標準意欲評価法(CAS)とは?5つの評価・採点方法と自発性を支える臨床活用
「声をかければできる」
その先の、自発性を見る。
標準意欲評価法(CAS)
本人の気持ち、生活の行動、必要な促しをつなぐ。

01|CASとは|自発性を複数の視点から評価する
標準意欲評価法(Clinical Assessment for Spontaneity:CAS)は、脳損傷後の意欲・自発性の低下を、本人の回答、面接、生活の観察から捉える評価です。単に「やりたい気持ちがあるか」だけでなく、実際に行動を起こす様子も含めて見ます。[1][2]
2022年刊行のセット名は「CAT-R・CAS」です。注意検査のCAT-Rと、意欲・自発性を評価するCASは別の評価です。セット名に「改訂版」とあっても、CASを独自に「CAS-R」と表記しません。[1]
02|正式な構成|5つの評価は同じものを測っていない
| 構成 | 主な情報 | 臨床で注目する点 |
|---|---|---|
| 1.面接による意欲評価スケール | 面接中の反応を評価者が観察 | 応答だけでなく、自分から話題を出すか。 |
| 2.質問紙法による意欲評価スケール | 本人が感じる意欲の状態 | 生活の観察結果と一致するか。 |
| 3.日常生活行動の意欲評価スケール | 生活行動での自発性 | どの活動で、どの程度の促しを要するか。 |
| 4.自由時間の日常行動観察 | 予定のない時間の行動 | 何を自分から選び、行っているか。 |
| 5.臨床的総合評価 | 全体の臨床像 | 複数の情報を合わせて判断する。 |
公式の5つの構成を示しています。開発報告では、質問紙は33項目、日常生活行動は16項目、臨床的総合評価は0〜4の5段階と説明されています。実施・採点は使用する版のマニュアルと正式用紙に従います。[1][2]
CAS3だけを用いた結果は「CAS3」と明記します。CAS全体を実施した結果と混同せず、5つの評価を独自に足して一つの総得点にしないことが大切です。
03|準備と実施時間|観察できる機会を確保する
必要なのは、正式マニュアルと評価用紙、本人への面接機会、日常生活・自由時間の情報です。初めに、病前の習慣や役割、現在可能な動作、言語理解、疲労、疼痛、眠気、薬の影響を確認します。
CAS全体を「10分で終了」などと固定すると、生活観察が抜けてしまいます。面接・質問紙の所要時間と、生活を観察した期間を分けて記録してください。外来では当日の様子だけでなく、家族や支援者から、具体的な場面と促し方を聞き取ります。
初回に本人の話を聞き、病棟・家庭で数日にわたる行動情報を集めてから整理します。これは情報を集めるための実務例で、CASの統一された実施日数を示すものではありません。観察日時・場所・評価者を残し、再評価でも条件をそろえます。
04|実施の流れ|「できる」と「自分からする」を分ける

- 普段の生活を聞く。以前から行っていた活動、今も関心があること、困っていることを確認します。
- 面接を行う。正式手順に沿って進め、反応を観察します。返事の短さだけで意欲低下と決めません。
- 本人の質問紙を確認。回答を誘導せず、失語症や読字困難がある場合は回答可能性と補助方法を記録します。家族の答えを本人回答として置き換えません。
- 生活行動の情報を集める。自発的に始めたか、声かけをしたか、身体的な介助が必要だったかを区別します。
- 自由時間を観察。リハビリや検査の予定がない時間に何をしているかを、場所・活動・周囲の関わりとともに記録します。
- 正式用紙で採点し、結果を統合。各評価の一致点と違いを確認し、次に整える条件を決めます。
上記は臨床で進める順序の例です。採点のために本人を長時間放置する必要はありません。観察と支援を区別し、必要な介助は続けながら、いつ・どんな促しを加えたかを残します。
05|CAS3の採点|評価可能項目数を忘れない
CAS3は16の生活行動を扱い、各項目を0〜4点で評価します。得点が高いほど自発性低下が強い方向です。全16項目を評価できた場合の素点合計は0〜64点です。[3]
| 得点 | 判断の骨格(要約) |
|---|---|
| 0 | おおむね自分から行動する。 |
| 1 | 時に促しが必要で、促せば行動する。 |
| 2 | 通常は促しを要するが、促せば行動する。 |
| 3 | 促しても行動につながらない時がある。 |
| 4 | 促しても行動につながらないことが多い。 |
上表は判断の骨格を要約したものです。正式な段階の定義は原版で確認してください。病前から習慣がない、観察機会がないなどで評価できない項目を、0点や4点で埋めません。研究中の「評価できない」を表すコードも、重症度の5点として足しません。[3]
評価可能項目の合計点 ÷(評価可能項目数 × 4)× 100
例えば12項目を評価でき、合計18点なら、18÷(12×4)×100=37.5%です。これは「意欲が37.5%残っている」という意味ではありません。評価できた項目数も必ず併記します。評価可能項目が0なら算出できません。[3]
再評価で対象項目が変わると、同じ%でも内容が異なります。「37.5%から25%に下がった」だけでなく、同じ活動で促しが減ったのかを確認します。この計算式をCASの他の尺度にそのまま流用しません。
06|自由時間の観察|活動機会の不足と区別する

自由時間では、活動の内容だけでなく、どこで、どのように取り組み、周囲とどう関わるかを見ます。訓練中に指示どおり動けることと、空いた時間に自分で活動を選べることは別です。[2]
ただし、雑誌が届かない、眼鏡がない、片手では開けない、失語症で読めない、疲れて休んでいる、といった状況では、活動していない理由が変わります。何もしていない時間をすべて意欲低下とせず、本人にとって活動が可能だったかを確認します。
観察記録は「消極的」よりも、「机上に雑誌あり。自発的に手を伸ばさず。声かけ1回後に開き、5分間読んだ」のように書きます。秒数や継続時間は支援計画に役立つ補助情報で、独自のCAS採点基準にはしません。
07|カットオフと予後|点数から言えることを整理
開発報告では、各評価の標準化とカットオフ設定が行われ、詳細はマニュアルで確認する構成になっています。公開資料で確認できない数値を補ったり、別のアパシー尺度のカットオフをCASに当てはめたりしません。[2]
| 結果 | 次の判断 |
|---|---|
| CASの評価値が高い | 自発性低下の程度を、正式な基準と具体的な生活行動で確認。 |
| 本人の質問紙と生活観察が不一致 | 自己認識、質問理解、観察機会、病前の習慣を確認。 |
| 経過で低下した | 同じ項目・条件で、必要な促しや生活上の負担も減ったか確認。 |
| 家族とスタッフで評価が違う | どちらかを誤りとせず、時間帯・環境・促し方を照合。 |
2014年の前頭葉損傷患者の研究では、家族と看護師各39名の評価で、合計は似ていても一部の生活行動の評価に違いがありました。観察機会の違いが示唆されており、総得点だけで情報源を一つに絞らないことが大切です。[3]
脳卒中後のアパシーは機能回復などの転帰と関連しますが、その知見は「CASが何点なら退院できない」といった個人の予測式ではありません。本記事で確認した資料から、全例に共通するCASの最小重要差(MCID)は提示できません。点数の変化と、実際の自発行動の変化を併記します。[4]
08|他の評価との違い|アパシー・抑うつ・疲労を分ける
| 評価・状態 | 主な焦点 | CASと合わせる意味 |
|---|---|---|
| CAT-R | 注意の範囲・持続・制御など | 指示や対象に注意が向かない可能性を確認。 |
| BADS/DEX | 遂行機能と生活上の問題 | 始めた後に手順や計画で止まるかを見る。 |
| アパシー尺度(AESなど) | 目標に向かう活動の低下 | 構成・配点が異なり、CASとの換算はしない。 |
| 抑うつの評価・診察 | 気分の落ち込み、悲観、苦痛など | 活動低下の背景を確認。アパシーとの併存もある。 |
| 疲労・疼痛・睡眠・身体機能 | 行動を妨げる身体的条件 | 始めたいが実行できない状況を見落とさない。 |
アパシーでは活動の開始や関心の低下が目立ち、抑うつでは落ち込みや悲観などが手がかりになります。ただし重なることもあり、表情だけで区別できません。急に反応が乏しくなった場合も、CASの実施だけで済ませず、意識状態や体調の変化を確認します。[4]
09|介入研究|行動を起こしやすい条件をつくる
Skidmoreらの研究では、認知機能の低下を伴う急性期脳卒中患者30人を対象に、本人が選んだ目標についてGoal–Plan–Do–Check(目標・計画・実行・確認)を用いる方略訓練を検討しました。通常のリハビリに加える介入で、3か月時点のアパシー変化に群間差が示されましたが、6か月時点では統計学的に有意ではありませんでした。[5]
この研究は小規模試験の二次解析で、評価尺度はAESです。CASでの効果や、すでに強いアパシーがある全患者への有効性を直接示すものではありません。それでも、本人の目標を選び、小さな行動に分け、結果を一緒に確かめる支援を考える材料になります。[5]
2025年の系統的レビューでも、薬物・行動的介入・神経刺激などに可能性が報告されていますが、研究方法や使用尺度は多様で、確立した一律の治療手順には至っていません。予防を扱う研究と、すでにあるアパシーの治療研究も区別します。例えばエスシタロプラム/問題解決療法の研究は、初回にアパシーのなかった患者での発症予防を検討しています。[6][7]
10|臨床ストーリー|「声をかければする」から次の一手へ

説明用の架空事例:Aさんは園芸が好きだった
訓練には参加するAさんですが、病室では一人で過ごすと活動が始まりません。本人は「別に困っていない」と話します。家族によると、病前は朝に鉢植えを見る習慣がありました。
視力・読字・上肢操作・疲労を確認したうえで、届く位置に園芸雑誌を置きます。促しなしでは開きませんでしたが、「今日の花を一つ選びましょう」と声をかけると開き、数分間読みました。これは活動能力と、開始に必要な手がかりを分ける情報になります。
支援は「朝食後に雑誌を開き、好きな花を一つ選ぶ」という小さな予定から始めました。声かけの内容と回数をそろえて記録し、慣れたら必要な促しを少しずつ減らします。記録するのは、活動時間だけでなく、自分から始めた回数です。
この例は支援の考え方を示すもので、CASの正式課題ではありません。促せばできる場合は開始の手がかりを整え、促しても難しい場合は理解・手順・体調などを再確認します。「やる気を出して」と繰り返すより、何があれば一手目が出るかを具体化します。
11|記録PDFと正式用紙
PDFは2ページです。各評価の結果を転記する欄、CAS3の計算欄、評価不能の理由、促し前後の行動記録、目標と支援計画をまとめています。正式な質問紙全文や規準表を再編集したものではありません。
実施・採点は原版をご確認ください。本PDFは結果と臨床所見を整理する補助記録です。
参考文献・公式資料
- 日本高次脳機能学会.改訂版 標準注意検査法・標準意欲評価法(CAT-R・CAS):公式案内.
- 加藤元一郎,注意・意欲評価法作製小委員会.標準注意検査法(CAT)と標準意欲評価法(CAS)の開発とその経過.高次脳機能研究.2006;26:310–319.
- 小浜さつき,日高艶子,松尾ミヨ子.前頭葉損傷患者に標準意欲評価法を用いた自発性低下の評価―日常生活行動の意欲評価スケールにおける家族と看護師の評価の特徴―.日本看護科学会誌.2014;34:66–73.
- Tay J, Morris RG, Markus HS. Apathy after stroke: Diagnosis, mechanisms, consequences, and treatment. Int J Stroke. 2021;16:510–518.
- Skidmore ER, et al. Strategy Training During Inpatient Rehabilitation May Prevent Apathy Symptoms After Acute Stroke. PM R. 2015.
- Ruiz-Franco ML, et al. Treatment of apathy in stroke patients: a systematic review. Front Neurol. 2025;16:1702325.
- Mikami K, et al. Prevention of poststroke apathy using escitalopram or problem-solving therapy. Am J Geriatr Psychiatry. 2013.
文献確認:2026年11月1日。事例・イラストは説明用です。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)