【2026年最新】脳卒中の肩の痛み(PSSP)の原因・評価・治療は?片麻痺に求められるリハビリ対処方法まで。
今回は、脳卒中リハビリテーションの現場で最も頻繁に直面する合併症のひとつ、脳卒中後肩関節痛(Post-Stroke Shoulder Pain:PSSP)について、病態生理・危険因子・評価・多職種連携による治療戦略・段階別リハビリプログラム・セルフトレーニング・最新エビデンスまで徹底解説します。「亜脱臼と肩痛の関係は?」「肩手症候群(CRPS Ⅰ型)はどう予防する?」「ボツリヌス療法の適応と注射部位は?」「scapula settingはなぜ大切なのか?」という臨床現場の具体的な疑問にすべて答えます。
脳卒中後の肩関節評価の実際を動画で確認できます。
脳卒中後肩関節痛(Post-Stroke Shoulder Pain:PSSP)は、脳卒中患者の16〜84%に生じると報告される最も頻度の高い合併症のひとつです(Adey-Wakeling 2015)。患者のリハビリテーションへの参加意欲・生活の質(QOL)・ADL自立度に深刻な影響を与えます。原因は単一ではなく、肩関節亜脱臼・痙縮・肩手症候群(CRPS Ⅰ型)・腱板損傷・関節包拘縮など多因子が絡み合います。早期からの予防的ポジショニング、正確な原因評価、理学療法士・作業療法士・医師・看護師の多職種連携による介入が転帰を大きく左右します。
- 正式名称:Post-Stroke Shoulder Pain(PSSP)/脳卒中後肩関節痛。肩手症候群(CRPS Ⅰ型)を含む多因子性の症候群
- 有病率:脳卒中患者の16〜84%(定義・評価方法・観察時期により幅がある)。急性期入院中の発症率は発症後3〜6週で最高に達することが多い(Roy 1994)
- 主な原因:①肩関節亜脱臼(弛緩性麻痺期)②痙縮による内転内旋拘縮(亜急性期〜)③肩手症候群CRPS Ⅰ型 ④腱板損傷・関節包拘縮の4つが主要メカニズム
- ボツリヌス毒素の注射ターゲット:痙縮による疼痛では肩甲下筋・大胸筋・広背筋・大円筋が主なターゲット(三角筋後部は通常対象外)。効果は投与後4〜6週で発現、3〜4か月持続
- Niessen 2008の核心:PSSP患者では麻痺側・非麻痺側両方の肩甲骨に外旋増強が観察される。scapula setting(前鋸筋・僧帽筋下部の活性化)が疼痛予防の核心
- FESのエビデンス:棘上筋・三角筋後部へのFES(機能的電気刺激)は亜脱臼予防と疼痛軽減に複数のRCTで有効(Chae 2005・Linn 1999)。プロトコルは各施設で異なる
- CRPS Budapest診断基準:2004年IASPで採択(Harden 2007で改訂)。4カテゴリー(感覚・血管運動・発汗/浮腫・運動/栄養)から症状・徴候を確認
- Pain-free rangeの原則:疼痛域での強引なROM訓練は腱板損傷・異所性骨化を招く。振り子運動(Codman体操)はCodman 1934が記載した肩峰下圧を減じる特有の動きであり、単純な自重振り子とは区別される
- QOLへの影響:PSSP有りの患者はなし群に比べFIM・Barthel Indexが有意に低く、うつ病合併率も高い(Roy 1994)。疼痛慢性化・運動恐怖(kinesiophobia)への早期対処が必要
- NGな介助:腋窩を持って引き上げる・手首だけを牽引する・痛みを無視して可動域を広げるの3つは腱板・関節包・神経への過度ストレスとなり絶対禁止
PSSPとは ― 発症頻度・定義・なぜ起きるのか
脳卒中後肩関節痛(PSSP)は、脳卒中発症後に患側上肢の肩関節部に生じる疼痛の総称です。単一の疾患ではなく、複数のメカニズムが複合的に絡み合う多因子性の症候群です。発症頻度は報告により16〜84%と幅がありますが、これは「肩痛」の定義・評価方法・患者集団・観察期間の違いによるものです(Price 2001)。
🔬 PSSPが発症しやすい時期と経過
急性期(発症〜2週間):弛緩性麻痺の時期に亜脱臼が生じやすく、早期の肩痛が出現します。この時期のポジショニング不良・不適切な介助が長期的な疼痛の引き金となります。
亜急性期(2週間〜3か月):痙縮が出現し始め、内転・内旋パターンが固定化されます。肩手症候群(CRPS Ⅰ型)はこの時期に発症することが多く、手指の浮腫と灼熱痛を伴います。
慢性期(3か月以降):関節包拘縮・関節周囲組織の線維化が進行します。疼痛が慢性化し、運動恐怖(kinesiophobia)・廃用性萎縮・うつ病が併発するリスクが高まります。痛みの恐怖から動かさなくなり、さらに拘縮が進む「疼痛回避の悪循環」を断ち切る介入が必要です。
※PSSPの病期イメージ(急性期→慢性期)。各期で主要メカニズムと優先介入が異なります。
病態生理:4つの主要メカニズム
PSSPの原因は複合的です。以下の4つのメカニズムを病期・身体所見から鑑別することが、的確な介入選択の出発点になります。
肩関節亜脱臼(Glenohumeral Subluxation)
脳卒中後の弛緩性麻痺により肩関節周囲筋(特に棘上筋・三角筋)の筋緊張が低下し、腕の重力によって上腕骨頭が下方へ偏位します。通常は肩甲骨の関節窩の上向き傾斜と棘上筋・三角筋によって骨頭が保持されていますが、麻痺によってこの機構が破綻します。腕神経叢・腋窩神経・筋皮神経への過伸展が神経障害性疼痛を惹起することもあります。
💡 亜脱臼の程度と疼痛の強さは必ずしも相関しない
X線で3横指の亜脱臼があっても無痛のケースがある一方、軽度の亜脱臼でも強い疼痛を訴えるケースがあります。亜脱臼そのものよりも、それによる神経・血管の過伸展・肩峰下インピンジメントの二次的発生が疼痛に強く関与します。「亜脱臼があるから痛い」という単純な等式で治療方針を決めず、疼痛のメカニズムを個別に評価することが重要です。
痙縮(Spasticity)による肩関節拘縮・疼痛
弛緩性麻痺期を経て痙縮が出現すると、肩の内転・内旋に関わる筋群(肩甲下筋・大胸筋・広背筋・大円筋)の過緊張が肩を内転・内旋位に固定します。この姿勢は肩峰下インピンジメントを引き起こし、棘上筋腱・肩峰下滑液包の炎症・損傷につながります。さらに、痙縮による不適切な筋収縮は骨格筋の微小損傷を繰り返し、慢性炎症・筋短縮の悪循環を形成します。
⚠️ 痛みを伴う関節可動域訓練(Force through pain)は禁忌
痙縮・拘縮がある肩関節に対して、疼痛を無視して強引にROMを広げようとする手技は、腱板損傷・関節包断裂・異所性骨化を招く可能性があります。Pain-free range(無痛域内)での介入を原則とし、可動域拡大は痙縮を適切に管理(ポジショニング・ボツリヌス療法)した後に行うことがガイドライン上の推奨です。
なお「ストレッチで痙縮が改善する」という期待が強くなりがちですが、RCTの系統的レビューでは単独のストレッチング(受動的ROM訓練)による長期的な痙縮改善の効果は限定的であることが示されています(Harvey 2000)。ストレッチは痙縮の管理(姿勢の安定・拘縮の予防)を目的として位置づけ、痙縮の本質的治療にはボツリヌス療法などの薬物・注射療法を組み合わせることが現実的です。
肩手症候群(CRPS Ⅰ型)― Complex Regional Pain Syndrome Type I
肩手症候群(CRPS Ⅰ型)は、交感神経系の異常活性化と末梢・中枢の神経感作を主要メカニズムとします。発症の引き金として、患側上肢の長時間下垂・患側への点滴・外傷などが関与すると考えられています。肩の疼痛・可動域制限に始まり、手指の浮腫・発赤・灼熱感・痛覚過敏が生じ、放置すると手指の拘縮・骨萎縮へと進行します。
🔑 Budapest診断基準(IASP 2004採択・Harden 2007改訂)の4カテゴリー
① 感覚:痛覚過敏(hyperalgesia)および/またはアロディニア(allodynia)の訴えと徴候
② 血管運動:皮膚温・色調変化の訴えと徴候(熱感・発赤など)
③ 発汗/浮腫:発汗異常または浮腫の訴えと徴候
④ 運動/栄養:可動域低下・筋力低下・皮膚・爪・骨の栄養変化の訴えと徴候
臨床診断では4カテゴリーのうち3つ以上で症状の訴えがあり、2つ以上で徴候が観察されること(かつ他の診断が除外されること)が要件です。
| 病期 | 症状の特徴 | 主要介入 |
|---|---|---|
| Ⅰ期(急性期) | 肩・手指の浮腫・熱感・発赤・灼熱痛。可動域制限が始まる | 挙上・圧迫療法・患側下垂回避・コルチコステロイド検討 |
| Ⅱ期(栄養障害期) | 皮膚萎縮・爪変化・X線でびまん性骨萎縮。浮腫減少・疼痛持続 | TENS・ビスフォスフォネート・星状神経節ブロック |
| Ⅲ期(萎縮期) | 拘縮固定・高度骨萎縮。疼痛軽減するが機能障害固定 | 拘縮予防・疼痛管理・ADL代償動作・補装具 |
腱板損傷・関節包拘縮・肩峰下インピンジメント
脳卒中患者では、腋窩を持って引き上げる介助・過度な受動的上肢訓練により棘上筋腱の損傷が生じることがあります。また長期の内転・内旋位固定は後方関節包の拘縮をきたし、上腕骨頭の前方偏位と肩峰下インピンジメントを引き起こします。インピンジメントによる棘上筋腱・肩峰下滑液包の慢性炎症がさらに疼痛を増悪させる悪循環が形成されます。
患側の腋窩を持って起き上がり・移乗介助を行う行為は、上腕骨頭・腱板・関節包・腋窩神経に過度なストレスをかけ、疼痛・損傷の直接原因になります。入院当日から全病棟スタッフと患者家族に同一の介助方法を実技指導することが急性期PSSPの最重要予防策です。
危険因子と予防の5ステップ
| 危険因子 | 詳細・臨床的意義 | 対応策 |
|---|---|---|
| 神経・筋肉因子 | ||
| 棘上筋・三角筋の弛緩性麻痺 | 急性期に最も亜脱臼リスクが高い。入院早期から評価・対処が必要 | FES(棘上筋・三角筋への電気刺激)・スリング・早期支持訓練 |
| 痙縮の重症度(MAS ≥ 2) | 内転・内旋拘縮が進むほど疼痛・インピンジメントリスクが高まる | ボツリヌス毒素注射・ポジショニング・ストレッチング |
| 感覚障害(表在・固有感覚) | 関節位置覚の低下により不良肢位の自覚が困難。外傷・過伸展リスク増大 | 感覚フィードバック訓練・視覚代償・定期的ポジショニング確認 |
| 環境・介助因子 | ||
| 腋窩支持・強引な上肢操作 | 腱板・関節包への過度ストレスが直接損傷を引き起こす | 全スタッフ・家族への実技指導。入院当日に実施 |
| 患側上肢のポジショニング不良 | 重力による亜脱臼進行・浮腫・拘縮の加速 | 枕・アームトラフ・スリングによる24時間サポート体制の確立 |
| 患側への点滴・採血 | 穿刺が浮腫を誘発しCRPS Ⅰ型発症の引き金になりうる | 可能な限り健側を使用。患側使用不可避の場合は医師に確認 |
| 心理・全身因子 | ||
| うつ病・不安・運動恐怖 | 疼痛閾値低下・リハビリ参加意欲低下・疼痛慢性化リスクの増大 | PHQ-9スクリーニング・精神科連携・疼痛神経科学教育(PNE) |
| 半側空間無視(USN) | 患側への注意低下により外傷・過度ストレスに気づかない | 無視訓練・環境調整・患側注意喚起プログラム(OT) |
予防の5ステップ ― 入院当日から体系的に取り組む
入院当日:亜脱臼リスク評価とポジショニング方針の確立
弛緩性麻痺の程度(Brunnstrom Stage・MMT)と亜脱臼の有無を指横指法で確認。臥位・坐位・立位別の上肢サポート方法を決定し、看護師・介護スタッフ・家族へ同一の介助方針を即日教育します。
発症早期:FES(機能的電気刺激)の開始検討(医師オーダー必須)
棘上筋・三角筋へのFESは亜脱臼予防・疼痛軽減に有効とする複数のRCTエビデンスがあります(Chae 2005・Linn 1999)。プロトコルは施設・患者状態によって異なるため、医師の処方のもとPTが設定します。急性期に早期開始するほど予防効果が高まります。
発症1週以内:家族・介護者への実技指導(NG介助の明示)
「腋窩を持って引かない」「スリングの正しい着脱方法」「患側上肢の安全な支え方」を実技形式で家族に教育します。口頭説明だけでなくシミュレーションでやってみて確認するプロセスが家族の定着率を高めます。
亜急性期:痙縮モニタリングとScapula setting開始
MASで定期的に痙縮を評価。痙縮が出現したらscapula setting(前鋸筋・僧帽筋下部の活性化により肩甲骨の下制・外旋を抑制する運動)を開始します。Niessen 2008が示した「肩甲骨外旋パターン」への直接的な介入です。
全期間:疼痛教育(PNE)と患者自身の行動変容を促す
「痛みが出たら即報告する」「痛みは頑張れば治るものではなく組織損傷のサイン」という疼痛の正しい理解を患者に教育します。疼痛神経科学教育(Pain Neuroscience Education:PNE)を活用し、運動恐怖(kinesiophobia)の早期発見・対処を行います。
評価:疼痛・ROM・亜脱臼・痙縮・QOL
🔑 PSSPの包括的評価の6要素
① 疼痛の定量化(VAS/NRS):安静時・動作時・夜間を分けてNRS(0〜10)で記録。疼痛パターンの把握が治療選択に重要です。
② 関節可動域(ROM)測定:屈曲・外転・外旋・内旋の他動的・自動的ROMをゴニオメーターで計測。疼痛出現角度(pain arc)の記録が必須です。
③ 亜脱臼評価:指横指法(0〜3横指)・坐位X線(肩峰〜骨頭距離の左右差)・超音波。評価条件(肢位・スリング有無)を記録。
④ 筋緊張・痙縮:MASおよびTardieu Scaleで肩甲下筋・大胸筋を中心に評価。ボツリヌス療法の適応判断に直結します。
⑤ 肩甲骨の向き(オリエンテーション):外旋の増強(肩甲骨外角の偏位)を視診・触診で確認。scapula settingの必要性評価に重要です(Niessen 2008)。
⑥ 機能・QOL評価:SPADI(Shoulder Pain and Disability Index)・DASH・PHQ-9(うつ)を組み合わせ、疼痛が生活全体に与える影響を定量化します。
| 評価項目 | 具体的ツール | スコアの見方 | 臨床的意義 |
|---|---|---|---|
| 疼痛強度 | NRS 0〜10 VAS 0〜100mm |
安静時・動作時・夜間の3点を記録 | 介入効果の追跡・MCIDは2点以上の変化 |
| 疼痛・障害 | SPADI (0〜100点) |
高いほど障害大。20点変化で臨床的意義 | PSSPのQOLへの影響の定量化に最適 |
| 可動域 | ゴニオメーター法 pain arcの記録 |
疼痛出現角度を角度で記録 | インピンジメント・拘縮の鑑別に役立つ |
| 亜脱臼 | 指横指法 坐位X線・超音波 |
0〜3横指または距離(mm) | スリング・FES適応の判断根拠 |
| 痙縮 | MAS(0〜4) Tardieu Scale |
MAS 2以上でボツリヌス療法を検討 | 注射ターゲット筋の特定に活用 |
| 肩甲骨評価 | 視診・触診 (外旋・前傾の確認) |
外旋増強の有無・程度 | scapula settingの優先度決定(Niessen 2008) |
| うつ・不安 | PHQ-9 PASS(疼痛不安) |
PHQ-9:10点以上でうつ疑い | 慢性化・kinesiophobiaリスクの早期検出 |
多職種連携:各職種の具体的役割分担
PSSPの管理は単一職種では完結しません。医師・PT・OT・ST・看護師が明確な役割分担のもとで連携し、24時間一貫したアプローチを維持することが転帰を改善します。
| 職種 | 急性期の主な役割 | 亜急性期〜回復期の主な役割 |
|---|---|---|
| 医師 | 診断・原因鑑別(画像・超音波) FES・鎮痛薬処方 コルチコステロイド注射の判断 |
ボツリヌス毒素注射(適応・部位決定) 星状神経節ブロック(CRPS Ⅰ型) 精神科・ペインクリニック連携 |
| PT 理学療法士 |
亜脱臼評価・FES実施 ポジショニング方針策定 Pain-free ROM訓練の開始 |
Scapula setting訓練 段階的運動負荷・歩行練習 物理療法(TENS・超音波) |
| OT 作業療法士 |
患側上肢のポジショニング スリング選択・管理 感覚評価・浮腫管理 |
ADL訓練・自助具指導 上肢機能訓練(scapula setting併用) USN(無視)訓練・環境調整 |
| ST 言語聴覚士 |
疼痛による発話・嚥下への影響確認 コミュニケーション代替手段の提案 |
失語合併例のリハビリ意思疎通支援 疼痛教育(PNE)のコミュニケーション支援 |
| 看護師 | 24時間ポジショニング維持・確認 患側への点滴・採血の回避徹底 疼痛観察・記録(NRS) |
服薬管理・副作用モニタリング 家族への介助指導の継続 疼痛増悪時の迅速な報告 |
💡 多職種カンファレンスでの共有事項(週1回以上が推奨)
① 疼痛の変化(NRS推移・疼痛パターンの変化)② 亜脱臼・痙縮の程度変化 ③ スリング使用状況と見直しの要否 ④ ボツリヌス療法後のウィンドウ期間の活用計画 ⑤ 患者・家族の心理的状態(PHQ-9・kinesiophobiaの有無)⑥ 退院後の環境調整(住宅改修・補装具・サービス)— これらを職種横断で共有することで、「それぞれが別々のことをしている」という縦割りの問題を防ぎます。
段階別リハビリプログラム
- ポジショニング:臥位では患側上肢を肘より先端が心臓より高くなるよう枕でサポート。坐位ではアームトラフ・テーブル上に前腕を置く。立位・歩行時はスリングで骨頭を支持
- FES(医師処方後):棘上筋・三角筋への表面電極刺激で亜脱臼を予防。プロトコルは各施設の手順に従う
- Pain-free ROM:無痛域内での肩関節のごく軽い他動的運動。疼痛が出る角度では即中止
- 浮腫管理:圧迫療法(弾性包帯)・患側上肢の挙上・手指の自動運動(軽い握り・開き)
- 教育:患者・家族・全スタッフへの介助方法の統一教育を入院当日に実施
- Scapula setting:鏡前での肩甲骨下制・肩甲骨を「背中のポケットに入れる」イメージでのコントロール練習。前鋸筋・僧帽筋下部の活性化が目標
- 痙縮管理:MASが2以上に増悪した場合はボツリヌス療法を医師にリクエスト。ボツリヌス後のウィンドウ期間にROM訓練を集中実施
- 振り子運動(Codman体操):体幹前屈位で患側上肢を重力で下垂させ、小さな円を描くように揺らす。肩峰下圧の減圧効果がある(Codman 1934)。ただし自重だけで勢いをつけすぎない
- CRPS早期対応:手指浮腫・発赤・熱感・アロディニアが出現したら即医師に報告。コルチコステロイドの早期投与が転帰を改善する
- 物理療法:TENS(高頻度100Hz)が慢性疼痛管理に有効。超音波(棘上筋腱・肩峰下滑液包)を炎症期が過ぎた後に検討
- 段階的な上肢機能訓練:Scapula settingを維持しながら、肩甲上腕リズムを意識した上肢挙上訓練。可動域が回復した範囲で筋力強化へ移行
- ADL統合:OTによる洗体・更衣・食事・調理など具体的ADL場面での上肢使用訓練。自助具・環境調整の導入
- kinesiophobia(運動恐怖)への対処:TSK-11(Tampa Scale for Kinesiophobia)でスクリーニング。PNE(疼痛神経科学教育)・グレーデッド活動(段階的活動)・CBT(認知行動療法)を組み合わせる
- 自主トレーニングの定着:退院後も継続できる自主運動プログラム(Scapula setting・振り子運動・健側介助ROM)を文書・動画で提供
- 生活期への引き継ぎ:退院前に訪問リハビリ・外来リハビリへの引き継ぎ情報(SPADI・NRS・MAS・スリングの要否)を文書化
治療・介入の全体像とエビデンス
| 介入カテゴリー | 具体的内容 | エビデンスレベル | 主な対象病態 |
|---|---|---|---|
| ポジショニング・装具 | |||
| 適切なポジショニング | 臥位:患側上肢を枕でサポート(心臓より高く)。坐位:アームトラフ・テーブルで前腕を支持。立位・歩行:スリング使用 | 専門家合意(エビデンスC) | 亜脱臼・浮腫予防・拘縮予防 |
| スリング(上腕骨頭サポート型) | 坐位・立位・歩行時に上腕骨頭の下垂を支持するタイプを選択。肩甲帯を過挙上させないデザインを選ぶこと。臥位では不要 | RCT複数あり(エビデンスB) | 亜脱臼・神経過伸展の予防 |
| 物理療法 | |||
| FES(機能的電気刺激) | 棘上筋・三角筋への表面電極刺激。亜脱臼予防・軽減に複数RCTで効果。各施設のプロトコルに従う(頻度・強度は個別設定) | エビデンスA(Chae 2005・Linn 1999) | 亜脱臼・疼痛 |
| TENS(経皮的電気神経刺激) | 高頻度TENS(80〜100Hz)が疼痛閾値を上げる神経調節効果。慢性疼痛・CRPS Ⅱ期以降に使用 | エビデンスB(Chae 2001) | 慢性疼痛・CRPS Ⅱ期 |
| 治療用超音波 | 棘上筋腱・肩峰下滑液包への持続波または断続波超音波(1MHz・0.5〜1.5W/cm²)。急性炎症期(熱感強い)には禁忌 | エビデンスC | 腱板炎症・拘縮(炎症消退後) |
| 運動療法 | |||
| Scapula setting(肩甲骨安定化) | 前鋸筋・僧帽筋下部の活性化により肩甲骨の下制・外旋増強を修正。Niessen 2008が示した運動学的異常パターンへの直接的介入 | エビデンスC(臨床的に重要) | 疼痛予防・肩甲上腕リズム改善 |
| 振り子運動(Codman体操) | 体幹前屈位・患側上肢下垂で重力を利用した小さな円弧運動。肩峰下圧減圧・関節の牽引的リラクゼーション効果。無痛域内で・勢いをつけすぎないのが原則 | エビデンスB | 肩峰下インピンジメント・拘縮予防 |
| 段階的上肢機能訓練 | Scapula setting統合後に肩甲上腕リズムを意識した上肢挙上・筋力強化へ段階的に進む | エビデンスC | 回復期・機能統合 |
| 薬物・注射療法 | |||
| ボツリヌス毒素A型注射 | 痙縮が主因のPSSPに有効(Kong 2016 RCT)。注射部位:肩甲下筋・大胸筋・広背筋・大円筋(肩の内転・内旋を起こす主要筋)。効果4〜6週で発現・3〜4か月持続 | エビデンスA(Kong 2016) | 痙縮性疼痛・ROM制限 |
| コルチコステロイド注射 | 肩峰下・関節内注射。急性炎症期のインピンジメント・CRPS Ⅰ期に有効。長期・反復投与は腱板変性リスクがあり、4〜6週間隔・年3〜4回を上限とする | エビデンスB | 腱板炎・肩峰下滑液包炎・CRPS急性期 |
| NSAIDs・鎮痛薬 | アセトアミノフェン・COX-2阻害薬。神経障害性疼痛(CRPS・神経過伸展)にはプレガバリン・デュロキセチン・三環系抗うつ薬を医師が選択 | エビデンスC〜B | 炎症性・神経障害性疼痛 |
| 星状神経節ブロック | CRPS Ⅰ型に対する交感神経遮断目的。麻酔科との連携が必要。適応はCRPS Ⅱ期以降で保存療法が無効な場合 | エビデンスC | CRPS Ⅱ期以降 |
関連エビデンス:肩関節運動学論文の詳細解説
Kinematics of the contralateral and ipsilateral shoulder: a possible relationship with post-stroke shoulder pain
Niessen M et al:J Rehabil Med. 2008 Jun;40(6):482-6
🎯 研究目的と背景仮説
PSSPは片麻痺患者に頻発し、バランス・歩行・ADL・QOLを阻害します。本研究は「PSSPが肩甲骨・上腕骨の安静時姿勢および運動中の位置と関連するか」を検証しました。仮説として、不適切な肩関節運動パターンが軟部組織への反復損傷を引き起こし、慢性疼痛の悪循環を形成するという機序を想定しています。
🔬 方法
- 脳卒中17名(PSSP有群 vs 無群)と健常対照10名(年齢マッチング)を比較
- 全患者:初回脳卒中・脳卒中前に肩の愁訴なし(既往除外)
- 坐位での矢状面(肩屈曲)・水平面(肩外転)での受動的・能動的上肢挙上(120°まで、または疼痛閾値まで)
- 30°・60°・90°・120°の各角度における胸郭および上腕骨に対する肩甲骨姿勢(位置・方向)を分析(各角度3回・平均化)
- 受動的最大内外旋(上腕60°挙上・肘90°屈曲位)を左右測定
📊 主要結果
- 【最重要知見】PSSP患者では麻痺側・非麻痺側両方の肩に肩甲骨外旋の増強が観察された(コントロール群・PSSP無し群との比較)
- PSSP患者の麻痺側肩甲骨外旋はコントロール群より増強。一方PSSPのない脳卒中患者では増強なし
- PSSP患者では受動的肩甲上腕関節内外旋の最大角度がコントロール群より有意に小さかった(可動性の低下)
- 能動的・受動的外転および屈曲中の肩甲骨「位置(変位)」の群間差は認められなかった
- 肩甲骨の前傾/後傾・プロトラクション/リトラクションの差は認められなかった
- 群間の姿勢差異は「肩甲骨の向き(外旋オリエンテーション)」に集中していた(位置の絶対的変位ではなく向きの問題)
- 麻痺側PSSP患者で能動的挙上が120°に達したのはわずか2名
✅ 結論と限界
PSSP患者では麻痺側・非麻痺側両肩の肩甲骨外旋増強・可動性低下という特徴的な運動学的パターンが確認された。PSSPのない患者はより多くの肩の筋肉をコントロールでき、PSSPを引き起こすメカニズムをより良く補償できる。ただし本研究は横断観察研究のため、肩甲骨外旋がPSSPの原因なのか結果なのかの因果関係は確立されていない。縦断的介入研究が今後の課題。
Niessen 2008 から導かれる4つの臨床的含意
① Scapula settingの最優先化:肩甲骨の「向き(外旋の増強)」が問題の核心です。前鋸筋・僧帽筋下部を活性化させ、肩甲骨を正しい方向にコントロールするscapula setting訓練が疼痛予防・改善の主要ターゲットになります。
② 非麻痺側への介入も検討:PSSP患者では「非麻痺側」にも肩甲骨外旋増強が観察されました。過剰な代償運動パターンが全身の運動戦略に影響していることを示唆しており、体幹・全身的な姿勢アライメントの評価・介入も重要です。
③ 「位置」より「向き」に注目した評価を:肩甲骨の評価では絶対的な位置(プロトラクション/リトラクション)ではなく「外旋オリエンテーション」に着目することが本研究の示唆です。評価ルーティンに肩甲骨外旋の視診・触診を組み込んでください。
④ 因果関係は未確立:本研究は横断研究であり、「肩甲骨外旋 → PSSP」なのか「PSSP → 肩甲骨外旋」なのかは不明です。介入研究のエビデンスが蓄積されるまでは「有望な介入ターゲット」として位置づけることが適切です。
📹 関連動画:脳卒中後の肩評価・介入
脳卒中後の肩関節評価の実際
脳卒中後の肩へのアプローチ
脳卒中後の寝返りと肩の疼痛
脳卒中当事者の声と解決策
持続的な痛み
「肩の痛みがいつもあり、生活が思うように楽しめない。毎日が辛く、何をするにも痛みが伴います。」
可動性の制限
「肩や腕がうまく動かせなくて、着替えや入浴、食事さえ一苦労。自分の体が思うように動かないのがもどかしいです。」
筋力低下・不安定感
「肩の力が出なくて、腕が思うように使えない。不安定で、ちょっとしたことでぐらついてしまいます。」
腫れと灼熱感(肩手症候群)
「肩から手まで腫れて、触れただけで痛い。常に火照った感じがあり、手の使い方にも影響が出ています。」
動くのが怖い(運動恐怖)
「一度痛い思いをしてから、肩を動かすのが怖くなりました。わかっていても、動かせないんです。」
感情的ストレス・うつ
「痛みと制限で精神的にも限界です。リハビリに行くのも辛く、何もかもが嫌になってきました。」
セルフケア・自主トレーニング ― 退院後も続けられる運動
以下の自主トレーニングは、医師・理学療法士・作業療法士の指導のもとで行ってください。疼痛が出た場合は即中止し、担当の療法士に相談してください。
⚠️ セルフトレーニング実施前の確認事項
① 必ず医師・担当療法士の指示を受けてから開始してください。② 全ての運動は「無痛域内(pain-free range)」で行います。少しでも痛みが出たら止めて報告してください。③ 痙縮が強い場合・CRPS急性期(手が赤く腫れている時)は自己判断で行わないでください。
Scapula setting(座位)
椅子に浅く座り、背筋を伸ばします。両肩を少しだけ「後ろ・下」に引くイメージで肩甲骨を動かし、5秒保持。10回×3セット。鏡を見ながら行うと正しい動きを確認しやすい。
振り子運動(Codman体操)
テーブルに健側の手をつき、上体を軽く前屈。患側の腕を力を抜いて下に垂らし、体ごと小さく前後・左右に揺れて腕を振り子のように動かす。1〜2分。痛みがある方向は避ける。
健側介助による患側ROM訓練
仰向けになり、健側の手で患側の前腕を支えます。ゆっくりと天井に向かって腕を持ち上げ、無痛の範囲で止める。10回。患側に力を入れようとせず、健側でそっと持ち上げるのがポイント。
手指の握り・開き(浮腫管理)
腕を心臓より高い位置に挙げた状態で、手指をゆっくり大きく開いて、ゆっくり閉じる。20〜30回。朝起きた時・入浴後・リハビリ前後に行うと浮腫の予防・軽減に効果的。
肩甲骨の挙上・下制(座位)
椅子に座り、両肩をゆっくり耳に近づけるように持ち上げ(挙上)、次にゆっくり下へ下げる(下制)。各10秒保持・10回。肩甲骨周囲の血流促進と筋の柔軟性維持に有効。
壁への圧縮(前鋸筋活性化)
壁に向かって立ち、患側の手のひらを壁に当てます(肘は軽く曲げる)。ゆっくり壁を押す(押し込む)力を5秒間かけて保ち、力を抜く。10回。前鋸筋を活性化し、肩甲骨の安定性を高めます。療法士に正しい肢位を確認してから行うこと。
臨床ケース・私見 ― STROKE LABの現場から
📋 症例:田中さん(72歳・男性)右中大脳動脈梗塞後 発症5週・左上肢弛緩性麻痺
発症5週。左上肢Brunnstrom Stage Ⅱ(わずかな随意運動あり)。肩関節:安静時NRS 4/10、動作時(外転)NRS 7/10。指横指法:坐位スリングなしで2横指の亜脱臼確認。MAS:肩内転筋群 MAS 1+。ROM肩外転70°(疼痛出現)。SPADI:68/100点(重度機能障害)。PHQ-9:8点(軽度うつ傾向)。
| 評価項目 | 結果 | 解釈と対応 |
|---|---|---|
| NRS(安静時) | 4/10 | 中等度。日常生活に支障。鎮痛薬の適否を医師に確認 |
| NRS(動作時外転) | 7/10 | 重度。pain arc 70°超は禁忌。ROM訓練の目標を60°以下に設定 |
| 亜脱臼(指横指法) | 2横指(スリングなし) | スリング適応。FES開始を医師にリクエスト |
| MAS(肩内転筋) | 1+ | 軽度痙縮。ポジショニング+ストレッチで対応可能段階 |
| ROM 肩外転 | 70°(疼痛あり) | 関節包拘縮・インピンジメント疑い。Pain-free rangeは60°まで |
| 肩甲骨外旋 | 外旋増強(健側比) | Niessen 2008パターンと一致。Scapula setting最優先 |
| SPADI | 68/100点 | 重度機能障害。多職種カンファレンスで目標共有 |
| PHQ-9 | 8点 | 軽度うつ傾向。経過観察・必要に応じて精神科連携 |
介入計画と実際:
① ポジショニング統一(入院当日):臥位・坐位・車椅子での上肢サポートを看護師・OT・家族で統一。腋窩支持の介助を即時禁止。② FES開始(医師オーダー翌日):棘上筋・三角筋への表面電極刺激を実施。亜脱臼の経過をX線で追跡。③ Scapula setting(週3回・PT):鏡前での肩甲骨下制・前鋸筋活性化練習を毎回の訓練に組み込み、自主練習を指導。④ Pain-free ROM(60°以下):振り子運動・健側介助による他動ROM。70°超の強制的ROM訓練は禁止。⑤ 2週後再評価:MAS 2以上への増悪があればボツリヌス療法を医師にリクエスト。⑥ PHQ-9フォロー:2週後に再実施し、10点を超えた場合は精神科連携を提案。
私見・明日への臨床アイデア
臨床では、肩の痛みがあると患側肢が不使用になっている患者は多い。また、療法士も患者と一緒に肩の痛みに固執し始め「共倒れ」になるケースも少なくない。まず「痛みの原因を特定する評価プロセス」を踏まずに、漫然と同じアプローチを続けることが最も避けるべき落とし穴だと感じる。
自身の上肢の重みをコントロールできる基礎筋出力とweaknessの改善は重要。その筋出力を正しく発揮できる筋の長さや姿勢(肩甲骨のオリエンテーション)の改善も当然必要ではあるが、コントロールまでしっかり介入してその日のセラピーを終えたい。疼痛管理は「その日の問題を管理する」のではなく、「明日の疼痛増悪を防ぐ」という視点で組み立てることが長期転帰を改善する。そしてkinesiophobiaが芽生え始めたら、運動療法より先に疼痛教育(PNE)を届けることが患者の長期的な自立につながると感じている。
金子 唯史 STROKE LAB代表・作業療法士
よくある質問(FAQ)
脳卒中後の肩の痛みはいつ頃から発症しますか?
重要なのは、「どの時期に現れた疼痛でも、すぐに原因を評価して介入を開始する」ことです。「急性期は仕方ない」と放置した期間が慢性化・機能障害の温床になります。リスクのある患者全員に予防的なポジショニング・FES・教育を早期から行うことが最善です。
スリング(吊り帯)は常に使った方がいいですか?
臥位では不要(血行障害・皮膚障害リスク)。歩行練習中の常時使用は原則として推奨されない(正常な体幹・肩甲帯の運動パターンを妨げる可能性、また腕振りの欠如が歩行バランスに影響する)。スリングへの依存が長期化すると上肢機能回復の機会を逸する可能性があります。
また、「肩甲帯を過度に挙上させるタイプのスリング」は僧帽筋上部の過緊張を招き、逆に疼痛を悪化させることがあります。上腕骨頭を適切に支持しながら肩甲帯のアライメントを保てるデザインを選択し、PTとOTが連携して「いつ使うか・いつ外すか・いつ卒業するか」の明確な指針を設定することが推奨されます。
ボツリヌス毒素注射(ボトックス)の正確な適応と注射部位を教えてください。
主な注射ターゲット筋(肩の内転・内旋を起こす主要筋):
・肩甲下筋(最も重要な内旋筋)
・大胸筋(胸部・鎖骨部)
・広背筋
・大円筋
なお三角筋後部は通常ターゲットにはなりません。三角筋後部は肩の外旋・伸展に働く抗重力筋であり、ここに投与すると亜脱臼が悪化するリスクがあります(Wilson & Chae 2015)。
効果は投与後4〜6週で発現し、3〜4か月持続します。MAS 2以上で保存療法に反応しない場合が一般的な適応の目安です。注射後は「ウィンドウ期間」を最大限活用してROM訓練・機能訓練を集中的に実施することで効果が最大化します。単なる「痙縮を落とす処置」ではなく、その後のリハビリの質を高めるための「土台づくり」として位置づけることが重要です。
肩手症候群(CRPS Ⅰ型)の早期サインと予防を教えてください。
① 手指や手背の浮腫(特に朝起きた時に悪化)
② 手や手首の皮膚の発赤・熱感
③ 軽く触れただけで激しく痛む(アロディニア)
④ 発汗の異常(過剰発汗または無汗)
⑤ 手指の動きが急速に制限されてきた
予防の要点:
① 患側上肢の長時間下垂位放置を避ける(坐位・立位では前腕を支持)
② 患側への点滴・採血を回避する(穿刺が浮腫・神経刺激の引き金になりうる)
③ 早期の手指自動運動(握り・開きを発症早期から毎日実施)
④ 外傷の徹底回避(感覚障害で熱傷・擦傷に気づかない。保護グローブ・温度への注意指導)
⑤ CRPSの早期徴候が出たら速やかに医師に報告し、コルチコステロイド・星状神経節ブロックを検討
CRPS Ⅰ型はⅠ期に適切に対処すれば転帰は比較的良好ですが、Ⅱ期・Ⅲ期に進行すると機能回復が大幅に制限されます。「怪しいと思ったら即報告」という意識を全スタッフで共有することが重要です。
家族や介護者が絶対に避けるべき「NG介助」は何ですか?
① 腋窩(脇の下)を持って引き上げる:上腕骨頭・腱板・関節包・腋窩神経に過大なストレスを与え、疼痛・損傷の直接原因になります。移乗・起き上がり介助は必ず胴体(体幹)を支えます。
② 手首・前腕だけを掴んで牽引する:関節包・神経・血管への過伸展ストレスが生じます。上肢全体を「面」で支えるか、健側を活用した介助に切り替えます。
③ 「リハビリになるから」と痛みを無視して動かす:善意による強制的な可動域拡大は腱板損傷・異所性骨化・疼痛悪化を招きます。Pain-free rangeを守ることを家族にも必ず共有します。
これらのNG介助は入院中にシミュレーション形式で家族に体験してもらうことが最も効果的です。「やってみて、評価者が確認して、フィードバックする」という実技教育プロセスが、口頭説明のみより定着率が大幅に高まります。
退院後・生活期でもNIHSSやPSSP評価は続けますか?
生活期では、SPADI(患者立脚型アウトカム)が疼痛と機能の変化を追跡するのに適しています。外来リハビリでは4〜8週ごとにSPADI・NRS・MAS・ROMを再評価し、ボツリヌス療法の再投与時期・スリング卒業の可否・追加介入の必要性を判断します。
重要なのは、「肩が痛くなくなったからもう終わり」ではなく、再発予防・機能維持のための定期モニタリングを継続することです。PSSP は再燃しやすく、特に外来・在宅での活動量増加に伴って亜脱臼が再出現したり、痙縮が増悪したりするケースがあります。
参考文献・引用文献
- 1) Niessen M et al. Kinematics of the contralateral and ipsilateral shoulder: a possible relationship with post-stroke shoulder pain. J Rehabil Med. 2008;40(6):482-6. PubMedへ
- 2) Chae J et al. Neuromuscular electrical stimulation for upper extremity motor and functional recovery in acute hemiplegia. Stroke. 2005;36(6):1240-6.
- 3) Linn SL et al. Functional electrical stimulation in hemiplegic upper limb spasticity. Clin Rehabil. 1999;13(4):327-37.
- 4) Roy CW et al. Shoulder pain in acutely admitted hemiplegics. Clin Rehabil. 1994;8(4):334-340.
- 5) Kong KH et al. Botulinum toxin injections for shoulder pain in stroke patients with spasticity: a randomized controlled study. J Rehabil Med. 2016;48(2):164-7.
- 6) Adey-Wakeling Z et al. Incidence and associations of hemiplegic shoulder pain poststroke: prospective population-based study. Arch Phys Med Rehabil. 2015;96(2):241-7.
- 7) Price CIM et al. Shoulder pain after stroke: a systematic review. Clin Rehabil. 2001;15(4):379-393.
- 8) Wilson RD, Chae J. Hemiplegic shoulder pain. Phys Med Rehabil Clin N Am. 2015;26(4):641-655. 【ボツリヌス療法の注射ターゲット筋の記述根拠】
- 9) Harden RN et al. Proposed new diagnostic criteria for complex regional pain syndrome. Pain Med. 2007;8(4):326-331. 【Budapest CRPS診断基準の改訂版出典】
- 10) Harvey LA et al. Stretch for the treatment and prevention of contracture. Cochrane Database Syst Rev. 2017;1:CD007455. 【ストレッチ単独の痙縮改善効果の限界】
- 11) Codman EA. The Shoulder: Rupture of the Supraspinatus Tendon and Other Lesions in or about the Subacromial Bursa. Boston: Thomas Todd; 1934. 【Codman体操(振り子運動)の原典】
- 12) 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画. 2021.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)