SADQH-10とは?失語症のある人の抑うつを観察で捉える|【PDF評価付き】
言葉にならない気持ちを、
日々の変化から受け止める。
SADQH-10|病院版・10項目
観察を点数に、点数を本人に合った支援へ。

01|SADQH-10とは|話しにくい人の気分を、日々の行動から捉える
Stroke Aphasic Depression Questionnaire Hospital Version(10項目:SADQH-10)は、脳卒中後の失語症があり、言葉だけでは気分を伝えにくい人の抑うつ徴候を、日常の行動から把握する観察式の質問紙です。本人に10問を答えてもらう方法ではなく、普段を知る看護師などが直近1週間を振り返って評定します。[1][2]
目的は「落ち込んでいるはず」と決めることではなく、詳しい確認と支援が必要な変化を拾うこと。会話が少ない、訓練を断る、涙が出る、といった行動の背景には、気分だけでなく痛みや疲労、伝わらないもどかしさもあります。
| 確認点 | 要点 |
|---|---|
| 対象 | 主に失語症を伴う脳卒中患者。病棟での行動観察に適する |
| 期間 | 直近7日間。今日の一場面だけで採点しない |
| 所要時間 | 情報がそろえば記入は約2〜5分。観察・申し送りの時間は別 |
| 得点 | 10項目、各0〜3点、合計0〜30点。高得点ほど抑うつに関連する行動が多い |
| 役割 | スクリーニングと経過の整理。診断や予後予測を単独で行う尺度ではない |
02|日本語版と似た名前の尺度を混ぜない
国内では辰巳らによるJ-SADQ10の研究があります。失語症者と家族介護者77組を対象とし、内的一貫性α=0.758、再検査のICC=0.920が報告されています。ただし論文の対象はSADQ10の日本語版であり、今回のHospital Versionの日本語版検証とそのまま同一視できません。[5]
| 表記 | 今回の記事との関係 |
|---|---|
| SADQH-10 / SADQ-H 10 | 今回の病院版・10項目 |
| SADQ-10 / J-SADQ10 | 名称が似た10項目版。質問表現・回答形式・研究対象を照合する |
| SADQ-H(21項目) | 長い病院版。満点やカットオフを流用しない |
今回の検索では、SADQH-10に特定した正式日本語版の公開用紙と妥当性研究を確認できませんでした。本記事の日本語は理解のための解説です。日本語版を導入する際は、名称だけでなく、採用した用紙と出典を記録してください。
03|実施の準備|7日分の「見た事実」を集める
準備するのは、採用する質問紙と採点表、筆記具、直近1週間の看護・リハビリ記録です。担当者を決め、夜勤者を含めた情報を合わせます。家族の話は参考になりますが、入院中の夜間や他者との関わりは病棟記録で補います。
- 期間を固定する。「11月1日〜7日」のように開始日・終了日を書く。
- 複数の場面を見る。ケア、自由時間、面会、リハビリ、夜間の様子を集める。
- 行動と解釈を分ける。「意欲なし」ではなく「午後の誘いに顔を背けた。肩を動かすと顔をしかめた」と記録する。
- 不明を残す。見ていない夜間を「問題なし」としない。担当者に確認し、不足が解消しなければ総点を保留する。
入院直後など7日分がそろわない場合は、把握できた期間を明示し、標準の1週間評定と同じ条件として比較しません。観察期間が満たされるまで、必要な診察や支援を待つ必要はありません。

04|採点の手順|頻度と逆転項目を確認する
各項目は0〜3点で、10項目を合計します。多くの項目では、対象となる行動が頻回なほど高得点です。一方、日中に自分で活動して過ごしていることを尋ねる項目は逆方向で、活動がみられるほど低得点になります。[7]
例として、公開されているSTARsの教育用紙では、この活動の項目が第10項目です。毎日活動している場合は0点、全くみられない場合は3点です。資料によって並び順が異なるため、「第○問だから逆転」と記憶せず、内容と用紙上の配点で確認してください。
- 採用した用紙の各項目について、観察記録と照合する。
- その用紙に示された頻度区分で0〜3点を選ぶ。
- 活動に関する逆転項目を確認する。
- 未確認項目がないことを確認して0〜30点を合計する。
- 得点が高かった行動と、考えられる背景を別欄に残す。
原資料の表記について:確認した公開用紙には「1〜4日」と「4〜6日」が重なる表記があります。本記事で独自に「1〜3日」へ置き換えて正式基準とはしていません。4日に該当する場合は採用版のマニュアル・提供元を確認し、日数の事実と扱いを残してください。
原文全文の再編集・翻訳配布条件を確認できなかったため、付属PDFは正式項目の転記と観察記録を行う補助用紙としました。質問文と配点は原版をご確認ください。
05|点数の意味|6点・7点の違いを理解する
| 研究 | 対象・基準 | 臨床での読み方 |
|---|---|---|
| Bennettら(2006) | 入院脳卒中100名など。コミュニケーションが可能な対象のHADSとの比較で5/6の境界 | 5/6は「6点以上」を意味する。抑うつ診断の確定値ではない |
| Hackerら(2010) | 急性期125名、BASDECとの比較 | 異なる基準との比較でも有用性を検討。検査名だけでカットオフを統一しない |
| Lim・Chan(2026) | シンガポールの失語症を伴う脳卒中236名。精神科医の診断との比較 | 7点以上を選定。日本語版の基準として確立した値ではない |
2026年研究ではSADQH-10のAUCは0.844でした。ただし、感度・特異度の数値には要旨と本文・記載箇所間で不一致があるため、この記事では確定値として転載していません。カットオフ未満でも見逃しがあり得ることを踏まえ、経過・本人の意思・生活への影響を合わせて判断します。[4]
6点以上なら、気分・睡眠・疼痛・生活への影響を詳しく確認するきっかけに。6点未満でも、急な変化や強い苦痛があれば追加評価を行います。「6点以上=うつ病」「7点未満=正常」とは扱いません。軽度・中等度・重度の独自区分も設けません。
この得点から、退院先、ADL回復量、薬の必要性を直接予測することはできません。同じ8点でも、睡眠の乱れが中心の人と、交流や活動の減少が中心の人では、確認する内容が異なります。
06|観察した行動から、背景を確かめる
| 観察されたこと | 先に確かめること | 支援の具体例 |
|---|---|---|
| 涙が続く | 気分との一致、きっかけ、感情失禁、痛みや困り事 | 言葉を急がせず、指差し・絵・短い選択肢で本人に確認する |
| 交流や誘いを避ける | 説明の理解、聴力、疲労、人の多さ、失敗への不安 | 静かな場所で一対一にし、活動を二択で示す |
| 何もせず座っている | アパシー、運動障害、道具の位置、活動機会の有無 | 手が届く位置に慣れた物を用意し、開始に必要な援助を調整する |
| 夜間の落ち着かなさ | 疼痛、排尿、薬剤、昼夜逆転、せん妄など | 夜間記録を確認し、医師・看護師と原因に沿った対応を相談する |
上表は臨床推論の例で、追加の採点項目ではありません。背景が疑われても、元の質問紙の得点を独自に引かず、行動の評定と原因の検討を分けます。

07|PHQ-9・AES・CASとの使い分け
| 評価 | 主に得たい情報 | SADQH-10との関係 |
|---|---|---|
| PHQ-9 | 本人が回答する過去2週間の抑うつ症状 | 読解・理解・回答が可能なら本人の訴えも確認。家族が代わりに推測して同じ得点とはしない |
| AES・CAS | 意欲・発動性・活動性の側面 | 活動減少が目立つ場合の追加評価。低活動だけで抑うつとアパシーを区別しない |
| SADQH-10 | 直近1週間に観察された抑うつ関連行動 | 言語負荷を減らせる一方、本人の内面を直接測るわけではない |
点数同士を換算したり、異なる尺度の点差を改善量として比べたりはしません。本人が答えやすい方法を整えた面接と、周囲の観察を組み合わせます。
08|新人でも追える実施例|「訓練を断る」の次に見ること
以下は説明用の架空事例です。失語症のあるAさんが、午後のリハビリに顔を背けることが増えました。担当者はその一場面で採点せず、1週間の記録を確認しました。夜間の肩痛、午後の眠気、集団場面での涙が分かり、正式用紙で合計8点となりました。
- 担当看護師・医師へ共有:「8点」だけでなく、いつ何が起きているか、夜間の痛みと睡眠を伝える。
- 本人の意思を確認:言語聴覚士と、指差しや短い言葉で「痛い」「疲れた」「不安」などを確かめる。
- 活動条件を整える:痛みへの対応を相談し、比較的覚醒のよい時間に、本人が選んだ短い活動を一対一で行う。
- 次の1週間を追う:同じ版・同じ観察期間で再評価し、総点だけでなく睡眠、涙、参加の変化も共有する。
「参加できたから抑うつはない」とも、「得点が下がったから治療終了」とも決めません。身体的な苦痛と気分の問題が併存している可能性を残し、必要な診察につなぎます。
09|介入につなぐ|本人が選ぶ小さな活動から
失語症と低い気分を持つ105名を対象としたCALM試験では、通常ケアに行動療法を加えた群で気分の改善が報告されています。介入は最長3か月、心理職の監督下で個別に行われ、絵や写真などでコミュニケーションを補っていました。[6]
臨床では、まず本人が大切にしていた活動を確認します。例えば「窓辺で花を眺める」「家族と写真を1枚見る」「花を2本生ける」など、本人が選べて、負担が少なく、終わりが分かる活動から始めます。活動の前後で表情だけでなく、本人の反応と疲労も記録します。これは日常支援の例であり、試験の行動療法と同じ効果を保証するものではありません。

安全に関わる訴えは点数と別に扱います。自傷・希死念慮を疑う言動や強い苦痛があれば、低得点でもその日のうちに医師など対応できる専門職へ共有します。切迫した危険が疑われる場合は一人にせず緊急評価につなぎます。SADQH-10だけで自殺リスクは判定できません。
10|再評価と研究の限界
Cobleyらの失語症者165名の研究では、内的一貫性はα=0.77でした。一方、本人による気分の視覚的評定との関連は尺度によって異なりました。観察得点と主観的な気分が常に一致するとは限らないため、両方を確認する意味があります。[2]
実務では、直近7日間をそろえて週単位で振り返ると経過を整理しやすくなります。担当者、病棟、観察できた時間、服薬・疼痛・睡眠の変化も残してください。今回確認した資料からは、日本語のSADQH-10について「何点下がれば意味のある改善」とする確立した基準は提示できません。数点の差だけでなく、どの行動が変わり、本人の生活がどう変わったかを記録します。
11|PDF・原資料|観察から連携まで残す
A4・3ページのPDFです。1ページ目に観察する行動の日本語解説、採点の方向とカットオフの読み方を追加しました。2〜3ページ目で使用版・10項目の得点・7日間の観察、背景、本人の意思、連携と再評価をまとめます。正式な質問文・頻度区分は、採用する原版をご確認ください。
参考文献・資料
- Bennett HE, et al. Validation of screening measures for assessing mood in stroke patients. Br J Clin Psychol. 2006;45:367–376.
- Cobley CS, et al. The assessment of low mood in stroke patients with aphasia: reliability and validity of the 10-item Hospital version of the Stroke Aphasic Depression Questionnaire (SADQH-10). Clin Rehabil. 2012.
- Hacker VL, Stark D, Thomas S. Validation of the stroke aphasic depression questionnaire using the brief assessment schedule depression cards in an acute stroke sample. Br J Clin Psychol. 2010;49:123–127.
- Lim ZQN, Chan LG. Depression in Hospitalised Aphasic Stroke Patients—Identifying Valid Tools and Examining Outcomes. J Clin Med. 2026;15:3187.
- 辰巳寛ほか.The 10-item Stroke Aphasia Depression Questionnaire日本語版(J-SADQ10)の開発―信頼性と妥当性についての基礎的検討.総合リハビリテーション.2012;40:887–892.
- Thomas SA, et al. Communication and Low Mood (CALM): a randomized controlled trial of behavioural therapy for stroke patients with aphasia. Clin Rehabil. 2013.
- CHSS / STARs. MDT Stroke care summary:SADQ-H 10の許諾転載用紙・教育事例.
- NSW Agency for Clinical Innovation. Screening and assessment tools for older people:SAD-Q.
- University of Nottingham. Published assessments(開発元資料の案内先).
資料確認:2026年11月3日。事例とイラストは説明用です。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)