10m歩行テストの完全ガイド:詳細な手順、助走の重要性、結果の解釈、転倒リスク評価と臨床活用法
測定方法・基準値・MCID
正しく測り、条件を残し、生活の変化につなげる。
助走・計算・カットオフの読み方を整理した、臨床家のための実践ガイドです。

最初に押さえる5つの要点
- 標準は加速2m+計測10m+減速2m(全長14m)。速度は10÷秒。
- 助走、速度指示、補助具、介助、服薬状態を記録する。
- 0.4・0.8m/sは地域歩行の参考区分。退院先や安全性は単独で決めない。
- MCIDとMDCを区別し、研究の対象・病期を確認する。
- 再評価では数値と「生活でできたこと」を一緒に追う。
10m歩行テストとは?「採点」は歩行速度で示す
10m歩行テスト(10-Meter Walk Test:10MWT)は、短い直線歩行の所要時間から歩行速度を求める評価です。通常速度と、安全な範囲での最大速度を分けて記録します。一般的な点数表に換算する評価ではなく、主な結果は秒とm/sです。
臨床では、前後に2mずつの加速路・減速路を設け、中央の10mを計時する方法(全長14m)が一般的です。ただし、ANPTのように全長10mの中央6mを計時する方法もあるため、他施設や文献の値と比べるときは「何mを計時したか」を確かめてください。[1][2]

わかることと、追加評価が必要なこと
10MWTで得られるのは、設定された環境・条件での直線歩行能力です。自宅や屋外での実際の移動、方向転換、長距離歩行、転倒の危険性は、生活場面の観察や別の評価を合わせて判断します。[10]
測定方法|助走・計測距離・計時をそろえる
標準的な方法は、2mの助走で加速し、中央10mを計時し、最後の2mを歩き抜けるやり方です。加速・減速の影響を除いた定常歩行を測れます。施設で手順を固定し、再評価でも同じ条件で再現します。歩き出しから計る静止スタートは速度が低く出るため、区別して記録します。[2]
| 方法 | 区間の考え方 | 速度の計算 |
|---|---|---|
| 中央10mを計時 (標準) |
全長14m:加速2m+計測10m+減速2m。本記事の基本手順。 | 10 ÷ 秒 |
| 中央6mを計時 (ANPT方式) |
全長10m:加速2m+計測6m+減速2m。コースが短い場合などに用いられる。 | 6 ÷ 秒 |
| 静止スタート | 助走なしで、歩き始めの加速を含めて計る。助走ありの結果と混在させない。 | 実際の計測距離 ÷ 秒 |
以下は、標準の全長14m(2m+10m+2m)での実施手順です。ANPTの6m方式を使う施設では、計時区間と計算に使う距離を6mに置き換えます。[1]
0m:出発 / 2m:計時開始 / 12m:計時終了 / 14m:到着(歩き抜け)
-
準備する
全長14m以上の平坦で障害物のないコースに、0m・2m・12m・14mの目印を付けます。メジャー、ストップウォッチ、区間の目印、必要な補助具を用意します。靴・装具・補助具と、その日の体調を確認します。
-
速度の指示を伝える
通常速度は「普段の歩きやすい速さ」、最大速度は「走らず、安全にできるだけ速く」を目安に、施設で指示を統一します。12mの線で止まらず、14mの到着点まで歩き抜けることを説明します。
-
決めた基準で計時する
先行する足が2mの線を越えた時点から、12mの線を越えた時点までを計ります。足のどの部分で判定するか(つま先・踵など)は施設で統一します。ANPTでは先行する足のいずれかの部分が線を越えた時点を基準としており、「必ず踵」とする共通ルールではありません。安全確保が難しい場合は計時担当と介助担当を分けます。
-
試行と休息を記録する
通常・最大を各2回測定する方法があります。疲労や症状に応じて休息を設け、実施できた回数と理由を記録します。評価者が前方で歩いてペースを誘導しないようにします。
-
結果と条件を残す
各試行の時間・速度、介助、補助具、声かけ、停止・すくみなどを記載します。必要な支持と、前方への推進を助けた介助は区別します。測定不能や中止を空欄だけで処理しません。
助走研究の「4m」を読み違えない
Amatachayaらの研究で比較された4mと10mは、動的スタートにおける計測距離です。「助走4mと助走10mに差がない」という意味ではありません。同研究では静止スタートの速度が低く測定され、測定方法をそろえる重要性が示されています。[2]
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計算方法|秒をm/sに換算する
歩行速度(m/s)=
計測距離(m)÷ 時間(秒)
標準の方法で中央10mを12秒で歩いた場合は、10÷12=約0.83m/sです。ANPT方式で中央6mを12秒で歩いた場合は、6÷12=0.50m/sになります。テスト名ではなく、実際に計時した距離を分子に入れます。

| 時間 | 10m計時(標準) | 6m計時(ANPT方式) |
|---|---|---|
| 8秒 | 1.25m/s | 0.75m/s |
| 10秒 | 1.00m/s | 0.60m/s |
| 12秒 | 0.83m/s | 0.50m/s |
| 15秒 | 0.67m/s | 0.40m/s |
| 20秒 | 0.50m/s | 0.30m/s |
| 25秒 | 0.40m/s | 0.24m/s |
付属シートでは「各試行の速度を求め、その速度を平均する」運用を選べます。平均時間から速度を計算する方法とは、結果が厳密には一致しません。採用する集計方法を決め、再評価でもそろえます。計算途中では丸めず、最後に小数第2位などに整えます。
平均の取り方の例
10mを10秒と12秒で歩いた場合、速度の平均は(1.00+0.833…)÷2=約0.92m/s。平均時間11秒から求めると10÷11=約0.91m/sです。記録・研究比較では集計方法も確認します。
基準値・カットオフ|0.4・0.8m/sの意味
脳卒中後の歩行では、Perryらの報告に基づく速度区分が広く使われます。ただし、これは地域歩行能力を理解するための参考分類であり、転倒リスク・ADL全般・退院先を決める採点表ではありません。[3][10]

| 通常歩行速度 | 参考となる歩行区分 | 一緒に確認すること |
|---|---|---|
| 0.4m/s未満 | 屋内歩行の区分 | 屋内移動、方向転換、必要な介助 |
| 0.4〜0.8m/s | 制限のある地域歩行の区分 | 歩ける距離、屋外環境、休息・同伴の必要性 |
| 0.8m/s超 | 地域歩行の区分 | 不整地、混雑、段差、疲労時の安定性 |
境界付近の0.79m/sと0.81m/sだけで、安全性が切り替わるわけではありません。測定のばらつき、歩行の質、実生活での活動量を確認します。[5][10]
「正常値」は年齢・性別・測定条件に依存する
Bohannon・Andrewsのメタ解析は、健常成人の通常歩行速度を年齢・性別で整理したものです。最大速度の基準表として、そのまま引用することはできません。健常者の値は比較の参考になりますが、患者の目標は発症前の生活・病期・本人の希望も踏まえて設定します。[7]
横断歩道を渡れるかは現地条件で判断する
必要速度の概算は「横断距離÷利用できる時間」ですが、歩き出し、縁石、周囲確認、交通状況、信号の運用によって余裕が変わります。訓練室で0.8m/sや1.2m/sを超えても、それだけで横断の安全を保証できません。実際の動線・介助・代替ルートを確認します。
MCIDとMDC|改善をどう判断するか
MCIDは「臨床的に意味のある変化」、MDCは「測定誤差を超えた変化を判断するための指標」です。両者は別の問いに答えます。MCIDを超えたから測定誤差がなくなるわけではなく、MDC未満だから改善していないと断定することもできません。[4][5]

| 指標・研究 | 報告された値・対象 | 適用するときの注意 |
|---|---|---|
| 脳卒中のMCID Tilsonら(2010) |
0.16m/s。発症後20〜60日、重度の歩行速度低下がある脳卒中患者を対象。 | 慢性期を含む全脳卒中患者に一律適用しない。障害度の変化に基づく値。 |
| 脳卒中のMDC Hosoiら(2023) |
通常速度のMDCは速度群により0.05・0.11・0.21m/s。 | 単一の数値に固定しない。対象者・速度群・プロトコルを原著で確認。 |
| PDの意味のある差 Hassら(2014) |
分布に基づく解析では、小0.06・中0.14・大0.22m/s。 | 推定方法で値が異なる。全PD患者共通のMCIDではない。 |
上表は診療上の一律の合否基準ではありません。対象疾患、病期、開始時の速度、測定条件、統計的な推定方法が似た研究を選んで参照します。[4][5][6]
「+0.16m/s=介入が効いた」とは限らない
同条件での改善は重要な情報ですが、自然回復、薬剤、補助具変更、練習効果などの影響も考えます。介入前後の速度だけで治療の因果効果を確定せず、本人ができるようになった生活動作と合わせて評価します。
補助具・介助・パーキンソン病での注意点

杖・歩行器・装具は条件として記録する
必要な補助具を使い、安全に測定します。再評価では同条件の比較が基本です。ただし、歩行能力に合わせた補助具の変更を禁止するものではありません。変更した場合は、その理由と新しい条件を記載し、「同じ条件での変化」と「条件変更を含む実用能力」を分けて解釈します。[1]
介助下の速度を独歩の数値と同じ扱いにしない
支えた位置・介助量・前方への推進介助の有無を記録します。ANPTの手順には歩行不能や推進介助が必要な場合などの0の記録規定があります。0と「未実施」「中止」を区別し、採用する手順の規定と理由を残してください。[1]
PDでは服薬状態・すくみ・キューを残す
服薬からの時間、ON/OFFの状態、視覚・聴覚キュー、すくみ足や停止を記載します。すくみが出た試行を自動的に除いて、良い値だけを採用しないことが大切です。安全のために中止した場合や、キューの効果を調べた場合は、通常条件と分けて残します。
失語症・認知機能低下には、理解を確認して対応する
短い説明、実演、到達地点の提示などを用い、求める動作が伝わったか確かめます。追加した声かけの内容・頻度は記録します。手順を理解した上での計測が難しい場合は、標準化したテスト結果と日常歩行の観察を分けて扱います。[1][9]
測定を中止したときも、有用な記録になる
胸部症状、強い息切れ、めまい、新しい神経症状、転倒しかけるなど、安全な継続が難しい場合は中止し、施設の安全管理手順に従って対応します。速度の低下量が一定値になるまで、報告を待つものではありません。
結果をリハビリ・生活目標につなげる
10MWTが遅いという結果だけでは、遅さの原因は決まりません。筋力、感覚、バランス、疼痛、恐怖、疲労、注意、環境条件などを確認して、追加評価と介入を選びます。
| 臨床上の疑問 | 追加する評価・観察 | 生活目標へのつなげ方 |
|---|---|---|
| 方向転換で不安定か | TUG、実際のトイレ・廊下での動作観察 | 狭い場所での向き直りと介助方法を検討 |
| 距離が長いと難しいか | 6分間歩行、休息の必要性、症状 | 外出の距離・休憩場所を設定 |
| バランス課題があるか | BBS、必要に応じた動的バランス評価 | 段差や物を持つ場面を確認 |
| 生活では歩けているか | 歩行日誌、活動量、本人・家族の聞き取り | 外出頻度や具体的な目的地も目標にする |
通常速度と最大速度の差は、速度調整の参考情報
最大速度−通常速度を「速度の予備能(speed reserve)」として記録できます。ただし、差が0.2m/s以上なら必ず改善する、0.1m/s未満なら速度改善を諦める、といった一律の予後判断には用いません。
介入は対象と医学的条件に合わせる
慢性期の歩行可能な脳卒中等を対象とするガイドラインでは、歩行速度・距離の改善に中〜高強度の歩行練習が推奨されています。対象範囲を確認し、心血管の状態、症状、心拍や自覚的運動強度、安全管理体制などから負荷を設定します。「最大歩行速度の60〜80%」だけを、運動強度の共通基準として使うことはできません。[8]
0.55m/s → 0.68m/s。その次に何を確認する?
T字杖と同じ装具、同じコース、通常速度で再評価し、平均速度が0.13m/s上がった例を考えます。まず条件と計算を確認し、試行間の差、介助量、本人の実感を合わせて判断します。
「+0.16m/s未満だから無効」とせず、屋内移動の介助が減ったか、外出時の疲労が変わったかを確認します。次の目標は「自宅から目的地まで、合意した介助・休息条件で移動する」など、生活に結びつく形にします。

数値の変化を、生活の変化につなげる。
歩行の速さに加え、どのような場面で困っているのか、何をできるようになりたいのかを一緒に整理します。
10m歩行テスト評価シートPDF|無料ダウンロード
測定条件から生活目標まで、
一緒に残せる記録シート。
1ページ目:当日の条件・通常/最大速度の各2試行
2ページ目:経時記録・解釈・生活目標・引き継ぎ
印刷・手書き用/日本語フォント埋め込み/約63KB/v1.0
本シートは臨床記録を補助するオリジナル用紙です。公式の標準化尺度や診断用スコアとして検証されたものではありません。所属施設のプロトコルと併用してください。記入済みシートは、施設の患者情報管理ルールに従って保管します。
使い方:初回に測定条件を記入し、再評価ごとに条件の一致を確認します。通常速度と最大速度の経時変化は分けて記録してください。3試行以上を行う施設では、追加用紙を使い全試行を残します。
よくある質問
助走は何mが正しいですか?
一般的には、2mの助走で加速し、中央10mを計時して、最後の2mを歩き抜けます(全長14m)。ANPTのように全長10mの中央6mを計時する方法もあるため、施設で手順を固定し、実際の計測距離を記録します。
通常速度と最大速度は、どちらを測りますか?
目的と安全性に応じて両条件を検討し、結果は別々に記録します。最大速度が難しい場合は無理に実施せず、実施できた条件と理由を残します。
杖や装具が変わったら比較できませんか?
比較はできますが、条件変更の影響を含みます。変更理由を記録し、同条件での変化と区別します。必要な補助具を外して測定条件をそろえることは避けます。
0.8m/sを超えれば屋外歩行は自立ですか?
速度だけでは決められません。脳卒中後の地域歩行に関する参考値ですが、持久力、方向転換、認知機能、屋外環境、介助の必要性を合わせて判断します。
何m/s改善すれば意味がありますか?
対象・病期・測定方法によります。0.16m/sは発症後20〜60日の脳卒中研究に基づく参考値で、全患者共通ではありません。MDC、生活上の変化、本人の実感も確認します。
すくみや途中停止があったら、やり直しますか?
一律に除外しません。症状・安全性・採用プロトコルに従って対応し、中止や再測定の理由を記録します。キューを加えた試行は、元の条件と区別します。
参考文献・一次資料
数値を適用するときは、対象者・病期・測定条件を原著で確認してください。
- Academy of Neurologic Physical Therapy. Core Measure: 10 Meter Walk Test. 2018.
- Amatachaya S, et al. Influence of timing protocols and distance covered on the outcomes of the 10-meter walk test. Physiother Theory Pract. 2020;36(12):1348–1353. Online 2019.
- Perry J, et al. Classification of walking handicap in the stroke population. Stroke. 1995;26(6):982–989.
- Tilson JK, et al. Meaningful gait speed improvement during the first 60 days poststroke: minimal clinically important difference. Phys Ther. 2010;90(2):196–208.
- Hosoi Y, et al. Estimation of minimal detectable change in the 10-meter walking test for patients with stroke: a study stratified by gait speed. Front Neurol. 2023;14:1219505.
- Hass CJ, et al. Defining the clinically meaningful difference in gait speed in persons with Parkinson disease. J Neurol Phys Ther. 2014;38(4):233–238.
- Bohannon RW, Andrews AW. Normal walking speed: a descriptive meta-analysis. Physiotherapy. 2011;97(3):182–189.
- Hornby TG, et al. Clinical Practice Guideline to Improve Locomotor Function Following Chronic Stroke, Incomplete Spinal Cord Injury, and Brain Injury. J Neurol Phys Ther. 2020;44(1):49–100.
- Cheng DK, et al. Validation of stroke-specific protocols for the 10-meter walk test and 6-minute walk test conducted using 15-meter and 30-meter walkways. Top Stroke Rehabil. 2020.
- Stepping After Stroke: Walking Characteristics in People With Chronic Stroke Differ on the Basis of Walking Speed, Walking Endurance, and Daily Steps. Physical Therapy. 2020.
「どこまで歩けるか」から、
「どんな生活をしたいか」へ。

歩行の速さだけでは説明できない不安や、外出で困っている場面についてもご相談ください。STROKE LABの相談窓口では、ご希望や現在の状況をお伺いします。
ご本人・ご家族の「歩きたい」という気持ちと、生活上の目標を大切にしながら、今後の取り組みについて相談できます。
株式会社STROKE LAB
代表取締役 金子 唯史
自費リハビリの相談窓口です。サービス内容・対象・料金は予約ページでご確認ください。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)