vol.139:脳虚血・脳浮腫に対する運動の予防効果 脳卒中/脳梗塞リハビリ論文サマリー
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カテゴリー
脳科学
タイトル
脳虚血、再灌流後の脳浮腫と神経徴候に対する運動の予防効果
Neuroprotective Effects of Exercise on Brain Edema and Neurological Movement Disorders Following the Cerebral Ischemia and Reperfusion in Rats ?PubMed Nabi Shamsaei, Basic Clin Neurosci. 2017 Jan; 8(1): 77–84.
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・介護予防のために運動を勧めることは多い。今回、動物実験ではあるが、運動が脳梗塞発症後の後遺症を軽減する可能性を示唆した論文をみつけ、読んでみたいと思った。
内 容
背景・目的
・脳虚血による組織障害より、再灌流時に生じる再酸素化の方が脳への障害が大きい。さらに、脳虚血後に生じる脳浮腫も同様に脳へのダメージが大きいとされている。
・これらの脳への障害予防として運動の有効性が示唆されているが、この問題に着目している論文は少ない。したがって、本論文では雄ラットを使用し、運動が脳虚血後の脳浮腫と神経徴候の予防効果を示すか検討する。
方法
・成熟した雄ラット(体重260-300g)を以下の3グループに分配
・プラセボ群、運動+脳虚血処理群、脳虚血処理群
・脳虚血の処理として、中大脳動脈を閉塞させた。
・運動群はトレッドミルでのランニング週5日4週間の運動を虚血処理前に行った。
・プラセボ群は開頭のみ実施し、血管の閉塞処理は行わない。
・神経徴候は、脳虚血処理後24時間に5段階評価を用いて記録した。
・0:正常
・1:体幹の対側への屈曲、もしくは前肢の脱力
・2:安静時に反対側への体幹屈曲も姿勢保持は可能
・3:立ち直り反射の消失
・4:自発的な運動の消失
・脳浮腫の計測として、虚血操作の24時間後に左右の脳を取り出し湿重量と乾燥重量を計測し、脳内水分量を計算した。
結果
・処理後の死亡率はプラセボ群0%、運動+脳虚血処理群30%、脳虚血処理群22%だった。
・脳虚血処理をした群の脳浮腫(脳内水分量)は、プラセボ群に比して有意に大きかった(虚血:83.28%、プラセボ:78.42%)。
・脳虚血処理+運動群は脳内水分量が80.57%であり、運動による脳浮腫の軽減が示唆された。
・プラセボ群は神経徴候の発症なかった。
・脳虚血処理群の神経徴候は2.14±0.26、運動+虚血処理群は1.43±0.2であり有意差が認められた。
図:実験結果(左:脳内水分量、右:神経徴候。Ischemia:脳虚血処理群)
Nabi (2017) より引用
私見・明日への臨床アイデア
・運動をしているラットは脳虚血発症後の浮腫が少なく、神経徴候も非運動群よりも少ない結果となった。この現象の明確な理由はまだ存在しないと述べられているが、現在のエビデンスとして運動によってラット血管の基底膜が厚くなる現象が確認されており、今回の結果につながったかもしれないと説明されている。
・患者様、利用者様ともに運動の重要性を理解してはいるが、行動に移せないことを多々見かける。運動する理由が明確になることで運動を習慣化できることもあるため、本論文はそうしたきっかけのひとつになればと考える。
職種 理学療法士
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)