ボールを投げられない子|肩・体幹・タイミングの発達
腕だけで動かさず、足元から体幹へ力をつなぎ、適切な瞬間に手を離す力を育てます
「腕だけで押し出す」「足元に落ちる」「どこへ飛ぶか分からない」。ボール投げが苦手だと、肩の力やフォームに目が向きがちです。しかし投球は、目標を見る、足を踏み出す、骨盤と胸を回す、腕を振る、ちょうどよい瞬間に離す動きが連続する課題です。できない形を直す前に、どの条件なら動きが変わるかを見ることから始めましょう。

ボールが飛ばない。肩の力だけでは説明できません。
反対の足を出して、腕を後ろへ引いて、前を見て、肘を上げて。大人が一度に教えるほど、子どもの動きが固まることがあります。投球は複数の動きを同時にまとめるため、言葉でフォームを覚えるだけでは難しい課題です。
まず見るのは、できない形ではなく、何を変えると投げやすくなるかです。近い的なら届くのか、大きいボールなら前へ出るのか、足位置を作ると腕が動くのか。変化の出る条件が、支援の入口になります。
ボール投げは、ボールを握って腕を前へ動かすだけではありません。投げる前に目標へ注意を向け、体の向きを決め、腕を後方へ準備し、投げ腕と反対側の脚へ踏み出します。そのうえで、後ろ脚から前脚へ体重を移し、骨盤と胸郭を回し、肩・肘・前腕・手を時間差で動かし、適切な位置でボールを離します。
この連鎖のどこかが難しいと、腕だけで押し出す、足元に落ちる、横へ飛ぶ、投げる直前に止まるといった形になります。見た目が似ていても、背景は同じではありません。肩の筋力を高めれば解決すると決めつけず、視線、姿勢、ステップ、体幹、上肢、リリースのどこで連鎖が途切れるかを見分けます。
また、投げる距離と正確性は別の課題です。遠くへ投げようとすると方向が崩れる子もいれば、的を狙うと体が固まり、近くへしか投げられない子もいます。飛距離だけで上手・下手を決めず、方向、高さ、再現性、投げ終わりのバランス、楽しんで繰り返せるかまで見ます。
投げる動きは、少しずつ全身へ広がります。
投球の発達には大きな個人差があり、ボール遊びの経験、興味、体格、ボールの種類、遊ぶ環境によっても変わります。日本スポーツ協会は、幼児では両足をそろえる、投げ腕と同じ側の足を出す、上半身のひねりが少なく肘の曲げ伸ばしで投げる動きが見られると説明しています。こうした形は、ただちに異常を示すものではありません。
年齢が上がり経験が増えるにつれて、投げ腕と反対側の脚が前へ出る、腕を後ろへ準備する、後ろ脚から前脚へ体重を移す、肩が先行して腕が遅れて出るといった全身の連鎖が加わります。ただし、完成した一つのフォームへ全員が同じ順序で進むわけではありません。
| 年齢帯の目安 | 遊びで見られる変化 | 大人が大切にしたいこと |
|---|---|---|
| 1〜2歳頃 | 落とす、前へ押す、両手で放る | 転がす、箱へ入れるなど、ボールとのやり取りを楽しむ |
| 2〜3歳頃 | 片手で前へ放る、腕を引こうとする | 大きく軽いボールと近い目標で成功を増やす |
| 3〜5歳頃 | ステップや体のひねりが少しずつ加わる | フォームを固定せず、投げ方と目標を変えて遊ぶ |
| 5〜8歳頃 | 距離、方向、速度、相手に応じて調整する | 個別でできる動きを、体育や集団遊びでも使えるか見る |
STROKE LABの視点:投球を、時間の流れでほどく。
投げる姿勢を一枚の写真だけで見ると、「肘が低い」「足が出ていない」という結果しか分かりません。STROKE LABでは、投球を時間の流れに沿って分けます。どの局面で次の動きへ移れないか、どの条件を変えると連鎖がつながるかを確認します。
投げる場所と自分の位置関係をつかむ
握り込みすぎず、投げるまで保持する
足と胸の向きを調整し、腕を後方へ引く
支持基底面を前へ広げ、投げる方向を作る
下肢から生まれた力を上半身へつなぐ
肩甲帯、肩、肘、前腕、手が連続して動く
方向と高さに合う位置・タイミングでリリースする
腕を振り抜き、前方へ移った体を支える

静止した状態では腕を後ろへ引けても、反対側の足を出した瞬間に腕が前へ戻る子がいます。この場合、下肢の筋力だけではなく、ステップと上肢準備を同時に保つタイミングが課題かもしれません。
同じように、体をひねれないのではなく、ひねると目標の方向が分からなくなる子もいます。可動域を広げる前に、横向き姿勢でも目標を見続けられるか、近い大きな的ならリリースできるかを確認します。
家庭では、5つの条件を比べてみましょう。
一回の投球だけで判断せず、条件を一つずつ変えて比べると、子どもが困っている理由を観察しやすくなります。正しいフォームを採点するのではなく、どの条件なら成功が増えるかを探します。
| 比べる条件 | 見ること | 考えられる手がかり |
|---|---|---|
| 大きい/小さいボール | 保持、握り込み、手から離れる位置 | 手指操作やボールの適合 |
| 近い/遠い目標 | 力を出すと方向が崩れるか | 飛距離と正確性のトレードオフ |
| 足位置自由/前後に設定 | ステップを作ると腕が動きやすいか | 姿勢準備とタイミング |
| 上手投げ/下手投げ | どちらなら前方へ安定して届くか | 上肢の自由度とリリース |
| 1投目/5投目 | 反復で改善するか、疲れて崩れるか | 運動学習、注意、疲労、課題量 |
可能であれば、子どもの正面・側面から数回だけ動画を撮ります。足元から頭まで入れ、成功した投球と難しかった投球の両方を残します。動画は診断のためではなく、健診や専門相談で「どの条件なら変わったか」を伝える材料になります。

家庭では、フォームより成功しやすい遊びを作る。
家庭での目的は、完成した投球フォームを教え込むことではありません。親子で繰り返せる安全な遊びの中で、前へ放す、目標を見る、足を動かす、体を回す経験を増やします。説明は一度に一つにし、失敗が続く前に課題を簡単にします。
- 大きな箱の近くから、柔らかいボールを自由に入れる
- 前へ放せたら、箱を少し遠くする
- 足形や床の線で、前後の足位置を作ってみる
- 子どもが選んだ的やボールで繰り返す
- 数回うまくいったところで終え、次回へつなぐ
声かけは、「肘を上げて、反対の足を出して、体をひねって」と身体部位を重ねるより、「箱に入れよう」「壁の丸を狙おう」「大きな音を出して当てよう」のように、遊びの結果へ注意を向ける言葉が使いやすいことがあります。子どもの反応を見て、一つの言葉で動きが変わるかを確かめます。
- 腕を大人が強く引き、完成フォームを作る
- 最初から小さく重いボールを正確に握らせる
- 遠くへ投げる記録だけで評価する
- 何十回も休まず繰り返す
- 複数の身体指示を同時に出す
- 痛みがある状態で続ける
- 投球だけから診断名を決めつける

様子を見てよい変化と、相談したいサイン。
投げ方が未熟に見えても、遊ぶ経験が増える中で前へ届くようになる、ボールや距離を変えると成功する、少しずつステップや体のひねりが出る場合は、家庭で楽しく経験を重ねながら経過を見られることがあります。
一方、痛みや急な変化は運動発達の記事だけで判断しません。診断、画像検査、投薬、装具、手術などの医学的判断は主治医や医療機関の領域です。次のサインがある場合は、家庭練習より医療・健診・発達相談を優先してください。
| 家庭で変化を見ながら遊べることが多い | 医療・専門相談を優先したい |
|---|---|
| 痛みや腫れがない 大きく軽いボールなら前へ投げられる 近い大きな的では成功する 経験とともに少しずつ変化がある 投げる遊び自体は楽しめる |
肩・肘・手首の痛み、腫れ、外傷がある 急に片腕を使わなくなった 以前できた動作ができなくなった 日常でも明らかな左右差や筋力低下がある 走る・跳ぶ・階段など複数の運動に困る 遊びや体育への参加が大きく制限される |
- いつ頃から気になったか
- どちらの手で投げるか、左右差があるか
- 痛み、外傷、急な変化がないか
- どのボール・距離・投げ方なら成功するか
- 走る、跳ぶ、階段、着替えなど他の困りごと
- 園・学校の体育や遊びへの影響
- 正面と側面から撮った短い動画
研究でわかっていることと、まだ言えないこと。
6歳、10歳、14歳の子どもの上手投げを全身の運動学で比較した小規模研究では、年齢によって下肢・体幹・上肢の使い方に違いがありました。投球を一つの関節だけで説明せず、全身の協調として見る必要性を支える知見です。
Palmer HA, et al. European Journal of Sport Science. 2021;21(9):1254-1262. 対象は6歳、10歳、14歳の計18名で、未診断の幼児全体や個別介入の効果を直接示す研究ではありません。
発達性協調運動症を対象にした高品質研究のレビューでは、Neuromotor Task Training、課題志向型練習、運動イメージと実課題を組み合わせる介入が有望と報告されました。一方、Cochraneレビューでは研究数と質の限界から、効果への確信は低いとされています。
Preston N, et al. Clinical Rehabilitation. 2017;31(7):857-870. Miyahara M, et al. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2017;7:CD010914. DCDの研究であり、投球が苦手な未診断児すべてへ同じ効果を保証するものではありません。
学校を基盤とした基本的運動技能への介入をまとめた2025年のメタ解析では、全体として運動技能の改善が報告されました。ただし研究間のばらつきは大きく、投球だけの効果や、個々の子どもの生活参加までを保証する結果ではありません。
Yin X, et al. BMC Public Health. 2025;25:1522. 研究対象、内容、期間、頻度が異なるため、介入量は個別に調整します。
研究から言えるのは、「正しいフォームを一律に教えればよい」ということではありません。実際の目標動作を使い、子どもの能力、希望、環境に合わせて課題を調整し、生活場面で変化を確認することが重要です。研究が直接示していない手技や練習量を、万能な方法として提示することはできません。
専門施設では、身体機能を整えるだけで終わらず、どの条件で投球が変わるかを比較し、目標課題に合う介入を選びます。診断、画像、投薬、手術などの医学的管理は主治医が担い、リハビリは家庭・園・学校の生活機能に併走します。
専門施設では、投げ方ではなく「投げられない仕組み」を分ける。
専門施設で目指すのは、訓練室で一度だけ遠くへ投げることではありません。本人や家族が選んだ「親子でキャッチボールをしたい」「的当てに参加したい」「体育で相手へ返したい」という目標に対して、回復的に育てる部分、課題を簡単にして学習する部分、環境を変えて参加を支える部分を分けます。
評価では、飛距離だけでなく、方向、高さ、成功率、必要な合図、試行間のばらつき、疲労後の変化を記録します。同じ投球を正面と側面から見て、ボール、距離、標的、速度、支持基底面を一つずつ変えます。条件変更に対する反応が、介入選択を変えます。
| 困りごと | 臨床仮説 | 確認する条件 | 介入と調整 | 生活で見る変化 |
|---|---|---|---|---|
| 足元に落ちる | 後方準備が小さい、早く離す、保持が不安定 | 大きいボール、下手投げ、近い標的 | 保持しやすいボールで前方放出を反復し、リリース位置を再評価 | 1〜2m先の相手や箱へ届く |
| 腕だけで押す | ステップと体幹回旋が上肢準備へつながらない | 足位置自由と前後設定、静止と一歩 | 足位置を設定して自由度を減らし、成功後に自発ステップへ戻す | 的当てで全身の動きが再現する |
| 横へ飛ぶ | 体の向きと目標、リリースの時間が一致しない | 大きな静止標的、横向き姿勢、速度低下 | 外的目標を大きくし、方向が安定してから距離・速度を上げる | 相手方向へ返せる回数が増える |
| 個別ではできるが体育で崩れる | 時間制限、注意、相手の動き、恐怖、疲労 | 静止標的と動く相手、1対1と集団、前半と後半 | 人数・ルール・距離・合図を段階化し、学校条件へ近づける | 体育の参加時間と自発的な投球が増える |
たとえば、足を前後に置くと飛距離は伸びても方向が崩れる場合、ステップを増やすこと自体を目標にしません。近い大きな的へ速度を落として投げ、骨盤・胸郭の回旋を加えても目標を保てる条件を探します。その場で方向と再現性が改善したら、距離または速度のどちらか一方を上げます。
反対に、1投目は腕だけでも、3〜5投目にステップが自然に出る場合、細かな徒手誘導より、少数回の試行と結果フィードバックが学習を促す可能性があります。繰り返すほど崩れるなら、筋力不足と決めず、注意、疲労、ボール重量、成功率を見直します。
介入後は、同じボールと同じ目標で動画、成功率、必要な合図を再評価します。訓練室で変化しても、家庭のキャッチボール、園の的当て、学校のドッジボールで再現しなければ、環境調整と般化の設計を続けます。
練習量は、多ければよいとは限りません。動きの質を保てる回数、失敗が続きすぎない難易度、短い休憩、子どもが選べる余地を設計します。研究が示していない固定回数を全員へ当てはめず、成功率と翌日の負担を見ながら調整します。保護者が療法士になる必要はありません。家庭では、短く続けやすい遊びを一つだけ共有します。
生活で確認するアウトカムは、「何メートル飛んだか」だけではありません。親子のキャッチボールで相手へ届いた回数、園の的当てに自分から参加した回数、体育で投球場面を避けずにいられた時間、投げた後に転びそうにならないかなど、本人の目標に合わせて決めます。
よくある質問
「投げられない」を、
生活と遊びの中で使える動きへ。

子どもの投球は、肩や腕だけでなく、目標を見る力、足を踏み出す準備、骨盤と胸郭の回旋、リリースのタイミングが重なって生まれます。
私たちは、見た目のフォームを一律に直すのではなく、どの条件なら子どもの動きが変わるかを機能解剖と動作分析で確かめます。そして、その変化を家庭、公園、園、学校の「やってみたい」へつなげます。
医療・健診での評価とあわせて、運動や生活の困りごとを整理したい方はご相談ください。
代表取締役 金子 唯史

機能解剖を、実際の動作観察とリハビリテーションへどうつなぐかを解説しています。本記事でも、関節を単独で見るのではなく、姿勢と動作の連鎖として理解する枠組みを用いています。
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- 走り方がぎこちない子|腕振り・骨盤・足の接地をどう見るか
- 外でよく転ぶ子|足元だけでなく視線・体幹・注意も含めて見る
- 公園遊びが苦手な子|遊具・感覚・姿勢のどこでつまずくか
本記事は、公的情報と査読研究、STROKE LABの臨床経験、下記書籍の枠組みをもとに構成しています。診断や治療の代わりではありません。最終確認日:2026年8月4日。
- 日本スポーツ協会. アクティブ・チャイルド・プログラム「投動作(ボール投げ)の観察評価」. 投げ腕と反対側のステップ、上半身のひねり、体重移動、肩から腕への連鎖の観察。
- Centers for Disease Control and Prevention. Learn the Signs. Act Early. Milestones by 2 Years / Milestones by 4 Years. 2026年確認。
- Palmer HA, et al. Movement form of the overarm throw for children at 6, 10 and 14 years of age. European Journal of Sport Science. 2021;21(9):1254-1262.
- Preston N, et al. A systematic review of high quality randomized controlled trials investigating motor skill programmes for children with developmental coordination disorder. Clinical Rehabilitation. 2017;31(7):857-870.
- Miyahara M, et al. Task-oriented interventions for children with developmental co-ordination disorder. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2017;7:CD010914.
- Yin X, et al. Effectiveness of school-based interventions on fundamental movement skills in children: a systematic review and meta-analysis. BMC Public Health. 2025;25:1522.
- 金子唯史. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 医学書院; 2024. 408頁.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)