パーキンソン病と旅行|薬の管理と移動の工夫
薬の乱れは敵、仕組みは味方です。
旅行では生活リズムが崩れやすく、服薬の時間がずれるだけで、動きにくさ(オフ症状)が出やすくなります。薬を「時間で守る」仕組みと、歩きにくい場所で使える合図があれば、旅はぐっと安心になります。今日から準備できる工夫を整理します。

「また、行けるだろうか。」
飛行機の乗り継ぎで薬を飲むタイミングを逃し、空港の広い通路で足がすくんで動けなくなった。荷物を持つ手がふさがって、いつものように歩けない——。旅行のたびに、そんな場面を想像して足がすくむ、という声をよく聞きます。
でも、知ってほしいのです。薬を時間で守る仕組みと、歩きにくい場所で使える合図を持っておけば、旅はぐっと安心になるということを。
パーキンソン病では、薬の効き目に波があり、生活リズムが変わるとその波が大きくなりやすい特徴があります。旅行は普段と違うことの連続で、この波が出やすい場面です。まずはなぜ旅行で乱れやすいのかを知り、そのうえで具体的な備え方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
旅行で薬が乱れやすい、理由。
パーキンソン病の薬、とくにレボドパ製剤は、決まった時間に飲み続けることで、効き目のリズムが保たれるという性質があります。旅行では、そのリズムを崩す要因がいくつも重なります。
| 要因 | どういうことか |
|---|---|
| 生活リズムの変化 | 起床・食事・移動の時間がずれ、服薬時間も後回しになりやすい |
| 慣れない環境 | 人混みや段差、慣れない床ですくみ足が出やすくなる |
| 移動による疲労 | 長時間の移動で体力が落ち、症状の変動が大きくなりやすい |
| 緊張・焦り | 乗り継ぎなどで急ぐと、動きがさらに硬くなりやすい |
ここに、備え方のヒントが隠れています。リズムが崩れやすいなら、崩れにくい仕組みを先に作ればよい。急ぐと動きが硬くなるなら、あらかじめ合図を用意しておけばよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:薬を「時間で守る」仕組み。
旅行中の服薬管理でいちばん効くのは、「覚えておく」から「仕組みで守る」へ切り替えることです。出発前に、次の3ステップで準備しておきましょう。
ステップ1:服薬タイムテーブルを可視化する。スマートフォンのアラームや服薬管理アプリに、移動日を含めた服薬時間をすべて登録します。紙に書いた時間割を、家族や同行者とも共有しておくと安心です。
ステップ2:薬を分散して携帯する。手荷物と預け荷物の両方に薬を分けて入れ、どちらか一方をなくしても困らないようにします。旅程より2〜3日分多く用意しておくと、遅延にも対応できます。
ステップ3:薬の情報カードを携帯する。薬の名前(一般名)・量・服薬時間を書いたカードを財布やパスポートケースに入れておきます。緊急時や現地での受診時に、迅速な対応につながります。
時差のある旅行では、現地時間に合わせるか、日本時間のまま一定間隔を保つかを、出発前に主治医と決めておくことも大切です。自己判断で服薬間隔を大きく変えると、症状の変動につながることがあります。合う方法は人それぞれなので、旅程が決まったらできるだけ早めに相談しておくと近道です。

パーキンソン病患者の服薬アドヒアランス(決められた通りに薬を飲めているか)を調べた研究では、服薬時間の乱れが、運動症状の変動(オン・オフ現象)と関連していたと報告されています。決まった時間に飲み続けることの大切さを裏づける結果です。
限界:日常生活での服薬状況を対象とした研究で、旅行のような特殊な状況を直接検証したものではありません。効果や影響には個人差があり、病期によっても変動します。服薬時間の調整は、必ず主治医の指示に沿って行ってください。
移動と、歩行の工夫。
空港や駅など、人が多く慣れない床の場所では、すくみ足が出やすくなります。合言葉は「焦らず、目印とリズムで歩く」。急いで乗り継ごうとするほど、かえって足が出にくくなることがあります。
足が止まりそうになったら、心の中で「いち・に」とリズムをとる、床のタイルの継ぎ目や線を目印にまたぐ、一歩を大きく踏み出すことを意識する、といった合図が助けになります。荷物は両手が空くキャリーバッグやリュックにまとめ、履き慣れた靴で出かけましょう。空港や駅の車椅子・優先案内サービスは事前予約できることが多く、体力を温存できます。座席は通路側を選び、長時間同じ姿勢が続かないよう、こまめに立って体を動かす休憩も挟んでください。日頃から歩く体力をつけておくことも、旅行を楽にするので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

パーキンソン病患者への外部からの合図(視覚的な目印や、音・リズムによる聴覚刺激など)が歩行に与える影響をまとめた系統的レビューでは、こうした合図によって歩幅や歩く速さなどの歩行パラメータが改善したと報告されています。旅先の慣れない場所でも、目印やリズムを味方につける根拠になる知見です。
限界:多くは屋内の平坦な環境での検証で、空港や駅のような人混みを直接対象とした研究ではありません。効果には個人差があり、症状が強いときは無理をせず周囲のサポートを頼ることも大切です。
自宅でできる備えが一般的な工夫だとすれば、専門施設で目指すのは、その人の症状の出方や旅程に合わせた、旅行仕様の準備です。旅行に向けたサポートは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 個別の合図(キューイング)づくり。視覚・聴覚・体性感覚のうち、その人にいちばん響く合図を見極め、人混みや慣れない床でも使える形に落とし込みます。
2. 服薬スケジュールと活動の同期練習。実際の旅程を想定し、薬の効き目が強い時間帯に移動や観光を合わせる練習を行います。
3. 歩く体力・持久力の底上げ。長距離の移動や立ち続ける場面に耐えられるよう、日常的な運動で体力の土台を整えます。
STROKE LABが軸足を置くのは、実際の旅程を一緒に想定しながら、その人に合う合図とスケジュールを練習し、当日の不安を減らしていくという流れです。効果には個人差があり、症状の程度によって注意点は変わります。服薬スケジュールの最終判断は主治医の役割です。
脳リハ.comのYouTubeでは、歩行の土台となる体操を配信しています。旅行前の準備として、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、出発前チェック。
専門のリハビリでは、旅先で困りそうな場面を一緒に洗い出し、合図の種類や、荷物の持ち方、歩くペースの作り方を、その人に合わせて調整します。「実際の旅程」を練習の題材にすると、当日そのまま活かせます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは移動動作と生活の側から支えます。
出発前には、服薬スケジュールの調整方法、旅行先で症状が強く出たときの対応、必要であれば薬の英文情報や診断書の準備について、主治医に相談しておきましょう。長距離の移動や新しい環境は疲労や症状の変動につながりやすいため、無理のない旅程かどうかも含めて確認しておくと安心です。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. パーキンソン病があっても旅行はできますか?
Q. 旅行中の薬はどう管理すればよいですか?
Q. 時差がある旅行では、薬の時間はどう調整しますか?
Q. 空港や駅で歩きにくくなったときはどうすればよいですか?
Q. 旅行に便利な工夫や持ち物はありますか?

Q. 主治医に旅行前に相談すべきことは何ですか?
旅行前の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困りそうな旅の場面を一緒に確認し、合図の種類・荷物の持ち方・歩くペースを、その人に合わせて組み立てます。実際の旅程を題材にするので、練習がそのまま当日に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、移動動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
旅はまた開かれます。

診断を受けてから、旅行を諦めてしまったという方に、たくさん出会ってきました。薬を飲み忘れたらどうしよう、空港で動けなくなったらどうしよう——その不安は、決して大げさなものではありません。
お伝えしたいのは、薬を時間で守る仕組みと、歩くための合図さえ持っておけば、旅はまた開かれるということです。特別な準備ではなく、少しの段取りと、いくつかの合図。それだけで、行ける場所は広がります。
旅行の予定があるなら、どうぞ一度ご相談ください。旅程そのものを題材に、その方に合う準備を一緒に整えます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。症状の程度や持病によって注意点は異なります。旅行の可否や服薬スケジュールの調整は、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月9日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Grosset KA, Bone I, Grosset DG. Suboptimal medication adherence in Parkinson’s disease. Mov Disord. 2005;20(11):1502-1507.(服薬アドヒアランスの乱れが運動症状の変動と関連したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Rocha PA, Porfírio GM, Ferraz HB, Trevisani VF. Effects of external cues on gait parameters during Parkinson’s disease: a systematic review. Clin Neurol Neurosurg. 2014;124:127-134.(視覚・聴覚の合図が歩行パラメータを改善したと報告した系統的レビュー。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)