【2026年版】視野が半分欠ける・見えにくい原因は?視床外側膝状体とリハビリ解説
視床外側膝状体の障害は、なぜ「見えても気づけない」を招くのか。
視床外側膝状体(LGN)は視覚経路の中継核であり、その障害は同名半盲・視覚失認・注意の偏りとして臨床現場に現れます。責任病巣の理解から評価、介入パラメータまでを整理します。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
70歳代・男性。右後大脳動脈領域の脳梗塞発症後、回復期病棟入院3週目。BRS上下肢ともにVIと運動麻痺は軽度だが、「右側のものに気づかない」「壁にぶつかる」という主訴でPTへ紹介。
初回評価では対座法にて右視野の同名半盲様所見、整容場面で右頬の洗い残し・片側着衣を確認。BIT通常検査98/146点(カットオフ129点未満)。
新人セラピストが最初につまずくのは、「視野が見えていない」のか「見えているのに注意が向かない」のかを区別できない場面です。両者は原因も介入も異なるため、まず責任病巣を押さえることが臨床判断の出発点になります。

①視覚の変化:会話中やADL中の視線移動、目を細める動作、体ごと向きを変える仕草。②視野の変化:物体識別に時間がかかる、顔を近づけて読もうとする行動。③光の知覚障害:まぶしさ回避行動、暗所での動揺、サングラス常用。④ナビゲーション障害:家具・壁への接触、飲み物をうまく注げない、奥行き把握の困難。
定義と疫学。
視床外側膝状体(LGN:Lateral Geniculate Nucleus)は、視床後部・腹側に位置する小型の神経核です。網膜神経節細胞からの視覚情報を視神経・視索を介して受け取り、視放線を通じて後頭葉一次視覚野(V1)へ中継する、視覚経路唯一のゲートとして機能します。
— LGNの位置:視床後部・第3脳室外側、内包後脚・海馬に隣接
視覚情報の中継ルート
網膜神経節細胞からの視覚情報は、視神経および視索を通じてLGNに届き、そこで処理された後、視放線を介して後頭葉の一次視覚野(V1)に送られます。この経路を通じて、光刺激が意味ある知覚へと変換されます。

— 網膜神経節細胞→視神経・視索→LGN→視放線→一次視覚野(V1)
アキシャル像では第3脳室外側の視床後部に位置し、三日月型の構造として観察されます。下方に海馬、外側に内包後脚が隣接するため、これらをランドマークとして同定します。冠状断では視床後方が狭まる部位、矢状断では視床側面の小さな隆起として現れます。
画像読解3ステップ
第3脳室両側の卵型構造として視床本体をまず特定します。

LGNは視床後部にあるため、後方寄りのスライスを重点的に確認します。

海馬・内包との位置関係、アキシャル・コロナル・サジタルを併用し同定精度を高めます。

LGNは三日月型で非常に小さいため、拡大表示が有効です。造影後T1強調画像では周囲灰白質とのコントラストが明確になります。3断面(アキシャル・コロナル・サジタル)の併用と、fMRI・DTIなどの機能的画像も同定精度を高めます。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは脳神経疾患のスペシャリストが視覚・注意機能を含めた包括的な評価とリハビリを行います。まずは無料相談で現在の状況をお聞かせください。
神経メカニズム・責任病巣。
LGNは①一次視覚野からの皮質-視床フィードバック(注意・視覚認識の制御)、②脳幹網様体賦活系からの覚醒入力、③視床網様核・介在ニューロンによる局所調節、という3経路から活動を調整されています。この多元性ゆえに、LGN周辺の損傷は単なる「視野の欠損」に留まらず、注意・覚醒レベルとも絡み合った症状を呈します。
— 皮質-視床フィードバック・網様体賦活系・視床内局所調節の3経路
病態像
LGN損傷では典型的に対側の同名半盲(右LGN損傷で左視野欠損)が出現します。視覚入力の統合にも関与するため、視覚失認・空間的注意障害・物体認識障害が二次的に併存することがあります。

— 右LGN損傷による左同名半盲のイメージ
視覚失認の種類 [専門家合意/観察研究]
LGN以降の視覚経路の障害では、形は見えていても意味づけできない視覚失認が併存することがあります。Barton(Handb Clin Neurol)の整理に基づき、代表的な4型を示します。
形態失認
LOC障害。輪郭・形の統合ができない
変換失認
後頭頂皮質障害。視点が変わると同一物と判断できない
相貌失認
顔専門野(FFA)障害。親しい人の顔を識別できない
地誌失認
海馬・頭頂葉障害。方向感覚の喪失、ランドマーク識別困難
Zhang X et al., J Neuroophthalmol, 2006 [観察研究]:脳卒中患者904例のコホート調査で、対側の同名半盲は約8.7%に認められ、後大脳動脈領域の梗塞に多いと報告されています。責任病巣として視放線・後頭葉に加え、LGNを含む視床病変も同名半盲の原因となりうる点が示されています。
鑑別診断。
「見えない」と一括りにせず、責任病巣が視覚経路(感覚)か注意ネットワーク(高次脳機能)かを分けて考えることが、新人セラピストにとって最初の関門です。

| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 同名半盲(LGN/視放線) | 対側の見落とし | 頭部・眼球運動で代償可能。境界が視野の垂直正中線で明瞭。 | 対座法・視野計(Goldmann/Humphrey) |
| 半側空間無視 | 対側の見落とし | 視野は保たれていても対側への探索行動自体が起こりにくい。代償が効きにくい。 | BIT・線分二等分・線分抹消試験 |
| 視覚失認 | 物の認識障害 | 視力・視野は保たれるが、見えている物の意味づけができない(触覚では認識可能なことが多い)。 | 物品呼称・触覚照合課題 |
| 皮質盲 | 視覚入力の消失 | 両側後頭葉損傷で全視野が消失。対光反射は保たれる点がLGN障害と異なる。 | 対光反射・頭部MRI |
評価尺度と採点基準。
視野障害と注意障害を切り分けるには、机上検査と行動観察の両方を体系的に実施する必要があります。ここではBIT(行動性無視検査)の採点基準を中心に解説します。

| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| BIT通常検査 合計 | 0〜146点 | 129点未満 | 半側空間無視ありと判定 |
| BIT行動検査 合計 | 0〜81点 | 67点未満(目安) | ADL場面での無視の存在を示唆 |
| Catherine Bergego Scale | 0〜30点(10項目×0-3) | 1点以上で異常 | 点数が高いほどADL上の無視が重度 |
Menon & Korner-Bitensky, Top Stroke Rehabil, 2004 [SR/MA]:半側空間無視の評価尺度を系統的にレビューし、BITは検者間信頼性・併存的妥当性ともに良好(相関係数0.8台)と報告。一方でMCID(臨床的最小変化量)は十分に確立されておらず、変化の解釈には慎重さが必要と述べています[専門家合意]。

STROKE LABでは、視野・注意機能に応じた個別評価をもとに、ご本人の生活に即した訓練プログラムを組み立てます。まずは現在の状態をお聞かせください。
介入のエビデンス。
視覚走査訓練(VST)は、空間3領域(パーソナル・ペリパーソナル・エクストラパーソナル)を段階的に用いることで、日常生活の文脈に近い形で注意の再配分を促す方法です。

顔・頭部を鏡で確認しながら洗顔・整容動作の左右対称性をセルフチェックする。1回10〜15分を目安に、整容場面へ組み込む。
テーブル上に物品を配置し、対側から先に探索・到達する課題を反復する。1セット10〜15回×3セットを目安に実施。
対側に障害物を配置し、目的地までの移動と回避を促す。口頭キューを段階的に減らし、自発的な空間把握を目指す。
調光可能な照明下で明暗差を段階的に強め、不快感の有無を都度確認しながら適応力を高める。
Priftis K et al., Neuropsychol Rehabil, 2013 [単独RCT]:視覚走査訓練・四肢活性化治療・プリズム順応の3手法を比較し、いずれも左半側空間無視に有効であることを報告。特に視覚走査訓練はパーソナルスペースの自覚改善に有効で、効果が2週間以上持続したとされています。

Bowen A et al., Cochrane Database Syst Rev [SR/MA]:脳卒中後の空間無視に対する認知リハビリテーションの系統的レビューでは、視覚走査訓練を含む代償的アプローチが机上検査の改善に中等度のエビデンスを示す一方、ADLへの汎化効果については更なる検証が必要とされています。パラメータの目安として1回45〜60分・週5回・2〜3週間の実施が多く用いられています。
多職種連携と環境調整。
環境設定の基本方針
ベッド配置は健側から刺激が入る向きを基本としつつ、訓練場面では意図的に対側から刺激を与え、注意の再配分を促す使い分けが重要です。病室の照明配置・視覚情報の一貫性も併せて調整します。
「無視の評価結果は必ず看護記録・多職種カンファレンスで共有しよう。病棟での見守り方針が変わるから。」
「訓練で改善が見えても、病棟ADLで再現されなければ意味がない。生活場面での般化を必ず確認しよう。」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 歩行時の対側障害物への気づき | 空間ナビゲーション訓練・歩行時の注意誘導 | 病棟移動時の転倒リスクを看護師と共有 |
| OT | 整容・更衣・食事場面の無視 | 鏡を用いたセルフチェック訓練・食器配置の工夫 | ADL場面の観察結果をPT・STと共有 |
| ST | 読字・書字における無視 | 音読課題・書字時の左端手がかり付与 | 高次脳機能全般の所見をPT/OTへフィードバック |
| 看護師 | 病棟生活での見落とし・転倒リスク | 配膳位置の工夫・声かけによる注意喚起 | 訓練場面での方針を24時間生活へ反映 |
| 医師 | 責任病巣・画像所見の確定 | 画像診断・視野検査のオーダー | 病巣情報をリハビリチームへ提供 |
| MSW | 退院後の生活環境・支援体制 | 自宅環境調整の助言・社会資源の紹介 | 在宅復帰時の残存障害情報をリハビリ職と共有 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
LGN周辺の視覚障害は、評価・介入のいずれの段階でも新人セラピストが判断に迷いやすい領域です。代表的な3つのつまずきを整理します。
臨床判断のコツ
「迷ったら“頭を動かせば見えるか”を確認してみて。それだけで半盲か無視かの当たりがつくよ。」
「訓練の声かけは徐々に減らす。最初から言葉に頼りすぎると、自発的な気づきが育たないからね。」
予後とゴール設定。
同名半盲は発症後6か月以降の自然回復が限定的とされる一方、代償的な視覚走査能力の獲得によりADL上の支障は軽減できると報告されています。ゴール設定は「視野を治す」ではなく「気づく行動を増やす」視点で組み立てます。

短期(2週間):整容・食事場面での対側無視を軽減し、自発的な視覚探索を促す。長期(1か月):屋内外の移動時に対側空間へ適切な注意を向け、ぶつかりや見落としのない移動を実現する。
よくある質問。
LGNは網膜からの視覚情報を一次視覚野へ中継する唯一の経路であり、片側のLGNが障害されると、その側が担当する反対側視野の情報が皮質に届かなくなるため、対側の同名半盲が生じます。
同名半盲は視覚経路の一次的な感覚欠損で頭部・眼球運動により代償できる一方、半側空間無視は注意の障害であり、対側への探索行動そのものが起こりにくいという質的な違いがあります。視野検査と行動観察を併用して鑑別します。
先行研究では1回45〜60分、週5回、2〜3週間程度の集中的な実施が報告されています。個々の耐久性や高次脳機能状態に応じて時間・頻度を調整することが推奨されます。
STROKE LABでは、機能的な視覚走査訓練・環境調整・代償手段の獲得を中心としたプログラムを提供しており、プリズム順応療法や電気刺激などの特殊機器を用いた訓練は実施しておりません。
BIT通常検査の総合点は146点満点で、カットオフ値129点未満で半側空間無視ありと判定されます。机上検査に加え行動検査も併用することが推奨されます。
同名半盲は発症後6か月以降の自然回復は限定的とされますが、代償的な視覚走査能力の獲得によりADL上の支障は軽減できるケースが多く報告されています。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳神経疾患専門の自費リハビリ施設として、視野・注意障害を含む高次脳機能障害に対し、評価に基づく個別プログラムを提供しています。医学書院より刊行予定の「脳の機能解剖とリハビリテーション」の知見も踏まえ、根拠に基づいた介入を行います。
「回復期病棟で、右LGN梗塞後の患者様が食事の右半分を残す場面に出会いました。視野検査だけでは判断がつかず、BIT行動検査を追加したところ、皿の右側への手の伸ばしに明確な遅延を確認。鏡を使った整容チェックとリーチ課題を2週間継続したところ、食事の食べ残しがほぼ消失しました。感覚の欠損か注意の障害かを分けて評価する重要性を実感した症例です。」— 作業療法士・経験8年・高次脳機能障害領域
「歩行時に対側の壁へ繰り返し接触する患者様を担当した際、最初は声かけで回避誘導していましたが、なかなか自発的な気づきに至りませんでした。声かけを段階的に減らし、対側に配置した目印を『自分で探す』課題に切り替えたところ、3週目から自発的な回避行動が増加。誘導し過ぎないことの大切さを学びました。」— 理学療法士・経験6年・脳血管疾患領域
諦めないでください。

脳卒中後の視覚・注意障害は、外からは分かりにくく、ご本人も「なぜぶつかるのか」を言葉にできないことが少なくありません。
私たちは責任病巣に基づく正確な評価から出発し、生活の中で「気づく力」を取り戻すための訓練を、ご本人・ご家族と一緒に組み立てていきます。
お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)