パーキンソン病で階段の上り下りがこわい|原因と対策・自宅でできる工夫
怖いのは、あなたの気持ちのせいだけではありません。
階段の手前で足が止まる。段差の高さがつかめない。踊り場で体がぐらつく——。パーキンソン病では、階段という場所そのものが足を止まりやすくする条件をいくつも持っています。しくみを知り、今日から自宅でできる安全な工夫を整理します。

「一段目で、足が動かなくなる。」
玄関の上がり框、駅の階段、家の中の踊り場。普段は問題なく歩けているのに、段差を前にすると足が床に貼りついたように動かなくなる。無理に踏み出そうとしてバランスを崩し、それ以来ますます怖くなった——そんな声をよく聞きます。
でも、知ってほしいのです。これはすくみ足という症状で、段差の見え方と動き方を変えるだけで、足が出やすくなる場面があるということを。
パーキンソン病では、階段の前や踊り場で急に足が出なくなるすくみ足がみられることがあります。階段は、段差・方向転換・狭さといった、足を止まりやすくする条件がいくつも重なる場所です。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
階段が、怖くなるしくみ。
階段での怖さには、いくつかの体の変化が重なって関わっています。それぞれのしくみを知っておくと、対処の方向が見えてきます。
| 背景にある変化 | どういうことか |
|---|---|
| すくみ足 | 歩き出しや方向転換、狭い場所、段差の前で急に足が出なくなる |
| 姿勢反射障害 | 体が傾いたときに立て直す反応が遅れ、階段でぐらつきやすい |
| 視空間認知の変化 | 段の奥行きや高さの手がかりが乏しいとき、大きさをつかみにくい |
| 転倒不安の悪循環 | 怖さから体がこわばり、慎重になりすぎて逆に足が出にくくなる |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。段差があいまいで悪化するなら、段差をはっきりさせればよい。急ぐと悪化するなら、一段ずつリズムをつくればよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。
STROKE LABの視点:階段を「目印つき」に変える。
すくみ足への対処でいちばん手早く効くのが、段差に目印(視覚・聴覚のキュー)を足すことです。目印があると、脳が「ここで、これくらいの高さで足を上げる」という手がかりを受け取り、足が出やすくなります。自宅の階段で、次の3ステップで用意できます。
ステップ1:段の縁に色のついたテープを貼る。各段の先端(縁)に、明るい色(黄色・オレンジなど床と対比する色)のテープを貼ります。段差の位置がはっきり見えるだけで、足が出やすくなる方がいます。
ステップ2:一段ごとに号令をかける。「イチ」「ニ」と声に出しながら、一段ずつ進みます。一定のリズムをつくることが、足を止まりにくくするきっかけになります。メトロノームアプリを使うのも一つの方法です。
ステップ3:手すりと明るい照明を必ず用意する。手すりは、姿勢を立て直す助けになります。階段の照明を明るくし、影で段差が見えにくくならないようにします。夜間はセンサーライトなども有効です。
足が止まってしまったときは、無理に力任せに踏み出そうとせず、いったん止まって「イチ、ニ」とリズムを声に出す、その場で足踏みをしてから踏み出す、といった方法で切り替えられることがあります。合う目印の種類や声かけの仕方は人それぞれなので、理学療法士・作業療法士と一緒に調整すると近道です。

動き方と、環境のコツ。
目印を用意したら、動き方と環境の整え方でさらに安全になります。合言葉は「一段ずつ、両足をそろえて、急がない」。慣れないうちは、片足を出したあと、もう片方の足を同じ段にそろえてから次に進む方法が安全です。
環境面では、足元に物を置かない、スリッパよりかかとのある靴やしっかりした室内履きを使う、下りるときは特に照明を明るくする、といった工夫が有効です。荷物を持ちながらの昇降は避け、両手を空けて手すりを使える状態にしておきましょう。体を動かす習慣が姿勢の安定にもつながるため、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。エレベーターやスロープが使える場面では、無理に階段にこだわらず活用するのも賢い方法です。
パーキンソン病の方を対象に、視覚・聴覚・体性感覚の目印(キュー)を使った歩行練習を3週間自宅で行った無作為化比較試験(RESCUE試験)では、キューを使った練習を行った群で、歩行速度やすくみに関連する移動のしやすさが改善したと報告されています。
限界:これは歩行全般を対象とした研究で、階段のみを対象にしたものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。キューイング練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、目印を足してその場で足を出しやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、姿勢の立て直しや動きの土台そのものを整える回復的アプローチです。階段への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. キューイングの個別化。視覚・聴覚・体性感覚のうち、その人にいちばん響く目印を見極め、階段・方向転換・狭所など場面ごとに使い分けを練習します。
2. 姿勢反射・バランス練習。体が傾いたときに立て直す反応を、安全な環境で繰り返し引き出し、階段でのぐらつきに備える土台をつくります。
3. 段階的な階段練習。手すりや見守りのもと、低い段差から実際の階段の高さへと、成功体験を積みながら段階的に慣れていきます。
STROKE LABが軸足を置くのは、キューで安全な動きを引き出しながら、姿勢とバランスの土台を育て、少しずつ目印なしでも上り下りできる場面を増やしていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。


脳リハ.comのYouTubeでは、バランスと下肢の体操を配信しています。階段の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その人がどんな場面で足が止まりやすいか、どこで怖さを感じるかを一緒に確認し、目印の種類、声かけ、手すりの使い方、練習する階段の高さを、その人に合わせて調整します。自宅の実際の階段を題材にすると、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活の側から支えます。
受診・相談の目安は、階段で実際に転んだ、転びそうになる回数が増えた、階段を避けて生活の範囲が狭まってきた、といったときです。足が止まる・ふらつく原因はすくみ足だけとは限りません。血圧の変動やほかの病気が関わることもあるため、自己判断せず、神経内科・主治医に相談してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 階段の手前で足が止まってしまうのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 階段が怖いと感じるのは気持ちの問題ですか?
Q. 自宅でできる階段の工夫はありますか?

Q. 階段でのすくみ足は運動やリハビリで良くなりますか?
Q. エレベーターやスロープを使えば階段は避けてもよいのでは?
Q. 階段のすくみ足と、平地で歩いているときのすくみ足は同じものですか?
階段の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている階段の場面を一緒に確認し、目印の種類・声かけ・手すりの使い方・練習する高さを、その人に合わせて組み立てます。自宅の実際の階段を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
足は動き出します。

階段が怖くなると、外出そのものが減り、生活の範囲がどんどん狭まってしまいます。「もう二階には上がれないかもしれない」と、あきらめかけている方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、段差に色をつけ、リズムをつくるだけで、足が驚くほど動き出すことがあるということです。目印を味方につけ、一段ずつ、両足をそろえて。ちょっとした工夫で、安心して上り下りできる場面はまだまだ広がります。
階段でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う動き方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。足の止まりやすさ・ふらつきには他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月13日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅での視覚・聴覚・体性感覚キューを用いた歩行練習が、歩行速度やすくみに関連する移動のしやすさを改善したと報告。第4節・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)