残尿測定(PVR)とは?測定手順・基準値の考え方とリハビリでの活用
「出た量」と「残った量」。
ふたつを測って、排尿を支える。
残尿測定|Post-void residual(PVR)
測定のタイミング、数値の読み方、生活への支援まで。

01|残尿測定とは|出した後に、どれだけ残るか
残尿量(post-void residual:PVR)は、排尿が終わった後に膀胱内に残っている尿の量です。点数をつける尺度ではなく、mLで記録する測定値です。超音波で膀胱の容量を推定する方法と、導尿して尿量を測る方法があります。通常の評価では、身体への負担が少ない超音波が優先されます。[1][2]
「少しずつ何度もトイレへ行く」「尿が漏れる」という訴えでも、尿をためにくいのか、出し切れずに残っているのかで対応は変わります。残尿測定は、その違いを考えるための入口です。残尿が増える背景には、尿の出口の通りにくさと、膀胱が尿を押し出す力の低下などがあります。PVRだけでは両者を区別できないため、尿流測定や必要に応じた尿流動態検査につなげます。
残尿感は本人の感覚であり、残尿量とは別です。残った感じがあっても少量の場合があり、感覚が低下している人では、多く残っていても訴えが乏しい場合があります。
02|どんな時に測るか|リハビリ場面での使いどころ
排尿の勢いが弱い、出始めるまで長い、途切れる、残尿感が続く場合に加え、脳卒中や脊髄疾患などで排尿状態を把握する際に役立ちます。尿失禁がある人でも、残尿が背景にないかを確認します。薬の開始・変更後やカテーテル抜去後などは、医療チームが定めた観察計画に沿って測定します。[4][10]
PT・OTは、トイレまでの移動、更衣、座位保持、尿意を伝える方法も一緒に観察します。測定は、機器の操作を習得した医療者が施設の手順に沿って行い、結果を医師・看護師・リハビリ職で共有します。
03|実施手順|排尿前の準備から記録まで
以下は携帯型膀胱スキャナーを用いる基本の流れです。具体的な設定・プローブの向き・採用する値は、使用機種の説明書で確認します。
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① 準備と説明
機器の動作、ジェル、記録表、必要なら採尿容器を準備します。「排尿後、お腹の下から超音波で残った尿を調べます」と説明し、同意とプライバシーを確保します。強い症状の有無も先に確認します。
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② 普段に近い条件で排尿
可能な範囲で、普段の姿勢・場所で排尿します。排尿終了時刻と排尿量を記録し、「いつもと同じように出せましたか」と確認します。量を測れなかった場合は、推測せず「未測定」とします。
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③ 排尿後、速やかに測定
仰向けになり、お腹の力を抜きます。下腹部だけを必要最小限露出し、恥骨のすぐ上の正中付近にジェルを置き、膀胱へ向けてプローブを当てます。位置はへその上ではありません。
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④ 膀胱を捉えているか確認
画像や位置ガイド、警告表示を確認します。位置ずれや部分的な描出があれば、向き・接触を調整して再測定します。値だけを見て終了せず、機種の手順に従って有効な測定を選びます。
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⑤ 条件と結果を一緒に記録
測定時刻、排尿後の経過時間、残尿量、姿勢、排尿量、症状を残します。再スキャンした場合は各値と採用理由も記録し、ジェルの除去・機器の清拭を行います。

BladderScan i10の説明書では、恥骨の約3cm上の正中にジェルを置きます。同機種には患者の年齢・性別を指定せず測定する仕様がありますが、別機種の設定まで同じとは限りません。使用機器の画面と説明書に合わせます。[3]
04|測定で間違いやすい4つの点
| 場面 | 何を確認するか |
|---|---|
| 排尿から時間が空いた | 新たに作られた尿が膀胱へ入るため、排尿直後の残尿と同じ条件ではありません。経過時間を残し、比較可能な条件で再評価します。 |
| 排尿できなかった | 測っているのは、その時点の膀胱内尿量です。「自然排尿後のPVR」と区別して記録します。 |
| 値が症状と合わない | プローブの位置、画像の全体描出、ジェル、装置の警告を確認。必要なら画像を見られる超音波や導尿による確認を医療チームが検討します。 |
| 再測定で値がばらつく | 同じ排尿後の再スキャンと、別の排尿機会での再評価を区別します。独自に最大値・平均値を選ばず、機種・施設の採用ルールを使います。 |
腹水、妊娠、測定部位の創傷、骨盤内の構造などは、機器の適応や測定値に影響します。例えばBladderScan i10では腹水・妊娠・恥骨上部の創傷などは使用対象外です。他の超音波装置も含め、機種ごとの条件を確認します。[3]
0mL表示も、画像が適切に得られて初めて解釈できます。症状と合わない値を、そのまま「問題なし」と扱わないことが重要です。
05|残尿量の目安|数字の意味を混同しない
PVRには、すべての年齢・疾患・男女に共通する治療開始のカットオフはありません。次の数値は、出典と対象を付けて使う目安です。[2][4][5]
| 数値・状態 | 何を意味するか | 次に行うこと |
|---|---|---|
| 100mL前後以上が繰り返される | 脳卒中の研究で、尿路感染との関連を検討した水準。単回100mLを導尿開始基準にしない。 | 測定条件を確認し、排尿量・症状・感染兆候と合わせて医療チームへ共有。 |
| 200〜300mLを超える大きな残尿 | ICSでは、明らかな下部尿路機能障害を示唆しうると整理。 | 出しにくさや持続性、腎機能・尿路の状態を含め、速やかに医師が評価。 |
| 300mL超が6か月以上、2回以上確認 | AUAによる「非神経因性の慢性尿閉」の合意定義。 | 急性尿閉や脳卒中・脊髄疾患に、そのまま当てはめない。 |
| 排尿できず、下腹部が強く痛い・張る | 急性尿閉などの緊急性がある状態。 | 数字が基準を超えるのを待たず、速やかに医療機関で評価。 |
「300mL未満なら放置してよい」「6か月待つ」という意味ではありません。また、残尿が少なくても尿意切迫、頻尿、尿失禁は起こります。数値が小さいことと、排尿機能全体が良好であることは同じではありません。
06|排尿量も測る理由|同じ100mLでも状況が違う
EAUの女性下部尿路症状ガイドラインでは、残尿量と合わせて排尿効率(bladder voiding efficiency:BVE)を示すことを提案しています。これは、排尿した量が「排尿量+残尿量」に占める割合です。[4]
| 例 | 排尿量 | 残尿量 | 排尿効率 |
|---|---|---|---|
| A | 300mL | 100mL | 75% |
| B | 50mL | 100mL | 約33% |
どちらも残尿は100mLですが、出せた割合は異なります。BVEは残尿量を補う情報として使い、今回の記事では正常・異常の一律の境界は設けません。排尿量を測れていない場合や、失禁・採尿漏れで量が不明な場合は算出しません。

07|脳卒中と最新研究|何が予測できるか
Kimらは、入院時に尿路感染のなかった脳卒中者188人を対象に、入院72時間以内の3回のPVRと、その後の尿路感染を調べました。平均PVRが100mLを超える群では、100mL未満の群より尿路感染の発生が4.87倍高いと報告されています。[7]
これは観察研究の関連であり、「一度100mLを超えたら感染する」「残尿を減らせば必ず4.87分の1になる」という意味ではありません。別の脳卒中リハビリ研究では、150mLを超える値が2回以上あることと感染リスクの関連が示され、導尿開始の最適値は未確定とされています。[8]
Christiaansらのレビューでは14研究を採用し、慢性尿閉の定義に使うPVRは150〜1000mLと幅がありました。300mLが最も多かったものの、対象は主に前立腺肥大症の患者でした。脳卒中後の患者に、そのまま共通基準として移すことはできません。[9]
臨床では、「残尿が続く人は、感染・排尿困難・腎尿路の問題を見逃さず追う」という使い方が適しています。単独のPVRから、歩行やADLの回復時期を予測することはできません。
08|リハビリの具体例|姿勢・環境と医療的対応をつなぐ
「トイレには行けるのに、すぐまた行きたくなる」
脳卒中後のAさん。排尿量80mL、排尿後すぐの残尿が180mL。別の排尿機会でも170mLが確認され、排尿の勢いも弱い状態でした。まず医師・看護師へ共有し、薬、便秘、感染、排尿機能の評価を進めます。
リハビリでは、便座に座ると足が浮く、ズボンを下ろすのに時間がかかる、介助者が近くにいると急いで切り上げる、という状況を観察しました。そこで足部の支持、手すり位置、更衣手順、プライバシーを整え、本人が落ち着いて排尿できる条件を作ります。
その後は「残尿が減ったか」だけでなく、尿が出るまでの時間、1回の排尿量、トイレの回数、困り感を同じ条件で記録します。姿勢調整だけで残尿の原因が解消したとは判断せず、医療的評価と生活支援を並行します。

残尿を減らそうとして下腹部を押したり、強くいきませたりする方法は、一律には勧められません。特に神経因性の排尿障害では、膀胱内圧を高める可能性があるため、専門的な評価が必要です。骨盤底筋訓練も、症状の種類と収縮・弛緩の状態に合わせて選びます。[10]
09|医療チームへ急いで伝える所見
発症時刻、最後の排尿、痛み・発熱、測定できた膀胱内尿量をまとめ、速やかに医師へ連絡します。高位脊髄損傷で急な頭痛・発汗・血圧上昇が出た場合は、自律神経過反射も考え、緊急に対応します。[10]
神経疾患では、残尿量だけで膀胱内圧や腎臓への負担は分かりません。必要に応じて尿検査、腎機能、腎・膀胱の画像、尿流動態検査を組み合わせます。尿量が少ない場合も、尿が作られていないのか、膀胱から出せないのかを分けて考えます。
10|記録PDFと原資料
今回のPDFは、測定手順の要点+残尿記録+排尿効率+臨床対応を2ページにまとめたものです。PVRは単一の原著採点表を持つ尺度ではないため、国際標準化資料と国内ガイドラインを参照し、必要な測定項目を記入できる用紙として作成しました。
原資料を参照して手順・記録欄を整理しています。使用機器の説明書と施設の測定手順をご確認ください。
参考文献・公式資料
- 日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会編.夜間頻尿診療ガイドライン[第2版].2020.残尿測定の項.
- Asimakopoulos AD, et al. Measurement of post-void residual urine. Neurourol Urodyn. 2016;35(1):55–57.
- Verathon. BladderScan i10 Operations & Maintenance Manual. REV-07, 2024.
- EAU Guidelines on Non-neurogenic Female LUTS:Diagnosis, Post-void residual volume.
- EAU Guidelines on the Management of Non-neurogenic Male LUTS:Diagnostic Evaluation.
- Stoffel JT, et al. AUA White Paper on Nonneurogenic Chronic Urinary Retention: Consensus Definition, Treatment Algorithm, and Outcome End Points. J Urol. 2017;198(1):153–160.
- Kim BR, et al. The Relation between Postvoid Residual and Occurrence of Urinary Tract Infection after Stroke in Rehabilitation Unit. Ann Rehabil Med. 2012;36(2):248–253.
- Dromerick AW, Edwards DF. Relation of postvoid residual to urinary tract infection during stroke rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil. 2003;84(9):1369–1372.
- Christiaans CHH, et al. Postvoid Residual Thresholds Used to Define Chronic Urinary Retention: A Systematic Review. Eur Urol Open Sci. 2026;90:84–91.
- EAU Guidelines on Neuro-urology:The Guideline.
- 東京女子医科大学病院 泌尿器科.排尿障害の検査:残尿測定.
文献確認:2026年10月31日。日本語ガイドライン、ICS・EAUの資料、PubMed掲載原著・2026年レビューを照合。事例とイラストは説明用です。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)