ELYテスト(Duncan-Ely Test)とは?大腿直筋の短縮・痙縮評価と感度・特異度、Stiff Knee Gaitとの関係
ELYテストとは?
やり方と陽性の見方をやさしく解説。
ELYテスト(Duncan-Elyテスト)は、うつ伏せで膝を曲げて太もも前面の筋肉「大腿直筋」の硬さをみる評価です。まずは下の「30秒まとめ」で全体像をつかみ、もっと知りたい方はその先の解説へ進んでください。
うつ伏せで膝を曲げていき、お尻(骨盤)が浮いたら陽性。大腿直筋が硬い・こわばっているサインです。
| 目的 | 大腿直筋の短縮・痙縮(筋肉が勝手にこわばる状態)を調べる |
|---|---|
| 姿勢 | 腹臥位(うつ伏せ)。検査者は片手を骨盤に当てる |
| やり方 | 検査者が踵を持ち、膝を曲げて踵をお尻に近づける(脳卒中の方にはゆっくり) |
| 陽性 | ①骨盤が浮く(前傾する) ②踵がお尻に届かない ③太もも前面の痛み・筋のつっぱり |
| 記録 | 骨盤が浮き始めた膝の角度・左右差・痛みの有無 |
| わかること | 歩くときに膝が曲がりにくい「Stiff knee gait」に大腿直筋が関わっている可能性 |

— 実際の手順と陽性所見の見方を動画で確認できます。
ここから先は、もっと詳しく知りたい方向けの解説です。
大腿直筋とELYテストの基本。
大腿直筋は太もも前面にある筋肉で、大腿四頭筋の中でただ一つ、股関節と膝関節の両方をまたぐ「二関節筋」です。膝を伸ばす働きと、股関節を曲げる働きの両方を持っています。

二関節筋なので、短くなると膝だけでなく骨盤にも影響します。ELYテストで「膝を曲げると骨盤が浮く」のはこのためです。
脳卒中後は、痙縮によって大腿直筋がこわばり続けることがあります。すると歩行の遊脚期(足を前に振り出す時期)に膝が十分に曲がりません。これを Stiff knee gait(スティフニーゲイト)と呼び、遊脚期の膝屈曲が40°未満であることが一つの目安です。

ELYテストの良いところは、歩いてもらう前に、うつ伏せのまま安全に確認できることです。
評価の手順(4ステップ)。

リラックスした腹臥位にします。骨盤がねじれないよう、左右の腰骨(腸骨稜)を均等にベッドにつけます。検査者は評価する脚の外側に立ち、片手を骨盤に当てます。
踵を持ち、検査者の力で膝を曲げます(他動屈曲)。目標は踵がお尻に届くまで(約135°)。整形外科の原法ではすばやく曲げますが、脳卒中の方には痙縮に配慮してゆっくり行うことを推奨します。膝90°を超えたあたりから骨盤の動きに注目してください。
骨盤が浮き始めたときの膝の角度を角度計(ゴニオメーター)で測ります。この数値を残しておくと、再評価のときに変化を比べられます。
必ず両側を行います。片麻痺の方では麻痺側と非麻痺側の差がはっきり出ます。痛みや筋のつっぱりがあったかも聞き取り、カルテに記録します。
陽性の見方(3つの基準)。
膝を曲げるにつれて骨盤が浮き上がるのは、大腿直筋がこれ以上伸びないというサインです。浮き始めた角度を記録します。
検査者が曲げても踵がお尻につかない状態です。大腿直筋の伸びが制限されていることを示します。
膝を曲げている途中で太もも前面に痛みや反射的な筋の収縮が出る場合も陽性とみなします。
対象:歩行可能な脳性麻痺患者70例(平均13歳、4歳5ヶ月〜54歳)。
方法:ELYテストの結果を歩行分析(遊脚期の膝の動き・大腿直筋の筋電図・膝屈曲ピークのタイミング)と比較。
結果:感度56〜59%、特異度64〜85%。陽性の場合、歩行中の大腿直筋の機能異常(遊脚期の膝屈曲<40°、ピーク遅延、筋電図異常)がみられる確率は高い。つまり「陽性なら疑いが強まるが、陰性でも否定はできない」テストです。
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よくある失敗と対策。
他のテストとの使い分け。
膝が曲がりにくい原因は一つではありません。ELYテストだけで判断せず、次の評価と組み合わせます。
| 評価テスト | 主にみるもの | 脳卒中での使いどころ |
|---|---|---|
| ELYテスト | 大腿直筋の短縮・痙縮 | Stiff knee gaitのスクリーニング |
| トーマステスト | 腸腰筋・大腿直筋の短縮 | 股関節屈曲拘縮・骨盤前傾の評価 |
| SLRテスト | ハムストリングスの柔軟性・神経根症状 | ハムストリングス短縮による膝伸展制限との鑑別 |
| Modified Ashworth Scale | 痙縮の重症度(0〜4点) | ELYと組み合わせて介入の優先度を決める |
なぜ脳卒中で陽性になるのか。
正常な歩行では、足を振り出すときに大腿直筋はゆるみ、膝が自然に曲がります。脳卒中で脳から脊髄への経路が傷つくと、この「ゆるめる」調整がうまくいかず、大腿直筋が振り出しの間も働き続けてしまいます。
① 皮質脊髄路の損傷:自分の意思で膝を曲げるコントロールが弱くなります。
② 皮質網様体脊髄路の損傷:姿勢を支える筋(大腿直筋など)へのブレーキが効きにくくなります。痙縮の主な仕組みの一つです。
③ 錐体外路系の過剰興奮:基底核・小脳ループの機能異常が、筋緊張を高い状態で保ちます。
陽性だったときのリハビリ。
「ゆるめる → 動かしやすくする → 支える筋を鍛える → 歩行につなげる」の4段階で組み立てます。

うつ伏せまたは横向きで大腿直筋を伸ばします。20〜30秒保持×3〜5セット/日が基本。呼吸に合わせてリラックスを促します。痙縮が強い場合は、自動での膝の曲げ伸ばし、振動刺激、装具やキャスティングによる持続的な伸張も選択肢です。
PNF(固有受容性神経筋促通法)の「股関節屈曲-外転-内旋+膝屈曲」パターンで、筋出力と協調性を高めます。必要に応じて軽いマッサージ・筋膜リリース、膝・股関節のモビライゼーションを加えます。
膝を曲げるハムストリングスと、つま先を持ち上げる前脛骨筋を強化し、振り出しを助けます。週2〜3回、各10〜15回×3セットが目安です。
ハイステップ練習、階段昇降、リズミカルな振り出し練習などで、膝を曲げる動きを実際の歩行に組み込みます。定期的にELYテストを再評価し、変化を確認します。
Hatem SM et al., Front Neurol, 2016:発症後6ヶ月以降でもリハビリによりFugl-Meyer Assessment(FMA)・ARAT(Action Research Arm Test)が有意に改善。継続的な介入で、自然回復の「頭打ち」を押し上げられることを示した。
頻度の目安:運動学習を効率的に進めるには週2回以上・3ヶ月継続が推奨されています。

発症から時間が経っていても、適切なアプローチで歩行機能が改善する事例は多くあります。STROKE LABでは神経疾患に精通したセラピストが、エビデンスに基づいた個別プログラムをご提案します。
ゴール設定の目安。
改善の見通しは、痙縮の強さ・発症からの期間・認知機能・ご本人の意欲によって変わります。短期・中期・長期の3段階で考えると整理しやすくなります。
短期(2〜4週):ELYテストで骨盤が浮き始める角度を10〜20°改善する。
中期(1〜3ヶ月):歩行時の遊脚期膝屈曲を40°以上確保し、Stiff knee gaitの軽減を動作観察で確認する。
長期(3ヶ月以上):日常歩行の安全性・速度・歩幅の改善。階段や屋外歩行への応用。
多職種との連携。
| 職種 | 主な役割 | ELYテストに関する連携ポイント |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | ELYテスト実施・歩行分析・運動療法 | 評価結果を歩行練習・ストレッチに直結させる |
| OT(作業療法士) | ADL(日常生活動作)訓練・上肢機能改善 | 階段昇降・移乗でのStiff knee gaitへの対応を共有する |
| 医師(リハビリ医) | 痙縮管理・薬物療法・ボツリヌス療法の適応判断 | ELY陽性かつModified Ashworth Scaleが高い場合に相談する |
| 看護師 | ポジショニング管理・状態観察 | 病棟でのポジショニングによる短縮予防を依頼する |
| MSW(医療ソーシャルワーカー) | 退院後の社会資源・自費リハビリ相談 | 退院後もリハビリ継続が必要な場合の選択肢を提示する |
「病棟看護師に腹臥位ポジショニングを依頼すると、セラピストがいない時間帯でも大腿直筋の伸張を続けられます。」
「痙縮が強くてELYテストが行いにくい場合は、Modified Ashworth Scaleの結果を担当医に報告し、ボツリヌス療法の適応を相談してみましょう。」
よくある質問。
ELYテストは大腿直筋の痙縮・短縮を評価する整形外科的テストです。腹臥位で膝を他動的に屈曲させたとき、骨盤前傾や疼痛が生じれば陽性と判定します。
脳卒中患者では、Stiff knee gait(遊脚期膝屈曲不全)を予測する臨床ツールとして活用されます。
既存の研究では感度56〜59%、特異度64〜85%と報告されています。陽性予測値は歩行中の動的膝ROM減少、遊脚期EMG異常に対して良好であることが示されています(Wren et al., JBJS 2005)。
ただし大腿直筋以外の股関節屈筋群の影響を受けるため、単独での特異的指標としての使用には注意が必要です。
腹臥位のポジショニングで骨盤を固定することが最重要です。麻痺側と非麻痺側を必ず比較し、骨盤前傾が始まる角度を角度計で記録します。
痙縮が強い場合は急速屈曲を避け、ゆっくりと実施してください。代償として脊柱伸展や骨盤回旋が生じやすいため注意が必要です。
静的ストレッチング(20〜30秒保持×3〜5セット/日)、PNFパターンを用いた可動域改善、ハムストリングス・前脛骨筋の筋力強化が主な介入です。
痙縮が強い場合はボツリヌス療法との併用も検討します。介入後は定期的にELYテストを再評価し、歩行への波及効果を確認します。
はい。腹臥位でのELYテスト陽性は、歩行時の動的膝ROM減少(遊脚期<40°)、遊脚期の膝屈曲ピーク遅延(歩行周期71%以降)、遊脚期の大腿直筋EMG異常に対して良好な陽性予測値を示します。
(Wren et al., JBJS 2005;対象70肢、脳性麻痺患者)
はい。脳卒中や脳性麻痺では痙縮が大腿直筋に限局せず、腸腰筋・縫工筋などの股関節屈筋群にも広がることが多いです。PerryらはELYテストが大腿直筋と腸骨筋の両方にEMG反応を誘発することを示しており、大腿直筋のみを特異的に評価することは難しいと述べています。
他のテスト(SLR、トーマステスト等)との組み合わせが推奨されます。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳卒中・神経疾患に特化した自費リハビリ施設です。「保険リハビリが終わっても、もっと良くなりたい」という方のために、時間・内容・頻度を自由に設計したオーダーメイドのリハビリプログラムを提供しています。

— STROKE LABでの脳卒中・片麻痺リハビリの実際の様子です。
あわせて読みたい:股関節評価の一連の流れを徹底解説 — STROKE LAB評価シリーズ
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脳卒中後遺症のリハビリは、「時期が来たら終わり」ではありません。適切なアプローチを継続することで、発症から半年・1年が経過してからでも機能の回復が期待できます。
STROKE LABでは、最新の神経科学エビデンスに基づいた個別プログラムを、経験豊富なセラピストとともに構築します。
まずは20分の無料相談から。1回ごとのお支払い制なので、「まずは試してみたい」という方も大歓迎です。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)