コンパスが使えない子|手首の固定と回す動きの発達
コンパスで円が描けない子ども| 針がずれる・回せない理由と支援の考え方
「針が何度もずれる」「円が途中で途切れる」「一周させようとすると手が止まる」。 そんなとき、「手首をしっかり固定して」と繰り返しても解決するとは限りません。 コンパスでは、 針の位置と半径を保ちつつ、鉛筆側の先端を円に沿って動かす という異なる役割を同時に調整します。 完成した円だけでなく、どの瞬間に動作が難しくなるのかを見つけ、算数の学びを支える方法を整理します。
「何度やっても円にならない」には理由がある。
同じ場所から何度もやり直し、友達が次の問題に進んでも円が完成しない。作図がうまくいかない経験が重なると、算数の内容を理解していても「自分はできない」と感じることがあります。
まず知りたいのは、できなかった回数ではなく、どの条件なら描けるのか。 その情報が次の支援につながります。
小学校算数では第3学年で円の中心、半径、直径を学び、コンパスを活用した作図へ進みます。ただし、算数概念の理解とコンパス操作の習得は同じではありません。操作が難しいために円の性質を学ぶ機会まで失わないことが大切です。
文部科学省の教育実践資料には、つまみを回す手・手首・指の動きを確認し、作図面を支える材を使い、やがて通常のノートやプリントへ移す段階的な支援例があります。これは教育実践例であり、どの子にも同じ手順が有効だと証明する比較試験ではありません。
コンパスを使うとき、どこを保ち、どこを動かすのか。
コンパスでは、支点になる針を置き、鉛筆までの距離(半径)を保ちながら描線を進めます。紙を押さえる反対の手や机の条件、器具のつまみや脚の固さも結果に影響します。
「安定してほしいところ」と「動いてほしいところ」を分けて見る と、支援の選択が具体的になります。
| 要素 | 観察すること | 変えて比較する条件 |
|---|---|---|
| 支点 | 針が同じ位置に保たれるか | 紙・机の滑り、下敷きなどの支持条件 |
| 半径 | 途中で両脚の開きが変わらないか | 器具の固定具、つまみ位置、半径設定 |
| 描線 | 鉛筆が紙に触れ続け、線がつながるか | 鉛筆先と用紙、傾け方、接触条件 |
| 回転 | どの角度で手が止まる・持ち直すか | 開始位置、回転方向、つまみの形 |
| 学習 | 中心と半径の理解、指定条件への対応 | 設定済みの作図と、半径の設定から行う課題 |
手首を一律に固めることが正解ではありません。操作に必要な指・手首・前腕の動き方は、器具の種類や回転局面によって異なります。国立特別支援教育総合研究所も、手首を大きくひねらずに作図できるコンパスを選択肢として紹介しています。
針がずれる・線が途切れる。完成した円の違いを見る。
同じ「円がうまく描けない」でも、作図の結果が異なれば、疑う要因も変わります。以下は診断表ではなく、次に比較する条件を選ぶための観察表です。
| 作図で起きたこと | 考える要因 | 確かめたい条件 |
|---|---|---|
| 円の中心がずれ、複数の弧になる | 針の支持、紙の滑り、押す力の向き | 用紙の下の支持材あり/なし |
| 一周の途中で半径が変わる | 器具の開き、脚やつまみへの接触 | 作図前後の開きと器具の状態 |
| 線が薄くなる・途切れる | 鉛筆先の接触、器具の傾け方、力の変化 | 用紙・鉛筆の設定をそろえて比較 |
| 半円付近で止まり、一周できない | つまみの回し直し、手指と前腕の協調 | 開始位置・方向・つまみ形状 |
| 円は描けるが指定された大きさと違う | 長さの理解と設定手順、または器具の開き | 設定済みの作図/自分で半径を設定 |

例えば紙を支える材を使うと一周できる場合、単に「手首が回せない」と説明するのは不十分です。まずは支点の安定によって何が変わったかを確認します。反対に、針が安定しても手が止まる場合は、操作の局面や器具の形状を比べます。
補助があれば描けたことと、学校で自分で描けることは区別します。支援を段階的に減らすべきか、補助具を使い続ける方が学習に役立つかは、本人の目標と授業での結果から選びます。
研究でわかっていること。まだわからないこと。
コンパスの操作だけを対象とした介入研究は多くありません。そのため、直接の教育資料、手の描画運動の研究、DCDの課題指向型介入研究を分けて読みます。
文部科学省の資料では、手や指の動きの確認、針の支持、描きやすい条件から通常のノートへの移行という支援例が示されています。また、国立特別支援教育総合研究所は道具選びと負担に合った課題設定を勧めています。
この資料から言える範囲:教育実践や公的支援情報であり、特定の訓練手順が他の方法より優れていることを示すコンパス専用のランダム化試験ではありません。
Linらは6〜12歳の児童40人に、感圧式タブレットで直線や円を描く課題を実施し、時間・軌跡・力の指標と年齢や学年との関係を調べました。こうした研究は、描画運動を一つの速度指標だけで捉えない視点を与えます。
この研究から言える範囲:自由描画に関する横断研究です。コンパスの針・脚・つまみの操作を直接扱った研究ではなく、特定の訓練効果も示していません。
BlankらのDCD国際臨床推奨は、活動と参加に焦点を当てた課題指向型介入を重視します。Yasunagaら(2023)の国内研究ではDCD傾向のある年長児へのCO-OP介入後に課題遂行の改善が報告されました。一方、Araujoら(2021)では、目標活動の改善と参加指標の改善は一致しませんでした。
この研究から言える範囲:DCDやDCD傾向のある子どもの研究で、コンパスに特化した効果ではありません。年齢、診断、重症度、課題、介入量、環境によって結果は異なり、医学的診断・治療の代替ではありません。
家庭と学校で、作図の負担を減らす工夫。
家庭での役割は、失敗する回数を増やすことではなく、描きやすい条件を一緒に見つけることです。針先で手を傷つけないよう見守り、机の保護にも気を配ります。
何ができたかに加え、どの道具・どの条件でできたか を確かめます。
| 困る場面 | 試せる方法 | 見ておく変化 |
|---|---|---|
| 針がずれる | 紙を安定させる支持材や、使いやすいコンパスを比較する | 針が外れる回数、用紙の傷み |
| 一周できない | 短い弧から試す、開始位置や操作しやすい器具を見直す | 途中で止まる位置、疲労と不安 |
| 指定の半径にならない | 半径を測る活動と、開きが設定されたコンパスで描く活動を分ける | 長さの理解と作図のどちらが難しいか |
| 授業に追いつかない | 作図の量や時間、教材の提示方法、部分的な補助を学校と相談する | 円の性質を理解できるか、課題に参加できるか |
コンパスを自分で使えるようになりたい子もいれば、円や半径の意味を理解することを先に進めたい子もいます。本人の希望を聞き、先生と目標を共有します。補助具や教材調整は、学習機会を守るための選択肢です。

専門施設で、さらに見えてくること。円が崩れる瞬間から、動きを読み解く。
専門施設では、支点の位置、脚の開き、鉛筆の接触、回転中の中断、道具と環境を分けて評価します。診断や医学的治療は主治医の領域です。生活動作や学校での学びを支える側から、本人・家族・学校とともに取り組みます。
「指先の力をつける」「手首を安定させる」。こうした説明だけでは、なぜ同じ子が半円までは描けて、一周では失敗するのかを説明しきれません。 専門施設での評価では、 支点の位置・脚の開き・鉛筆の接触・回転の中断が、どの順番で変化するか を観察します。
同じ器具、同じ紙、同じ半径を基本に、一つの条件を変えたときの反応を見ます。補助具で成功したら、今度は補助を減らしても同じ結果になるか、学校でも再現できるかを確認します。
評価から介入へ:円の崩れ方で選ぶ方法は変わる
| 観察される困りごと | 考えられるボトルネック | 確認する評価・観察 | 選択する介入系統 | 難易度・量の調整 | 生活・学校で確認する変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| 針が途中でずれる | 支点に加わる力と紙の固定条件 | 同じ半径で支持材あり/なしを比較 | 支持条件と針の位置を確認する作図課題 | 短い弧から半円・一周へ | 針が外れる回数・中心のずれ |
| 半径が変わる | つまみや脚への接触、器具の固定の問題 | 作図前後の開きを確認し、器具を比較 | 器具選択、握る位置、開きを保つ作図課題 | 短い弧、異なる半径へ | 半径の再現性・描き直し回数 |
| 途中で線が途切れる | 鉛筆の接触と回転操作の協調 | 用紙と筆記条件をそろえ、停止角度を記録 | 接触を保ちやすい姿勢・器具と課題練習 | 部分的な弧から連続する円へ | 描線の途切れ、途中の持ち直し |
| 特定の角度で止まる | 回転中の指・手首・前腕の協調の負担 | 開始位置・回転方向・つまみ形状を比較 | 操作方法の探索、回転しやすい器具の選択 | 容易な局面から長い円弧へ | 一周の完成率、本人の負担感 |
| 指定の大きさに描けない | 半径概念または設定手順の負担 | 設定済みの作図と長さ設定を分離 | 算数の理解を支えつつ操作手順を練習 | 自由作図から指定半径へ | 半径の理解と指定条件の作図 |
専門家が見落としたくない、2つの臨床観察
いつも同じ位置でつまみを持ち直すなら、開始位置を変えてみます。止まる角度が作図の開始位置とともに変わるのか、身体に対して同じ角度で起こるのかによって、次に検討する操作条件が変わります。
支持材を用いたときだけ描けるのか、針を安定させても手が止まるのかを比較します。前者なら紙と針の条件を優先して調整し、後者なら回転と鉛筆の接触条件を見直します。これらの観察だけで神経学的な障害部位を推定することはできません。
支援の選択肢を4系統に整理する
| 介入系統 | 代表的な方法 | なぜ選ぶか | 生活で期待する変化 |
|---|---|---|---|
| 目標志向の作図練習 | 針を置く・短い弧・半円・一周へ段階化 | 必要な動作を実際の課題の中で学ぶため | 授業で円を描き、作図を進められる |
| 支点と回転の協調 | 針・開き・鉛筆接触・持ち直しの条件比較 | 安定と必要な運動の両立を学ぶため | 中心ずれや中断が減るかを確認できる |
| 認知方略と自己評価 | 目標設定・実行・結果の確認・次の方法を選択 | 本人が自分で作戦を選べるようにするため | 学校で困ったときに対応しやすくなる |
| 道具・環境調整 | つまみ、脚の固さ、紙、机、教材、時間を調整 | 無理なく実行できる条件を作るため | 算数の理解や授業参加を守る |
難易度と練習量をどう決めるか
いきなり同じ円を何度も描かせるのではなく、中心を保てる条件で短い弧から始める方法が考えられます。描線の正確さ、中断回数、疲れ、痛み、不安などを確認し、条件を一つずつ変更します。
研究で裏づけられていない一律の反復回数や成功率は設定しません。安全な針の取り扱いを優先し、本人が「次も試したい」と思える課題を選びます。
教室で再評価することが重要
訓練室で静かに一周できても、教室では机の高さ、紙の種類、時間制約、指定半径などが変わります。作図の中心ずれや中断、作図にかかった時間、半径の理解、授業に参加できたかを分けて再評価します。
支援を減らして自分で描くことを目標にする場合も、補助具を使いながら円の性質を学ぶ場合もあります。どちらが本人の目的に合うかは、算数で実際に何ができたかによって判断します。
課題指向型介入はDCDへの研究で支持されていますが、上の評価条件や練習手順がコンパス固有の効果を保証するわけではありません。本人の年齢や特性、器具と授業環境、家族負担が異なれば選択も変わります。機能の変化、作図の成功、学校参加は別々に記録します。
限界:DCDの研究成果を未診断児やコンパスという特定課題に直接外挿することはできません。医学的評価・治療に代わるものではありません。
家庭では負担を減らす工夫を。専門施設では評価と介入を往復し、 描ける条件を教室で使える方法へつなぐ 。その両方を本人と学校とともに組み立てていきます。

作図の苦手さが、学ぶことの負担になったら。
コンパスが苦手なことだけでDCDなどの発達症を判断することはできません。一方、書字、はさみ、定規、食具など複数の活動でも困難が続く場合や、学習への参加や自信に影響している場合は、学校の担任・特別支援教育コーディネーター・小児科などへ相談しましょう。
| まず学校と相談したいこと | 専門相談も検討したいこと |
|---|---|
| 使いやすい器具に替えたり、作図量を調整すると授業に参加できる | 道具や環境を変えても困難が続き、本人の負担が大きい |
| 円の性質を理解し、部分的な操作補助があれば学習できる | 手先の他の道具操作にも持続的な困りごとがある |
| 本人が困る場面を伝え、先生と支援方法を選べる | 強い疲労や痛み、作図への拒否感が続いている |
急に手足の力が入らなくなる、強い痛みや腫れがある、視力が急に変わる、けいれんや意識の変化が起きるなどの場合は、発達相談やリハビリよりも速やかな医療機関での評価を優先してください。通常の学習上の困りごとは、学校と相談しながら支援を検討します。
STROKE LABでは、身体や上肢の使い方を実際の活動から分析する視点を大切にしています。小児リハビリで対応できる範囲はお子さんの状態と目的によって異なります。医療機関・学校での評価や支援とあわせてご相談ください。
よくある質問。
Q. コンパスが使えないのは、手首の力が弱いからですか?
Q. 何年生でコンパスを使えるようになるものですか?
Q. コンパスの針がずれるときはどうすればよいですか?
Q. どんなコンパスを選べばよいですか?
Q. 円を描く練習を嫌がるときは、続けさせるべきですか?
Q. 専門家への相談が必要なのはどんなときですか?
「学べる方法がある」という安心へ。

子どもがコンパスで円を描けないとき、目に見えるのは途切れた線や、ずれた針の跡かもしれません。けれどその手前には、支点を保つこと、器具の開きを維持すること、必要な動きを続けること、そして学習の目的を理解することが重なっています。
私たちが大切にしたいのは、 「もっと練習しよう」と言う前に、どの条件ならその子の力が発揮されるのかを確かめること です。動作分析から考えた練習と、道具・学校環境の調整を組み合わせ、子どもが学び続けられる道筋を探します。
医療機関や学校での評価を尊重しながら、本人とご家族の目標を一緒に考えます。
代表取締役 金子 唯史

運動を「できる・できない」だけでなく、機能と動作の過程から捉える専門書です。今回の記事にも通じる視点ですが、本書がコンパス操作への介入効果を直接検証したものではありません。
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本記事は、公的な教育資料と査読付き研究をもとに構成しています。教育実践例、DCDの介入研究、コンパスに関する臨床仮説は区別して記載しています。診断や医学的治療に代わるものではありません。
- 文部科学省:小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編.第3学年「円と球」.
- 文部科学省:資料1-2 第3章実践例(案).コンパスを用いた円の作図に関する指導例,2019.
- 国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育推進センター:手先が不器用で、コンパスを使ったりすることや図工の工作などで手こずっています.
- Lin Q, et al. Characterization of fine motor development: Dynamic analysis of children’s drawing movements. Human Movement Science. 2015;40:163–175.
- Blank R, et al. International clinical practice recommendations on developmental coordination disorder. Developmental Medicine & Child Neurology. 2019;61(3):242–285.
- Yasunaga M, et al. Cognitive Orientation to Daily Occupational Performance: A Randomized Controlled Trial Examining Intervention Effects on Children with Developmental Coordination Disorder Traits. Brain Sciences. 2023;13(5):721.
- Araujo CRS, et al. Efficacy of the CO-OP approach with and without parental coaching on activity and participation for children with developmental coordination disorder. Research in Developmental Disabilities. 2021;110:103862.
- 国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育推進センター:図形問題が苦手なのですが・・・.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)