おもちゃに手を伸ばさない赤ちゃん|リーチ動作と姿勢の発達
おもちゃへ手が出ないとき、見るのは「腕」だけではありません
「おもちゃは見ているのに、手を伸ばさない」「近くに置けば握るけれど、自分からは取りにいかない」——そんなときは、できた・できないだけで判断しないことが大切です。赤ちゃんのリーチ動作は、視線、頭の向き、姿勢の安定、肩や肘の動き、手の開きがつながって生まれます。この記事では、「手を伸ばさない」を家庭でも見やすい観察ポイントに分けて整理します。

おもちゃに手を伸ばすのは何か月頃から?
赤ちゃんが外のものへ手を伸ばし始める時期には個人差がありますが、ひとつの目安として、4か月頃にはおもちゃへ腕を振る、6か月頃には欲しいおもちゃへ手を伸ばす様子が見られやすくなります。ただし、最初からまっすぐきれいに届くわけではありません。初期のリーチは、何度か方向を修正したり、手の甲や拳で触れたりしながら少しずつ育っていきます。
大切なのは、「何か月なのにできない」と一つで判断しないことです。おもちゃを見る、頭を向ける、腕が少し浮く、体を反らずに保てる、触れたあとにもう一度試す——そうした途中の変化も、リーチ発達の大切なサインです。
1. 乳児のリーチは、おおむね生後4か月頃から見られ始めるとされます。ただし初期の軌道はまだ不安定で、何度も修正しながら届くのが自然です。
2. リーチには、腕だけでなく姿勢のコントロールが必要です。体幹の支え方によって、手の出しやすさが変わることが報告されています。
3. 姿勢経験や床での遊びは、頭のコントロールや上肢の使い方の発達と関連します。ただし、特定の遊びをすれば必ず発達が進むと断定するものではありません。

リーチは「腕だけ」の動作ではありません
おもちゃへ手を伸ばすには、まず見つめることが必要です。次に、頭が向き、胸やお腹が安定し、そのうえで肩や肘が前へ動きます。最後に、手のひらや指が開いておもちゃへ触れます。つまりリーチは、視線→頭部→体幹→肩甲帯→肩・肘→手という流れで生まれる全身運動です。
このため、手が出ない背景は腕そのものだけとは限りません。おもちゃを見ていても、腕を動かした瞬間に体が反ってしまう、うつ伏せでは反対の腕で支えにくい、指が開きにくい、ということでもリーチは止まります。とくに乳児期は、「手が出ない」の中に姿勢の負担が隠れていることが少なくありません。

手を伸ばさない背景を5つに分けて考える
「手を伸ばさない」をひとまとめにせず、次の5つに分けて考えると、保護者の不安が観察しやすい情報へ変わります。
目で追うか、顔を向けるか、左右どちらでも見つけられるかを見ます。ここで反応が乏しいときは、腕の問題だけでなく、覚醒状態や見えやすさも関係します。
肩が少し動く、肘が浮く、指がゆるむなど、手が届く前の「準備」があるかを見ます。まったく変化がないのか、始まっては止まるのかで見方が変わります。
仰向けで背中を強く反らないか、うつ伏せで反対側の前腕に体重を乗せられるか、支えた座位で大きく崩れないかを見ます。姿勢の負担が大きいと、手より先に身体を守ろうとします。
まっすぐつかめなくても大丈夫です。手の甲や拳で触れる、何度か近づこうとする、指先が当たるなども、リーチの途中として大切なサインです。
右と左、近い・遠い、低い・高い、仰向け・うつ伏せなどで反応が変わるかを見ます。条件で変わるなら、難しさの場所を絞り込みやすくなります。
STROKE LABの視点:どこで止まるかを見る
私たちは、「手を伸ばさない」を腕だけの問題とは考えません。たとえば、うつ伏せで右手が出ないとき、右腕そのものではなく、左前腕で身体を支える力が足りないことがあります。支えが不安定だと、出したい側の手は前へ行きにくくなります。
また、手を出す直前に肩をすくめる、息を止める、脚を突っ張る、背中を反らすなどの反応があれば、それは「やる気がない」のではなく、その赤ちゃんが今使っている姿勢戦略かもしれません。だからこそ、同じおもちゃでも姿勢や距離を変えて反応を見ることが大切です。
医療・健診が先、私たちは併走です。私たちの役割は、保護者の「何となく心配」を、視線・姿勢・動き始め・左右差といった観察可能な形に整理し、必要な相談へつなぐことです。

家庭でできる関わりと避けたいこと
家庭で大切なのは、練習量を増やすことよりも、赤ちゃんが「自分で見つけて、試してみる」時間を作ることです。機嫌がよく起きている時間に、届きそうな距離へおもちゃを置き、少し待って反応を見ます。仰向けだけでなく、見守りのもとで横向きやうつ伏せでも反応を比べると、手を出しやすい条件が見えてきます。
| 家庭でしてみたい関わり | 避けたい関わり |
|---|---|
|
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なお、うつ伏せ遊びは起きていて大人が見守れる時間だけに行い、睡眠時は必ず仰向けを守りましょう。うつ伏せが難しい場合は、短い時間から始め、胸の下に薄いタオルを入れるなど、負担を下げる工夫が役立つこともあります。

相談の目安と健診メモ
「様子を見てよいのか」「相談した方がよいのか」で迷うときは、月齢だけでなく、重なっているサインを見ます。次の表を目安にしてください。
| 少し様子を見ながら観察しやすい状態 | 健診・小児科へ相談したい状態 |
|---|---|
|
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- 気になり始めた時期(例:4か月頃から)
- 仰向け・うつ伏せ・抱っこで違いがあるか
- 右と左で差があるか
- おもちゃを見るか、目で追うか
- 触れるがつかめないのか、そもそも手が出ないのか
- 反る、肩をすくめる、脚を突っ張るなどの反応
- 短い動画が撮れれば持参する
| 月齢の目安 | 見られやすい変化 | 観察のポイント |
|---|---|---|
| 2〜3か月頃 | 手を見る、腕を偶然動かす | おもちゃを追うか、左右の腕を動かすか |
| 3〜4か月頃 | おもちゃへ腕を振る、触れたものを持つ | 肩や肘に「取りにいく準備」があるか |
| 4〜6か月頃 | 手を伸ばす試行が増える、触れる・つかむ | 少しずつ試行が増えているか |
| 6か月頃以降 | 欲しいおもちゃへ手を伸ばして取る | 距離や姿勢が変わっても試せるか |
※月齢は目安です。早産で生まれた赤ちゃんは修正月齢も踏まえて考えます。特定の月齢までに必ずできるかではなく、試行の種類や量が少しずつ増えているかを見ていきます。
なお、急に片方の腕を使わなくなった、反応が極端に弱い、顔色や呼吸がおかしい、けいれんのような動きがあるなど、赤い旗があるときは様子を見ず、まず医療機関へ相談してください。
よくある質問
「正中位」「手を見る」「手を口へ持っていく」「うつ伏せで腕が前に出る」といった土台が、リーチ動作にもつながります。関連記事もあわせてご覧ください。
発達は「ある・ない」ではなく、どの条件で動きやすいか、どこで止まりやすいかを見ることで整理しやすくなります。健診や医療相談が先という前提のうえで、私たちは保護者の不安を観察可能な所見へ変え、家庭での見方や関わりを一緒に考えます。

作業療法士。医学書院『脳の機能解剖とリハビリテーション』著者。子どもの発達は、姿勢と動きのつながりから丁寧に見ていくことが大切だと考えています。
- Centers for Disease Control and Prevention. Important Milestones: Your Baby By Four Months.
- Centers for Disease Control and Prevention. Important Milestones: Your Baby By Six Months.
- HealthyChildren.org. Back to Sleep, Tummy to Play.
- Bhat AN, Galloway JC, Landa RJ. Relationship between early motor delay and later communication delay in infants at risk for autism. Phys Ther. 2012/2013関連リーチ・姿勢研究。
- Toledo AM, Soares DA, Tudella E. Proximal and distal adjustments of reaching behavior in 4- to 6-month-old infants. Infant Behav Dev. 2012;35(4):647-656.
- Thelen E, Corbetta D, Spencer JP. Development of reaching during infancy. 乳児リーチ研究レビュー。
- 国立成育医療研究センター. 乳幼児健康診査身体診察マニュアル.
- 金子唯史. 『脳の機能解剖とリハビリテーション』 医学書院, 2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)
