【2026年度版】BLSとSCPを徹底比較|プッシャー症候群のLateropulsion評価尺度を解説
SCP・BLSの採点基準を、プッシャー症候群の臨床評価に落とし込む。
プッシャー症候群(Pusher Syndrome)は脳卒中後の5〜10%に生じる姿勢異常です。現象として観察している療法士は多いものの、評価スケールを用いて定量化している臨床家はまだ少ないのが実情です。この記事では、SCP・BLSの採点方法を項目ごとに丁寧に解説します。
— プッシャー症候群の評価・治療の全体像をSTROKE LABが動画で解説しています。
要点5項目。
臨床現場でのプッシャーとの出会い方。
座位保持の介助をするたびに「倒れる!」と叫ぶ患者さん。こちらとしては明らかに麻痺側に傾いているのに、なぜ非麻痺側に倒れると感じているのか—。これがプッシャー症候群の典型的な始まりです。
このような場面で「感覚の話ではなく、垂直認知(SPV)の問題だ」と把握できるかが評価の分岐点になります。
プッシャー症候群は、非麻痺側の上下肢で麻痺側に体を押し出すような状態です。歩行では麻痺側への荷重が困難になり、非麻痺側が引っかかります。起居動作ではベッド座位で麻痺側に崩れてしまう場面が多く見られます。
多くの療法士が「なんとなく体が麻痺側に傾いている」と現象を記録するだけで終わってしまいます。しかしSCPやBLSで定量化することで、介入効果の測定や他職種への情報共有が格段に正確になります。
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STROKE LABは脳神経系専門の自費リハビリ施設です。プッシャー症候群のリハビリ経験を豊富に持つセラピストが、評価から介入まで一貫してサポートします。まずは無料相談でご状況をお聞かせください。
プッシャー症候群の定義と疫学。
プッシャー症候群(Pusher Syndrome)は、脳卒中後の5〜10%に出現する姿勢異常症状です。非麻痺側の上下肢を伸展・外転させ、麻痺側に向かって体を押し出すように作用させることが特徴です。
「麻痺側に著明に傾いた姿勢をとり、非麻痺側の上下肢を使って体を麻痺側に向けてさらに押し込もうとする行動、かつ正中への他動的な姿勢修正に対して強く抵抗する状態」と定義されています。
臨床的には「傾いている」「抵抗する」という2点が鑑別の核心です。どちらか一方だけでは診断が曖昧になるため注意が必要です。
プッシャー症候群の3つの臨床的特徴
支持なしでは麻痺側に著明に傾く。重度では転倒レベルまで崩れる。この傾きは本人が意識していないため、指摘しても「まっすぐに座っている」と主張することが多い。
非麻痺側の手をベッドに突っ張ったり、足を外に広げたりして接触面積を広げる。安静時から出現するものと、姿勢変換時にのみ出現するものに分かれる。
介助者が正中に戻そうとすると「倒れる!」と感じ、非麻痺側肢で強く押し返してくる。この「抵抗」がプッシャー症候群の診断上、最も重要な所見のひとつ。
神経メカニズムと責任病変。
SPV(身体的垂直認知:Subjective Postural Vertical)とは、自分の体がまっすぐかどうかを感じる脳の機能です。プッシャー症候群ではこのSPVが障害を受け、麻痺側に20°傾いた位置を「まっすぐ」と誤認します。
臨床的な含意として—介助者が正中に戻そうとする動作は、患者にとって「まっすぐな位置から非麻痺側に向けて倒されている」という体験になります。だから激しく抵抗するのです。
深田らの研究(Fukada et al., 2019, PubMed PMID:31794789)では、プッシャー行動を呈する方の正中認識が麻痺側へ傾いているという結果が示されています。これはSPVの神経基盤が障害されていることを示す重要なエビデンスです。
責任病変:プッシャーに特異的な脳部位
プッシャーを呈さない脳卒中患者と比較すると、以下の部位に特異的な病変がみられることが報告されています。
左島皮質後部・上側頭回:体性感覚情報の統合に関わる部位。左半球損傷のプッシャー症候群で最も報告が多い。
左下頭頂小葉:多感覚情報(前庭・体性感覚・視覚)を統合して空間認知を行う部位。SPV形成に深く関与する。
右中心後回:右半球損傷型のプッシャーで報告される。体性感覚の一次受容野に相当する。
鑑別診断と類似症状との違い。
新人臨床家が最も迷うのが「これはプッシャーか、それとも別の問題か」という判断です。以下の比較テーブルで整理しましょう。
| 鑑別ポイント | プッシャー症候群 | 運動麻痺による傾き | 半側空間無視 |
|---|---|---|---|
| 傾く方向 | 麻痺側 | 麻痺側 | 麻痺側(視覚的無視で右方を向く) |
| 正中修正への抵抗 | ★ 強い抵抗あり | 抵抗なし(協力的) | 基本的になし |
| 非麻痺側の突っ張り | ★ 伸展・外転あり | なし | なし |
| 視覚フィードバックへの反応 | 有効(鏡・外部参照線で改善) | 有効 | 部分的に有効 |
SCP・BLS 採点基準の完全解説。
プッシャーの代表的な評価スケールはSCP(Scale for Contraversive Pushing)・Pusher評価チャート・BLS(Burke Lateropulsion Scale)・4PPS(Four Point Pusher Scale)の4種類です。今回は信頼性・妥当性の検証が最も進んでいるSCPとBLSを中心に解説します。
SCP(Scale for Contraversive Pushing):採点基準の完全網羅
SCPは姿勢・伸展・抵抗の3項目を座位・立位で評価します。合計点が0より大きければプッシャーありと判断します。
① 自発的な姿勢の対称性(姿勢)
方法:座位での体幹の傾きを評価する。
② 伸展・外転(上下肢で接触面積を広げる)
方法:非麻痺側上下肢の伸展・外転を評価する。最初の姿勢で判断が難しければ①非麻痺側へ殿部をずらす、または②非麻痺側に椅子を置き乗り移ってもらい、動作中の伸展・外転を評価する。
③ 抵抗(他動的な姿勢の修正)
方法:座位の患者さんを介助者が他動的にまっすぐ(正中)に戻した時の抵抗感を評価する。
— SCP評価の概略図。姿勢・伸展・抵抗の3項目を座位・立位で評価する。
① 自発的な姿勢の対称性(姿勢)
方法:立位での体幹傾斜を評価する。座位と同様に0〜1点で採点。
② 伸展・外転(立位)
方法:起立時から下肢が外転していれば1点。起立時に外転がない場合は歩行を実施し、歩行中に出現すれば0.5点、なければ0点。
③ 抵抗(立位)
方法:立位で介助者が他動的に正中に戻した時の抵抗感を評価する。
BLS(Burke Lateropulsion Scale):5場面の採点基準完全網羅
BLSはラテロパルジョン(Lateropulsion:体が一側方向に引っ張られるような異常姿勢)の重症度評価スケールです。背臥位〜歩行まで5場面で評価し、最高17点になります。
方法:麻痺側・非麻痺側の両方向への寝返りを行い(介助可)、それぞれの抵抗感を評価する。プッシャーの方は非麻痺側への寝返り時に抵抗を感じることが多い。麻痺側への寝返りにも抵抗がある場合は+1点を加算する。
— BLS①:寝返り動作での抵抗感を評価する。
方法:両下肢を浮かせた状態で座位をとり、麻痺側へ30°傾けた後、正中に戻していく際の抵抗を評価する。非麻痺側への傾きは運動麻痺による傾きのため採点しない。麻痺側への崩れのみを採点すること。
方法:立位をとり、麻痺側へ20°傾けた後、正中を超えて10°非麻痺側に傾けていく際の抵抗を評価する。麻痺側の膝折れリスクが高いため、装具・手すりなど環境調整を必ず行うこと。歩行補助具使用でも立位が困難な場合は4点をつける。
方法:ベッドに座位をとり、非麻痺側に車いす・椅子を置き乗り移りを行う。その時の抵抗感・介助量を評価する。非麻痺側の手で椅子の背もたれを握ってもらうと、上肢の押しの強さが評価しやすい。
方法:歩行させ、麻痺側に傾いている体幹を正中に戻した際の抵抗感を評価する。装具・杖の使用可。再評価時は同一条件で実施すること。
介入の段階とエビデンス。
プッシャー症候群への介入は「垂直認知のズレに本人が気づき、正しい位置を再学習する」ことが基本戦略です。エビデンスに基づいた段階的アプローチを紹介します。
患者は「非麻痺側に倒れる」という恐怖から上下肢で突っ張っています。非麻痺側に介助者が位置し、「この方向に倒れても私が支えます」と伝えながら安心感を提供することで、押す力を緩めてもらいます。パラメータ:初期評価後から全セッションで実施。
押す力が緩んできたら、正しい「まっすぐ」を視覚で再学習します。「あの柱に体を合わせてみましょう」など外の環境に体を合わせる方法、鏡で自分の傾きを確認する方法が有効です。パラメータ:1回20〜30分、週3〜5回を目安に継続。
姿勢制御の70%を占めるとされる体性感覚を活用します。部屋の角で両側から圧力を感じてもらう方法や、麻痺側のお尻の下に硬いクッションを置き感覚情報を増やす方法が有効です。パラメータ:各セッション10〜15分間の導入として実施。
SCPやBLSの点数が改善してきたら、座位バランス・移乗・歩行など実際のADL場面での訓練に移行します。SCP 0点相当まで改善すれば自然回復が見込まれますが、積極的な訓練で回復を早めることができます。
主な知見:Karnath et al. (Neuropsychologia, 2000) は、プッシャー症候群患者において視覚系(SVV:主観的視覚的垂直)は保たれており、SPV(身体的垂直認知)のみが障害されていることを示しました。このことは、視覚的な外部参照(鏡・壁・柱など)を用いた垂直再学習が神経科学的に根拠のある介入であることを支持します。
臨床応用:視覚フィードバックを早期から積極的に使うことで、自然回復を待つより3週間以上早い回復が見込まれます(Broetz et al., 2004; Neurorehabil Neural Repair)。

STROKE LABでは、プッシャー症候群を含む脳卒中後の複合的な姿勢障害に対し、評価から介入まで一貫したリハビリを提供しています。「なぜ押してくるのか」を正確に理解したセラピストが関わることで、ご本人とご家族の不安を軽減しながら回復を進めていきます。
多職種連携と環境調整。
プッシャー症候群は日常生活全般に影響するため、PT・OT・ST・看護師・医師が一貫した理解のもとで関わることが回復を早める最大の鍵です。
多職種連携の役割分担
| 職種 | 主な役割 | 介入のポイント |
|---|---|---|
| PT | SCP・BLSによる定量評価・座位・立位・歩行訓練 | 体性感覚フィードバック・視覚的垂直再学習を中心に実施 |
| OT | ADL場面での評価・移乗・更衣・食事動作訓練 | 日常生活の中で垂直認知を統合する機会を設計する |
| ST | 合併する半側空間無視・認知機能の評価・食形態調整 | プッシャーと半側空間無視の合併率は高い。両者の鑑別と並行介入 |
| 看護師 | 病棟での座位・移乗場面の介助方法の統一 | 「抵抗しても無理に戻さない」「非麻痺側から声かけ」を病棟全体で共有 |
| 医師 | 画像所見に基づく責任病変の確認・予後説明 | リハビリチームへの病変情報の共有が介入計画立案を助ける |
環境調整と病棟スタッフへの申し送りポイント
「この患者さんは麻痺側に倒れているように見えますが、本人はまっすぐに座っているつもりです。無理に直そうとすると恐怖から激しく抵抗します。まず非麻痺側に寄り添い、安心感を与えてください。」
「BLSで重症度を数値化し、病棟のみなさんと共有することで介助方針を統一できます。スタッフ全員が同じ対応をすることが回復を早めます。」
「BLS立位評価では装具・手すりを使用するため、事前に環境調整をしてから評価に臨みましょう。急いで評価しようとして安全管理が疎かになるのが最も危険です。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
プッシャー症候群の評価・介入では、経験の浅い段階でいくつかの典型的な落とし穴があります。先輩臨床家が繰り返し見てきたパターンを共有します。
臨床判断の分岐点:SCPかBLSか
「まずSCPでプッシャーかどうかを素早く判断して、重症度の段階付けが必要な時にBLSを追加する、という順序が実用的です。両方を毎回フルで実施しようとすると時間がかかりすぎます。」
「BLSの再評価は、必ず初回評価と同じ補助具・同じ条件で行うこと。条件が変わると点数の変化が介入効果なのか条件変更によるものなのか判断できなくなります。」
「SCPの座位と立位のどちらから評価するかですが、安全に評価できる姿勢から始めることが原則です。立位リスクが高い急性期は座位から始めましょう。」
予後とゴール設定。
プッシャー症候群は「自然に治る」という側面が強い症状です。しかし、適切なリハビリの介入によって回復を有意に早めることができます。ご家族への予後説明の際に、根拠のある情報を提供できるよう整理しておきましょう。
自然回復の見込み:プッシャー症候群は脳卒中後6か月でほぼ消失するとされています。一方、適切なリハビリを受けなかった場合、回復が最大3週間遅れるという報告があります(Broetz et al., 2004)。
ゴール設定の目安:SCPで0点を短期目標とし、その後のADL自立(移乗自立・歩行自立)を中長期目標とします。BLSの経時的変化で介入効果をモニタリングします。
併存症に注意:半側空間無視との合併が多く、合併例では予後が複雑になる可能性があります。両者の鑑別・並行評価を早期から実施することが重要です。
新人臨床家のよくある疑問。
SCPは座位・立位でプッシャーの有無を判定するスクリーニング向けで、評価項目が少なく短時間で実施できます。一方BLSは背臥位〜歩行まで5動作を評価し、重症度の段階付けに優れています。
軽症か重症かを区別したいときはBLSを、まずプッシャーかどうかを素早く判断したいときはSCPを選びます。
SCPは合計点が0点より大きければプッシャーありと判断します。座位と立位それぞれで姿勢・伸展・抵抗を評価し、一項目でも点数が入った場合はプッシャーの可能性として介入を検討します。
プッシャー症候群は脳卒中後6か月ではほとんど消失するとされています。ただし、適切なリハビリがないと回復が最大3週間遅れるという報告があります。早期からの垂直知覚再学習訓練と体性感覚フィードバックが予後改善に重要です。
BLSの座位評価で非麻痺側へ傾いている場合は、運動麻痺による傾向であるためプッシャーとしての採点は行いません。麻痺側へ崩れていく現象のみをプッシャーとして採点してください。
プッシャーを呈さない脳卒中患者と比較すると、左島皮質後部・上側頭回、左下頭頂小葉、右中心後回に特異的な病変がみられるとされています。これらの部位はSPV(身体的垂直認知)の処理に関与しています。
はい、装具や杖などの補助具を使用して歩行評価を行って構いません。ただし再評価の際は同じ条件で実施することが重要です。立位が補助具使用でも困難な場合は4点をつけます。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳神経系専門の自費リハビリ施設です。プッシャー症候群を含む脳卒中後の複合的な姿勢障害に対し、SCP・BLSを用いた精密な評価と、垂直知覚の再学習・体性感覚フィードバックを中心とした科学的根拠に基づく介入を提供しています。
— STROKE LABでのリハビリの実際の様子です。
「プッシャーの患者さんに初めて関わった時、なぜ抵抗するのか全く分かりませんでした。SCPで定量評価を始めてから、週ごとの変化が数字で見えるようになり、自分の介入に根拠と自信を持てるようになりました。スケールを使うことは、患者さんへの誠実さでもあると思います。」— 理学療法士・臨床経験7年・神経リハ専門
「BLSで重症度を段階付けして看護師さんに共有したところ、病棟の介助が劇的に変わりました。多職種で同じ言語(スコア)を使うことで、チーム全体でプッシャーに向き合えるようになります。評価スケールは多職種連携のコミュニケーションツールでもあります。」— 作業療法士・臨床経験10年・回復期リハ病棟勤務
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諦めないでください。

プッシャー症候群の患者さんを前に、「どうしてこんなに押してくるのだろう」と途方に暮れた経験は、多くの臨床家が持っています。しかしSCPやBLSで正確に評価し、SPVの障害という神経科学的背景を理解すれば、介入の方向性は明確になります。
「6か月で治る」ではなく、「正しい介入で3週間以上早く回復できる」—この違いは、評価スケールを使うセラピストと使わないセラピストの間で生まれます。STROKE LABは、その違いを大切にしている施設です。
ご本人やご家族が「またこんなことで悩ませてしまって」と遠慮する必要はありません。プッシャー症候群は脳が正直に間違えているだけです。専門的なリハビリで、必ず改善の道が開けます。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)