パーキンソン病で温泉に入りたい|原因と対策・自宅でできる工夫
湯船は敵じゃない、段取りが味方です。
好きだった温泉旅行が、いつからか「行くのが不安」に変わった――。濡れた床でのすくみ足、浴槽をまたぐ動作、着替えの時間、立ちくらみなど、入浴を遠ざける理由は、実はいくつも重なっています。原因を分けて考え、今日から自宅の浴室でできる練習を積んでおくことで、また湯船に浸かる楽しみを取り戻せます。

温泉が、「遠い存在」になった。
昔は毎年のように温泉旅行を楽しんでいたのに、いまは「濡れた床で転んだら」「脱衣所で着替えに時間がかかって迷惑をかけたら」「湯船に入るときにふらついたら」と、行く前から心配ごとが浮かんでしまう――。楽しみだった場所が、いつのまにか不安の対象になった、という声をよく聞きます。
でも、知ってほしいのです。不安の中身を分けて考えれば、自宅の浴室でできる準備がちゃんとあります。
入浴は、着替え・歩行・またぎ動作・立ち座り・体温の変化など、さまざまな動作と体の反応が短時間に連続する場面です。パーキンソン病の症状は一人ひとり異なるため、「何が入りにくさにつながっているのか」を分けて考えることが、対策の第一歩です。まずは背景を整理し、次の章から具体的な準備の仕方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
入浴を難しくする、複数の原因。
パーキンソン病で温泉・入浴をためらう背景には、動作面・バランス面・自律神経の面・環境面など、いくつかの原因が重なっていることが多くあります。それぞれ性質が異なるため、混同せずに見ていきましょう。
| 原因 | どういうことか |
|---|---|
| 濡れた床でのすくみ足 | 脱衣所から浴室への境目、滑りやすいタイルの上で足が止まりやすくなる |
| 浴槽をまたぐ動作の難しさ | 片脚立ちとバランス保持が同時に必要で、動作緩慢や姿勢反射の低下で難しくなる |
| 起立性低血圧 | 温かい湯船から急に立ち上がると、血圧の変化でふらつきやすい |
| 体温調節のしにくさ | 自律神経の変化で発汗の調整がしにくく、のぼせやすいことがある |
| 着替えの動作緩慢 | ボタンや帯など、細かい手指の動作に時間がかかりやすい |
| 慣れない環境への不安 | 手すりの位置や段差がわからない場所では、緊張から動作がより硬くなりやすい |
こうして分けてみると、対策も一つに絞らず、いくつかの方向から用意しておくのが現実的だとわかります。次の章では、その具体的な練習方法を見ていきましょう。

STROKE LABの視点:自宅の浴室で行う3ステップ練習。
温泉そのものの環境は、その場でコントロールしきれません。けれど、当日に使う「またぐ動作」「立ち座り」「着替えの手順」は、自宅の浴室でリハーサルできます。3つのステップで整理しましょう。
ステップ1:またぎ動作のリハーサル。自宅の浴槽の縁で、壁や手すりに手を添えながら、片脚を大きく上げてまたぐ練習をします。「いち、に」と声に出しながら行うと、動きが止まりにくくなります。慣れないうちは、椅子の座面などで低い高さから練習しても構いません。
ステップ2:ゆっくり立ち上がる練習。湯船や椅子に座った状態から、いったん一呼吸置いてから、手すりや壁を使ってゆっくり立ち上がる動作を繰り返します。急に立たない習慣を、体に覚え込ませることが目的です。
ステップ3:着替えの時間を計る練習。当日と同じ服装で、実際に着替えにかかる時間を計っておきます。どの動作に時間がかかるかがわかれば、当日の見通しが立ち、焦らず取り組めます。
3つのステップは、どれも自宅の浴室・脱衣所という慣れた環境でできます。大切なのは、当日ぶっつけ本番にせず、「これは練習した動きだ」という安心感を先に作っておくことです。合う練習の頻度や強さは人それぞれなので、作業療法士と一緒に調整すると近道です。

当日の工夫と、持ち物。
練習に加えて、当日ちょっとした準備をしておくと、気持ちの余裕がぐっと変わります。「無理をしない選択肢」をあらかじめ用意しておくのがポイントです。
滑りにくい足裏のバスマットや、持ち運べる滑り止めシートを用意すると安心です。手すり付きの貸切風呂や、段差の少ないバリアフリー浴室があるかどうかを事前に施設へ確認しておくと、選択肢が広がります。長湯は避け、湯船に入る時間をあらかじめ決めておきましょう。水分補給を忘れずに、休憩できる椅子の位置も確認しておくと安心です。着脱しやすい服を選び、必要であれば介助してくれる家族やスタッフに一言伝えておくと、当日の気持ちが楽になります。動きやすい体を保つため、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

パーキンソン病の方を対象に、立ち座りやまたぎ動作など生活に近い動きを繰り返し練習する機能的訓練を検証した研究では、こうした課題特異的な練習を行った群で、日常生活動作の自立度やバランス能力の指標が改善したと報告されています。
限界:研究ごとに練習内容や期間には幅があり、入浴動作そのものを対象にした研究ではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。動作練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での練習が、当日を乗り切るためのその場しのぎの準備だとすれば、専門施設で目指すのは、バランス能力や動作の余裕そのものを底上げする回復的アプローチです。入浴動作への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. バランス・片脚立位の訓練。またぎ動作の土台となる片脚での重心保持や、姿勢反射の働きを、段階的な負荷で鍛えていきます。
2. 環境に応じたキューイング訓練。タイルの継ぎ目や色の変化など、実際の浴室に近い環境を想定し、すくみ足への合図の使い方を練習します。
3. 自律神経に配慮した運動負荷の調整。血圧や体温の変化を踏まえ、無理のない範囲で動作の持久性を高める練習を組み立てます。
STROKE LABが軸足を置くのは、生活に近い動作課題を繰り返し、成功体験を積みながら、余裕を持って行える動きの幅を広げていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病の方を対象に、バランス能力に焦点をあてた運動プログラムを検証したメタ分析では、バランス訓練を行った群で、姿勢の安定性や転倒への恐怖感の指標に改善がみられたと報告されています。
限界:複数の研究をまとめた分析であり、プログラムの内容や期間には幅があります。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。バランス訓練は転倒のリスクをゼロにするものではなく、環境調整とあわせて行うことが大切です。
脳リハ.comのYouTubeでは、バランス能力を高める体操を配信しています。またぎ動作の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その人が「入りにくい」と感じる具体的な場面(またぎ動作、立ち座り、着替え、体温の変化など)を一緒に確認し、優先順位をつけて練習を組み立てます。「実際に困っている場面」を練習の題材にすることで、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、入浴中や浴室でのふらつき・転倒が増えてきた、のぼせやすさが強くなってきた、動きにくい時間帯が長くなってきた、といったときです。入浴のためらいには、症状以外の要因が重なっていることもあります。気になるときは自己判断せず、神経内科・主治医に相談してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。
よくある質問。
Q. 温泉に入りたいのに、億劫になってしまうのはなぜですか?
Q. 濡れた床で足がすくんでしまいます。対策はありますか?

Q. 浴槽をまたぐ動作が不安です。練習方法はありますか?
Q. のぼせやすい、あるいは体温調節が心配です。気をつけることはありますか?
Q. 着替えに時間がかかって、周りに気を遣ってしまいます。工夫はありますか?

Q. 自宅での練習だけで十分ですか?
入浴の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている入浴の場面を一緒に確認し、またぎ動作・立ち座り・着替えの練習を、その人に合わせて組み立てます。温泉旅行や日帰り入浴など、実際の場面を目標にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
一緒に取り戻しましょう。

好きだった温泉を「もう行けないかもしれない」とあきらめかけている方に、これまで多く出会ってきました。転ぶかもしれない、迷惑をかけるかもしれない――そんな不安が、楽しみを奪ってしまうのはとてもつらいことです。
お伝えしたいのは、浴槽をまたぐ動作も、着替えの手順も、自宅で繰り返し練習すれば、驚くほど落ち着いて行えるようになるということです。段取りを味方につければ、また湯船に浸かる喜びは戻ってきます。
入浴でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを目標に、その方に合う準備を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。入浴のためらいには複数の原因が関わります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月20日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Tomlinson CL, et al. Physiotherapy versus placebo or no intervention in Parkinson’s disease. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(9):CD002817.(課題特異的な機能訓練で日常生活動作の自立度・バランス能力が改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Shen X, et al. Effects of exercise on falls, balance, and gait ability in Parkinson’s disease: a meta-analysis. Neurorehabil Neural Repair. 2016;30(6):512-527.(バランス訓練により姿勢の安定性・転倒への恐怖感の指標が改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)