Apathy Evaluation Scale(AES)とは?日本語版AES-I-Jの採点【PDF評価付き】
「できるのに、始まらない」
その背景を、生活から見る。
Apathy Evaluation Scale(AES)
本人・家族・臨床家の視点から、意欲と行動をつなぐ。

01|AESとは|意欲を、本人と生活の両方から見る
Apathy Evaluation Scale(AES)は、目標に向かう活動や関心の低下を評価する尺度です。Marinらが開発し、本人回答・情報提供者による回答・臨床家による評価の3つの形式があります。原著では脳卒中、アルツハイマー病、大うつ病、健常高齢者を含む123人を対象に信頼性・妥当性が検討されました。[1]
単に動作が少ないかではなく、関心や行動の始まり方を捉えることが大切です。麻痺で手を伸ばせない人と、手は動くものの活動を始めない人では、必要な支援が異なります。点数の背景にある生活場面まで確認します。[3][5]
02|AES-S・AES-I・AES-C|誰が答えるかを最初に決める

| 版 | 回答・評価する人 | 活用のポイント |
|---|---|---|
| AES-S | 本人 | 自分で感じている関心や活動の状態を捉える。質問理解や自己認識も確認。 |
| AES-I | 普段の生活を知る情報提供者 | 家族・介護職員などが生活での様子を回答。観察頻度と関係を記録。 |
| AES-C | 臨床家 | 半構造化面接で得た情報や反応を踏まえて評定。正式な面接・評定指示に従う。 |
日本語で検証された介護者評価として、葛西らのAES-I-Jがあります。これを本人に回答してもらって「日本語版AES-S」としたり、臨床家の印象で埋めて「AES-C」としたりはしません。言語だけでなく版の違いを明記します。[1][2]
本人と家族の点数が違っても、まず別々の結果として残します。観察する時間帯、家族の援助、活動できる環境、本人の自覚などを照合します。3つの版の平均点を独自のAES総得点として扱わないことが重要です。
03|準備・実施時間|短い面接でも、生活の情報を用意する
用意するものは、使用する版の正式質問紙・実施指示、筆記具、直近の生活情報です。評価者は質問と採点の方向を事前に確認します。情報提供者版では、日常を十分に知る人に回答してもらいます。
時間は10〜20分程度を一つの目安とする記載があり、NINDSでは15〜30分程度という見積もりです。版や面接の補助で変わるため、初回は説明・具体例の確認も含めて余裕を持たせます。これは制限時間ではなく、AES-I-Jで一律に検証された所要時間でもありません。[4][9]
通常は過去4週間を参照します。入院直後や生活環境が大きく変わった場合は、使用版の指示に従い、どの期間・場面を対象にしたかを記録します。外来当日の反応だけで過去の生活全体を決めないようにします。[4][5]
眠気、痛み、疲労、失語症・聴力、運動能力、病前の習慣、活動機会を確認します。「したくない」のか、「したいが難しい」のか、「する機会がない」のかで、その後の対応が変わります。
04|実施の流れ|新人が迷いやすいところを具体化する
- 版と回答者を記録する。例:「AES-I-J、同居の娘、ほぼ毎日関わる」。再評価でも同じ条件を目指します。
- 対象期間を共有する。最近の一場面だけでなく、指示された期間の普段の様子を振り返ってもらいます。
- 正式な質問文・選択肢で進める。回答を誘導せず、判断しにくい場合は具体的な生活例を確認します。例の確認が独自の質問への置き換えにならないようにします。
- 生活情報と実行できる条件を分ける。関心があっても身体的にできない活動、本人の代わりに家族が先にしている活動などを記録します。
- 配点を確認して合計する。選択肢の番号と、アパシーが強いほど高くなる最終得点を区別します。
- 結果を生活の言葉で共有する。「何点だったか」に加え、「どんな活動を自分から始めにくいか」「何があると始められるか」を説明します。
AES-Cでは、典型的な一日の過ごし方や関心のある活動などを面接で確認します。上の流れは運用の整理であり、AES-Cの面接ガイドそのものではありません。臨床家が18項目を急いで読み上げるだけで済ませず、正式な評定指示を参照します。[5]
05|採点|「逆転項目」という言葉だけで処理しない
最終得点は各1〜4点、合計18〜72点です。高いほどアパシーが強い方向にそろえて集計します。[3]
| 使用している記録の形式 | 確認する処理 |
|---|---|
| AES-I-Jの論文付録の配点 | 該当の弱い回答→強い回答の順に、通常項目は4・3・2・1点。項目6・10・11は1・2・3・4点。 |
| すべての回答を弱い順に1・2・3・4で入力したデータ | 項目6・10・11以外を1↔4、2↔3に変換して、最終得点の方向をそろえる。 |
| 既に配点を反映した最終得点 | 再度反転しない。そのまま18項目を合計する。 |
日本語版の「6・10・11が逆転項目」と、英語のデータ説明の「6・10・11以外を再コード化」は、出発点となる数字の扱いが違います。同じ最終得点にするための説明です。用紙と入力表を見比べ、二重に反転しないようにします。[2][3]
範囲:18〜72点 / 高得点ほどアパシーが強い方向
計算確認用の例として、すべての最終得点が2点なら36点です。これは診断の例ではありません。未回答を0点として足したり、独自に平均で補ったりせず、回答・採点がそろわない場合は合計を保留します。
06|カットオフ|AES-I-Jの46点をどう読むか
AES-I-Jの日本語版研究では、認知症専門外来の解析対象40人において、45/46点を境界としたとき、感度89.5%、特異度81.0%でした。したがって46点以上がアパシーを疑う目安です。比較対象はNPI-NHのアパシー項目による有無の判定です。[2]
内的整合性はα=0.97、再検査信頼性はICC=0.88でした。再検査は入所者19人に対し、約4週間後に同じ介護職員が回答しています。これは異なる家族・職員同士の点数が完全に一致することを示す結果ではありません。[2]
日本語版・介護者評価・研究対象という条件を伴う値です。脳卒中後の全患者、パーキンソン病、AES-SやAES-Cにそのまま共通の基準として当てはめません。46点未満でも生活上の困りごとがあれば、その内容を確認します。
論文の日本語本文・表1の対象数は40人ですが、英文抄録には50人とあります。ここでは本文・表の解析対象数を採用しています。[2]
07|点数から何が分かる?|予後・変化の読み方
| 結果や変化 | 次に確認すること |
|---|---|
| 得点が高い | 活動・関心の低下がどの場面に出ているか。身体・認知・気分・環境による制約も確認。 |
| 同じ版で得点が下がった | 回答者や対象期間が同じか。自発的に始める行動や必要な促しも変わったか。 |
| 本人と家族の評価が違う | 自己認識だけでなく、観察機会や支援の違いも確認。 |
| 急に反応・活動が低下した | 意識状態、体調、薬の影響などを優先して確認。 |
AESの点数だけから、歩行自立、退院時期、介護量を一律に予測することはできません。また、本記事で確認した資料から、全疾患・全版に共通する「何点下がれば臨床的改善」という値は示せません。
例えば同じ回答者によるAES-I-Jが50点から44点になっても、境界を下回っただけで「治った」とは結論しません。活動機会が増えたのか、本人が自分で始めるようになったのか、家族が促す回数が変わったのかを併記します。この数字は説明用の架空例です。
08|CAS・やる気スコアとの違い
| 尺度・確認事項 | AESと区別する点 |
|---|---|
| CAS(標準意欲評価法) | 面接、質問紙、日常生活行動、自由時間の観察、総合評価を組み合わせる。AESとの点数換算はしない。 |
| Apathy Scale(AS)/やる気スコア | AESと関連するが別の尺度。14項目の尺度の配点やカットオフを、18項目のAESに使わない。 |
| 抑うつの評価 | 悲しさ、悲観、不安などを別に確認。活動低下だけではアパシーと抑うつを分けられない。 |
| 身体・認知機能の評価 | 関心はあるが遂行できない場合を確認。麻痺や失語症を意欲低下と読み違えない。 |
日本語版AES-I-Jは介護者の見方を数値化する選択肢です。促しの前後で実際の行動を詳しく追いたい場合は、CASのような生活観察と組み合わせて情報を整理できます。[2][8]
09|生活の観察から支援へ|小さな役割を取り戻す

説明用の架空事例:家事が好きだったAさん
娘は「最近は何もしなくなった」と話します。一方、Aさんは「タオルくらいなら畳める」と言います。質問紙の回答とは別に、生活の場面を詳しく聞きました。
実際には、洗濯物が届かない場所にあり、娘が先に片付けていました。テーブルにタオルを置くと、最初は手を出しませんでしたが、「1枚お願いします」と声をかけると畳めました。
そこでAさんと相談し、「朝食後にタオルを1枚畳む」という役割を決めます。娘は届く位置に置き、必要なときだけ短く声をかけます。開始した回数と促しの回数を記録し、負担なくできるかを確かめます。
この例では、環境調整と開始の手がかりを試しています。常に活動量を増やすことが目的ではありません。本人が望む活動を選び、休息・痛み・疲労も確認しながら進めます。
10|介入のエビデンス|得点改善だけを目標にしない

Skidmoreらは、認知機能の低下を伴う急性期脳卒中患者30人で、通常のリハビリに加える方略訓練を検討しました。本人が選んだ目標を、目標・計画・実行・確認(Goal–Plan–Do–Check)で進める方法です。AESによる変化は3か月時点で群間差がありましたが、6か月時点では統計学的に有意ではありませんでした。[6]
この研究は小規模な無作為化試験の二次解析で、開始時のアパシーは両群とも診断閾値未満の水準でした。強いアパシーの治療効果をすべての人に保証するものではなく、低い症状水準を保つ可能性を示した結果です。[6]
臨床では、本人にとって意味のある活動を一つ選ぶ、最初の動作を具体化する、必要な道具を準備する、結果を一緒に振り返る、という形で応用を考えます。これらは支援案であり、AESの得点だけで治療内容や薬を決めるものではありません。
11|臨床記録PDF・正式質問紙の入手
A4・3ページのPDFです。1ページ目に評価内容の日本語解説と採点ガイド、2〜3ページ目に使用版・回答者・対象期間、18項目の得点転記、生活観察、支援計画・再評価欄を収めています。正式な質問文・選択肢は、使用する版の質問紙をご確認ください。
翻訳版についての窓口:MAPI Research Trust
提供元はUniversity of Pittsburghで、翻訳版はMAPI Research Trustを通じて案内されています。利用条件では、臨床研究外の患者ケアも商用利用に含むと説明されているため、「医療者なら無条件で無料」とは扱いません。入手する版と使用目的を伝えて確認してください。[7]
質問・実施・採点は原版をご確認ください。本PDFは結果と臨床所見を整理する補助記録です。
参考文献・公式資料
- Marin RS, Biedrzycki RC, Firinciogullari S. Reliability and validity of the Apathy Evaluation Scale. Psychiatry Res. 1991;38(2):143–162.
- 葛西真理,目黒謙一,中村馨.Apathy Evaluation Scale介護者評価の日本語版(AES-I-J)作成.日本老年医学会雑誌.2014;51(5):445–452.
- NIH FITBIR. Apathy Evaluation Scale (AES) – Apathy score:得点範囲・再コード化の説明.
- NINDS Common Data Elements. Apathy Evaluation Scale:概要・評価期間・実施時間.
- COMBI. AES Syllabus:実施・面接に関する説明.
- Skidmore ER, et al. Strategy Training During Inpatient Rehabilitation May Prevent Apathy Symptoms After Acute Stroke. PM R. 2015;7(6):562–570.
- University of Pittsburgh. Apathy Evaluation Scale:利用条件・原版入手.
- 日本高次脳機能学会.標準意欲評価法(CAS)を含む検査の公式案内.
- The Apathy Evaluation Scale (AES-C): Psychometric Properties and Invariance of Italian Version in Mild Cognitive Impairment and Alzheimer’s Disease. 2021.
資料確認:2026年11月1日。事例とイラストは説明用です。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)