もやもや病の手術後|バイパス術後のリハビリと日常の注意点
バイパス術後の生活を、脳血流と運動の安全性から整える
「手術は終わった。でも、どこまで動いていいのか分からない」——もやもや病のバイパス術後は、安心と不安が同時に来ます。大切なのは、手術の結果を急いで生活に戻すことではなく、主治医の管理を土台に、呼吸・疲労・姿勢・学校活動を段階的に整えることです。この記事では、術後に見たいサイン、生活の戻し方、専門リハでできることを保護者向けに整理します。

手術後こそ、不安が増えることがあります。
もやもや病の手術後、保護者の方からよく聞かれるのは「退院したら、もう普通に戻してよいのでしょうか」「体育や音楽はいつから大丈夫ですか」という不安です。手術が終わったことは大きな区切りですが、術後の脳血流、体力、創部、学校生活への適応は、すぐに一気に戻るわけではありません。
ここで大切なのは、禁止を増やすことではなく、戻し方を細かくすることです。症状が出やすい場面、疲れが出る時間帯、姿勢や手足の左右差が崩れる条件を見ながら、家庭・学校・医療・リハビリで同じ地図を持つことが安心につながります。
手術をするか、どの術式か、薬をどうするか、画像で何を確認するかは主治医の判断です。この記事では、退院後に保護者が見やすい生活場面と、リハビリで確認したい動きの観察点に絞って解説します。
バイパス術後の脳で、何が起こるのか。
もやもや病の血行再建術は、脳に届きにくくなった血流を補うための手術です。直接バイパスでは頭皮の血管と脳の血管をつなぎ、間接バイパスでは血流の豊富な組織を脳表に置いて、新しい血管が育つのを待ちます。どちらも目的は、脳梗塞や脳出血のリスクを下げ、しびれや脱力などの虚血発作を減らすことです。
一方で、術後急性期は血流が変化する時期です。血流が足りない状態が続くこともあれば、局所的に血流が増えすぎる過灌流が問題になることもあります。そのため、術後すぐは「動けるか」だけで判断せず、MRI/MRAや脳血流検査、神経症状の変化を医療機関で慎重に確認します。

| 術後に見られること | 保護者向けの理解 |
|---|---|
| 血流が補われる | 脳への血の届き方が変わります。症状が減る方向に働くことが期待されますが、経過確認が必要です。 |
| 一時的な神経症状 | 手足の力、しびれ、言葉、頭痛などが一時的に変化することがあります。戻ったかだけでなく、いつ・何で・どのくらい続いたかを記録します。 |
| 過灌流 | 血流が局所的に増えすぎる状態です。頭痛、けいれん、神経症状などが関係することがあり、医療機関での管理が前提です。 |
| 体力低下 | 退院後すぐに学校生活へ全戻しすると、午後に姿勢や注意、手足の使い方が崩れることがあります。 |
小児もやもや病の術後には、一時的な神経症状が起こることが報告されています。保護者向けには「すぐ戻ったから大丈夫」ではなく、「症状のきっかけと経過を記録し、医療者へ共有する」と理解すると安全です。
限界注記:術式、年齢、病期、術前の脳梗塞の有無、画像所見により経過は大きく異なります。この記事は診断・治療・手術判断の代替ではありません。出典:Hayashi T, et al. J Neurosurg Pediatr. 2010;6(1):73-81. Chiba K, et al. J Neurosurg Pediatr. 2023;31(1):78-86.
術後に見逃したくないサイン。
術後の生活では、保護者が医療者の代わりに診断する必要はありません。大切なのは、いつもと違う変化を早めに拾い、主治医へ伝えられる形で整理することです。特に、急な片麻痺、顔のゆがみ、言葉の出にくさ、けいれん、意識や呼吸の異常、強い頭痛や繰り返す嘔吐は、様子見ではなく医療優先です。
| 場面 | 対応の目安 |
|---|---|
| 急な片側の脱力、顔のゆがみ、ろれつの変化 | すぐ医療機関へ。短時間で戻っても、自己判断で済ませないことが安全です。 |
| 強い頭痛、吐き気、繰り返す嘔吐、意識がぼんやりする | 受診優先。術後の血流変化、出血、感染、脱水などの確認が必要になる場合があります。 |
| 泣いた後、吹いた後、走った後に手足の力が抜ける | 過換気との関連を記録。頻度がある場合は主治医へ共有し、学校活動の調整を検討します。 |
| 午後になると姿勢が崩れる、片手を使わなくなる、歩き方が不安定になる | 疲労による運動の質の変化として記録。リハビリで活動量や休憩の入れ方を整理します。 |
退院後の日常生活は、3つの負荷で考える。
退院後の生活を考えるとき、細かい禁止事項を増やしすぎると、親子ともに疲れてしまいます。まずは、症状が出やすい負荷を3つに整理します。ひとつ目は過換気、ふたつ目は疲労、みっつ目は頭部への衝撃です。
泣く、リコーダー、鍵盤ハーモニカ、熱い物を冷ます、息が上がる運動など。症状との関連を見ます。
午前は元気でも午後に崩れる、週後半に不安定になるなど。戻し方を時間と量で調整します。
頭をぶつけやすい遊び、接触の多いスポーツ、転倒しやすい場面は、創部や術式を踏まえて主治医と相談します。

例:「リコーダーを5分吹いた後、右手に力が入りにくいと言った。3分で戻った。頭痛なし」「体育の後半から左足を引きずった。帰宅後は眠気が強かった」。このように、きっかけ、時間、左右差、戻り方、頭痛や吐き気の有無を残すと、医療者にも学校にも共有しやすくなります。
専門リハで取り組めること。
もやもや病の術後リハでは、筋力だけを見るのではなく、息が上がった後、疲れた後、学校活動の後に、姿勢や手足の使い方がどう変わるかを見ます。子どもは発達の途中にあるため、成長とともに困りごとの見え方が変わることもあります。
1. 呼吸と姿勢を安定させる土台づくり
過換気や疲労で体幹が崩れないか、頭部や肩甲帯の支え方、座位・立位の安定性を確認します。
2. 片麻痺・脱力後の動作を生活課題へ戻す練習
手を使う、階段を上る、荷物を持つ、遊ぶ、書く、食べるなど、実生活の「したい」に合わせて動きを組み立てます。
3. 家庭・学校への段階的復帰プログラム
登校時間、体育、音楽、外遊び、休憩、保健室利用、先生への共有内容を、無理なく続けられる形にします。
効果や経過には個人差があり、発達、体調、術式、画像所見、学校環境によって変わります。医学的判断は主治医と共有しながら進めます。
小児もやもや病では、血行再建術により虚血発作の減少や血流改善が期待される一方、術後早期の一時的な神経症状や、長期的な認知・学校生活の課題にも注意が必要です。術後リハでは、運動だけでなく、疲労、学習、学校参加を含めて見続ける視点が大切です。
限界注記:研究は術式、施設、年齢、病型が異なり、個々のお子さんの経過を予測するものではありません。治療の代替ではなく、主治医の方針と組み合わせて読む情報です。出典:Hayashi T, et al. J Neurosurg Pediatr. 2010;6(1):73-81. Chiba K, et al. J Neurosurg Pediatr. 2023;31(1):78-86. Weinberg DG, et al. Neurosurg Focus. 2011;30(6):E21.

学校・体育・音楽は、段階を分けて戻す。
学校復帰では、「行けるか、行けないか」の二択にしないことが大切です。短時間登校、保健室での休憩、体育の部分参加、音楽の吹く量の調整など、参加条件を細かく設計すると、過度な制限と無理な全戻しのどちらも避けやすくなります。
| 段階 | 戻し方の例 |
|---|---|
| 1. 自宅生活に慣れる | 起床、食事、入浴、短い散歩など。午後の疲れ、頭痛、姿勢の崩れを見ます。 |
| 2. 短時間登校 | 午前だけ、1〜2時間だけなど。移動、階段、荷物、授業中の姿勢を確認します。 |
| 3. 通常授業へ近づける | 授業数を増やします。疲労時の手足の使い方、集中、頭痛を学校と共有します。 |
| 4. 体育・音楽の部分参加 | 吹く量、走る距離、休憩、暑さ、水分補給、頭部衝撃の有無を調整します。 |
| 5. 運動量を上げる | 主治医の許可を前提に、接触や転倒リスク、息が上がり続ける活動を個別に検討します。 |
もやもや病全体の症状・原因・リハビリについては、子どものもやもや病|手足の脱力発作とリハビリで大切なことも参考になります。
よくある質問。
術後の「生活に戻る」を、一緒に設計します。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。もやもや病の術後は、医療機関での経過観察を土台に、家庭・学校・遊びの中でどの活動をどう戻すかを整理することが大切です。私たちは、診断や手術判断ではなく、生活と動きの側から併走します。
安全な参加条件へ。

術後の生活は、「もう大丈夫」と「まだ怖い」の間で揺れやすい時期です。私たちは、お子さんの姿勢、手足の使い方、疲労、学校活動を観察し、家庭で続けられる練習と学校への共有内容を整理します。
医療機関での治療とあわせて、生活の戻し方を相談したい方は、どうぞ一度ご相談ください。お子さんの安全と参加を両立できる形を、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳血管障害の後に起こる動きの問題を、脳の機能解剖と生活動作から考えるための専門書です。本記事も、この考え方を保護者向けに翻訳して構成しています。
- 子どものもやもや病|手足の脱力発作とリハビリで大切なこと
- 子どもの手足の力が急に抜ける|見逃せない脱力発作ともやもや病のサイン
- もやもや病の子の学校生活|運動・音楽の授業での配慮
- 子どもの脳梗塞・脳出血|小児の脳卒中とその後のリハビリを専門家が解説
本記事は、公的情報・専門学会情報・査読論文と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、必ず主治医・小児科医・脳神経外科医にご相談ください(最終確認日:2026年7月9日)。
- 国立循環器病研究センター. もやもや病. 2026年5月28日更新.
- 日本小児神経外科学会. 小児もやもや病.
- 小児慢性特定疾病情報センター. もやもや病 概要. 2014年10月1日更新.
- 難病情報センター. もやもや病(指定難病22). 情報更新日:令和6年10月.
- 筑波大学附属病院脳神経外科. 小児脳神経外科(もやもや病).
- Hayashi T, Shirane R, Fujimura M, Tominaga T. Postoperative neurological deterioration in pediatric moyamoya disease: watershed shift and hyperperfusion. J Neurosurg Pediatr. 2010;6(1):73-81.
- Chiba K, et al. Transient neurological events in childhood moyamoya disease. J Neurosurg Pediatr. 2023;31(1):78-86.
- Weinberg DG, Rahme RJ, Aoun SG, Batjer HH, Bendok BR. Moyamoya disease: functional and neurocognitive outcomes in the pediatric and adult populations. Neurosurg Focus. 2011;30(6):E21.
- 金子唯史. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 医学書院. 2024. 408頁.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)