パーキンソン病で電話の声が聞き取れないと言われる|発声の工夫
声は、出ています。届き方を、変えるだけです。
電話で「え?」と聞き返される。家族から「もっと大きな声で」と言われる。それはパーキンソン病の音声低下かもしれません。ご本人は普通に話しているつもりでも、呼吸と声の出し方を少し変えるだけで、届く声を取り戻せます。しくみと、今日から自宅でできる発声の工夫を整理します。

「聞こえない」と、言われた。
孫からの電話で「もしもし」と言っても、何度も「え?」「もう一回言って」と聞き返される。家族との会食でも、声が通らず会話に入りづらい。自分では大きな声で話しているつもりなのに——。声が届かなくなる経験は、外出や人と話す気持ちそのものを萎縮させてしまいます。
でも、知ってほしいのです。これは音声低下という症状で、呼吸と話し方を少し変えるだけで、声はぐっと届きやすくなるということを。
パーキンソン病では、声が小さく、こもって、単調になる音声低下(低活動性発声障害)がみられることがあります。声を出す動作は、呼吸と喉・唇の細かい動きが組み合わさった作業で、その動きが少しずつ小さく・弱くなるために起こるのが音声低下です。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
音声低下の、しくみと特徴。
音声低下は、声を出す筋肉や呼吸が小さく・弱くなる動作緩慢の一種です。震えとは別のしくみで起こる点が大切で、混同すると対処を間違えてしまいます。特徴を整理しておきましょう。
| 特徴 | どういうことか |
|---|---|
| 声量が下がる | 息の量と声帯の閉じ方が弱まり、音量そのものが小さくなる |
| 自覚しにくい | 自分の声の大きさを感じ取る感覚も変化し、「いつも通り」と感じやすい |
| 単調・こもった声になる | 抑揚が少なく、かすれたりこもったりして聞き取りにくくなる |
| 場面で強く出る | 電話・雑音の中・長く話す場面など、負荷が高い状況で特に目立ちやすい |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。本人の感覚がずれているなら、外からの手がかりで補えばよい。声量が下がるなら、意図的に「大きめ」を目標にすればよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:「届く声」を取り戻す3つの工夫。
音声低下の対処でいちばん手早く効くのが、呼吸・目標・確認の3つを話す前後に組み込むことです。自分の感覚だけに頼らず、外からの手がかりを使うのがポイントです。次の3ステップで、今日から練習できます。
ステップ1:話す前に、大きくひと呼吸吸う。声は息が動力です。話し始める前に、いつもより大きく息を吸ってから話すだけで、声量が保ちやすくなります。
ステップ2:「大きめ」を具体的な目標にする。「大きな声で」ではなく、「隣の部屋にいる家族に聞こえる声で」のように、届かせたい相手や距離を具体的にイメージして声を出します。
ステップ3:録音して、自分の耳で確認する。スマートフォンで短い会話を録音し、聞き返します。自分の感覚とのズレを知ることが、次に大きな声を出す手がかりになります。
好きな歌を歌う、新聞を音読するなど、楽しく続けられる方法で声を出す機会を増やすのもおすすめです。大切なのは、外からの手がかりを使って「届く声」の感覚を体で覚え、少しずつ自分の中の基準を調整していくこと。合う工夫の種類や強さは人それぞれなので、言語聴覚士や作業療法士と一緒に調整すると近道です。

話し方と、電話でのコツ。
呼吸と目標を整えたら、話し方と電話の使い方でさらに聞き取りやすくなります。合言葉は「大きく吸って、口を開けて、短く区切る」。一文を長くしないことが何より大切です。
話すときは、いつもより口を大きく開け、はっきりと動かすことを意識します。文章は短く区切り、区切りごとに息を吸い直すと、後半で声が消えるのを防げます。電話では、受話器やスマートフォンのマイク部分に口を近づけ、話し始める前に一度大きく息を吸ってから「もしもし」と言うと、最初の一声が届きやすくなります。姿勢を正して座ると、呼吸が入りやすくなり声も出しやすくなるので、体操・自主トレ大全で紹介している姿勢づくりの体操もあわせて活用してください。周囲のご家族は、聞こえないときに「え?」と繰り返すより、「もう少し大きな声で、お願いします」と具体的に伝えると、本人も調整しやすくなります。

パーキンソン病の方を対象にした研究では、実際の声の音量と、本人が感じている声の大きさとの間にズレがみられ、自分では十分な声量で話していると感じやすいと報告されています。これが、周囲から「聞こえない」と言われても本人が気づきにくい理由のひとつと考えられています。
限界:感覚のズレの程度には個人差があり、全ての方に同じように当てはまるわけではありません。声の変化の原因は音声低下以外にもあるため、気になる場合は専門家に確認してください。
自宅での工夫が、その場で声を届きやすくする代償的な方法だとすれば、専門施設で目指すのは、意識しなくても十分な音量が出せる状態に近づける回復的アプローチです。音声低下への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 感覚の再調整。録音や機器を使った客観的なフィードバックで、本人の「大きい」の基準そのものを、実際の音量に近づけていきます。
2. 大きな発声の運動学習。あえて大きな声を繰り返し出す集中的な訓練で、脳が小さくしてしまう発声の幅を、呼吸・声帯・共鳴の全体から立て直します。
3. 姿勢と呼吸の土台。声を支える座位や体幹の姿勢、呼吸の深さを整え、発声が崩れにくい身体の下地をつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、大きな声を出す練習を集中的に繰り返し、フィードバックで本人の感覚を調整しながら、日常会話にも定着させていくという流れです。電話でも、雑踏でも届く声に近づけていく、その設計を専門的に組み立てます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
声の大きさに焦点をあてた集中的な発声訓練(LSVT LOUD)を受けた方を長期間追跡した研究では、訓練後に声の音量(音圧レベル)が有意に高まり、その効果の多くが2年後の評価でも維持されていたと報告されています。その場の工夫だけに頼らず、集中的に発声を繰り返し学習することで、持続的な変化をねらう考え方です。
限界:対象人数は多くなく、効果の程度や持続期間には個人差があります。集中的な訓練には決められた頻度や条件があり、専門的な評価と指導が前提です。発声訓練は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
脳リハ.comのYouTubeでは、姿勢や呼吸を整える体操を配信しています。発声の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その人の話し方の癖や困る場面を一緒に確認し、呼吸の深さ、声を出す目標、録音などのフィードバックの方法を、その人に合わせて調整します。電話や家族との会話など「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは発声動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、声の変化で生活に支障が出てきた、声だけでなく飲み込みにくさや動きにくさも出てきた、といったときです。声が小さくなる原因は音声低下だけとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 電話で「聞こえない」と言われるのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 自分では大きな声のつもりなのに、なぜ聞こえないと言われるのですか?

Q. 電話でも聞こえやすくするために、自宅でできる工夫はありますか?
Q. 音声低下は訓練で良くなりますか?
Q. 声の変化と、飲み込みにくさ(嚥下)は関係がありますか?
Q. 音声低下は震えと同じものですか?
発声の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている発声の場面を一緒に確認し、呼吸・目標設定・フィードバックの方法を、その人に合わせて組み立てます。電話や家族との会話など、実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、発声動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
声は変わります。

声が届かなくなると、電話に出るのが億劫になり、人と話す機会そのものを避けるようになってしまいます。「聞き返されるのがつらくて、外に出たくない」とおっしゃる方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、大きく息を吸うだけで、声は驚くほど届きやすくなることがあるということです。外からの手がかりを味方につけ、大きく吸って、口を開けて、短く区切る。ちょっとした工夫で、話せる場面はまだまだ広がります。
発声でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う話し方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。声の変化には他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月7日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Fox CM, Ramig LO. Vocal sound pressure level and self-perception of speech and voice in men and women with idiopathic Parkinson disease. Am J Speech Lang Pathol. 1997;6(2):85-94.(実際の声量と本人の自己評価にズレがみられたと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Ramig LO, Sapir S, Countryman S, et al. Intensive voice treatment (LSVT) for individuals with Parkinson disease: a 2 year follow up. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2001;71(4):493-498.(集中的発声訓練により音量が有意に改善し、2年後も効果の多くが維持されたと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)