BIT行動性無視検査 日本版|実施方法・カットオフ・生活場面の評価をイラストで解説
暮らしの支援へ。
15の課題がみていること。
実施のイメージから、カットオフ・生活観察・最新研究まで。

- 通常検査131点以下/行動検査68点以下:日本版のカットオフ。
- 総点だけで終えない:下位項目、誤りの位置、探索過程も確認。
- 生活とつなぐ:机上で良好でも、食事や移動で確かめる。
01 BITで、何が分かる?
BIT(Behavioural Inattention Test)行動性無視検査 日本版は、半側空間無視を評価する検査バッテリーです。紙面上の探索や描画をみる通常検査6項目と、日常生活に近い課題を用いる行動検査9項目で構成されます。日本版は、日本の生活・言語文化に合わせて作製・標準化されています。 [1]
半側空間無視では、脳損傷と反対側の空間や物に注意を向けたり、反応したりすることが難しくなります。右半球損傷後の左側の見落としが代表的ですが、反対側の症状もあります。「見えているはずなのに気づかない」という生活上の困りごとを、視野・運動・言語などの影響と分けて捉えます。 [3] [10]
詳しく読む:カットオフ、課題ごとの観察点、検査と生活の食い違い。
正式資料で確認する:検査用紙、刺激の数と配置、逐語教示、実施順序、提示条件、時間・採点の細則。
掲載イラストは、実施している動作を理解するための独自の概念図です。図柄・配置・道具を原版と変えており、印刷してBITとして採点することはできません。
02 日本版のカットオフを、正しく読む。
スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
| パート | 満点 | 日本版のカットオフ |
|---|---|---|
| 通常検査 | 146点 | 131点以下 |
| 行動検査 | 81点 | 68点以下 |
日本版の公開解説論文に掲載された値です。同論文の表ではカットオフ点以下を異常としています。したがって、通常検査131点、行動検査68点も基準に該当します。得点が高いほど課題の成績が良い方向です。 [2] [3]
通常検査が132点以上でも、個々の下位検査の基準、誤りの左右差、探索過程を確認します。総点が高いことだけで、半側空間無視や生活上の危険を除外することはできません。 [2] [4]
海外の研究では、日本版と異なる基準や組入れ条件が使われています。日本版の131点・68点と、海外版・短縮版・単独課題の数値を混ぜないでください。通常検査と行動検査も別々に記録し、両者を足した独自の総点で判定しません。
ここでは総点の目安を示し、各項目の細かな配点・判定表は転載していません。臨床では正規採点用紙とマニュアルで確認してください。
03 始める前に、成績を左右する条件をそろえる。
公開製品案内の所要時間は約45分です。説明・休息・移乗や生活場面の観察まで含めると、別に時間が必要です。実施できた範囲と中断理由を残し、未実施を「無視のための失点」と決めつけません。 [1]
- 視覚:眼鏡、視力、視野、複視・眼球運動、照明を確認。見落としの理由をすべて無視に帰さない。
- 姿勢と用紙:身体と机の位置を整え、用紙・物品はマニュアル指定の条件で置く。毎回の位置をそろえる。
- 反応手段:使用手、麻痺・失調・疼痛、失語・読字の問題を記録する。
- 覚醒と疲労:眠気、注意の変動、休憩の有無、検査時刻を残す。急な変化は医療チームに共有する。
「左も見てください」「ここにあります」と追加誘導した後の成績を、無条件に標準得点へ置き換えません。規定外の支援を試した場合は、どの支援で何が変わったかを別の観察記録として残します。
04 通常検査6項目|探す・写す・分ける・描く。
次の説明は検査の概要です。観察欄は、採点と併せて記録する臨床上の着眼点として整理しています。正式な実施は各課題のマニュアルに従ってください。 [1] [2]

行うこと:紙面にある線分を見つけ、印を付けます。
観察の視点:取りこぼしの位置だけでなく、探索の出発点、進み方、途中で止まる場所、終えたと判断する様子を観察します。
行うこと:複数の文字から、指定された対象を探して印を付けます。
観察の視点:片側への偏りに加え、文字の識別や課題理解が保たれているかを確認。左右全体に誤りが多い場合は、言語・全般性注意などの影響も検討します。
行うこと:複数の刺激の中から、指定された星印を探します。
観察の視点:対象の選択と空間全体の探索を同時に観察。正答数が良くても、探索に長い時間を要する、同じ場所へ何度も戻るといった過程を記録します。

行うこと:提示された図形を見ながら写します。
観察の視点:紙面全体の配置と、図形の一部分の欠落を分けて記録します。左右に偏らない形の崩れは、構成能力や運動面も含めて検討します。
行うこと:提示された線分の中央と考える位置に印を付けます。
観察の視点:偏りの方向をみます。線の長さや位置で反応が変わり得るため、自作の線の結果をBITの基準に当てはめません。単独で無視の有無を決めません。
行うこと:指定された対象を、思い浮かべて描きます。
観察の視点:描き始める位置、空間の使い方、部分の欠落を確認。模写との差も参考になりますが、一つの描画だけで無視の機序を断定しません。
05 行動検査9項目|生活に近い課題で確かめる。
BITの「行動検査」は、規定された道具や課題による評価です。家庭での食事や移動そのものを採点する評価とは区別します。以下は、課題名と大まかな動作、臨床での着眼点です。 [1]

スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
| 課題 | 行うことの概要 | 観察の着眼点 |
|---|---|---|
| 写真課題 | 写真の中の対象を探し、答える。 | 広い場面をどこまで見渡すか。認識できないのか、探索に入らないのか。 |
| 電話課題 | 提示された情報を使い、電話に関連する操作を行う。 | 情報を読む位置と、操作する位置を行き来できるか。 |
| メニュー課題 | メニューにある情報を探し、読み取る。 | 項目や行の取りこぼし、片側だけを読んで終える反応。 |
| 音読課題 | 文章を声に出して読む。 | 行頭・行末の読み落とし、行の飛ばし。失語や読字障害との区別。 |
| 時計課題 | 時計に関する読み取り・操作を行う。 | 盤面や数字への注意。時刻の知識、理解、操作の問題との区別。 |
| 硬貨課題 | 硬貨を見分け、指示に沿って扱う。 | 片側の探索と選択、硬貨の識別、手の到達や操作を分ける。 |
| 書写課題 | 提示された文字・文章を書き写す。 | 見本の読み落としと、書き写した紙面の偏りを分ける。 |
| 地図課題 | 地図から必要な位置や経路の情報を探す。 | 紙面内の探索と位置関係の理解。地図の不得手だけで無視としない。 |
| トランプ課題 | 並べられたカードから指定対象を探す。 | 探索範囲・見落とし位置・同じ対象への戻りをみる。 |

使い慣れたスマートフォンでの困りごとを観察することは有用ですが、BITの電話課題を自由に置き換えて同じ基準で採点することはできません。標準検査の記録と本人の道具での生活観察を併記します。
06 点数に加えて、5つの過程を残す。
以下はSTROKE LABでの記録に使える観察の整理例です。新しい尺度や追加配点ではありません。観察した事実と、そこから考えた仮説を別々に記載します。
| 見る過程 | 記録の例 |
|---|---|
| 始め方 | 右端から始めた/中央で手が止まった。 |
| 探索範囲 | 右側を繰り返し見た/左端まで一度は目が向いた。 |
| 選び方 | 対象以外にも印を付けた/対象は見分けたが取り残した。 |
| 終わり方 | 左側が残っている状態で「終わり」と伝えた。 |
| 修正と気づき | 自分で見直した/別途の声かけ後には見つけた。 |
例えば「左を見ない」だけでは、探索を開始しないのか、途中で戻るのか、見ても認識しにくいのかが分かりません。「開始は右上。右半分を2回たどり、左端に視線が届く前に終了を申告」と具体化すると、次に確かめる条件が明確になります。
07 机上の成績を、食事・整容・移動へつなぐ。

机上では良好でも、人が動く廊下や食事の後半では見落としが出ることがあります。反対に、机上で誤りがあっても、慣れた環境や手がかりのある活動では遂行しやすい場合があります。検査と生活の違いは、評価の失敗ではなく、支援条件を考える材料です。 [4] [6] [10]
スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
| 生活場面 | 具体的に確かめること | 記録例 |
|---|---|---|
| 食事 | 皿の位置、手の届きやすさ、食欲や好みも確認。 | 左の副菜に手が出なかった。別途、皿の存在を伝えると自分で食べ始めた。 |
| 整容・更衣 | 顔・身体の片側、袖や裾への気づき。 | 右袖を直した後、左袖のめくれに気づかなかった。 |
| 移動 | 障害物、人、曲がり角への注意。安全な見守り下で観察。 | 静かな廊下では進めたが、人との会話中に左側の物へ近づいた。 |
| 持ち物の探索 | 配置、背景の複雑さ、距離を記録。 | 机上の物が少ない時は見つけ、多い時は左端の鍵を探し残した。 |
これらは架空の記載例です。視力・視野、上肢機能、姿勢、理解、疲労などを照合し、同じ現象が複数場面で続くかを確認します。意図的に衝突や転倒の危険を作る必要はありません。
08 CBSなど、他の評価との使い分け。
スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
| 評価 | 主な役割 | BITと合わせて考えること |
|---|---|---|
| BIT 日本版 | 規定の課題で無視の特徴と成績を評価。 | 総点、下位項目、誤りの位置、実施条件を残す。 |
| CBS/KF-NAP | 日常活動での無視を観察。KF-NAPはCBSを系統的に運用する方法。 | 実際の活動での困りごとを補う。BITの行動検査と同一ではない。 |
| 抹消・二等分など単独課題 | 短時間のスクリーニングや特定の特徴の確認。 | 一課題の陰性だけでは除外できない。別の課題の基準を流用しない。 |
| 視野・眼球運動の評価 | 視野欠損、複視、眼球運動などを確認。 | 半盲と無視は別の問題だが、併存もある。必要に応じ専門職へつなぐ。 |
| CAT-Rなど注意機能検査 | 注意の複数の側面を詳しく評価。 | 左右差以外の持続・選択などの問題も検討。BITとの点数換算はしない。 |
| 4AT-Jなどせん妄評価 | 急な覚醒・注意・認知の変化を捉える。 | 急に成績が崩れた時の背景を確認。BIT低得点をそのまません妄としない。 |
CBSの検証研究では、右半球脳卒中83例において、日常行動の評価が従来の机上課題より多くの問題を捉えました。これは生活観察を加える根拠ですが、すべての患者でCBSがBITに置き換わるという意味ではありません。 [6]
短時間の初期検査について、2022年EANの勧告は、一つだけ行えるなら抹消課題を第一候補とし、可能なら別種の課題や生活に即した評価を追加する構成です。これは短時間スクリーニングの方針であり、BITを独自に短縮して総点を推定する許可ではありません。 [4]
09 3つの臨床例|点数の次に何を見る?
以下は説明用の架空例です。総点だけでは分からない部分を、次の観察で埋めていきます。
両方ともカットオフ以下。まず各課題での誤りの位置と、言語・視覚・運動面の影響を確認します。食事や移動でも片側の見落としがあれば、必要な見守りと配置を共有し、活動ごとに支援を検討します。
「140点だから無視なし」とはしません。下位検査の基準と探索過程、行動検査、生活場面の観察を追加します。疲労・会話などの条件に加え、視野、移動能力、姿勢との関係も確認します。
失語・課題理解・視力・覚醒・全般性注意などを検討します。無視の併存は否定しませんが、低得点だけで「重度の無視」と決めず、実施可能性と反応の特徴を整理します。
申し送りでは「BITが悪い」ではなく、得点+偏り+生活への影響+必要な支援を伝えます。例:「通常検査120点、行動検査60点。複数課題で左側の探索が乏しく、食事でも左の皿に気づきにくい。安全な食事配置と見守り方法を共有したい」です。
10 2024〜2026年の研究を、臨床にどう使う?
情報確認日:2026年10月23日。日本版の採点基準を扱う国内資料と、評価法全般・経過・支援を扱う海外研究を分けて読みます。新しい研究であっても、BIT日本版固有の感度・特異度を示しているとは限りません。
33種類の評価法について測定特性を検討した系統的レビューです。妥当性と信頼性の双方に高品質の根拠がそろう単一の万能な尺度は確認されていません。BITを使う際も、評価したい無視の側面と、補うべき生活情報を明確にします。 [5]
27研究・839例の統合では、標準的治療下の回復率は0〜3か月で42%、3〜6か月で53%、6か月超で56%と推定されました。ただし研究間の異質性は高く、個人の回復確率や「6か月で改善が止まる」という予測には使えません。再評価では点数と生活上の変化を併記します。 [7]
脳卒中後の視覚障害を、視力・視野・眼球運動・無視などに分けて評価する重要性が示されています。無視への介入は症状の特徴に合わせ、OT、神経心理、眼科・視能訓練などの連携を考えます。特定の介入法が全員に有効と断定できる根拠は限られます。 [8]
オンラインDelphi法による合意では、脳卒中後2週間以内に全例をスクリーニングし、陽性なら無視の各側面を包括的に評価する方針が示されました。これは2週間待つという意味ではありません。第1ラウンド66名に対し最終ラウンド29名、会議9名と参加者が減っており、尺度ごとの推奨には代表性の限界があります。 [9]
評価とリハビリテーションを実際の症例に結びつけたナラティブレビューです。臨床の流れを考える参考になりますが、新しいBIT日本版の診断精度研究や、特定介入の有効性を確定する試験ではありません。 [10]
海外研究の成績、国内のカットオフ、専門家合意は根拠の種類が異なります。本記事では一つの「正確さ○%」にまとめず、分かっていることと限界を分けて記載しています。
11 再評価と支援を、混ぜずにつなぐ。
- 標準条件で比べる:版、実施範囲、用紙の位置、使用手、時刻、疲労や休憩を記録する。
- 支援下の変化は別記:目印、配置変更、声かけなどで改善した場合は、どの条件だったかを残す。
- 生活目標も追う:食べ残し、見守り・声かけの必要性、移動時の接触などを、同じ活動条件で追う。
- 練習効果を考慮:検査用紙を反復練習に使い続け、慣れによる改善を回復と混同しない。
「10点上がったから独歩可能」「カットオフを超えたから運転再開可能」とは判断しません。活動の安全性には運動・視覚・判断・環境なども関わります。支援は本人の目標に合わせ、実際の場面で確かめます。
どこを見落としたか → どんな条件で起きたか → 生活で何に困るか。
この3点がそろうと、点数が支援の判断につながります。
12 正規検査と、独自の共有メモ。
BIT日本版は、正規の検査セットとマニュアルを使って実施してください。この記事では検査用紙・写真・文章・配置図・採点シートを複製配布していません。
A4・1ページ。正規検査で得た結果、誤りの左右差、生活での困りごと、支援下の変化を整理します。BITの評価票や、検証済みの新しい尺度ではありません。
本記事・イラスト・観察メモはSTROKE LABの独自説明資料です。BIT開発者・出版社による監修や承認を示すものではありません。
参考文献・資料
- BIT日本版作製委員会(代表 石合純夫).BIT 行動性無視検査 日本版.新興医学出版社,1999.製品構成は販売元の公開案内を参照。
資料を読む - 石合純夫.半側空間無視を解明する!―BITからdeep testsへ―.高次脳機能研究.2004;24(3):232–237.doi:10.2496/hbfr.24.232.
資料を読む - 前田真治.半側空間無視.高次脳機能研究.2008;28(2):214–223.doi:10.2496/hbfr.28.214.
資料を読む - Moore M, et al. Rapid screening for neglect following stroke: A systematic search and European Academy of Neurology recommendations. Eur J Neurol. 2022;29:2596–2606. doi:10.1111/ene.15381.
PubMedで読む - Williams LJ, et al. Identifying spatial neglect – an updated systematic review of the psychometric properties of assessment tools in adults post-stroke. Neuropsychol Rehabil. 2025;35(3):628–667(オンライン公開2024年). doi:10.1080/09602011.2024.2346212.
PubMedで読む - Azouvi P, et al. Behavioral assessment of unilateral neglect: study of the psychometric properties of the Catherine Bergego Scale. Arch Phys Med Rehabil. 2003;84(1):51–57. doi:10.1053/apmr.2003.50062.
PubMedで読む - Overman MJ, et al. Recovery of Visuospatial Neglect With Standard Treatment: A Systematic Review and Meta-Analysis. Stroke. 2024;55(9):2325–2339. doi:10.1161/STROKEAHA.124.046760.
PubMedで読む - Rowe FJ, et al. European Stroke Organisation (ESO) guideline on visual impairment in stroke. Eur Stroke J. 2025;10(4):1087–1159. doi:10.1177/23969873251314693.
PubMedで読む - Williams LJ, et al. International multidisciplinary consensus recommendations for the screening and assessment of post-stroke spatial neglect using an online Delphi method. Clin Rehabil. 2026 Aug 3. Online ahead of print. doi:10.1177/02692155261465653.
PubMedで読む - Salti G, et al. Unilateral Spatial Neglect After Stroke: A Pragmatic Approach to Assessment and Rehabilitation. J Clin Med. 2026;15(15):6064. doi:10.3390/jcm15156064.
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)