パーキンソン病でやる気が出ない|原因と対策・自宅でできる工夫
「なんとなく」は敵、「きっかけ」は味方です。
何もする気になれない。それはパーキンソン病でみられるアパシー(意欲低下)かもしれません。怠けているのではなく、脳の症状として起こっていることがあります。自分からは動き出せなくても、具体的なきっかけがあれば動けることが多い——このしくみと、今日から自宅でできる工夫を整理します。

「怠けている」わけではない。
以前は好きだったことにも、誘っても「別にいい」と答えるだけ。テレビの前でぼんやりしている時間が増え、家族はつい「怠けている」「やる気がない」と感じてしまう——。本人自身も、なぜ動く気になれないのか、うまく説明できないことがあります。
でも、知ってほしいのです。これはアパシーというパーキンソン病の症状で、声のかけ方と生活の組み立て方を変えるだけで、動き出しやすくなるということを。
パーキンソン病では、興味や関心、自分から動き出そうとする気持ちがわきにくくなるアパシーがみられることがあります。震えや動作緩慢のような運動症状と同じく、意欲に関わる脳の働きの変化が背景にあると考えられており、本人の性格や気持ちの弱さの問題ではありません。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な関わり方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
アパシーのしくみと、様々な原因。
アパシーは、ひとつの原因だけで起こるわけではありません。脳の回路・薬のタイミング・気分の状態・周囲の関わり方が、重なり合って影響します。特徴を整理しておきましょう。
| 特徴・原因 | どういうことか |
|---|---|
| 意欲に関わる脳回路の変化 | 運動症状と同じく、ドパミンが関わる脳の回路(意欲・行動の開始に関わる部位)の働きの変化が背景にあると考えられている |
| 自分からは動けないが、誘われれば動ける | 自発的に始めるのは苦手でも、具体的な声かけやきっかけがあると行動できることが多い |
| 薬の効果が切れる時間帯と連動することがある | 動作緩慢と同じく、薬の効き目が弱まる時間帯(オフの時間)に意欲の波が強まることがある |
| うつ病を伴わないこともある | 悲しみや絶望感を伴わずに、意欲だけが低下することがある。うつ病を合併している場合もあり、見分けが必要 |
| 周囲の関わり方が悪循環を生むことがある | 「怠けている」と誤解され責められることで、本人がさらに動きにくくなることがある |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。自発的な「やる気」が出るのを待つのではなく、外から具体的なきっかけを先に用意するという考え方です。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

薬の調整をしても中等度〜重度のアパシーが残る、うつ病や認知症を伴わないパーキンソン病の方を対象にした二重盲検・無作為化比較試験では、アセチルコリンに作用する薬(リバスチグミン)を使った群で、プラセボ群に比べてアパシーの指標がより改善したと報告されています。意欲の低下に、ドパミン以外の神経伝達物質も関わっている可能性を示す結果です。
限界:対象は限定された条件の方であり、より大規模な研究での確認が必要とされています。薬の適応や副作用の判断は主治医の役割で、自己判断で試すことはできません。
STROKE LABの視点:生活を「きっかけ付き」に変える。
アパシーへの対処でいちばん手早く効くのが、「やる気が出たら動く」の順番を、「きっかけを用意してから動く」に入れ替えることです。やる気は行動の後からついてくることも多く、待っているだけでは動き出しにくいのが特徴です。次の3ステップで、生活に具体的なきっかけを増やせます。
ステップ1:時間を決める。「いつか」ではなく「今日の10時」のように、決まった時間に固定します。時計やカレンダー、アラームを目印にすると、時間そのものがきっかけになります。
ステップ2:行動を小さく具体的に分解する。「散歩する」ではなく「玄関まで歩く」「5分だけ庭に出る」のように、達成しやすい一歩に分けます。できたら、その一歩を少しずつ伸ばします。
ステップ3:誘い方を「問いかけ」から「誘い」に変える。「散歩する?」だと、答えは「別にいい」で終わりがちです。「10時に一緒に散歩に行きましょう」のように、具体的な誘いの形にすると応じやすくなります。
好きだった活動を、まったく同じ形で再開する必要はありません。小さく分解した一歩から始め、できたことを一緒に認めていくのがコツです。合う時間帯やきっかけの種類は人それぞれなので、作業療法士と一緒に調整すると近道です。運動を組み合わせるなら体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

自宅での工夫が、その場で動き出すためのきっかけの活用だとすれば、専門施設で目指すのは、行動そのものが生活の中に根づき、きっかけが少なくても続けられる状態に近づける行動活性化アプローチです。アパシーへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 生活場面の分析。いつ、どんな場面で動きにくいのかを具体的に確認し、服薬タイミングとの関連も含めて整理します。
2. 行動活性化と成功体験の積み上げ。小さく達成できる行動から始め、できたことを一緒に確認しながら、少しずつ活動の幅を広げます。
3. 家族への関わり方のコーチング。声かけの言葉や誘い方を一緒に見直し、家族が抱え込みすぎない関わり方を組み立てます。
STROKE LABが軸足を置くのは、本人を責めず、行動のきっかけを一緒に設計し、成功体験を積みながら少しずつ生活の幅を広げていくという流れです。効果には個人差があり、うつ病の有無など背景によっても対応は変わります。薬の判断は主治医の役割です。
うつ病を合併するパーキンソン病の方を対象に、運動と自己管理プログラムを組み合わせた無作為化比較試験では、気分の落ち込みの指標は有意に改善した一方で、アパシーの指標そのものには大きな変化がみられなかったと報告されています。
限界:対象は30名と小規模です。この結果は、うつ病への対応とアパシーへの対応は別物として考える必要があることを示しており、運動だけに頼らず、きっかけの設計や声かけの工夫を合わせて行うことの意味を裏づけています。
声かけと、自宅でできる工夫。
ステップを日々の暮らしに落とし込むと、次のような工夫になります。「なんでやらないの」を手放し、「一緒に、この時間に」に置き換えるのが基本の考え方です。
同じ活動を同じ時間に繰り返すルーティン化は、決断そのものの負担を減らします。朝の身支度、午後の水やり、夕方の散歩など、決まった時間割にしておくと、その都度「やるかどうか」を考えずに済みます。行動をチェックリストにして、できたら印をつけるのも、小さな達成感につながります。誘うときは、開いた質問ではなく、時間と場所を含めた具体的な誘いにしましょう。そして何より、本人を責める言葉を避けること。責められることで動きにくさが強まる悪循環は、家族にとってもつらいものです。家族だけで抱え込まず、専門家に相談する場を持つことも、この工夫の一部です。

脳リハ.comのYouTubeでは、決まった時間に一緒に取り組める体操を配信しています。行動のきっかけとして、時間を決めて習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その人が動きにくいと感じる場面や時間帯を一緒に確認し、きっかけの種類・声かけの言葉・生活の時間割を、その人に合わせて調整します。「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは行動と生活の側から支えます。
受診の目安は、悲しみや絶望感、自分を責める気持ちを伴う場合、意欲低下が急に強まった場合(特に薬を減らした直後)、物忘れなど認知面の変化を伴う場合です。アパシーとうつ病は見分けが難しいことがあり、両方が重なっている場合もあります。様子を見るだけでなく、変化に気づいた時点で神経内科・主治医に伝えてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 何もする気になれないのは、怠けているのでしょうか?
Q. アパシーとうつ病は、どう違うのですか?

Q. 自分から誘っても断られてしまいます。どう声をかければよいですか?
Q. アパシーは薬やリハビリで良くなりますか?
Q. 急にやる気が出なくなった場合も、様子を見てよいですか?
Q. 家族はどう接すればよいですか?
意欲の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている生活場面を一緒に確認し、きっかけの設計・声かけの言葉・時間割を、その人と家族に合わせて組み立てます。実際の生活場面を題材にするので、練習がそのまま日常に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、行動と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
「一緒に、この時間に」を。

「なんでやらないの」と言ってしまった後、自分を責めるご家族に、たくさん出会ってきました。本人も、なぜ動けないのか自分でもわからず、もどかしさを抱えています。誰も悪くないのに、関係がすり減っていく——それがアパシーのつらさです。
お伝えしたいのは、やる気を待つのではなく、時間を決めて具体的に誘うだけで、動き出せる場面は確かに増えるということです。行動が先、やる気は後からついてくる。それを一緒に体験していただきたいのです。
意欲のことでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。本人だけでなく、ご家族の関わり方も一緒に見直していきます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。意欲の変化には他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月28日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)非運動症状の解説
- Devos D, Moreau C, Maltête D, et al. Rivastigmine in apathetic but dementia and depression-free patients with Parkinson’s disease: a double-blind, placebo-controlled, randomised clinical trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2014;85(6):668-674.(アセチルコリン系への薬理的アプローチでアパシー指標が改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Sajatovic M, Ridgel AL, Walter EM, et al. A randomized trial of individual versus group-format exercise and self-management in individuals with Parkinson’s disease and comorbid depression. Patient Prefer Adherence. 2017;11:965-973.(運動+自己管理プログラムでうつは改善したがアパシー指標は有意に変化しなかったと報告。うつとアパシーの対応を分けて考える根拠として第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)