上着を羽織れない子|肩甲帯と腕の通し方を育てる
片方の袖は入るのに、もう片方で止まる。その瞬間を見てみよう。
上着を羽織るときは、最初の腕を袖へ入れたあと、衣服を背中側へ送り、見えにくい2本目の袖を探し、手・肘・肩を順番に通します。だから「肩が動くか」だけでは十分ではありません。どの瞬間で止まり、上着の位置や形を少し変えると何が変わるかを見ると、次に育てたい動きが見えてきます。

上着を羽織るのは、「腕を入れる」だけではありません。
前開きの上着は、頭からかぶるシャツとは違います。最初の袖を見つけて腕を通したあと、衣服を背中側へ送り、見えにくくなった反対側の袖口を探し、その袖の中へ手から肘、肩まで進める必要があります。
この途中には、上着の向き、両手の役割、肩甲帯と体幹の動き、身体の後ろで袖を探す力、手順を続ける力が重なります。だから「肩をもっと動かす練習」だけで解決しない子がいるのです。
まず見るのは、どの瞬間で止まるか。
家庭では、上着を羽織る動作を次の6工程に分けてみると観察しやすくなります。全部を評価する必要はありません。「ここまでは一人でできる」「ここから大人の手が必要」という境目を探します。

なぜ、2本目の袖だけ難しくなるのでしょう。
1本目の袖は目で見ながら手を入れやすいのに、2本目では状況が変わります。片腕がすでに上着の中へ入り、衣服が身体へ巻きつくように位置を変えるため、反対側の袖口は見えにくくなります。
ここで大切なのは、「2本目が入らない」を一つの失敗としてまとめないことです。袖口そのものを見つけられないのか、手は入るけれど肘で止まるのか、肘は通るのに肩まで収まらないのかで、次に比べたい条件が変わります。
手が袖口に入らない:袖の位置、衣服の向き、身体後方の探索、視覚手掛かりを比べます。
手は入るが肘で止まる:袖の太さ、衣服の摩擦、肩・肘・体幹の連動、引く方向を比べます。
肩甲帯は「固める」のではなく、腕について動く。
上着を羽織るとき、腕は一方向へ動くだけではありません。袖口を探すときは身体の横から後ろへ、袖に入ったあとは肘を進め、最後は腕を前へ出しながら肩周りへ上着を収めます。体幹もわずかに向きを変えながら、この動きを助けます。
そのため、STROKE LABでは「肩甲骨を安定させればよい」と単純化しません。肩甲帯が腕の方向変化についていけるか、体幹が必要な範囲で動けるか、上着を変えると必要な運動量が減るかを比べます。
家では、袖が見える・届くところから始める。
NHSの小児OT資料では、更衣を練習するとき、安定して座れる場所を選び、時間に追われないときに練習し、ゆったりした衣類や広い袖口など、成功しやすい服から始めることが紹介されています。大切なのは、難しい条件を一度に全部入れないことです。
| 難しい場面 | 家庭で一度変えてみる条件 |
|---|---|
| 袖口を見つけられない | 袖口を横から見える位置へ出しておく |
| 肘で引っ掛かる | ゆったりした袖、薄手で滑りやすい上着へ変える |
| 上着がねじれる | 最初に襟・裾の位置をそろえ、同じ持ち方にする |
| 最初から全部は難しい | 大人が途中まで整え、最後の工程から本人に任せる |
工程を分け、最後の成功しやすい部分から本人に任せていく方法は「後方連鎖」と呼ばれます。NHSの小児OT資料でも、更衣を小さな工程へ分け、最後の工程から本人が担う方法が紹介されています。毎回すべてを一人でやらせるより、成功を積みながら本人が行う部分を増やす考え方です。

年齢より、ほかの生活動作との組み合わせを見る。
CDCでは、3歳の発達マイルストーンとして「ゆったりしたズボンや上着など、一部の衣服を自分で着る」が挙げられています。ただし、これは特定のジャケットを一人で完全に羽織れる年齢を示すものではありません。
CDCのマイルストーンは、その年齢までに多くの子どもが示す行動を確認する目安です。3歳では一部の衣服を自分で着ることが含まれますが、上着の種類、袖の幅、留め具、経験量などによって課題難易度は変わります。
限界:CDCのマイルストーンは標準化された発達スクリーニングの代用ではありません。上着が苦手という一つの動作だけで診断を判断せず、これまでの発達、ほかの生活動作、遊び、健康状態と合わせて確認します。
専門施設では、「肩」ではなく“止まった瞬間”から動きを分ける。
「上着が羽織れない」と聞くと、肩をもっと動かせばよいと考えたくなります。しかし、上着なしでは腕を後ろへ動かせるのに、衣服が身体へ触れた途端に止まる子もいます。そこで専門施設では、身体だけを切り離さず、子ども・動き・衣服・環境の組み合わせを一つずつ変え、成功条件を比較します。
まず、上着を持たない状態で反対の手を身体の後ろへ運べるかを見ます。次に同じ方向へ実際の上着を使って手を運びます。上着なしでは容易なのに、上着ありで急に袖口を見失うなら、肩関節可動域だけを主因とする仮説は弱くなります。衣服の位置、袖口の探索、手順、摩擦、1本目の袖の入れ方へ評価を広げます。
次に、2本目の袖で「手」「肘」「肩」のどこまで進むかを分けます。袖口を横から見せるだけで手が入るなら視覚・位置の問題を優先し、手は入るのに肘で止まるなら、ゆったりした袖や薄手の素材へ変え、肩・肘・体幹の協調と衣服の抵抗を比べます。
最後は訓練室で一度できたことを成果にしません。同じ上着で、成功率、所要時間、声かけ、介助量を再評価し、玄関や園でも再現できるかを確認します。
| 観察される困りごと | 考えるボトルネック | 比較する条件 | 選ぶ課題 | 生活で確認する変化 |
|---|---|---|---|---|
| 1本目は入るが2本目を探せない | 身体後方の探索、衣服の向き、運動計画 | 上着なし/あり、袖口を見せる/通常位置 | 見える袖→側方→通常の後方位置へ段階づける | 玄関で自分から2本目を探せるか |
| 手は入るが肘で止まる | 肩・肘・肩甲帯の協調と衣服の抵抗 | 広い袖/通常袖、薄手/厚手 | 実物上着で肘が袖を通過する局面を反復する | 大人が袖を引く介助が減るか |
| 上着が背中でねじれる | 衣服の方向づけ、1本目の入れ方、把持位置 | 襟位置をそろえる/自由、目印あり/なし | 最初の袖入れと背中へ送る量を一定にする | 着たあと直してもらう回数 |
| 肩を大きく動かさないと着られない | 着方と衣服条件が身体能力に合っていない | 通常法/椅子で位置を固定する方法/床で準備する方法 | 複数方法から最小介助の方法を選ぶ | 園でも同じ方法を再現できるか |
| 訓練室ではできるが玄関で崩れる | 時間圧、重ね着、疲労、環境刺激 | 薄着/冬服、静かな部屋/玄関 | 実生活へ条件を一つずつ戻す | 外出前の所要時間・声かけ・介助量 |
1. 上着なしでは後ろへ手が届くのに、上着を着た瞬間だけ届かなくなるか。身体機能だけを練習する前に、衣服が加わったことで変わる条件を探します。
2. 2本目の袖で、手・肘・肩のどこで止まるか。同じ「袖が通らない」でも、止まる位置が違えば、選ぶ支援も変わります。
1. 更衣そのものを簡単にする。NHSの小児OT資料では、安定した姿勢、時間圧の少ない環境、ゆったりした衣類、広い袖口、視覚手掛かり、工程分解や後方連鎖などが更衣支援として紹介されています。
2. 介入原理。DCDの国際臨床推奨では、活動・参加志向の介入を重視し、本人に意味のある実生活の課題を目標にした介入が推奨されています。これは「肩だけを鍛えてから上着へ」ではなく、必要な身体機能を見ながら最終的には上着そのものの中で学習する考え方を支える近接領域の根拠になります。
3. 訓練室の成功と生活参加は同じではない。2025年のDCDに対するランダム化比較試験のメタ解析では、運動介入で身体機能や活動遂行は改善した一方、参加レベルの改善は確認されませんでした。そのため、訓練室で羽織れたかだけでなく、玄関や園で使えたかを別に確認する必要があります。
限界:DCDの研究は、DCDと診断された、またはその可能性がある子どもを対象とする研究です。「上着が苦手」というだけの未診断児へ診断や介入効果を外挿することはできません。また、肩甲帯への特定介入が上着を羽織る能力を直接改善すると示す研究は限定的です。ここでは、課題分析・課題志向・生活への般化という介入原理の参考として用いています。

できた着方を、玄関と園へ戻していく。
練習用の薄い上着なら着られても、冬の厚いコート、重ね着、リュックを背負う前の玄関、周囲の子どもが動いている園では難しくなることがあります。実生活では、衣服だけでなく時間圧や注意、疲れなどの条件が重なります。
そこで最後は、大人が袖を持つ回数、2本目を探すまでの時間、声かけ回数、着終わるまでの所要時間などを家庭や園で確認します。保護者が療法士になる必要はありません。家では短く、成功しやすく、親子の負担が増えない形へ変換します。
相談を考えたいのは、上着以外にも困難が広がるとき。
上着が一人で羽織れないことだけで、発達の問題や特定の診断を判断することはできません。一方、ほかの着替え、食事、はさみ、遊具など複数の生活場面で強い困難が続く、左右差が大きい、肩や腕に痛みがある、毎日の身支度に強い負担がある場合は、健診や医療機関、作業療法・理学療法などの専門職へ相談すると整理しやすくなります。
以前できていたことを急に失った、片側だけ急に動かしにくい、強い痛みや腫れがある、歩き方が急に変わった、けいれん、意識の変化などがある場合は、リハビリ施設で様子を見るのではなく医療機関を優先してください。
STROKE LABでは、上着を羽織る場面そのものを見ながら、肩甲帯、体幹、両手の役割、袖口の探索、衣服条件、家庭での再現性まで整理します。医療機関や健診での相談とあわせて、生活動作の見方を具体化したい方は、小児リハビリのページもご覧ください。
よくある質問。
Q. 何歳くらいで上着を一人で羽織れるようになりますか?
Q. 片方の袖は入るのに、反対側だけ入らないのはなぜですか?
Q. 肩が硬いから上着を羽織れないのでしょうか?
Q. 家ではどのような上着から練習するとよいですか?
Q. 何度も最初からやらせた方が上達しますか?
Q. どんなときに専門家へ相談した方がよいですか?
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、神経疾患を中心に機能解剖と動作分析を大切にする自費リハビリ施設です。小児では、上着を羽織るような生活動作を「肩が硬い」「不器用」の一言でまとめず、どの工程で止まるか、何を変えると成功するか、家庭や園で再現するかまで整理します。診断や医学的管理は医療機関を尊重し、私たちは生活と動きの側から併走します。
育ちに寄り添う関わりへ。

「片方の袖は入るのに、どうしてもう片方だけ入らないのだろう」。日常の小さな場面ほど、理由が見えないと不安になることがあります。
私たちは、肩だけを見るのではなく、上着を着た瞬間に動きがどう変わるかを大切にしています。袖を探すところなのか、肘が引っ掛かるところなのか、衣服の向きなのか。お子さんが成功しやすい条件を一緒に探し、生活へ戻していきます。
健診や医療機関での相談とあわせて、家庭や園での関わり方を整理したい方は、どうぞ一度ご相談ください。お子さんの育ちに寄り添いながら、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。運動を「動く・動かない」で終わらせず、姿勢・感覚・運動の連鎖として見る視点は、お子さんの生活動作を理解するうえでも土台になります。
- 家でどう関わればいい?|抱っこ・遊び・声かけが変わる家庭支援
- シャツを頭からかぶれない子|肩・首・ボディイメージの発達
- ファスナーを上げられない子|両手の役割分担と体幹の安定
- 着替えが苦手な子|生活動作から見る不器用さ
本記事は、発達の公的情報、小児更衣支援の公的資料、発達性協調運動症における活動・参加志向の介入研究を参考に、STROKE LABの臨床的な動作分析の枠組みを加えて構成しています。上着が苦手という一症状から診断するものではなく、研究対象外のお子さんへ介入効果を断定するものでもありません(最終確認日:2026年8月20日)。
- CDC. Milestones by 3 Years. Learn the Signs. Act Early. Updated May 15, 2026.
- Bedfordshire and Luton Children’s Occupational Therapy Service. Supporting your child’s dressing skills. Last reviewed 1 November 2024.
- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285. doi:10.1111/dmcn.14132.
- Gao J, Yang Y, Xu X, et al. Motor-Based Interventions in Children with Developmental Coordination Disorder: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomised Controlled Trials. Sports Med Open. 2025;11:59. doi:10.1186/s40798-025-00833-w.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)