片付けが苦手な子|身体の使い方と実行機能を支える
「片付けなさい」で動けないのはなぜ?|始める・分ける・運ぶ・戻すを専門家が見る
何度言っても始めない。途中で別のおもちゃを触る。どこへ戻すか迷う。こうした姿を、単に「片付けが嫌い」「集中力がない」で終わらせる必要はありません。片付けは、実行機能と身体の使い方、そして収納環境を同時に使う生活動作です。この記事では、片付けのどの工程で止まっているのかを分け、家庭で試せる工夫と相談の目安まで整理します。

「片付けない」ではなく、「どこで止まっているか」を見る。
声をかけても始めない。1個片付けたと思ったら、その玩具で遊び始める。どこに戻すか聞いてくる。保護者から見ると、つい「分かっているのにやらない」と感じます。
しかし臨床では、開始・継続・分類・運搬・収納・終了判断のどこで止まるかを分けて考えます。結果だけでなく、止まる場所が分かると、家庭で変えるべき条件が見えやすくなります。
発達障害教育推進センターも、片付けが苦手な子どもについて、「片付けない」のではなく、どのように・どこに片付ければよいかが分からない可能性を挙げ、分類を段階化したり、収納場所に文字やマークなどの手がかりを付けたりする方法を紹介しています。
だから家庭でも、最初から「全部きれいに」を目標にしません。まずは何を言うと始められるか、何個目で止まるか、どんな物で迷うかを観察することが、支援の入口になります。
片付けは、複数の処理をつなぐ生活動作。
床にある玩具を箱へ戻すだけでも、子どもは複数の処理を短時間でつないでいます。大人には一つの「片付け」に見えても、子どもの中では別々の課題です。
遊びから片付けへ注意を切り替え、最初の1個に手を伸ばします。
床の中から対象を探し、他の玩具や刺激をいったん脇に置きます。
車、ブロック、絵本などを分類し、戻す場所と結びつけます。
しゃがむ、つかむ、立つ、歩く、両手で箱を扱うなどの動作を行います。
収納場所を思い出し、蓋や棚を操作して物を収めます。
「どこまでやれば終了か」を理解し、次の活動へ切り替えます。

実行機能だけでは説明できない。身体の使い方も負荷になる。
実行機能は、計画する、注意を向け続ける、必要な情報を頭に置いて使う、別の行動へ切り替えるといった日常生活を支える機能です。Harvard Center on the Developing Childでは、代表的な構成としてワーキングメモリ、抑制、認知的柔軟性を挙げています。
ワーキングメモリ:「青い箱にブロックを入れる」を覚えておき、次のブロックにも同じルールを使う。
抑制:途中に気になる玩具があっても、いったん遊び直すことを止め、片付けを続ける。
認知的柔軟性:車を戻し終えたら、次は絵本へと分類ルールや行動を切り替える。
ただし、ここで「続かない=実行機能」と決めません。床の玩具を片付けるには、何度もしゃがみ、立ち、リーチし、物を持って移動します。身体の安定や協調が難しい子では、動作そのものに注意を多く使い、結果として分類や継続に使える余裕が減る可能性があります。
家庭では、「片付けて」を具体的な一動作に変える。
家庭で最初にすることは、練習量を増やすことではなく、成功しやすい条件へ整えることです。発達障害教育推進センターでも、一度に複数の指示を出すより一つずつ具体的に伝えること、課題量を小さく分けること、文字やマークなどの視覚情報を使うことが紹介されています。
| 家庭で変えるポイント | 具体例 | 見る変化 |
|---|---|---|
| 指示を小さくする | 「片付けて」→「赤い車をこの箱へ」 | 最初の1個へ動き出すまでの時間 |
| 戻す場所を見える化 | 箱に写真・色・マークを付ける | 「どこ?」と聞く回数、探す時間 |
| 身体の移動量を減らす | 最初は収納箱を近くへ置く | 途中離脱、後半の姿勢・速度 |
| 終わりを見える化 | 「この箱が空になったら終わり」 | 終了までの声かけ回数 |
箱の距離、分類数、指示の長さ、写真マークなどを一つずつ変えると、「この子にとって何が難しかったのか」が分かりやすくなります。家庭での工夫そのものが、評価の材料になります。
発達障害と決めつける前に、生活全体を見る。
片付けが苦手という一つの行動だけで、ADHD、ASD、発達性協調運動症などを判断することはできません。相談を考えるときは、困りごとが片付け以外にも広がっているか、家庭以外の場面でも続いているか、本人や家族の生活負担が大きいかを見ます。
| 見ておきたい広がり | 具体的な確認 | 相談の考え方 |
|---|---|---|
| 生活動作 | 着替え、食事、持ち物管理などにも強い困難がある | 生活全体の評価を相談 |
| 場面の広がり | 家庭だけでなく園・学校でも整理や切り替えが難しい | 担任・園と情報共有して相談 |
| 身体面 | 不器用さや疲れやすさが日常生活を妨げている | 小児科・発達相談・専門職へ |
| 家族負担 | 毎日の片付けが強い叱責や親子の衝突につながる | 早めに支援方法を整理 |

研究でわかっていることと、片付けへそのまま当てはめられないこと。
Bikicらのメタ解析では、12研究・1,054名のADHD児を対象に、整理スキルトレーニングによって保護者・教師評価の整理能力が改善する方向が示されました。
この研究から言える範囲:対象はADHDと診断された主に学齢期の子どもです。診断のない幼児や、「片付けだけが苦手」な子に同じ効果をそのまま当てはめることはできません。
発達性協調運動症(DCD)の国際的臨床推奨では、本人に意味のある活動・参加に焦点を当てた介入が重視されています。2025年のRCTメタ解析でも、課題志向型アプローチは運動技能や活動遂行の改善に有利な方向が示されました。
この研究から言える範囲:DCD児への運動介入の根拠であり、片付けそのもののRCTではありません。また2025年レビューでは参加レベルの改善は確認されず、「できるようになった」と「家庭で自然に片付ける」を分けて評価する必要があります。
この二つの研究領域を片付けに統合するときに大切なのは、実行機能訓練か運動訓練かの二択にしないことです。実際の片付け課題の中で、どの条件がボトルネックかを評価し、認知・身体・環境の調整を組み合わせていきます。
専門施設では、「散らかっている」ではなく“どの工程で止まるか”を見る。
片付けが苦手な子を、「注意が続かない」「不器用」の一言で説明しません。たとえば、始めるまでに時間がかかる子でも、最初の1個を指定すると最後まで進めるなら、ボトルネックは継続より開始・課題の見通しにあるかもしれません。反対に、開始は早いのに3〜4個で遊び直すなら、目標保持や抑制、作業量の調整を優先します。
さらに、同じ分類課題を机上と床で比べます。机上では速く正確なのに、床になると姿勢が崩れ、探す時間が長くなり、後半で離脱するなら、運動コストが認知処理へ影響している可能性があります。箱を50cm近づける、蓋を外す、床ではなく低い台へ物を集めるなど、一つだけ条件を変えて、その場の成功率・速度・必要な声かけがどう変わるかを見ます。
支援は、評価で反応が良かった条件から組み立てます。施設内でできたら終わりではなく、家庭の収納・夕食前の時間・きょうだいの存在・保護者の声かけへ戻し、同じ指標で再評価します。保護者コーチングも「親が療法士になる」ことではなく、家庭で続けられる最小限の環境調整と声かけを共有するために行います。
| 観察される困りごと | 考えるボトルネック | 確認する評価・観察 | 介入・支援 | 難易度・量の調整 | 家庭で確認する変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| 声をかけても始まらない | 開始、指示理解、課題量の見通し | 「赤い車を箱へ」なら開始できるか。物が5個・20個で差が出るか。 | 最初の1動作と終わりを具体化 | 物の数、選択肢、指示長を調整 | 声かけから最初の1個までの時間 |
| 途中で別の玩具を始める | 抑制、注意持続、目標保持 | 1種類なら続くか。他の玩具を隠すと変わるか。 | 1カテゴリーずつ完結させる | 作業時間、休憩、視覚刺激を調整 | 途中離脱回数、完了率 |
| 戻す場所で迷う | 分類、ワーキングメモリ、視覚探索 | 色・形・用途のどの分類なら成功するか。 | 定位置と写真・色マークを再設計 | 2分類→3分類へ段階化 | 自分で戻せた割合、探す時間 |
| 床では急に遅くなる | 姿勢制御、しゃがみ、リーチ、運搬コスト | 机上と床で速度・疲労・姿勢・成功率を比較 | 実課題練習+収納位置・高さ調整 | 箱までの距離、物の重さ、高さを調整 | 後半の速度・姿勢・離脱 |
| 施設ではできるが家ではできない | 環境、習慣、家族条件、般化 | 家庭動画と施設課題の違いを比較 | 家庭の収納・導線・声かけへ変換 | 家族が続けられる最小構成へ | 夕食前など実生活の片付けでの自立度 |
整理スキル:ADHD児では、整理・計画を具体的な技能として扱う介入に研究支持があります。
運動・課題遂行:DCD領域では、意味のある実課題を中心にした課題志向型の考え方が推奨され、活動遂行の改善が報告されています。
生活への般化:研究上の機能改善が家庭の参加へ自動的に移るとは限りません。だから家庭の同じ片付け場面をアウトカムにします。
限界:片付けという単一ADLに対する直接的な介入研究は限られます。ADHDやDCDの研究を近接領域として参照しつつ、診断のないお子さんへ効果を外挿しません。診断・投薬などの医学的判断は医療機関の役割です。

STROKE LABでは、片付けという生活動作を、実行機能だけでなく姿勢・両手操作・視覚探索・環境・家庭での再現まで含めて確認します。診断が必要な場合は医療や健診を優先し、生活の中で支援できる部分を整理します。
片付けが苦手な子について、よくある質問。
Q. 何度言っても片付けないのは、やる気の問題ですか?
Q. 片付けが苦手だと、ADHDや発達障害なのでしょうか?
Q. 家では、どんな声かけが分かりやすいですか?
Q. 収納を工夫するだけでも変わりますか?
Q. 片付けと身体の使い方は関係しますか?
Q. どんなときに専門家へ相談した方がよいですか?
できる条件を一緒に見つける。

生活動作の困りごとは、本人の努力だけでは変えにくいことがあります。大人には簡単に見える「片付け」も、子どもにとっては多くの判断と身体操作を同時に行う課題です。
私たちは、どこで止まり、どの条件を変えると動けるのかを丁寧に見ます。できる条件を見つけたら、それを家庭の収納や声かけへ戻し、本人が少しずつ自分で進める形へ整えていきます。
片付けだけでなく、着替え・食事・持ち物管理など生活全体が気になる場合も、まずは今の困りごとを整理するところからご相談ください。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。生活動作を「できた・できない」だけでなく、姿勢・感覚・運動・課題条件のつながりとして見る視点は、片付けのような日常課題を考える土台にもなります。
- 家でどう関わればいい?|抱っこ・遊び・声かけが変わる家庭支援
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- 着替えが苦手な子|手順・姿勢・両手の使い方を支える
- 持ち物の準備が苦手な子|見通しと環境調整の考え方
本記事は、公的な発達支援情報、実行機能に関する教育資料、ADHD児の整理スキル介入、DCD児の課題志向型介入に関する研究と、STROKE LABの生活動作分析の枠組みを分けて構成しています。片付け単独に対する直接的な介入研究は限られるため、近接領域の知見を過度に外挿しません。診断・治療に代わる情報ではありません。
- 発達障害教育推進センター:片付けが苦手な子どもへの具体的な支援
- 発達障害教育推進センター:ADHDがある子どもの合理的配慮
- Center on the Developing Child at Harvard University: A Guide to Executive Function
- Bikic A, Reichow B, McCauley SA, Ibrahim K, Sukhodolsky DG. Meta-analysis of organizational skills interventions for children and adolescents with Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder. Clin Psychol Rev. 2017;52:108-123.
- Blank R, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285.
- Gao J, et al. Motor-Based Interventions in Children with Developmental Coordination Disorder: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomised Controlled Trials. Sports Med Open. 2025;11(1):59.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)