):低い障害物(5〜10cm)を手すり使用でまたぐことができる。BBS指定項目での安定した動作。
中期ゴール(1〜3ヶ月):実際の段差(玄関框など10〜15cm)を監視下でまたぐことができる。転倒なく自宅生活が継続できる。
長期ゴール(3〜6ヶ月以降):様々な環境(屋外・複数段差)での安全なまたぎ動作の自立。モチベーションを維持しながら継続的な自主練習。
よくある質問(新人臨床家の疑問)。
スイング相で前脛骨筋(TA)と腓腹筋(MG)が同時に過剰収縮(co-contraction)し、足関節の背屈が制限されるため障害物にひっかかりやすくなります。
また片足立ち時の体幹・股関節の動的バランス反応が遅延するため、重心制御が不安定になります。FMAスコアが低いほどこの傾向が強く、転倒リスクが高まります(Ma et al., 2017)。
跨ぐ側(スイング肢)は股関節屈筋・膝関節屈筋・前脛骨筋(足関節背屈筋)の強化が優先です。支持側は大腿二頭筋・大腿直筋の協調した活性化が重要で、荷重下での膝位置制御に直結します。
FMAスコアが高い脳卒中患者は大腿二頭筋(BF)活性化によって股・膝関節を制御しながら下肢を持ち上げる戦略を用いることが研究で示されています(Ma et al., 2017)。
co-activation(協調活性)は主動作筋・拮抗筋がバランスに必要な分だけ適切に協働する正常なパターンです。co-contraction(共同収縮)は過剰・非選択的に同時収縮し、関節を固める病的なパターンを指します。
Hu et al.の研究では慢性脳卒中患者の運動機能回復過程で、機能改善とともにCI値(co-contraction index)が低下することが示されています。
①準備相:静止立位と片足への重心移動、②持ち上げ相:スイング肢のクリアランスと支持肢の体幹安定、③越える相:障害物クリアと着地コントロール、④体重移動相:前方への荷重移行と片足立ち、⑤終了相:両足立位の安定、の5相でどの要素が破綻しているかを仮説検証することが重要です。
Ma et al.(2017)の研究では下肢長の10・20・30%の3段階が使用され、FMAスコアとの筋活性化の有意な相関は10%高さでのみ認められました。臨床的にはまず低い障害物(10%相当・約5〜10cm)から始め、徐々に難易度を上げるグレーデッドアプローチが推奨されます。
①壁支持での立位重心移動(左右・前後10回×3セット)、②低い段差をまたぐ練習(手すり使用・5〜10cmから始める)、③前脛骨筋強化:椅子座位での足首上げ(背屈20回×3セット)、④片足立ちバランス(手すり近位で10秒×5回)、⑤体幹の安定化運動を組み合わせることが推奨されます。必ず監視下で開始し、転倒リスクを評価した上で自主トレへ移行してください。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経疾患に特化した自費リハビリテーション施設です。退院後も続く歩行・段差・バランスの問題に対して、脳科学と徒手技術を組み合わせた個別プログラムを提供しています。「退院後のリハビリが終わった後こそ、本当の回復が始まる」という信念のもと、患者さん一人ひとりの目標に向き合います。
— STROKE LABでのリハビリの実際の様子です。
「またぎ動作は”できるかどうか”ではなく”どの相でどう崩れるか”を見る。それが臨床の目の基本です。相分けの習慣は、1年目の今すぐつけてほしい。」— PT(理学療法士)・経験15年・脳神経系専門
「障害物の高さを少しずつ上げながら練習するのは基本ですが、難しいのは”いつ上げるか”の判断。患者さんの不安感と身体機能の両方を見て、タイミングを決めています。」— PT(理学療法士)・経験10年・生活期リハビリ専門
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その願いを、諦めないでください。

退院後、「もう良くならない」と言われた患者さんをたくさん見てきました。でも、適切なアプローチで、段差を越えられるようになった方は確かにいます。
あきらめる前に、一度私たちに話してほしい。今の状態を聞かせていただき、何ができるかを一緒に考えます。
無料相談は、患者さん本人でもご家族でも、どちらでも歓迎します。まず話すことから始めてみてください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)