方向転換で転びやすい子|止まる・曲がる・視線の使い方
曲がる前に速度を調整し、目と身体の向きを順番に切り替えられるかを確認します
「まっすぐなら走れるのに、曲がると足がもつれる」「鬼ごっこで急に向きを変えると転ぶ」。方向転換は、ただ身体を横へ向ける動作ではありません。行き先を見る、速度を落とす、足で支える、身体の向きをそろえる、新しい方向へ進むという準備が重なっています。転んだ瞬間だけでなく、曲がる前後の数歩から、お子さんのつまずきを整理します。

転ぶ瞬間より、曲がる前の一歩を見ます。
方向転換で転ぶと、保護者は「足元を見ていない」「急ぎすぎ」「体幹が弱いのでは」と考えやすくなります。しかし、転倒が起きた位置だけを見ても、始まりの原因は分からないことがあります。
STROKE LABでは、転んだ場所ではなく、曲がる1〜2歩前に何が起きていたかを見ます。視線を移した瞬間、速度を落とす前、支持足へ体重を乗せる時点から、すでに崩れが始まっている場合があるためです。
直線を進むときは、身体の勢いをおおむね前へ運べます。方向転換では、その勢いをいったん調整し、重心の進む向きと足の向きを作り直さなければなりません。速く走るほど、曲がる角度が大きいほど、周囲の人やボールを見ながら動くほど、必要な調整は増えます。
そのため、まっすぐ走れることと、鬼ごっこで相手に合わせて曲がれることは同じ能力ではありません。転倒回数だけでなく、どの速度・角度・方向・情報量で成功率が下がるかを比べると、支援の入口が見つかりやすくなります。
方向を変えるまでに、体は5つの準備をしています。

定型発達児の研究では、曲線歩行で左右の下肢筋活動が方向に応じて調整されることが示されています。また、6〜12歳児を対象とした研究では、自然に視線と頭を動かす条件で、成人より姿勢動揺が大きく、頭部の安定が日常の姿勢制御を制限しうると報告されています。
この研究から言える範囲:方向転換には、直線歩行とは異なる左右脚の調整と、見ること・頭を動かすこと・姿勢を保つことの統合が必要です。一方、これらは方向転換で転ぶ子への治療効果を直接検証した研究ではありません。
限界:対象年齢、課題、速度、診断の有無が実生活の転倒場面とは異なります。方向転換で転ぶ原因や対応は個人差が大きく、医学的評価の代わりにはなりません。
家庭では「どの条件で崩れるか」を比べます。
家庭で大切なのは、転倒回数を増やして確かめることではありません。安全な広さを確保し、ゆっくりした動きで、条件を一つずつ変えます。複数の条件を同時に変えると、何が難しかったのか分からなくなります。
| 比べる条件 | 見たい違い |
|---|---|
| 歩く/早歩き/走る | どの速度から減速が間に合わなくなるか |
| 大きなカーブ/90度/反転 | 曲がる半径や角度で足の交差・外側への傾きが変わるか |
| 右回り/左回り | 毎回同じ方向だけで崩れるか、痛みやかばいがないか |
| 行き先を予告/突然合図 | 動きそのものか、予測・反応・注意切り替えの負荷で崩れるか |
| 一人/友達やボールあり | 見る対象が増えたときに頭部・体幹の安定が変わるか |
| 開始時/遊びの後半 | 疲労後に歩幅、左右差、転倒が増えるか |
「前を見ているか」だけでは十分ではありません。新しい方向へ視線を移した直後に頭と体幹が外側へ流れるのか、視線変更が遅くて曲がる準備が間に合わないのかでは、難しさの仕組みが異なります。
もう一つは、成功率が下がる境界です。ゆっくりならできる、90度はできるが反転で崩れる、予定された方向ならできるが友達に反応すると転ぶ。その境界の少し手前が、練習の質を保ちやすい出発点になります。

家では、止まってから曲がる遊びから始めます。
家庭での目的は、苦手を何度も失敗させることではなく、方向転換の順序を成功しやすい条件で経験することです。床が滑らず、家具や角から離れた場所で行います。痛みや急な左右差がある場合は遊びを中止し、先に相談してください。
- 「前を見て」「気をつけて」だけを繰り返す
- 最初から全速力の鬼ごっこで練習する
- 転ばないように手を引き続け、子どもが足を置く機会を減らす
- 方向転換の代わりに、片足立ちや腹筋だけを長く反復する
- 失敗が増えているのに、回数を増やせば慣れると考える
- 左右差や痛みがある状態で、苦手な方向だけを集中的に行う
急な変化と左右差は、運動練習より相談を優先します。
方向転換のぎこちなさは、経験や発達の途中で見られることがあります。一方で、年齢だけで「そのうちできる」と決めることはできません。転倒が生活や遊びへの参加を制限しているか、状態が変化しているかを合わせて見ます。
| 家庭で安全に観察しやすい状態 | 早めに相談したい状態 |
|---|---|
| ゆっくりなら曲がれる 大きなカーブでは安定する 練習とともに少しずつ成功が増える 転んでも遊びを続けられる 痛みや明らかな左右差がない |
急に転びやすくなった 以前できていた動作が難しくなった 毎回同じ方向だけで大きく崩れる 痛み、跛行、腫れ、片脚をかばう動きがある 片側の手足の使いにくさ、見えにくさが疑われる 頭痛、嘔吐、けいれん、意識の変化を伴う |
急な歩き方の変化、片麻痺、顔のゆがみ、けいれん、強い頭痛や繰り返す嘔吐、意識や呼吸の変化があるときは、家庭で様子を見たり運動を試したりせず、救急を含む医療機関へ相談してください。診断、画像検査、投薬、手術、装具処方などの医学的判断は主治医の領域です。
- いつ頃から、方向転換で転びやすいと感じたか
- 歩く・走る・鬼ごっこなど、どの場面で起きるか
- 右回り・左回りで差があるか
- 曲がる前、曲がっている途中、曲がった後のどこで崩れるか
- 痛み、跛行、疲れ、見えにくさ、片側の使いにくさがあるか
- 靴、床、速度、遊びの前半・後半で変化するか
- 安全な範囲で撮影した短い動画があるか
専門施設では、失敗が始まる条件まで分けて考えます。
専門施設で目指すのは、ひとつの理想的な曲がり方へ矯正することではありません。お子さんと家族が選んだ「鬼ごっこを続けたい」「園庭で友達にぶつからず動きたい」「体育のリレーに参加したい」という目標から、回復を狙う部分、使いやすい方法へ適応する部分、環境を変える部分を分けます。
方向転換で転ぶ現象を、単にバランスや筋力の低下とは考えません。視線変更、頭部安定、減速、支持足への荷重、体幹回旋、足部の置き換え、反応選択、疲労、環境を比較し、どの所見が介入選択を変えるかを確認します。
| 評価所見 | 臨床仮説と介入選択 | 生活で確認する変化 |
|---|---|---|
| 曲がる2〜3歩前から歩幅を短くできず、上半身が外側へ流れる | 速度制御と予測的な減速がボトルネックと考え、直線停止→大きなカーブ→90度の順で、減速開始を目印と結びます | 廊下の角や公園で、自分から速度を落とせる回数 |
| 行き先へ顔を向けた瞬間に頭・胸郭が外側へ傾く | 視覚探索と頭部安定の干渉を疑い、固定目標→目だけ→頭を含む視線変更→移動中の探索へ段階づけます | 友達やボールを見ても足が止まらず、曲がった後に遊びを続けられるか |
| 内側の足を軸に急回転し、外側の足が交差する | 支持面の作り直しと足の置き換えが不足すると考え、複数歩で曲がるステップ、足位置の外的目印、曲がった後の一歩を組み合わせます | 鬼ごっこで足が絡む回数と、必要な声かけの量 |
| 予定された方向ならできるが、突然の合図で成功率が下がる | 反応選択と運動準備の時間が不足すると考え、選択肢1つ→2つ、長い予告→短い予告、静かな環境→集団場面へ進めます | 園の集団遊びで相手の動きに合わせ、転倒せず方向を選べるか |
| 遊びの後半だけ片側への崩れが増える | 疲労、痛み、持久性、左右差を再確認し、休憩と反復量を調整します。急な変化や神経学的所見が疑われる場合は医療へ戻します | 園庭遊びの後半や外出後に転倒が増えるまでの時間 |
方向転換で転ぶ子に、体幹筋力や片足立ちだけを行っても、鬼ごっこの動きへ自動的に移るとは限りません。まず、同じ速度と角度で、視線の提示を早めたとき、減速の目印を置いたとき、足位置を広げたとき、複数歩で曲がったときに、その場の成功率が変わるかを比較します。
変化が出た条件は、ボトルネックの仮説を支持します。減速の目印で外側への流れが減るなら、まず速度制御を育てます。視線の順序で姿勢が安定するなら、視覚探索と頭部運動を段階づけます。足位置で交差が減るなら、支持面を作るステップを方向転換全体の中で反復します。
その後、練習室のコーンを回る課題から、友達、ボール、声、床、靴、疲労を加えます。一定期間後には、最初と同じ目標動作を同じ条件で撮影し、転倒だけでなく、減速開始、必要歩数、曲がった後の一歩、声かけ、遊びの継続時間を再評価します。
練習量は多ければよいのではなく、動作の質を保ち、失敗が続きすぎない範囲で設定します。成功がほとんどない場合は、角度を小さくするのではなく大きなカーブに戻す、速度を落とす、方向を先に知らせる、見る対象を減らすなど、課題のどこを簡単にするかを選びます。
成功が安定したら、速度、角度、予告時間、選択肢、人や物の動き、疲労の順に一つずつ条件を追加します。子どもが遊びを選べること、短い休憩を取れること、成功した方法を自分で言葉や動きで確かめられることも、学習を支える要素です。
課題に近い知見:曲線歩行では方向に応じた左右脚の活動調整が必要で、視線と頭部を動かすことは子どもの姿勢制御へ影響します。この知見は評価項目を選ぶ根拠になりますが、方向転換時の転倒への介入効果を直接示すものではありません。
介入原理:DCDの国際臨床推奨では、診断を一つの動作だけで行わず、活動・参加への影響を含めて評価し、課題志向の介入を個別化することが重視されています。Cochraneレビューでは課題志向介入の結果に可能性が示される一方、エビデンスの確実性は低いとされています。
生活実装:練習室での能力だけでなく、園・学校・家庭の実際の活動、本人の目標、環境差を確認します。保護者が療法士になるのではなく、短く続けやすい観察と遊びへ変換します。
限界:未診断の方向転換時転倒を対象とした質の高い比較試験は限定的です。DCDや脳性麻痺の研究を、診断のないすべての子へそのまま外挿することはできません。対象年齢、診断、重症度、介入量、アウトカム、生活への般化には研究間差があります。リハビリは医療的診断や治療の代替ではありません。
訓練室でコーンを回れたことと、園庭で友達を見ながら曲がれることは同じではありません。家庭・園・学校では、転倒回数に加え、曲がる前に速度を落とした回数、足が交差した回数、必要な声かけ、遊びを継続できた時間を確認します。機能の変化を、参加の変化へつなげて初めて、支援が生活に届いたと考えます。

方向転換の転びやすさについて、よくある質問。
方向転換で転ぶのは、何歳頃までなら発達の途中と考えられますか?
体幹が弱いことが、方向転換で転ぶ原因なのでしょうか?
足がもつれるのは、靴や扁平足が関係しますか?
家庭では、どのような遊びから始めればよいですか?
片方向に曲がるときだけ転ぶ場合は、相談が必要ですか?
専門施設では、方向転換をどのように評価しますか?
遊びを続けるための観察へ。

方向転換で何度も転ぶと、保護者もお子さんも、走ることや集団遊びに不安を感じやすくなります。けれども「バランスが悪い」と一括りにすると、どこから支えればよいかが見えません。
私たちは、視線、減速、支持足、体幹と骨盤の回旋、曲がった後の一歩を時間順にほどきます。そして、練習室でできた動きを、公園、園、学校の「やりたい」へつなげます。
医療機関での確認を土台に、動作の見方や家庭・園での関わりを整理したい方はご相談ください。お子さんが遊びをあきらめずに済む方法を、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

動作を一つの筋力や関節だけで見ず、視覚、姿勢、感覚、運動の連鎖として捉える視点は、子どもの方向転換を分析する土台にもなります。
- STROKE LABの小児リハビリ
- 外でよく転ぶ子|足元だけでなく環境と注意配分を見る
- 片足立ちが短い子|バランス反応と足部支持を育てる遊び
- 後ろ歩きが苦手な子|見えない方向へ動く感覚とバランス
本記事は、国内外の公的情報、一次研究、国際臨床推奨、STROKE LABの臨床経験をもとに構成しています。方向転換時の転倒だけで診断を行うことはできず、内容は診断・治療の代わりではありません。お子さんの状態についての判断は主治医・小児科医・発達支援の専門職へご相談ください(最終確認日:2026年8月5日)。
- Gross R, Leboeuf F, Lempereur M, et al. Modulation of lower limb muscle activity induced by curved walking in typically developing children. Gait Posture. 2016;50:34-41. doi:10.1016/j.gaitpost.2016.07.074.
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- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285. doi:10.1111/dmcn.14132.
- Miyahara M, Hillier SL, Pridham L, Nakagawa S. Task-oriented interventions for children with developmental co-ordination disorder. Cochrane Database Syst Rev. 2017;7:CD010914.
- Jackman M, Sakzewski L, Morgan C, et al. Interventions to improve physical function for children and young people with cerebral palsy: international clinical practice guideline. Dev Med Child Neurol. 2022;64(5):536-549.
- 厚生労働省.協調運動の障害の早期の発見と適切な支援の普及のための調査研究報告書・DCD支援マニュアル,2023.
- National Institute for Health and Care Excellence. Suspected neurological conditions: recognition and referral. NG127. Recommendation 1.25.1, new-onset gait abnormality.
- 日本小児科学会.子どもの予防可能な傷害と対策「ころんだ」「転倒」.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)