体育が苦手で学校がつらい子|運動の苦手さと自己肯定感を守る関わり
運動の苦手さを責めず、参加できる方法を一緒に探します
「走るのが遅い」「ボールが捕れない」「みんなの前で失敗するのが怖い」——体育が苦手な子のつらさは、運動だけの問題ではありません。大切なのは、できない理由を分解し、自己肯定感を守りながら参加の形を整えることです。

体育がつらくなる場面。
ボールが飛んでくると体が固まる。跳び箱の前で足が止まる。リレーで抜かれると、クラスの視線が一気に集まる。先生は「頑張ればできる」と言うけれど、本人は何をどう頑張ればよいのか分からない。
体育が苦手な子にとって、体育は単なる授業ではなく、人前で失敗を見られる時間になっていることがあります。
体育が苦手な子は、「走るのが遅い」「ボールが苦手」「ダンスが覚えられない」「鉄棒や跳び箱が怖い」など、いくつかの場面で困りごとを感じています。周囲から見ると、ただ運動が苦手に見えるかもしれません。しかし本人の中では、失敗、恥ずかしさ、比較、叱責、不安が積み重なっています。
大切なのは、「体育が嫌い」と言う子に対して、すぐに「逃げている」と判断しないことです。苦手な運動には、姿勢、バランス、視線、リズム、筋力、感覚、運動計画、注意、不安など、複数の要素が関わっています。
運動の苦手さの背景。
運動が得意な子は、体の傾き、足裏の感覚、ボールの速度、相手との距離、次の動きの予測などを、無意識に処理しています。一方で運動が苦手な子は、これらを同時に処理することが難しく、動き出しが遅れたり、ぎこちなく見えたりします。

| 要素 | 見えやすい困りごと | 支援の入口 |
|---|---|---|
| 姿勢・バランス | 片足立ち、ジャンプ、方向転換で体が崩れやすい | 足幅・手の位置・目線を整えてから動く |
| 視覚運動 | ボールを目で追えず、捕る動きが遅れる | 近い距離・ゆっくりした速度から始める |
| 運動計画 | 動きの順番が分からず、途中で止まる | 動きを2〜3手順に分け、見本を近くで見せる |
| 不安・緊張 | 人前で固まり、普段より体が動かない | 順位や一発勝負を避け、安心して試す回数を増やす |
DCD・協調運動とは何か。
発達性協調運動症(DCD)は、知的な理解とは別に、体の動かし方や新しい運動技能の学習が難しく、日常生活や学校生活に影響が出る状態です。体育だけでなく、着替え、食事、書字、工作、道具の扱いなどにも苦手さが見られることがあります。
ただし、体育が苦手なことだけでDCDと判断することはできません。経験量、環境、不安、視力、筋力、痛み、注意の向け方なども関係します。大切なのは、診断名を急ぐことではなく、困っている場面を具体的に分け、支援の入口を探すことです。
STROKE LABの視点:「失敗する前の動き」を見る。
STROKE LABでは、体育の苦手さを「できた・できない」だけで見ません。転んだ後、ボールを落とした後、跳べなかった後ではなく、失敗する直前に何が起きているかを見ます。ボールが来る前に目で追えているか、跳ぶ前に膝と足首を曲げて準備できているか、走る前に体幹が前へ倒れすぎていないか。ここに支援のヒントがあります。
この視点を持つと、声かけも変わります。「ちゃんと見て」「もっと頑張って」ではなく、「まず足を少し開こう」「ボールが来る前に胸の前で手を準備しよう」「一回止まってから投げよう」と、子どもが実行しやすい言葉になります。
「失敗する前」を見れば、責める言葉が減ります
失敗した結果だけを見ると、子どもは「またできなかった」と感じます。失敗の前にある準備を見れば、大人は「どこを支えればよいか」を見つけられます。これは自己肯定感を守るうえでも重要です。
研究でわかっていること。
DCD傾向のある子どもでは、身体活動に対する「自分にもできそう」という感覚が低く、組織的な運動や自由遊びへの参加が少ない傾向が報告されています。つまり、体育の苦手さは運動技能だけでなく、自信・参加・自己肯定感にもつながります。
この研究は、体育が苦手な子を「もっと運動させればよい」と単純に考えないための根拠になります。まずは失敗体験を減らし、成功できる条件を作り、少しずつ参加の幅を広げることが大切です。
体育種目別:どこでつまずくか。

| 種目 | 失敗する前に見たい動き | 支援の工夫 |
|---|---|---|
| 走る | スタート前に体が前へ倒れすぎていないか、足幅が狭すぎないか | 短い距離で、止まる場所を見える化する |
| 跳ぶ | 膝と足首を曲げて準備できるか、腕を使えているか | 床マークを置き、低い段差から始める |
| 投げる | 体をひねる余地があるか、投げる方向を見ているか | 近い距離・大きいボール・ゆっくりしたテンポにする |
| 捕る | ボールを目で追い、胸の前に手を準備できるか | 柔らかいボールを胸に当てる練習から始める |
| マット運動 | 頭・背中・骨盤の順番が分かるか | 斜面や補助を使い、動きの順番を体験する |
様子見と相談の目安。
体育が苦手なだけで、すぐに専門的な診断が必要というわけではありません。ただし、運動の苦手さが日常生活や学校生活に広がっている場合、子ども自身が強く苦しんでいる場合、けがや転倒が多い場合は相談の目安になります。
| 観察ポイント | 家庭・学校で調整しながら見られる場合 | 相談を考えたい場合 |
|---|---|---|
| 体育への反応 | 苦手だが、内容や環境を変えると参加できる | 体育前に強い腹痛・涙・登校しぶりが続く |
| 日常生活 | 体育以外の生活動作は大きく困っていない | 着替え、食事、書字、工作などにも困りごとがある |
| 転倒・けが | 疲れた時に少し増えるが大きなけがは少ない | 転倒やぶつかりが多く、けがにつながる |
| 左右差・痛み | 明らかな痛みや急な変化はない | 片側だけ極端に使いにくい、痛みがある、急に歩き方が変わった |
| 自己肯定感 | 苦手さを話せる、安心できる場がある | 「自分はダメ」と強く言う、運動遊びを避け続ける |

家庭・学校で使える相談メモ7項目。
相談の場では、「体育が苦手です」だけでなく、どの種目で、どの場面で、どのように困るかを具体的に伝えると支援につながりやすくなります。以下をメモしておくと、学校・小児科・発達相談・リハビリ相談で共有しやすくなります。
自己肯定感を守る関わりと、避けたい声かけ。
体育の苦手さで最も避けたいのは、「できない経験」が「自分はダメ」という自己評価に変わることです。運動の技能は練習で変わる余地がありますが、恥ずかしさや恐怖が強くなると、参加そのものが難しくなります。
| 避けたい関わり | なぜつらいか | 代わりの関わり |
|---|---|---|
| みんなの前でできない点を指摘する | 恥ずかしさが強くなり、挑戦を避けやすくなる | 個別に伝え、次に試す一点だけを共有する |
| 順位やタイムだけで評価する | 努力や工夫が見えにくくなる | 準備、参加、工夫、前回からの変化を評価する |
| 苦手種目を長く反復させる | 失敗体験が増え、自信が下がる | 動きを分解し、成功できる小さい課題から始める |
| 怖がる理由を聞かずに参加を迫る | 不安が強まり、登校しぶりにつながることがある | 怖い場面を具体化し、参加方法を調整する |
STROKE LABでは、姿勢、感覚、バランス、運動計画、自己肯定感を合わせて見ながら、お子さんが安心して参加できる方法を考えます。
よくある質問。
体育が苦手なことだけで、発達障害や発達性協調運動症(DCD)と判断することはできません。経験量、姿勢、バランス、視覚、感覚、注意、不安、学校環境など複数の要因が関係します。ただし、体育だけでなく日常生活や学校生活にも困りごとが続く場合は、専門家へ相談すると安心です。
DCDは、知的な理解とは別に、体の動かし方や新しい運動技能の学習が難しく、日常生活や学校生活に影響が出る状態です。ボール運動、縄跳び、着替え、書字、食事動作などに苦手さが出ることがあります。診断には医師や専門職による評価が必要です。
一律に休ませるか参加させるかではなく、参加方法を調整することが大切です。見本を近くで見る、距離や道具を変える、順番を最後にしない、評価をタイムや順位だけにしないなど、安心して参加できる形を探します。強い不安や体調不良がある日は、無理を避けることも必要です。
苦手な運動をいきなり反復するより、姿勢を保つ、目で追う、体重を移す、リズムに合わせる、両手を使うなど、運動を小さく分けて遊びの中で経験します。短時間で成功できる設定にし、できた部分を具体的に言葉にすることが大切です。
人前でできないことを指摘せず、努力の量だけでなく工夫や挑戦を認めます。順位や勝敗だけでなく、昨日より少しできたこと、参加できたこと、助けを求められたことを具体的に言葉にします。失敗を減らす環境調整も、自己肯定感を守る支援です。
体育だけでなく日常生活にも困りごとがある、転倒やけがが多い、運動遊びを強く避ける、学校生活に支障がある、極端な左右差や痛みがある、急に歩き方が変わった場合は、小児科、発達相談、作業療法士・理学療法士などに相談すると安心です。
STROKE LABの小児リハ。
STROKE LABの小児リハビリでは、体育の苦手さを「運動不足」や「やる気」の問題にしません。姿勢、バランス、視覚運動、感覚、運動計画、学校での参加方法、自己肯定感を合わせて整理します。
苦手な種目を繰り返すだけではなく、失敗する前の準備、成功しやすい道具、安心できる声かけ、家庭と学校で共有できる観察ポイントを具体化します。
参加できる条件を一緒に探します。

体育が苦手な子に必要なのは、できないことを責める言葉ではなく、何が難しいのかを分けて見る視点です。少しの環境調整で、参加できる形が見つかることがあります。
STROKE LABでは、脳・感覚・姿勢・運動の連鎖から、家庭と学校で使いやすい支援の形を一緒に整理します。
代表取締役 金子 唯史

体育の苦手さを「努力不足」とせず、脳・感覚・姿勢・運動計画として整理することで、支援の入口が見えやすくなります。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態については、小児科、学校、発達相談、作業療法士・理学療法士などにご相談ください(最終確認日:2026年7月6日)。
- NHS: Developmental co-ordination disorder (dyspraxia) in children
- 発達障害情報・支援センター:発達性協調運動症
- DCD支援マニュアル
- 文部科学省:小学校学習指導要領解説 体育編
- Cairney J, Hay JA, Faught BE, Mandigo J, Flouris A. Developmental coordination disorder, generalized self-efficacy toward physical activity, and participation in organized and free play activities. The Journal of Pediatrics. 2005;147(4):515-520.
- Caçola P. Physical and Mental Health of Children with Developmental Coordination Disorder. Front Public Health. 2016;4:224.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)