【2026年版】Trail Making Test(TMT)とは|採点方法・年齢別規範値・B/A比を完全解説
脳卒中後に麻痺は回復したのに、自宅退院や運転再開ができない――そんな患者さんを目の前にしたとき、あなたはどう評価しますか? Trail Making Test(TMT)は、そうした「見えない障害」を数値で明らかにする、世界中の神経心理臨床で最も広く使われる認知評価ツールです。 TMTは「頭の回転の速さ」ではなく、「注意の切り替え・処理速度・遂行機能」を測る検査です。 正しく理解・活用することで、退院先の判断から自動車運転評価まで、臨床の意思決定の質が格段に上がります。
Trail Making Test(TMT)は、パートAとパートBの2つで構成され、 それぞれ処理速度・注意・セットシフティング(認知的柔軟性)を測定します。
採点法・年齢別規範値・B/A比・信頼性エビデンス・リハビリ介入まで網羅し、臨床で即日使える形で完全解説します。
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- パートA・B採点用紙
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Trail Making Test(TMT)とは ― 定義・目的・測定対象
Trail Making Test(TMT)は、紙と鉛筆を用いて実施される神経心理学的検査です。 ランダムに配置された円を特定のルールに従って素早く線で結ぶ課題を通じて、 処理速度・視覚的探索・注意・ワーキングメモリ・セットシフティング(認知的柔軟性)を総合的に評価します。 世界100か国以上の神経心理臨床で使用されており、日本では作業療法士・言語聴覚士・臨床心理士が 脳卒中後・認知症・外傷性脳損傷(TBI)等の評価に広く活用しています。
🎯 TMTが評価する「遂行機能」とは何か ― よくある誤解を解く
TMTは「物覚えが良いか」の検査ではなく、「脳が素早く・柔軟に切り替えられるか」の検査です。 パートAは処理速度と注意の持続を測り、パートBはそれに加えてセットシフティング(数字とひらがなを交互に処理する認知の切り替え能力)を評価します。 この「切り替え能力」は前頭前皮質(背外側前頭前野・前帯状皮質)が主に担い、 脳卒中・外傷性脳損傷・アルツハイマー型認知症・パーキンソン病で早期から障害されやすい機能です。
臨床的には「麻痺は軽度だが高次脳機能障害で日常生活が困難」「運転再開の可否を判断したい」 「退院後の自立生活が成立するか不安」といった場面で、客観的な数値根拠を提供するツールとして機能します。
TMTと脳の部位:何がどこで処理されているか
TMTが測定する認知機能の全体像
📊 パートAが主に測定するもの
・処理速度(視覚情報の素早い認識)
・注意の持続(集中力の維持)
・視覚的探索(紙面上で次の数字を探す能力)
・視覚運動協調(目と手の連携)
・シンプルなシーケンシング(順序通りに結ぶ)
🔄 パートBが追加で測定するもの
・セットシフティング(数字⇄ひらがなの切り替え)
・分配性注意(2種類の情報を同時処理)
・ワーキングメモリ(現在地と次の目標の保持)
・認知的柔軟性(ルール変更への適応)
・前頭葉実行機能の統合的評価
⚠️ TMTを「単なるスピードテスト」と思っていませんか?
TMTを「早く終われば正常」と解釈することは危険です。パートAは速いのにパートBだけ著しく遅い場合、 純粋な前頭葉のセットシフティング障害を示唆します(運動速度の問題ではなく認知の問題)。 B/A比(パートBの時間÷パートAの時間)はこの「処理速度で補正した認知的柔軟性の純粋な指標」として非常に重要です。 逆にA・B両方が遅い場合は全般的な処理速度低下・意識水準低下・視力・運動機能の問題を先に除外する必要があります。
TMTの歴史 ― 1944年から現代臨床へ
Ralph Reitanが第二次世界大戦中の軍で開発
TMTは1944年、アメリカの神経心理学者Ralph M. Reitan(臨床神経心理学の父の一人)によって考案されました。 もともとは陸軍兵士の一般的な知能と「タスクスイッチング能力」を評価する目的で開発されました。 1946年には心理学者Stewart G. Armitageが、第二次世界大戦中の兵士の脳損傷評価にこのテストを応用することを提案。 以来、TMTはHalstead-Reitan神経心理学バッテリー(HRNB)に組み込まれ、世界標準の神経心理検査として広まりました。
🗓️ 1944年 ― TMT考案
Ralph M. ReitanがTMTを開発。米陸軍の一般知能・タスクスイッチング評価に使用開始。
🗓️ 1946年 ― 脳損傷評価への応用
Stewart G. Armitageが、戦争による脳損傷評価への転用を提案。神経心理臨床への本格普及が始まる。
🗓️ 1950〜70年代 ― 標準バッテリーへの組み込み
Halstead-Reitan神経心理学バッテリー(HRNB)の構成要素として確立。脳外科・神経内科の術前後評価で標準化。
🗓️ 1980〜90年代 ― 世界への普及と標準化研究
年齢・教育歴別の規範値研究が相次ぐ。認知症スクリーニングへの応用が本格化。
🗓️ 2000年代以降 ― 日本版・電子版・デジタルTMT
日本語版(ひらがな使用)が標準化。タブレット版・ロボット支援版など電子化も進む。高次脳機能障害評価の中核ツールとして確立。
実施方法 ― 準備・手順・日本語版の違い
🛠️ 必要な道具
・TMTワークシート(パートA・パートB 各1枚)
・練習用サンプルシート(パートA・B 各1枚)
・鉛筆(消しゴム不使用・シャープペン可)
・ストップウォッチ(または秒針のある時計)
・静かで均一に明るい評価環境
👥 実施条件の確認
・対象年齢:15〜89歳
・文字(数字・ひらがな)の読み書きができること
・視力:眼鏡・コンタクト使用可。色覚確認推奨
・利き手・非利き手どちらでも可(記録に明記)
・重度の上肢麻痺がある場合は口頭版を検討
パートA・パートBの課題内容
パートA ― 数字を昇順につなぐ(処理速度・注意・視覚探索)
【主な評価対象】 視覚的探索・処理速度・注意の持続・視覚運動協調・シンプルなシーケンシング
【課題イメージ】 ①→②→③→④→…→㉕ ※数字はランダム配置
パートB ― 数字とひらがなを交互につなぐ(セットシフティング・実行機能)
【英語版との違い】 欧米版ではA〜Lのアルファベット(1-A-2-B-…-12-L)を使用。日本版は「ア、イ、ウ…」のひらがなを使用するため、日本の規範値を必ず使用してください。
【主な評価対象】 セットシフティング・分配性注意・ワーキングメモリ・認知的柔軟性・前頭葉実行機能
実施手順 ― ステップバイステップ
環境整備・患者確認
静かで明るい環境を確保。患者の利き手側にワークシートを置く。眼鏡使用者は装着を確認。評価前に「急いでやるテストです。できるだけ速く、でも間違えないように進めてください」と伝える。
パートA 練習シートで練習(必須)
本番前にサンプルシート(1〜8の8個の円)で練習を行う。指示を説明し、正しく理解できているか確認する。間違いがあれば即座に訂正し、正しい手順を確認してから本番に移る。
パートA 本番計時
「では始めてください」と言いながら同時にストップウォッチをスタート。間違えた場合は即座に「そこは違います、〇〇に戻って続けてください」と口頭で訂正。戻ったことを確認後継続。終了と同時に秒数を記録。
パートB 練習シートで練習(必須)
サンプルシートで「1→ア→2→イ→3→ウ」のパターンを練習。交互課題のルールを理解できたことを確認してから本番開始。パターンを誤解している場合は繰り返し説明を行う。
パートB 本番計時・中止・記録
手順はパートAと同様。各パート5分(300秒)を超えたら中止し「300秒以上」と記録。エラー数・エラーの種類・到達点(何番まで進んだか)・行動観察(焦り・停止・確認行動)も必ず記録する。
📋 実施中に評価者が注意すべき3つのポイント
① エラーは即座に口頭で訂正する:エラーをそのままにすると所要時間と動線が不正確になります。「そこは違います、〇〇から続けてください」と明確に告げ、正しい位置に戻ったことを確認してから継続してください。
② 鉛筆を紙から離さないよう促す:鉛筆を紙から離して次の円を探す動作は「認知的探索時間」を混入させます。可能な範囲で紙面を滑らせながら進めるよう指示する(強制ではなく推奨)。
③ 過度に焦らせない:「できるだけ速く」は必要ですが、過剰なプレッシャーは不安による二次的な遂行機能低下を招きます。患者の表情・呼吸・動作を観察しながら実施してください。
採点方法と臨床解釈 ― スコア・規範値・B/A比・エラー分析
完了時間(秒)が唯一のスコア ― 時間が長いほど障害が重い
TMTの得点は各パートを完了するのにかかった秒数です。 パートA・パートBはそれぞれ独立して採点します。 エラーそのものに直接的なペナルティはありませんが、エラーにより正しい位置に戻る時間がかかるため、最終的な完了時間に影響します。 5分(300秒)以内に完了できなかった場合は「300秒以上」として記録し、質的評価を行います。
標準規範値(成人・全般)
| パート | 平均(Average) | 欠損(Deficient)の目安 | 臨床的解釈 |
|---|---|---|---|
| パートA | 29秒 | 79秒以上 | 視覚的探索・処理速度・注意の問題を示唆 |
| パートB | 75秒 | 273秒以上 | セットシフティング・前頭葉実行機能の問題を示唆 |
出典:Llinàs-Reglà J, et al. Assessment. 2016;24(2):183–196.
年齢・教育歴別 調整規範値
高齢になると認知機能に問題がなくても所要時間が延びます。また、教育歴(学歴)が低いほどパートBの時間が延びる傾向があります。境界例では以下の調整値を参照してください。
| 年齢区分 | 教育歴 | パートA 平均 | パートA 欠損 | パートB 平均 | パートB 欠損 |
|---|---|---|---|---|---|
| 20〜49歳 | 13年以上 | 21秒 | 59秒以上 | 45秒 | 131秒以上 |
| 12年以下 | 26秒 | 72秒以上 | 56秒 | 178秒以上 | |
| 50〜64歳 | 13年以上 | 25秒 | 68秒以上 | 55秒 | 161秒以上 |
| 12年以下 | 35秒 | 91秒以上 | 89秒 | 260秒以上 | |
| 65〜74歳 | 13年以上 | 32秒 | 83秒以上 | 82秒 | 233秒以上 |
| 12年以下 | 44秒 | 108秒以上 | 119秒 | 321秒以上 | |
| 75〜89歳 | 全般 | 51秒 | 79〜108秒 | 128秒 | 273秒以上 |
出典:Tombaugh TN. Arch Clin Neuropsychol. 2004;19(2):203–214.(抜粋・簡略化)/ Ashendorf L, et al. Arch Clin Neuropsychol. 2008;23(2):129–137.
B/A比 ― セットシフティングの純粋な指標
📐 B/A比の計算方法と解釈
計算式:B/A比 = パートBの秒数 ÷ パートAの秒数
パートAの時間(処理速度・注意・視覚運動)を差し引いた「純粋なセットシフティング負荷」を評価できます。
| B/A比 | 臨床的解釈 | 想定される問題 |
|---|---|---|
| 2.0〜3.0 | 正常範囲。セットシフティングは良好 | 処理速度・注意の問題を主に精査 |
| 3.0〜4.0 | 軽度のセットシフティング障害を示唆 | 前頭葉機能の精査を検討。日常生活での切り替え場面を評価 |
| 4.0以上 | 有意なセットシフティング障害 | 前頭葉病変・認知症・TBI・PDの可能性。FAB・WAIS-IVと組み合わせて精査 |
具体例:パートA=35秒、パートB=175秒 → B/A比=5.0
→ 処理速度自体は中等度だが、認知的柔軟性に重大な障害がある可能性が高い。 前頭葉機能の精査・日常生活でのマルチタスク場面の安全確認が必要。
エラーの質的分析 ― 時間だけでなく「種類」を見る
専門家向け:エラーの神経基盤と疾患パターン
保続エラーは眼窩前頭皮質の障害、セットエラーは背外側前頭前野(DLPFC)の機能低下、無関係エラーは前帯状皮質を含む広範な注意ネットワークの障害と関連することが示されています(Stuss et al., 2001)。Ashendorfら(2008)は、軽度認知障害(MCI)から認知症にかけてセットエラーが有意に増加することを報告。エラー分析は完了時間より認知症の進行度を鋭敏に反映する可能性があります。実臨床では「完了した(エラーなし)」であっても、観察中の逡巡・確認行動・修正動作の多さが認知負荷を示すことがあります。行動観察の質的記録が重要です。
TMT結果の総合解釈パターン
🔑 4パターンの解釈フレームワーク
パターン①:A正常・B正常・B/A比正常 → 処理速度・実行機能ともに問題なし。他の認知領域(記憶・言語・視空間等)の評価を優先。
パターン②:A低下・B低下・B/A比正常(〜3.0未満)→ 全般的な処理速度の低下。意識水準・覚醒度・視力・運動障害・うつ・薬剤の副作用を先に除外する。
パターン③:A正常〜軽度低下・B著明低下・B/A比高(3.0以上)→ 純粋な実行機能・セットシフティング障害。前頭葉病変・脳卒中・TBI・初期認知症・PDを精査。FAB・WAIS-IVの追加を検討。
パターン④:A著明低下・B完了不能(B/A比計算困難)→ 基盤となる注意・処理速度が重度に障害されており、実行機能の評価以前の問題。ADL全般の安全確認・覚醒・注意レベルの評価を優先。口頭版TMTへの切り替えも検討。
TMTの信頼性・妥当性 ― エビデンスまとめ
繰り返し測定でも安定した結果を示すが練習効果に注意
複数研究でTMTのテスト-リテスト相関が確認されています:パートA r=.68〜.89、パートB r=.55〜.89(Llinàs-Reglà et al., 2016)。 ただし練習効果(2回目に速くなる)がある程度存在するため、 初回評価から最低2〜4週間以上の間隔をあけた再評価での解釈に注意が必要です。 短期間での繰り返し評価では「真の改善」と「練習効果」の区別が課題となります。
パートBは前頭葉機能の有力な指標として神経画像研究でも支持
神経画像研究では、パートBの遂行と背外側前頭前野(DLPFC)・前帯状皮質(ACC)の活動が強く相関することが示されています。 前頭葉損傷患者でパートBが選択的に低下しパートAは比較的保たれるパターンは、 B/A比が前頭葉機能の特異的指標であるという主張を支持しています(Stuss et al., 2001)。
認知症・運転・転倒リスク予測に中等度以上の妥当性
認知症スクリーニング:パートBはMCIの識別において中程度の感度・特異度を示し、縦断研究ではMCIから認知症への移行を早期に予測する可能性が示されています。
運転評価:認知障害のある運転者特定において感度53%・特異度90%(Dobbs & Shergill, 2013)。高特異度は「問題なし確認」に有用だが、偽陰性(問題があっても見逃す)のリスクあり。
転倒リスク:パートBの遅延は高齢者の転倒リスクと有意に関連。BBSなどバランス評価との組み合わせが推奨されます。
疾患別の臨床応用 ― 脳卒中・TBI・認知症・パーキンソン病
脳卒中後の高次脳機能障害評価
外傷性脳損傷(TBI)後の遂行機能評価・復職支援
認知症・軽度認知障害(MCI)のスクリーニング
パーキンソン病の前頭葉機能・薬物効果評価
自動車運転評価でのTMT活用
🚗 運転再開判断におけるTMTの位置づけと限界
脳卒中・認知症後の自動車運転評価は臨床家にとって重大な判断を伴います。 TMTは視覚処理速度・精神的柔軟性・分配性注意を反映するため、 運転シミュレーターや実車評価と組み合わせた包括的評価の一部として活用されています。
ただし、TMT単独での感度は53%と低く(Dobbs & Shergill, 2013)、 「問題があっても見逃す(偽陰性)」リスクがあります。 TMTを単独で「運転可」の根拠にすることは推奨されません。 UFOV(Useful Field of View)・ブレーキ反応時間・実車評価などとの総合判断が求められます。 日本では「脳卒中後の自動車運転再開評価マニュアル」(日本作業療法士協会)なども参照してください。
口頭版TMT(Oral TMT) ― 運動障害がある患者への対応
重篤な上肢麻痺・書字困難・疲労が著しいケースでは、口頭で実施する変法(Oral TMT)が有用です。 標準的なペーパー版と高い相関があることが確認されており、運動機能の影響を排除して認知機能を評価できます。
🗣️ 口頭版パートA
ワークシートを渡さず「1から25まで数字を順番に声に出して言ってください」と指示。1、2、3…と昇順に数えられるか、速度と正確さを評価する。
🗣️ 口頭版パートB
「数字とひらがなを交互に声に出してください。1、ア、2、イ、3、ウのように」と指示。交互パターンを維持できるか、エラーの種類を観察する。
⚠️ 口頭版使用時の4つの注意点
① 視覚的探索が除外される:視空間処理・視覚運動協調の評価ができません。
② 規範値が異なる:ペーパー版の規範値をそのまま口頭版に適用しないでください。
③ 明記が必須:記録票に「口頭版TMT実施」と必ず記載し、標準版との直接比較を避けてください。
④ 言語・発話障害がある場合は要注意:失語症・構音障害がある患者では口頭版も正確な評価ができない場合があります。言語機能を先に確認してください。
他の認知機能検査との比較 ― TMT・MMSE・MoCA・FAB
| 検査名 | 主な評価領域 | 所要時間 | TMTとの使い分け |
|---|---|---|---|
| TMT(A+B) | 処理速度・注意・セットシフティング・実行機能 | 5〜10分 | 実行機能と処理速度に特化。運転・復職評価の核となる |
| MMSE | 見当識・記憶・計算・言語・構成 | 5〜10分 | 認知症の広域スクリーニング。実行機能は評価しにくい |
| MoCA | 記憶・注意・言語・視空間・実行機能・見当識 | 10〜15分 | 軽度認知障害に敏感。TMTより包括的。実行機能の深掘りには限界 |
| FAB(前頭葉機能検査) | 概念化・流暢性・運動プログラム・葛藤・抑制・把握 | 10分 | 前頭葉機能に特化。TMT-Bと相補的。PD・前頭側頭型認知症に有用 |
| SDMT(シンボルディジット) | 処理速度・注意 | 90秒 | 処理速度の純粋な測定にはSDMTが優れる。TMT-Aと高相関 |
| WAIS-IV 数唱 | ワーキングメモリ | 5〜10分 | TMT-Bのワーキングメモリ成分を独立評価したい場合に有用 |
💡 疾患・目的別 推奨バッテリー例
脳卒中後・TBI後の基本バッテリー(30〜45分):TMT A+B + MoCA + FAB + WAIS-IV数唱
認知症スクリーニング(外来 15分):TMT B + MMSE または MoCA のいずれか
運転評価(45〜60分):TMT A+B + UFOV + ブレーキ反応時間 + 実車評価
パーキンソン病(20〜30分):TMT A+B + FAB + MoCA + UPDRS認知項目
TMTの利点と限界 ― 臨床で知っておくべきこと
| ✅ 利点 | ⚠️ 欠点・限界 |
|---|---|
| 簡便で低コスト:紙・鉛筆・ストップウォッチのみ。どこでも実施可能 | 視力・色覚の影響:低視力・色覚異常では結果が不正確になる可能性 |
| 実行機能の鋭敏な評価:MMSEでは検出困難な軽度前頭葉機能障害をB/A比で捉えられる | 運動機能の影響:上肢麻痺・振戦・運動緩慢がパートA・Bの時間を不当に延長させる |
| 客観的な数値化:秒数という客観値で経時変化・介入効果を明確に追跡できる | 練習効果:繰り返し実施で速くなる。短期間での再評価は解釈に注意が必要 |
| 広範な対象:脳卒中・TBI・認知症・PD・健常高齢者まで多様な集団に適用可能 | 教育歴の影響:学歴・識字能力が低いと認知障害でなくても結果が低下する |
| 高い予測妥当性:運転能力・日常生活自立度・転倒リスクとの関連が確認済み | 単独での診断不可:TMT単独で認知症・高次脳機能障害を診断することはできない |
| 質的分析が可能:完了時間だけでなくエラーの種類・行動観察で障害の質を評価できる | 不安・うつの影響:抑うつ・強い不安は処理速度を低下させ偽陽性が生じやすい |
TMTスコアからリハビリ計画へ ― 評価→介入の5ステップ
パートA・B それぞれのスコアを年齢別規範値と照合する
年齢区分(成人・50〜64歳・65〜74歳・75歳以上)と教育歴に対応した規範値を使用。「平均」「要注意」「欠損(Deficient)」のどの区分に入るかを確認する。
B/A比を算出してセットシフティング障害の有無を判断する
B/A比が3.0以上の場合、処理速度だけでなく認知的柔軟性(前頭葉機能)に問題がある可能性が高い。パートAは正常範囲でもパートBが著しく低下している場合、実行機能障害が主問題と考える。
エラーの種類を分析して障害の質を特定する
保続エラー → 抑制機能障害(FABの運動抑制課題を追加)。セットエラー → セットシフティング障害(FAB・WAIS-IVと照合)。無関係エラー → 広範な注意障害(AT(注意機能評価)を追加)。
日常生活・社会復帰への影響を評価して介入方針を立案する
パートBの重度低下 → 料理・事務作業・運転・マルチタスク全般に支障。「シングルタスク訓練 → デュアルタスク訓練 → マルチタスク訓練」の段階的アプローチへ。環境調整(チェックリスト活用・ステップ化)も同時に提案。
定期的な再評価で「真の改善」を確認する
TMTには練習効果があるため、最低2〜4週間以上の間隔をあけて再評価を実施。介入後の変化を他の認知検査(MoCA・FABなど)と合わせて総合的に追跡する。
課題別リハビリ介入アプローチ
🔴 パートB著明低下・B/A比高(実行機能障害)
・メタ認知訓練:「今何をしているか」を意識化させるセルフモニタリング練習
・デュアルタスク訓練:歩行中の計算・会話などの二重課題から開始し段階的に複雑化
・問題解決訓練:日常的な課題(料理・買い物)の手順を可視化しステップ管理
・注意管理戦略:チェックリスト・タイマー活用による外的補助の導入
🟠 パートA・B両方低下(全般的処理速度低下)
・覚醒・注意の底上げ:環境整備(騒音除去・適切な照明)・休憩の最適化
・視覚的探索訓練:Cancellation Test・視覚的スキャン訓練から開始
・処理速度訓練:コンピューター認知訓練(RehaCom・BrainHQ等)を補助的に活用
・薬剤・睡眠・うつの管理:医師・薬剤師との連携で二次的要因を除外
リハビリを受けた方の声
脳卒中で退院したあと、料理中に次の手順が分からなくなったり、二つのことを同時にやろうとするとパニックになることがありました。TMTを受けて「切り替えが苦手」という具体的な説明をしてもらって、やっと自分の問題が理解できました。チェックリストを使う練習をしてから、だいぶ楽になりました。
60代女性・脳卒中回復期(6か月後)
事故で頭を打ってから、仕事に戻ろうとしたけれど複数の仕事を同時にこなすことができなくなっていました。TMTのB/A比という数値を見て「数字だけ見れば正常っぽいのに、実は切り替えの力がすごく落ちていた」と分かり、職場への説明の際にも役立てることができました。
40代男性・外傷性脳損傷(TBI)後
ここまでお読みいただいた方へ
TMTのスコアを「リハビリ・退院計画」に
つなげられていますか?
スコアは数値にとどまらず、「どの認知機能系に問題があるか」を特定して個別計画に落とし込む力があります。STROKE LABでは神経心理評価から治療まで一貫して対応しています。
よくある質問(FAQ)― TMT評価について
TMTはどんな職種が実施できますか?専門的なトレーニングは必要ですか?
TMTが「欠損(Deficient)」でも認知症とは限りませんか?
脳卒中後に上肢麻痺があってペンが持てない場合はどうすればいいですか?
パートAよりパートBを先に実施してもいいですか?
TMTの結果が良くてもADLで困っている場合はどうしますか?
パートBを5分以内に完了できなかった場合、どう解釈しますか?
TMTに関連する論文サマリー
脳卒中者は眼球運動に無駄が多い! ― 視覚探索障害がTMT課題パフォーマンスに与える影響
📌 なぜこの論文を読もうと思ったのか?
脳卒中患者の多くが眼球運動障害を呈しているにもかかわらず、臨床現場ではしばしば見過ごされる。眼球運動の乱れがTMTのような視覚的探索を含む認知課題に具体的にどう影響するかを知ることで、評価の解釈精度を高められると考え本論文を読むに至った。
背景
日常生活の中で、人は環境から視覚情報を積極的に収集するために数千の自発的な眼球運動(サッカード)を行います。 脳卒中者のほとんどはこれらの機能的運動課題の実行に困難を抱えており、 リーチ動作を計画するために多くのサッカードを必要とする患者は運動能力が低いことが最近示されました。 この研究では、サッカードが脳卒中者のTMT課題中のリーチ速度・滑らかさを妨げるかどうか、 そして過度のサッカードが機能的課題の実行困難と関連するかどうかを検討しました。
方法
ロボットデバイスとアイトラッキングを使用して、脳卒中者と年齢を合わせたコントロール群で、 TMT中のリーチ動作パフォーマンスと眼球運動を調べました。 数値テスト(TMT-A)では25の数を順々に、英数字テスト(TMT-B)では数字とローマ字の間で交互にリーチ動作を実行しました。
過度のサッカードがTMT課題パフォーマンス低下を予測する
① サッカード数と課題成績の関連:多くの脳卒中患者(視野欠損・視空間無視なし)がTMT中に異常に多くのサッカードを行い、これらの過度のサッカードが課題パフォーマンスの低下を予測することが示された。
② 運動の質との関連:サッカードの数はリーチ到達速度の低下・滑らかさの低下・タスク実行の困難さと強く関連。リーチ動作速度の一時的な低下はサッカードに先行されることが多かった。
③ 臨床的示唆:眼と四肢の動きの間の脳卒中後の干渉が機能的課題実行の困難さに関わることを示唆。眼球運動障害への介入が脳卒中後の機能回復を改善する可能性がある。
💡 私見・明日への臨床アイデア
TMTはペーパー版であっても「視覚的探索」を大量に含む課題です。 脳卒中後の患者でTMTが低下している場合、単純な認知機能の問題だけでなく 眼球運動の乱れ(過度のサッカード・視覚探索の非効率性)が成績を下げている可能性があります。 臨床ではTobii等のアイトラッキング技術を使った眼球運動評価を組み合わせることで、 「認知の問題」と「視覚運動の問題」を区別できます。
眼球と頭頸部の分離運動・眼球と四肢動作のリンク訓練など、視覚-運動協調への介入が TMTスコアの改善につながる可能性を日々の臨床で意識してみてください。 最近では比較的安価なアイトラッキング機器(Tobii Glassesなど)も普及し、動的場面での眼球運動評価が現実的になってきています。
Mini-BESTest等との組み合わせ:バランス評価関連記事はこちら
参考文献・引用文献
- 1) Llinàs-Reglà J, Vilalta-Franch J, López-Pousa S, et al. The Trail Making Test. Assessment. 2016;24(2):183–196.
- 2) Ashendorf L, Jefferson AL, O’Connor MK, et al. Trail making test errors in normal aging, mild cognitive impairment, and dementia. Arch Clin Neuropsychol. 2008;23(2):129–137.
- 3) Dobbs BM, Shergill SS. How effective is the trail making test (parts A and B) in identifying cognitively impaired drivers? Age Ageing. 2013;42(5):577–581.
- 4) Stuss DT, Bisschop SM, Alexander MP, et al. The Trail Making Test: a study in focal lesion patients. Psychol Assess. 2001;13(2):230–239.
- 5) Tombaugh TN. Trail Making Test A and B: normative data stratified by age and education. Arch Clin Neuropsychol. 2004;19(2):203–214.
- 6) Reitan RM. Validity of the Trail Making Test as an indicator of organic brain damage. Percept Mot Skills. 1958;8:271–276.
- 7) 藤田郁代(編)高次脳機能障害の神経心理学的評価. 医学書院. 2011.
- 8) Kloves DS, et al. Eye Movements Interfere With Limb Motor Control in Stroke Survivors. Neurorehabil Neural Repair. 2018;32(10):873–882. PubMed
- 9) 日本作業療法士協会. 脳卒中後の自動車運転再開評価マニュアル. 2019.
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)