進行性核上性麻痺(PSP)とパーキンソン病の違い|転倒と眼球運動から見分ける
後ろに倒れやすい、下が見にくい。
パーキンソン病と診断されたのに、なぜか早い時期から転びやすい。下を見るのが苦手になってきた——。それは、進行性核上性麻痺(PSP)という、似ているけれど別の病気のサインかもしれません。違いの見分け方と、転倒を防ぐ生活の工夫を整理します。

「様子が違う」、その違和感。
パーキンソン病の薬を飲んでいるのに、あまり効いている感じがしない。震えよりも、転びやすさや体の硬さが目立つ。特に、振り向いたときや椅子に座ろうとしたときに、後ろにドスンと倒れることが増えた——。そんなご相談を受けることがあります。
こうした経過は、進行性核上性麻痺(PSP)という、パーキンソン病と似ているけれど別の病気の可能性を含んでいます。
PSPは、パーキンソン病と同じように動きが硬くゆっくりになる病気ですが、原因になる脳の変化や、症状の出方には違いがあります。特にはっきりした違いとして知られているのが、転倒の出方と、目の動きです。この記事では、この2点を軸に違いを整理し、今日からできる転倒予防の工夫をお伝えします。パーキンソン病全体のリハビリについてはリハビリ完全ガイドにまとめています。
PSPとパーキンソン病、何が違うか。
どちらも、動きが乏しくなる「パーキンソニズム」と呼ばれる状態を示しますが、現れ方の順番や強さに違いがあります。代表的な違いを整理します。
| パーキンソン病 | PSP(進行性核上性麻痺) |
|---|---|
| 転倒は経過の後半に目立ちやすい | 転倒は発症から早い時期、特に後方への転倒が目立つ |
| 目の動きは比較的保たれる | 特に下を見る動きが乏しくなりやすい |
| 左右どちらかから始まることが多い | 比較的、体の両側に同じように出やすい |
| 姿勢は前かがみになりやすい | 首がそり、体が後ろに傾きやすい |
| 表情が乏しくなる(仮面様顔貌) | まぶたが開いたまま、驚いたような表情になりやすい |
| L-ドパの薬がよく効きやすい | L-ドパの効果がはっきりしない、続きにくいことが多い |
これらはあくまで傾向であり、全員に当てはまるわけではありません。実際の診断は、こうした特徴に加えて、専門的な診察や検査を組み合わせて総合的に行われます。次の章では、ご家族が日常生活の中で気づきやすい3つのサインに絞って、もう少し具体的に見ていきます。

STROKE LABの視点:見分ける3つのサイン。
診断は専門医の領域ですが、ご家族が日常生活の中で気づける手がかりはあります。次の3つのサインが重なって見られるときは、受診の際に医師へ具体的に伝えることをおすすめします。
サイン1:後ろに倒れる。振り向いたとき、椅子に座ろうとしたとき、後ろのものに手を伸ばしたときに、後方へバランスを崩しやすい。発症から1〜2年程度と、比較的早い時期から見られることがあります。
サイン2:下が見にくい。階段の下りや、食事のお皿、床に置いたものを見るのを苦手そうにしている。目だけでなく、頭ごと動かして見るような様子が増える。
サイン3:首がそり、驚いたような表情になる。背筋が伸びて後ろに反るような姿勢になり、まぶたが開いたまま、驚いたように見える表情が増えてくる。
この3つは、どれか1つだけでは判断材料になりません。複数が重なって、しかも比較的早い時期から出ているときに、PSPの可能性を含めて確認する意味が出てきます。気づいたときは、いつ頃からか、どんな場面で起きたかをメモしておくと、診察がスムーズになります。

転倒を防ぐ、生活の工夫。
PSPの転倒は「後ろ」に起こりやすいという特徴を踏まえると、対策の方向性が見えてきます。合言葉は「視線を先に、体はあとから」です。
振り向くときは、体をひねる前に、まず目と頭を先にゆっくり動かして目的の方向を確認してから、体を動かします。椅子に座るときは、後ろを振り返らずに、手で座面を確かめてからゆっくり腰を下ろします。後ろのものに手を伸ばすのではなく、一度立ち位置を変えて、体の前で取るようにします。環境面では、廊下や部屋の背後に物を置かない、手すりを後方にも設置する、椅子は肘掛けのあるものを選ぶといった工夫が助けになります。運動で体の使い方を整えておくことも土台になるので、体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。
PSPの臨床的な特徴を整理した総説では、発症から早い時期の姿勢反射障害による転倒(特に後方への転倒)と、垂直方向、とりわけ下方への核上性注視麻痺が、パーキンソン病との鑑別における中心的な手がかりとして位置づけられています。
限界:これは臨床的な特徴を整理した専門的な文献であり、診断は個々の経過や検査を踏まえて専門医が総合的に行うものです。特徴が当てはまるからといって、それだけで確定するものではありません。
自宅での工夫が転倒の場面を減らす環境調整だとすれば、専門施設で目指すのは、目の動きとバランス反応そのものを訓練し、崩れにくい体をつくる回復的アプローチです。PSPへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 眼球運動訓練。上下・左右への視線移動を繰り返し練習し、頭を先に動かさなくても目で情報を得られる範囲を少しずつ広げます。
2. バランス・姿勢反応訓練。後方への重心移動に対して、安全な環境の中で繰り返し反応を引き出し、崩れたときに立て直す力を育てます。
3. 動作の組み立て直し。振り向く、立ち上がる、方向転換するといった生活動作を、後方に崩れにくい手順に置き換えて練習します。
STROKE LABが軸足を置くのは、眼球運動とバランス訓練を組み合わせ、安全な環境の中で繰り返し、生活動作に落とし込んでいくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。診断や薬の調整は主治医の役割です。
PSPの方を対象に、眼球運動とバランスを組み合わせた訓練を行った準無作為化比較試験では、歩行速度をはじめとする歩行の指標が改善し、その効果が訓練終了後も一定期間保たれたと報告されています。目の動きへの働きかけが、姿勢やバランスの安定にもつながる可能性を示す結果です。
限界:対象人数は多くなく、効果には個人差があります。進行に伴って変動することもあり、専門的な評価と個別の訓練計画が前提です。運動療法は薬や環境調整の代わりではなく、組み合わせて用いるものです。

脳リハ.comのYouTubeでは、姿勢とバランスを整える体操を配信しています。安全な環境で、無理のない範囲から始めてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、転倒が起こりやすい場面を一緒に振り返り、視線の使い方、動作の手順、環境の調整を、その人の生活に合わせて組み立てます。診断や薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、発症から比較的早い時期に転倒が増えてきた、下を見にくそうにしている、薬の効果がはっきりしない、といった変化が重なってきたときです。気になる変化は自己判断せず、神経内科で確認してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. パーキンソン病と診断されたのに、転びやすいのはなぜですか?
Q. 目の動きの検査は、どのように行われますか?

Q. PSPの転倒は、なぜ後ろに倒れやすいのですか?

Q. PSPにパーキンソン病の薬は効きますか?
Q. リハビリで転倒は防げますか?
Q. PSPとパーキンソン病の違いは、家族でも気づけますか?
転倒予防の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。実際に転倒が起きやすい場面を一緒に確認し、視線の使い方・動作の手順・環境調整を、その人に合わせて組み立てます。診断や薬の調整は主治医を尊重し、私たちは動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
動作分析の視点から、姿勢反射やバランス反応の立て直し方を体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
最初の安心になります。

「パーキンソン病のはずなのに、思っていた経過と違う」——そうした戸惑いを抱えたまま、原因のわからない転倒を繰り返してしまうご家族に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、違いを知ることは、不安を減らす第一歩になるということです。後ろへの転倒、下を見にくい目の動き。そこに気づけたなら、視線の使い方ひとつで、変えられる場面はまだあります。
転倒でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。実際に崩れやすい場面そのものを題材に、その方に合う動き方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。診断は必ず神経内科の専門医にご相談ください(最終確認日:2026年8月11日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:進行性核上性麻痺(指定難病5)
- Williams DR, Lees AJ. Progressive supranuclear palsy: clinicopathological concepts and diagnostic challenges. Lancet Neurol. 2009;8(3):270-279.(早期の後方転倒と垂直方向の核上性注視麻痺を鑑別の中心的特徴と位置づけた総説。sec4・エビデンスボックス①の出典)
- Zampieri C, Di Fabio RP. Balance and eye movement training to improve gait in people with progressive supranuclear palsy: quasi-randomized clinical trial. Phys Ther. 2008;88(12):1460-1473.(眼球運動とバランス訓練の組み合わせで歩行速度が改善し効果が持続したと報告。sec4・エビデンスボックス②の出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)