【2026年版】ADLと動作分析を徹底解説|神経システムから読み解く脳卒中患者の評価とリハビリ戦略【理学療法・作業療法】
動作分析は、なぜADL介入の出発点になるのか。
ADL課題の分析に行き詰まる新人セラピストの多くは、基本動作の分析力が先に求められるという前提を見落としています。本記事では、ADLと基本動作の関係性、リーチ動作の運動制御メカニズム、そして臨床で使えるフィードフォワード・フィードバック評価の視点を体系的に解説します。
— 動作分析の問題点抽出とADL評価の全体像を解説した動画です。
要点5項目。
臨床現場でどう出会うか。
60代・脳梗塞左片麻痺の方。入院前は自立していたトイレ動作が困難になっています。担当セラピストとして問題点を抽出しようとしたとき、「座位バランスが悪い」「麻痺側上肢が動かない」という観察は出てきます。
しかし、なぜ座位バランスが悪いのか・なぜリーチができないのかという一段深い分析ができなければ、介入の的が絞れません。ADL分析の前に、基本動作の「なぜ」を問う力が求められます。
作業療法士からADLの動作・課題分析へのポイントについて質問を受けることがあります。基本動作の分析ができない限り、ADL・課題分析は困難であると考えています。
野球や演奏は、基礎となる運動や奏法があるからこそ、一連の動作が可能となります。英単語の語彙力がないのにリスニングが伸びないように、構成要素の理解なしにADL分析は成立しません。
ADLは基本動作の集合体である。
下図では、トイレ動作に必要なコンポーネントを示しています。移乗・立位保持・リーチ・把持・衣服操作など、複数の基本動作が組み合わさっています。
学生期の3〜4年間の教育では、ADLのような複合動作分析を十分に学ぶには知識量が不足しています。これは卒後に個々で補っていくべき課題です。
「英語とロシア語を話せるようになりたい」と同様、機能と生活の両方を見るには相応の年月と意識的な学習が必要です。まずは歩行・上肢・手の評価を着実に習得することが近道です。
基本動作分析を深める3つのステップ
関節運動・筋活動タイミング・重心移動の正常パターンを理解します。逸脱を見抜くには、正常の「型」が頭に入っていることが前提です。
観察された逸脱を「どの局面で」「どの方向に」「なぜ」起きているかを分類します。多症例の動画分析を繰り返すことで分類精度が上がります。
常に「なぜ?」を自問自答しながら評価と介入を一体として進めます。このサイクルを意識的に繰り返すことが、臨床家の経験値を最速で積む方法です。
— 評価→仮説→介入→再評価のサイクル。常に「なぜ?」を中心に置く
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
その気持ちに、全力で応えます。
STROKE LABは脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。脳科学と徒手技術を組み合わせた専門的なプログラムで、ご本人の目標に向けてオーダーメイドのリハビリを提供します。まずは無料相談から始められます。
リーチ動作の運動制御機序を理解する。
動作分析において、基本的な運動制御を理解しておくことは重要です。McCreaら(2002)は上肢のリーチ動作のメカニズムを体系的に提示しています。
実際のリーチ動作(出力)の前に、視空間認知・運動計画・姿勢制御・筋収縮協調など多くのシステムが機能している必要があります。
中枢神経系(CNS)内での計画は、空間上で手を動かすために肩・肘の運動パターンを変換する階層的な運動制御を行います(Hollerbach, 1990)。
— リーチ動作に関わる神経制御システムの概念図(McCrea et al., 2002 を参考)
関節トルクと力学的因子
リーチ中の各関節の加速度は、関節トルク(回転力)と慣性(運動の変化に対する物体の抵抗)の両方に依存します。関節トルクの連鎖は筋活動だけでなく、次の要因にも影響を受けます。
| 力学的因子 | 臨床への影響 | 評価・介入のポイント |
|---|---|---|
| 重力 | 上肢の各セグメントの質量・方向に依存。抗重力制御が不十分だと代償が生じる | 水平方向のリーチから評価を始め、抗重力要素を段階的に加える |
| 慣性 | 運動の変化への抵抗。加速・減速の制御精度に関わる | 移送期の加速パターンを観察。単一ピークか複数ピークかで制御障害を推定 |
| 粘弾性 | 関節の位置を安定させる固有の機械的特性。痙縮では亢進しやすい | 痙縮の有無・程度をMASで評価し、粘弾性の変化を動作分析に反映する |
| 外力 | ドアノブ・コップなど対象物からの反力。把持動作では必須の要素 | 対象物の重さ・形状・素材を変えて外力条件を調整し、把持の質を評価 |
出典:McCrea PH, Eng JJ, Hodgson AJ. Biomechanics of reaching: clinical implications for individuals with acquired brain injury. Disabil Rehabil. 2002;24(10):534–541.
要点:後天性脳損傷者のリーチ動作のバイオメカニクスを詳述。多関節システムとしての上肢の階層的運動制御が障害されることで、ADL遂行に複合的な問題が生じることを示しています。
臨床的含意:分析の際は「関節の角度」だけでなく、重力・慣性・粘弾性・外力を総合的にみる視点が必要です。
量的評価と質的評価を使い分ける。
「可能」「不可能」「一部介助」など動作遂行の結果に焦点を当てる量的評価は、FIM・BIなどの標準的尺度で数値化できます。しかし臨床の本質は、その先にあります。
正常運動への理解を深めつつ、多くの症例に対して評価→仮説→介入→再評価のサイクルを繰り返しながら臨床家の経験値を高めていく必要があります。
フィードフォワードとフィードバック制御を評価に活かす。
中枢神経系は、フィードフォワード(FF)戦略とフィードバック(FB)戦略の両方を使用してリーチを制御します(Jeannerod, 1990)。この2段階を理解することで、脳卒中患者の上肢評価が格段に具体化します。
移送期:フィードフォワード制御(Phase 1)
リーチの第1段階はフィードフォワード(計画された)制御です。知覚情報は四肢の力学への外乱を予測し、経験に基づいて適切な筋の活性化を計画するために用いられます。
フィードフォワード制御は、1つの加速段階と1つの減速段階を含む連続的な移動によって特徴付けられます。スムーズな単一の弧を描く動きが正常です。
操作期:フィードバック制御(Phase 2)
リーチの第2段階はフィードバック制御です。腕の現在の位置と速度に対する腕の配置場所との間の相違を修正します。
末梢受容器(筋・関節・皮膚感覚器)からの信号が神経系に戻り、手とターゲット間の誤差を伝えます。多様な加速・減速を含む非連続な動きが特徴です。
— 移送期(FF制御)と操作期(FB制御)の2段階モデル
出典:Shadmehr R, Moussavi ZMK. Spatial Generalization from Learning Dynamics of Reaching Movements. J Neurosci. 2000;20(20):7807–7815.
要点:身体に作用する内外の力への外乱を予期して修正することを繰り返すことで、随意運動のコントロールが改善されます。リハビリにおける反復練習の意義を支持するエビデンスです。
介入の段階とエビデンスに基づくアプローチ。
動作分析の結果に基づき、介入を4つのフェーズに分けて段階的に組み立てます。各フェーズでパラメータを明記し、臨床判断の根拠を記録しましょう。
座位・立位・リーチなどの基本動作を観察。量的評価(FIM・BIなど)と質的評価(代償・逸脱・協調性)を組み合わせ、問題点を層別化します。目安:初回評価40〜60分。
重力・慣性・粘弾性への対応を徒手的にサポートしながら、正常な運動パターンを引き出します。1セッション20〜30分。週3〜5回を目安に反復します。
目標とする基本動作・ADL課題を反復練習します。1セッション内で20〜30試行を目安に。FF制御の改善を目的とした予測的な練習を優先します。
習得した基本動作スキルをADL文脈で練習します。環境・課題・難易度を段階的に変化させ、般化を促します。Gribble & Ostry(1999)の多関節トルク補償の概念を応用。

脳卒中後の動作障害は、適切な専門的介入によって改善が期待できます。STROKE LABでは脳科学と徒手技術に基づいた個別プログラムで、ご本人の目標に向けた回復を丁寧に支援します。まずは無料相談でご状況をお聞かせください。
多職種連携と環境調整の視点。
基本動作分析とADL評価は、セラピスト単独では完結しません。多職種での情報共有と役割分担が、生活場面への般化を加速させます。
多職種の役割分担
| 職種 | 動作分析・ADLへの役割 | 連携のポイント |
|---|---|---|
| PT | 歩行・基本動作の分析と介入。バランス・姿勢制御が専門領域 | 座位保持・移乗の質をOTと共有し、ADL練習での一貫したアプローチを確認 |
| OT | 上肢機能・ADL課題分析。作業文脈での動作評価と環境調整 | リーチの質・把持パターンをPTと共有。生活行為の優先度を本人・家族と設定 |
| ST | 高次脳機能(注意・空間認知・運動企画)の評価。ADLへの影響を明確化 | 注意障害・半側空間無視がリーチ精度に与える影響を定量的に情報共有 |
| 看護師 | 生活場面での実際のADL状況を最も把握する職種 | 朝の更衣・夜間トイレなど時間帯別のADL状況をカンファレンスで共有 |
| MSW | 退院後の生活環境・社会資源の調整 | 在宅ADLに必要な福祉用具・住宅改修をセラピストの分析結果をもとに提案 |
「OTはリーチの質を評価しているのに、PTは移乗の安定性だけを見ている——こうした視点の分断が、ADL改善の遅延につながることがあります。カンファレンスで『どの基本動作が制限因子になっているか』を一致させることが最初のステップです。」
「看護師から朝の更衣に時間がかかると聞いたとき、それが上肢の問題か注意の問題かで、介入の優先順位が変わります。他職種の観察を動作分析の情報として積極的に取り込む習慣をつけてください。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
動作分析は経験を積むほど精度が上がりますが、新人期に特有の「陥りやすい罠」があります。先輩たちが共通して経験した3つの失敗パターンを確認してください。
臨床判断の分岐点:新人エピソードから学ぶ
「私は新人の頃、片麻痺の方のリーチ動作でどうしても目に見える現象に着目しがちで、『肩関節が外転、体幹の側屈、肘の屈曲、橈側優位…』などの分析ばかりでした。」
「間違いではありませんが、その背景に筋の長さ以外にも症例によって問題点が異なります。認知的な側面や慣性、重力との関係など分析すべきポイントは多々あります。まず『なぜ?』を自問する習慣が、臨床力を飛躍的に高めます。」— 金子唯史(STROKE LAB代表・作業療法士)
予後予測とゴール設定の考え方。
動作分析の結果は、ゴール設定にも直結します。「何が制限因子なのか」を特定できれば、改善可能な要素と長期的な代償が必要な要素を整理できます。
脳卒中後の動作障害では、神経回路の可塑性(plasticity)による改善が期待できる要素と、構造的な変化による代償が必要な要素が混在しています。動作分析で制限因子を特定することが、現実的なゴール設定の出発点です。
ゴールは本人・家族の生活目標(ADL)に紐づけて設定します。「トイレ動作の自立」というゴールに対して、どの基本動作がどのレベルまで改善する必要があるかを逆算して介入計画を立てます。
よくある質問(新人臨床家の疑問)。
基本動作分析を先に習得すべきです。ADLはトイレ動作・入浴・歩行など複数の基本動作が組み合わさった複合課題です。
座位保持・立ち上がり・リーチなどの基本動作を分析できなければ、ADLの問題点抽出は困難です。まず各基本動作の正常パターンと逸脱パターンを理解し、その後ADLへと発展させることが臨床的に効率的です。
フィードフォワード制御(移送期)は、動作前に経験をもとに筋活動を計画する予測的制御です。1回の加速と1回の減速からなる連続的な動きが特徴です。
フィードバック制御(操作期)は、実際の手の位置とターゲットとのズレを修正する制御で、複数回の加速・減速を含む非連続な動きが特徴です。脳卒中患者ではフィードフォワード制御の障害が顕著なことが多く、評価時に注目すべきポイントです。
量的評価は「可能・不可能・介助量」など動作の結果を数値化します。FIM・BIなどが代表例です。
質的評価は動作の過程・代償・効率性・逸脱パターンを観察します。臨床では「可能と不可能の間の可能性」を探ることが重要で、量的評価で到達度を把握しつつ、質的評価で問題点の原因を特定し、介入の優先順位を決めます。
表面的な関節角度だけでなく、背景にある原因を多角的に検討します。
①認知的側面(注意・空間認知・運動企画)、②力学的側面(慣性・重力・粘弾性)、③感覚フィードバックの質(筋・関節受容器からの入力)、④フィードフォワード計画の欠如の有無を評価します。表層現象のみを記録する分析では介入効果が限定的になります。
①正常運動の理解→②逸脱パターンの分類練習→③問題点の仮説立案→④介入と再評価のサイクルを繰り返すことが最も効率的です。
1症例あたり「なぜこの動きが起きているのか?」を自問自答しながら進めると経験値が蓄積されます。学生・新人期に意識的に反復することが、その後の臨床力の土台になります。
脳卒中患者のリーチ動作では、筋活動の問題だけでなく、重力・慣性・関節の粘弾性などの力学的因子が大きく影響します。
例えば肘関節の加速度は関節トルクと慣性の両方に依存するため、筋力だけを強化しても問題が解決しないケースがあります。特に脳卒中後の痙縮がある場合、粘弾性の変化がリーチの精度に影響します。動作分析では「力の流れ」を理解することが介入の精度を高めます。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳科学と徒手技術に特化した脳神経系の専門自費リハビリ施設です。脳卒中後の動作障害に対して、本記事で解説した動作分析に基づくオーダーメイドのプログラムを提供しています。
— STROKE LABでのリハビリの実際の様子です。
「動作分析の深さは、最終的にADL改善のスピードに直結します。問題点を正確に特定できれば、無駄な介入を省いてご本人の回復に集中できます。新人のうちから『なぜ?』を問い続ける姿勢が、5年後・10年後の臨床力の差を作ります。」— 金子唯史(STROKE LAB代表・作業療法士・経験20年以上)
「脳卒中後のリーチ障害は、筋力の問題だけでなく、フィードフォワード制御の損傷が大きい。その視点をもって評価・介入すると、表面的なアプローチから一段深い臨床ができるようになります。」— STROKE LABシニアセラピスト(PT・脳神経系専門・臨床15年)
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諦めないでください。

「もっと動けるようになりたい」「家族のそばで生活したい」——脳卒中後にそう願うご本人・ご家族のために、STROKE LABは存在しています。
脳神経系の専門知識と徒手技術に基づく動作分析によって、「可能と不可能の間にある可能性」を一緒に探していきます。
まずは無料相談で、現在の状況と目標をお聞かせください。専門スタッフが丁寧にお話を伺い、最適なプログラムをご提案します。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)