ADHDの子の「動きすぎ・転びやすい」|協調運動とのつながりを解く
ADHDの子の「動きすぎ・転びやすい」|協調運動とのつながりを解く
「じっとしていられない」「走り出すと止まれない」「よく転ぶ・ぶつかる」——それは多動性だけではなく、身体の使い方・バランス・感覚・運動の組み立てが関係しているかもしれません。ADHDと協調運動のつながりを、運動発達の視点から整理します。

こんな場面で、心配になります。
園庭に出るとすぐ走り出す。廊下でも勢いが止まらず、人や机にぶつかる。階段でつまずく、段差で足を引っかける、ボール遊びでは空振りが多い。周囲からは「落ち着きがない」「ちゃんと見ていない」と言われる。
ADHDの子どもの動きには、たしかに多動性や衝動性が関係します。しかし、転びやすい・ぶつかりやすいという困りごとには、協調運動の育ちが重なっていることもあります。
ADHDの子どもが動きすぎるとき、大人はつい「注意すれば止まれるはず」「本人が聞いていない」と考えてしまいます。しかし、実際には、頭では分かっていても体が先に動いてしまう、止まるタイミングを逃してしまう、周囲を見ながら体を調整することが難しい、ということがあります。
さらに、走る・止まる・曲がる・避ける・着地するという動作には、注意、姿勢、バランス、視覚、感覚、運動の順序立てが同時に必要です。つまり「多動だから転ぶ」と単純に考えるのではなく、どの機能がうまくつながっていないのかを分けて見ることが大切です。
ADHDの「動きすぎ」とは。
ADHDは、不注意、多動性、衝動性を中心とする神経発達症の一つです。多動性が目立つ子では、じっと座っていることが難しい、手足をそわそわ動かす、静かに遊ぶことが苦手、順番を待てない、思いついたらすぐ動いてしまうといった様子が見られます。
ここで大切なのは、ADHDの多動性は「性格が落ち着きない」「しつけが足りない」という話ではないということです。脳の中で、注意を向ける、行動を止める、今するべき行動を選ぶ、刺激に反応しすぎないようにする、といった調整が難しいために、動きとして表に出てきます。

子どもにとって動くことは、学びであり、発達に必要な経験です。問題になるのは、必要な場面で止まれない、危険を予測しにくい、周囲とタイミングを合わせにくい、転倒やけがにつながるほどコントロールが難しい場合です。
協調運動とは何か。
協調運動とは、複数の体の部分をタイミングよく、力加減を調整しながら動かす力のことです。歩く、走る、ジャンプする、ボールを投げる、階段を上る、鉛筆で書く、服を着る。どれも一見単純に見えますが、目、耳、前庭感覚、固有感覚、体幹、手足、注意が連動しています。
協調運動が苦手な子どもは、運動そのものが嫌いなのではなく、体の動かし方を学習しにくい、スピードや力加減を合わせにくい、目で見た情報に体の反応を合わせにくいことがあります。その結果、転ぶ、ぶつかる、ボールが取れない、動作がぎこちない、疲れやすいといった形で表れます。
転びやすさを分解する。
「よく転ぶ」という言葉の中には、いくつものパターンが含まれています。足がもつれるのか、段差を見落とすのか、スピードが出すぎるのか、止まれないのか、着地で崩れるのか。ここを分けて見ると、必要な支援が変わります。

| 転び方 | 考えられる背景 | 支援の方向性 |
|---|---|---|
| 走り出すと止まれない | 衝動性、ブレーキの弱さ、減速の経験不足 | 「走る→止まる→待つ」を遊びで練習する |
| 段差でつまずく | 足元への注意、視覚情報、足を上げるタイミング | 低い段差から、見る・またぐ・止まるを分けて練習する |
| 人や物にぶつかる | 空間認知、周辺視、距離感、スピード調整 | 動線を整理し、見える目印を使う |
| ジャンプ後に崩れる | 体幹、足部、バランス反応、着地準備 | 両足着地、膝を曲げる、静止する練習を入れる |
| 疲れると転びやすい | 持久力、注意の低下、姿勢保持の疲労 | 疲れる前に休憩、活動量を小分けにする |

— 動きすぎ・転びやすさを、動作ごとに分けて確認します
STROKE LABでは、ADHDの特性だけでなく、体幹、バランス、足部、視覚、感覚、運動計画を含めて、お子さんの動き方を丁寧に見ます。家庭や園・学校で困りにくくなる方法を一緒に整理します。
ADHDとDCDの重なり。
発達性協調運動症(DCD)は、運動技能の発達や協調が難しく、日常生活に支障が出る状態です。たとえば、走るとぎこちない、よく転ぶ、ボール遊びが苦手、はさみや鉛筆が使いにくい、着替えや靴ひもが苦手といった形で表れます。
ADHDとDCDは別の診断概念ですが、両方の特徴が重なる子どももいます。ADHDの不注意や衝動性によって転びやすくなる場合もあれば、DCDに近い協調運動の困難によって、姿勢やバランス、手足のタイミングが合いにくい場合もあります。
ADHDかDCDかを家庭で判断する必要はありません。大切なのは、転倒、けが、運動遊びへの苦手意識、着替えや書字の困難など、生活でどのような困りごとがあるかを整理することです。
5つの要素で見る。
ADHDの子どもの「動きすぎ・転びやすい」を見るときは、注意や性格だけでなく、次の5つの要素を合わせて見ると整理しやすくなります。

足元、周囲の人、障害物、先生の指示など、今見るべき情報に注意を向ける力です。注意が別の刺激に移ると、段差や人に気づきにくくなります。
走りたい、触りたい、飛びたいという衝動に対して、少し待つ、止まる、スピードを落とす力です。ここが弱いと、危険に気づいても体が先に動いてしまいます。
スピードが出たとき、方向転換するとき、ジャンプして着地するときに体を支える土台です。体幹が不安定だと、動作のたびに重心が大きく崩れます。
自分の足がどこにあるか、どのくらい力を入れているか、体がどちらに傾いているかを感じる力です。ここがつかみにくいと、距離感や力加減が合いにくくなります。
「この段差を越えるには足をどれくらい上げるか」「このスピードならどこで止まるか」を予測して動く力です。新しい運動や複雑な遊びでつまずきやすくなります。
家庭での観察ポイント。
家庭でできる最初の支援は、叱ることではなく、観察することです。「また転んだ」ではなく、どの場面で、何をしている時に、どのように転んだかを見てみましょう。
| 観察すること | 見るポイント | メモの例 |
|---|---|---|
| 転ぶ場所 | 階段、玄関、園庭、廊下、遊具、混雑した場所 | 「夕方、玄関の段差でつまずく」 |
| 転ぶ前の行動 | 走り出した直後、振り向いた時、手に物を持っている時 | 「声をかけると振り向きながら転ぶ」 |
| 疲労との関係 | 朝・夕方、眠い時、イベント後、運動後 | 「疲れると足元を見なくなる」 |
| 運動遊びの傾向 | ボール、縄跳び、片足立ち、ケンケン、鉄棒、平均台 | 「ボールを見ながら手を出すのが遅い」 |
気になる動きがある場合、短い動画を撮っておくと専門家に相談しやすくなります。本人に見せて責めるのではなく、保護者と専門家が動きを理解するための材料として使いましょう。
家庭でできる支援。
家庭での支援は、「動かないようにする」ことではありません。必要なのは、動く前に見る、動いた後に止まる、スピードを調整する、着地で姿勢を保つといった力を、遊びの中で育てることです。

「走らないで」と言うだけでは、子どもは何をすればよいか分かりにくいことがあります。「線まで歩く」「赤い印で止まる」「ジャンプしたら3秒止まる」のように、行動を具体的に伝えます。
運動遊びは、広くて刺激の多い場所より、最初は安全で見通しのよい場所から始めます。家具や荷物を減らし、ぶつかっても危なくない環境を作りましょう。
できた時は「止まれたね」「足元を見られたね」「着地で3秒止まれたね」と、具体的な行動をほめます。成功した動きを言葉にすると、再現しやすくなります。
音楽が止まったら止まる、色のカードを見たら止まる、線の上で3秒止まるなど、ブレーキを遊びにします。
ジャンプの回数より、着地後に膝を少し曲げて止まれるかを大切にします。着地で崩れる子には、低い高さから始めます。
最初は低いクッション、色テープ、柔らかいブロックなどを使います。難しすぎる環境ではなく、成功しやすい環境を作りましょう。
疲れてから止めるのではなく、うまくできているうちに短く終える方が、成功体験として残りやすくなります。
園・学校での支援。
園や学校では、友だちの動き、音、時間制限、集団活動など、刺激が多くなります。ADHDの子どもは、こうした刺激の中で注意が移りやすく、衝動的に動きやすくなります。さらに協調運動の困難があると、体育、外遊び、移動、着替え、整列などで困りごとが出やすくなります。

| 困りごと | 環境調整 | 育てたい力 |
|---|---|---|
| 廊下で走る | 歩く場所を線や目印で示す、先頭ではなく近くで見守る | 歩くスピード、止まる力 |
| 体育で失敗が多い | 見本を小さく分ける、低い段階から成功させる | 運動計画、身体イメージ |
| 集団遊びでぶつかる | 人数を減らす、ルールを見える化する、範囲を区切る | 距離感、視野、予測 |
| じっと座れない | 短い役割を作る、姿勢を変える休憩を入れる | 覚醒調整、体の自己調整 |
相談の目安。
転びやすさがあっても、成長とともに少しずつ改善し、生活上大きな困りごとがなければ、焦りすぎる必要はありません。一方で、けがが多い、運動への苦手意識が強い、生活や学校参加に支障が出ている場合は、専門家に相談すると安心です。
急な歩行の変化、強い痛み、意識がぼんやりする、繰り返し頭を打つ、けいれん、明らかな麻痺や左右差がある場合は、発達相談だけでなく医療機関への相談が必要です。転びやすさの背景には、視力、耳・前庭、神経、筋肉、関節、靴や環境など、ADHD以外の要因が隠れていることもあります。
よくある質問と、STROKE LABの支援。
多動性や衝動性によって、周囲を見ずに動き出すことで転びやすくなることがあります。一方で、姿勢保持、バランス、身体の位置感覚、運動の順序立てなど、協調運動の困難が重なっている場合もあります。
別の診断概念です。ADHDは注意や衝動性、行動調整の難しさが中心です。DCDは運動技能の学習や協調が難しく、日常生活に支障が出る状態です。ただし、両方の特徴が重なる子どももいます。
運動教室が合う子もいますが、失敗体験が増えると苦手意識が強くなることもあります。まずは安全な環境で、止まる、見る、待つ、着地するなど、必要な要素を分けて練習できる場が望ましいです。
ADHDの薬物療法は医師が必要性を判断します。不注意や衝動性が落ち着くことで安全面が改善する場合もありますが、協調運動やバランスそのものの練習が必要な子もいます。服薬については必ず主治医に相談してください。
体幹、姿勢、バランス、足部、視覚、感覚、運動計画、注意の向け方を含めて動きを評価します。転びやすさだけでなく、体育、遊び、着替え、手先の不器用さなど、生活全体の困りごとを一緒に整理します。
STROKE LABは、脳卒中をはじめとする神経リハビリで培った運動分析の視点をもとに、小児の姿勢・運動・生活動作の支援も行っています。ADHDや発達が気になるお子さんの「動きすぎ」「転びやすい」という困りごとも、脳と体のつながりから分解して見ていきます。

動きの理由を一緒に見つけます。

ADHDの子どもが動きすぎたり転びやすかったりすると、周囲から注意される機会が増え、本人も「また怒られた」「自分はできない」と感じやすくなります。
私たちは、行動だけを見て判断するのではなく、脳と体のつながりから、なぜその動きになるのかを丁寧に分解することを大切にしています。
お子さんの動きすぎ、転びやすさ、運動の苦手さで気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考と注意書き。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。ADHDやDCDの診断、薬物療法の判断は医師による評価が必要です。転倒や歩行の変化、痛み、けが、左右差などがある場合は、かかりつけの小児科や専門医にご相談ください。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)