後ろ歩きが苦手な子|見えない方向へ動く感覚とバランス
視覚に頼れない状況では、足裏の感覚と頭の中の身体イメージが重要になります
「後ろへ下がってみて」と言うと固まる。足は動いているのに、後ろへは進めない。そんなとき、怖がりだから、筋力が弱いから、だけでまとめないことが大切です。後ろ歩きは、見えない方向を予測しながら、片脚で支え、足を後ろへ運び、止まるまでをつなげる動きです。この記事では、後ろ歩きが苦手な理由を分けて考え、家庭でできる関わりと、専門施設でできることを整理します。

後ろへ一歩が出にくい子を、怖がりや筋力だけで見ない
この困りごとは、意外とよくあります。鬼ごっこ、ダンス、先生のまね、友だちとの遊びなど、後ろへ下がる場面は思ったより多く、そこで立ち止まると「運動が苦手そう」に見えやすくなります。
ただし、後ろ歩きは単に脚を後ろへ動かす課題ではありません。見えない方向を予測すること、片脚で支えること、足先で床を探ること、止まることまで必要です。だからこそ、できない理由を一つに決めつけず、動きのどこで止まっているかを見ることが大切です。
後ろ歩きは、前向き歩行がある程度安定してから、向きを変える、止まる、物を避けるなどの経験の中で少しずつ育つ動きです。2〜3歳頃に遊びの中で見られることが多い一方、個人差があります。年齢だけで合否を決めるのではなく、前向き歩行の安定性、転びやすさ、左右差、痛み、遊びへの参加も一緒に見ていくことが安全です。
一方で、急にできなくなった、前向き歩行まで崩れてきた、明らかな左右差がある、痛みや跛行がある、運動全体を急に避けるようになった場合は、単なる経験差とは言い切れません。まず医療機関での確認が安心です。診断や医学的な判断は医療機関が担い、私たちはその後の動きと生活の面から併走します。
後ろ歩きを7つの動きに分けてみる
後ろ歩きを「できる・できない」でまとめてしまうと、関わり方が粗くなります。STROKE LABでは、次の7つに分けて考えます。
たとえば、最初の一歩は出るのに2歩目で止まる子は、脚を動かす力よりも支持脚の切り替えや連続した重心移動が課題かもしれません。逆に、一歩も出ない子は、動く前の不安や、後方の予測が難しい可能性もあります。

STROKE LABの視点|どこで止まっているかを見る
1. 足が出ないのか、足を出す前に支えられないのか
後ろ歩きが苦手な子を見ていると、「足を後ろへ出せない」と見えることがあります。けれど実際には、足を動かす前に反対の脚と体幹で身体を支える準備が足りず、一歩を作れないことがあります。手をつなぐと出せる、壁の近くだと出せる、左右どちらかだけ出しにくい、といった違いは大切な手がかりです。
2. 最初の一歩より、2歩目と停止に注目する
一歩目は勢いで出せても、2歩目の切り替えで止まる子は少なくありません。また、進めても自分で止まれず、最後に大きくぐらつく子もいます。私たちは、後ろへ進めた距離だけでなく、左右の歩幅、振り返る回数、手の広がり、止まるまでの追加歩数、疲れた後の変化まで確認します。
3. 家庭でできることと、園や体育で使えることは同じではない
静かな室内ではできるのに、園庭や体育では難しい場合、問題は「後ろ歩きそのもの」だけではありません。周囲の子ども、音、急な合図、複数のことを同時に処理する負荷が加わると、動きは崩れやすくなります。できたかどうかだけではなく、どの環境ならできるのかを見ることが、支援の質を上げます。
家庭でできること|失敗を減らす関わり
家庭で大切なのは、たくさん練習させることよりも、怖さを増やさず、成功する形を作ることです。以下のような遊びから始めると取り組みやすくなります。
- 大人と手をつないで、一歩だけ後ろへ下がる
- 広い足形の上へ、後ろ向きに足を置く
- 「前・横・後ろ」のまねっこ遊びをする
- 音楽を止めたら、後ろ歩きも止まるゲームをする
- 柔らかいボールやぬいぐるみから、少し離れるように下がる
- 後ろを見ないまま、急に引っ張って下がらせる
- 最初から細い線や平均台の上で練習する
- 速く動かすことを求める
- 「怖がりだから」「体幹が弱いから」と一つの理由に決める
- できないたびに足の位置を細かく言い続ける
家庭では、短く、楽しく、成功率の高い課題が向いています。保護者が療法士のようになる必要はありません。「1歩だけできた」「止まれた」「昨日より怖がらなかった」といった小さな変化を一緒に見つけるだけでも十分です。

様子見でよいこと・相談したいこと
| 様子見しやすいこと | 相談したいこと |
|---|---|
| 前向き歩行や走ることは安定している | 前向き歩行でも転びやすい、走るのも苦手 |
| 後ろ歩きの経験が少なく、遊びでは時々ためらう | 繰り返し試しても一歩が出にくい、極端に嫌がる |
| 安全な環境や手つなぎではできる | 手つなぎでも難しい、片側だけ出しにくい |
| 少しずつ遊びの中で変化がある | 急にできなくなった、痛みや跛行がある |
| 困りごとが後ろ歩き中心に限られる | 階段、ジャンプ、方向転換など他の動作にも広がっている |
- 一歩だけならできるか、何歩まで続くか
- 左右どちらから始めやすいか
- 振り返る回数や、手を広げる様子
- 止まるときに追加の歩数が必要か
- 家庭と園・体育で差があるか
- 疲れた後や急いだ時に崩れやすいか
- 動画が撮れるなら、正面・横・後方から短く残す
研究でわかっていること
1. 後方歩行そのものの研究は多くありません。
未診断の幼児で「後ろ歩きだけが苦手」な子を対象にした研究は限定的です。一方で、脳性麻痺児を対象にした研究では、後方歩行を練習に取り入れることで歩行やバランスの一部指標が改善した報告があります。
2. ただ動かすより、目標となる課題そのものを練習する方が考え方として自然です。
小児リハの研究では、目標を明確にし、その課題そのものを練習し、成功しやすい難易度で反復することが重要とされています。後ろ歩きの場面でも、抽象的な筋力トレーニングだけでなく、後ろへ下がる、止まる、避けるといった実際の課題を扱うことが大切です。
3. できるようになることと、生活で使えることは別に考えます。
訓練室で後ろ歩きができても、園や体育で使えなければ困りごとは残ります。生活への般化を目標に含めることが、家庭や学校での変化につながります。
限界:後ろ歩きの研究は対象年齢、診断、重症度、練習量がそろっていません。ここで紹介した内容は、個別の効果を保証するものではなく、医学的治療の代替でもありません。発達や体調、環境によって経過は変わります。
専門施設で、さらに期待できること
ここまでは家庭で失敗や負担を減らす工夫でした。専門施設では、困りごとの仕組みを身体・感覚・注意・環境に分け、育てたい機能と生活参加の両方へ働きかけます。診断、投薬、手術などの医学的管理は主治医の領域であり、私たちは生活機能をどう育てるかを担います。
専門施設で目指すのは「きれいな形」より「使える力」
後ろ歩きの支援で大切なのは、見た目だけを整えることではありません。私たちが目指すのは、子どもが選んだ生活目標、たとえば鬼ごっこで少し下がれる、ダンスの動きをまねできる、友だちを避けながら移動できるといった場面で使える力です。そのために、回復を狙う部分、環境で支える部分、代償を上手に使う部分を分けて考えます。
困りごとを分ける評価
専門施設では、単に「後ろに歩けるか」を見るのではなく、少なくとも次の4領域を分けて評価します。
回復・発達支援の介入体系
| 介入系統 | どんな子に | なぜ選ぶか | 生活で期待する変化 |
|---|---|---|---|
| 一歩の開始と支持づくり | 足を動かす前に体が崩れる子 | 支持脚への体重移動と一歩目のタイミングが整うと、後ろへ下がる入口が作れるため | 先生の合図で一歩下がれる |
| 後方空間を予測する練習 | 振り返らないと進めない子 | 見える条件から見えない条件へ徐々に移ることで、不安を減らし予測を育てやすいため | 遊びの流れを止めずに下がれる |
| 連続歩行と停止の課題練習 | 2歩目で止まる、止まれずぐらつく子 | 後ろ歩きは進むことと止まることがセットで、停止まで含めて課題化する必要があるため | ダンスや鬼ごっこで動きを切り替えやすい |
| 家庭・園・体育への般化設計 | 訓練室ではできるが生活で使えない子 | 環境条件が変わると動きが崩れやすく、参加場面そのものを設計する必要があるため | 園や体育でも後ろへ下がる動きが使える |
後ろ歩きの苦手さは、筋力だけの問題ではありません。回数を増やすだけでも生活には移りません。実際には、「後ろへ動くときだけ情報が足りなくなる」「支持脚へ乗り切れない」「止まる局面で崩れる」といった、局面ごとの詰まりがあります。
私たちはまず、前歩き・横歩き・後ろ歩きの違いを比較し、どの条件で動きが崩れるかを見ます。特に大切にしているのは、午前と午後で差が出るか、話しかけながらだと崩れるか、最初の一歩ではなく2歩目や停止で崩れるかという観察です。ここが見えると、単に「もっと練習しましょう」ではなく、どの課題から始めるべきかが明確になります。
介入では、一歩の開始、後方への予測、連続歩行、停止を同じ重みで扱います。たとえば、手つなぎで一歩は安定するなら、次は手を軽く触れるだけにする。鏡があると進みやすいなら、次は目標物を減らしてみる。2歩目で崩れるなら、距離を伸ばす前に停止課題を入れる。評価所見に応じて順番を変えることが、専門施設の役割です。
最後は必ず、家庭や園で使う形に変換します。「家で3歩できた」では終わらず、「ダンスで先生のまねがしやすくなったか」「鬼ごっこで友だちとぶつかりにくくなったか」を再評価します。家庭では生活を守る工夫を、専門施設では評価にもとづいて複数の方法を組み合わせ、できる力を生活で使える力へつなぐことを目指します。
介入量・難易度・学習設計
小児の課題練習では、長時間まとめて行うよりも、短く、成功率を保ちながら反復できる方が学びやすいことがあります。後ろ歩きでも、疲れて崩れるほど続けるのではなく、良い一歩や止まり方が出る範囲で区切り、休憩を入れながら、子どもが「またやってみたい」と思える形を選びます。練習量の多さより、難しすぎず、簡単すぎない課題設定が重要です。
生活・学校への般化
専門施設の中でできることと、園や学校で使えることは同じではありません。だからこそ、家庭や園で確認するアウトカムを具体的に決めます。たとえば、ダンスで後ろへ一歩下がれる回数、鬼ごっこでぶつからずに止まれるか、体育でまねっこ課題を嫌がりにくくなったかなどです。保護者コーチングも、「たくさん練習してください」ではなく、短く続けやすい一つの課題に絞ることが親子関係を守ります。
疾患特異的根拠
脳性麻痺児を中心に、後方歩行を練習へ取り入れた研究では、歩行やバランスの一部指標改善が示されています。ただし、未診断の幼児へ同じ効果をそのまま当てはめることはできません。
介入原理の根拠
小児リハでは、本人や家族が選んだ目標、目標課題そのものの練習、成功しやすい難易度、反復とフィードバックの設計が重要とされています。後ろ歩きでも、この原理が中核になります。
生活実装の根拠
訓練室の変化が生活へ自動的に移るとは限りません。家庭・園・体育で何が変わったかをアウトカムに含めることが、参加の改善につながります。
限界:研究の対象年齢、診断、重症度、練習量には幅があり、個人差も大きいテーマです。ここで示すのは、万能な治療法ではなく、評価にもとづく介入設計の考え方です。医学的治療や診断の代替ではありません。

よくある質問
前向き歩きはできるのに、後ろへ下がる場面だけで止まってしまう。そんな時は、どこで動きが止まっているかを分けて見ることが役立ちます。STROKE LABでは、評価にもとづいて家庭・園・学校へつながる支援を行っています。

単純化せずに見るために
後ろ歩きが苦手な子には、見えない方向への不安、支持脚の不安定さ、足の運び、停止の難しさなど、いくつもの背景があります。STROKE LABは、今どの動きが育とうとしているのかを見つけ、家庭や園で使える形へつなぐことを大切にしています。

STROKE LABの視点の土台になっている考え方をまとめた書籍です。子どもの動きを見るときも、「どの動きが苦手か」だけでなく、「どの仕組みで詰まっているか」を考えるヒントになります。
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- 平均台を怖がる子|狭い支持面でのバランスと視線の使い方
- スキップができない子|左右交互運動とリズムの育て方
- 走り方がぎこちない子|腕振り・骨盤・足の接地をどう見るか
- Centers for Disease Control and Prevention. Important Milestones: Your Child By Thirty Months.
- American Academy of Pediatrics. HealthyChildren.org. Movement and Coordination in Toddlers: 1 to 3 Years.
- Novak I, Honan I. Effectiveness of paediatric occupational therapy for children with disabilities: A systematic review. Occup Ther Int. 2019;2019:7057084.
- Jackman M, et al. Goal-directed and task-based approaches in pediatric rehabilitation: current evidence for practice. Dev Med Child Neurol. 2022;64(5):536-549.
- 後方歩行トレーニングに関する小児研究および系統的レビューを参照しつつ、対象年齢・診断・練習量の違いに注意して臨床解釈を行う。
- 金子唯史. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 医学書院, 2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)