vol.153:主観的垂直性と脳機能局在 脳卒中/脳梗塞リハビリ論文サマリー
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カテゴリー
脳科学系
タイトル
右半球損傷者の主観的垂直性の解剖、心理物理学的比較
An anatomical and psychophysical comparison of subjective verticals in patients with right brain damage.?pubmed Rousseaux M Cortex. 2015 Aug;69:60-7. doi: 10.1016/j.cortex.2015.04.004.
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・臨床にて直立姿勢を取れない患者によく遭遇する。今回、脳のどの部位が身体の垂直性を司っているかを検討した論文を見つけ、読んでみたいと思った。
内 容
背景・目的
・重力を基準とした主観的な垂直性(subjective verticality:SV)は直立立位にとって重要であり、視覚と体性感覚の統合によって成される。
・垂直性の評価はSVV(視覚優位:光る棒を視覚のみの情報から口頭で垂直に置く)、SHV(体性感覚優位:目隠しで棒を垂直にする)、(SVHV:視覚体性感覚を使い、棒を垂直位にする)の3種類ある。
・先行研究にて脳のどの部位がSVを担っているのかを検討されてきたが、まだ結論には至っていない。また、SVV、SHV、SVHVの3つで比較した論文も少ない。したがって、本研究は右半球損傷の被験者に対し、上記3つの条件での脳活動を比較検討する。
方法
・発症5カ月以上経過した右半球損傷者46名
・内25名が空間無視、36名が運動障害、24名に体性感覚障害がみられた。
・暗室、ティルトテーブル上に被験者を立たせ、光る回転可能な棒を回してもらう。棒の回転角度は1°刻みで計測可能。SVV、SHV、SVHVの3条件の方法は目的で述べたのと同様の方法で行った。
・voxel-based lesion symptom mapping (VLSM)を使用し、脳の活動部位を計測した。
結果
図:VLSMによる各SV時の脳活動
Rousseaux (2015)より引用
表:SVV、SHV、SVHVでの各脳部位の活動の有無
Rousseaux (2015)より引用
・左へのSVVの傾きでは、MTG(中側頭回)、TOJ(側頭後頭溝)、LOC(後頭葉外側)STG(上側頭回)、IPG(下頭頂小葉)、SCWM(皮質下白質。SLF:上縦束、IPG:下縦束、FOF:下前頭後頭束が活動していた。
・SHVでは、STS(上側頭溝)、STG(上側頭回)、SCWM(皮質下白質)が活動していた。
・SVHVでは、STG(上側頭回)、STS(上側頭溝)、MTG(中側頭回)、SCWM(皮質下白質)、TPJ(側頭頭頂溝)が活動していた。
・棒の角度の誤差が最も大きかったのはSHV(-5.0°)で、SVV(-4.5°)とSVHV(-3.4°)に対して有意差がみられた。
・SVHVとSVVの誤差角度は、空間無視や半盲の程度と有意な正の相関が見られた。
・SVV、SHV、SVHVすべて、発症からの時期、運動障害、感覚障害とは相関が見られなかったが、損傷部位の大きさとは相関が認められた。
私見・明日への臨床アイデア
・体性感覚有意の主観的垂直性は誤差が大きかった。健常成人でもSHV(-9.8°)、SVV(-2.6°)、SVHV(-2.8°)で同様の結果であり(Rousseaux, 2015)、主観的垂直性は視覚に依存したものであることがわかる。半盲などの視野の問題は主観的垂直性に直接的に影響することが予想され、例えば姿勢が崩れている場合、視覚からの立ち直りは難しいため、平衡覚や体性感覚での代償ができるかが重要になると思われる。
職種 理学療法士
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)