ボールをキャッチできない子|目と手の協調・予測の育て方
飛んでくる位置を予測し、早めに両手を準備する経験を段階的に増やしましょう
「ボールが来ると目をつぶる」「両手を出しているのに弾いてしまう」「家ではできるのに体育では逃げてしまう」。キャッチは、手だけで行う動作ではありません。ボールへ注意を向け、軌道と到達時刻を予測し、身体と手を捕球点へ合わせ、接触の瞬間に閉じて受け止める連続した課題です。年齢だけで判断せず、どの局面で難しくなるかを家庭で見分ける方法と、相談・専門支援の考え方を整理します。

こんな場面で、困ります。
公園では大きなボールなら抱えられる。でも、少し離れると手が遅れ、胸や顔に当たってしまう。体育では、どこから飛んでくるか分からないため、ボールから逃げてしまう。
周囲から「よく見て」「手を出して」「怖がらないで」と同時に言われても、子どもは何を変えればよいか分かりません。まずは失敗の結果ではなく、ボールが届く前から、受け止めた後までの流れを見ます。
ボールキャッチの難しさは、単に「運動神経が悪い」「反射が遅い」と一言では説明できません。正面から同じように投げてもらえば捕れる子もいれば、左右へ動くと崩れる子、手は間に合うのに接触の瞬間に開いてしまう子、ボールが来る前から目を閉じて身体を反らす子もいます。
また、家族との1対1ではできても、体育やドッジボールでは難しくなることがあります。集団場面では、投げ手、方向、速さ、周囲の音、ルール、友達の動き、失敗への不安を同時に処理するためです。訓練室でできる能力と、遊びや体育で実際に使えることは分けて確認する必要があります。
キャッチを、6つの動作に分けて見ます。
キャッチは、ボールが手に触れる瞬間だけの動作ではありません。子どもは短い時間の中で、次の過程を連続して行います。

前者では、軌道予測や準備開始、身体の移動が影響します。後者では、接触を見越した把持の時機や、ボールの勢いを受ける方法が影響します。同じ「捕れない」でも、家庭で変える条件と専門施設で選ぶ課題が異なります。
STROKE LABの視点:子どもを評価する前に、投げる条件をそろえる。
キャッチは相手から届くボールに応答する課題です。投げ手の高さ、速度、左右方向が毎回変われば、子どもの予測能力だけでなく、入力そのものの不安定さが成績へ混ざります。そこで最初は、同じ投げ手、同じ距離、下からの緩やかな投球、ほぼ同じ高さ、正面への軌道にそろえます。
その条件で、手を出し始める時機、両手が捕球点へ届く位置、接触時の手の開閉、肘の曲がり、身体の後退、保持できたかを見ます。次に、左右方向、速度、距離、予告の有無を一つずつ変えます。条件を統制してから変化を加えることで、何が成功を支え、どこから崩れるかを特定しやすくなります。
予測可能と不規則の差:毎回同じ正面投球なら捕れるのに、左右が変わると急に崩れる場合、手の力よりも、選択反応と捕球点への移動が課題かもしれません。
個別と体育の差:1対1では捕れても、複数人、ルール、疲労、周囲の音が加わると逃げる場合、能力の獲得だけでなく、環境への般化と安心感の設計が必要です。
困り方から、どこで難しくなるかを整理します。
見た目が同じ失敗でも、背景は一つではありません。次の表は診断のためではなく、家庭で条件を変えたときの反応を記録するために使います。
| 見える困りごと | 考えたいボトルネック | 条件を変えて確認すること |
|---|---|---|
| 手を出す前に届く | 軌道・到達時刻の予測、準備開始、姿勢移動 | 転がし、バウンド、空中投球、合図あり・なしを比較する |
| 手は届くが弾く | 手を閉じる時機、手の開き、肘と体幹の衝撃吸収 | 大きく柔らかいボールへ変え、接触後に肘が曲がるかを見る |
| 目を閉じ、身体を反らす | 怖さ、予測不能感、顔に当たった経験、防御反応 | 風船・布ボール・低い軌道・手渡しで反応が変わるかを見る |
| 正面なら捕れるが左右で崩れる | 重心移動、足の踏み替え、体幹と上肢の分離 | 座位・立位、足を固定・自由、左右幅を狭く・広くして比較する |
| 家ではできるが体育で逃げる | 注意配分、集団環境、疲労、失敗への不安、予測不能 | 投げ手の人数、方向の選択肢、ルール、休憩を段階的に加える |

研究でわかっていること。
DCDのある子どものボールキャッチを扱った15研究の系統的レビューでは、リーチ開始や把持開始の時機、関節を固定する代償など、協調と制御の違いが整理されました。特に把持のタイミングに関する失敗が多く、捕球数の少なさへ関係していました。
出典:Derikx DFAA, Schoemaker MM. Human Movement Science. 2020;74:102688.
2026年の系統的レビュー・ネットワークメタ解析では、DCDまたはDCD疑いの3〜19歳を対象とした19研究、626人が整理されました。ボール課題を組み込んだ統合的な運動練習は運動成績で良好な推定効果を示しましたが、比較できる研究数が限られ、参加や心理社会面への波及は十分に分かっていません。
出典:Wang Z, Yu JJ, Tong J, Pan Y. Research in Developmental Disabilities. 2026;175:105340.
DCDの国際臨床推奨は、運動検査の点数だけでなく、日常活動、学校、遊び、参加、心理社会面を含む評価と、課題志向・活動志向の介入を重視しています。キャッチが苦手という一項目だけでDCDと判断することはできません。
出典:Blank R, et al. Developmental Medicine & Child Neurology. 2019;61(3):242-285.
研究の対象年齢、診断、重症度、介入内容、練習量にはばらつきがあります。研究で示された平均的な結果が、一人ひとりに同じように当てはまるわけではありません。キャッチ練習は、眼科的・医学的評価、診断、治療の代わりにはなりません。
家庭では、成功しやすい条件を一つずつ作ります。
家庭の役割は、原因を特定して訓練することではありません。安全に参加でき、何を変えると成功しやすいかを見つけることです。最初から空中のキャッチボールにせず、ボールの動きが読みやすく、接触が怖くない活動から始めます。

| 避けたい関わり | 起こりやすいこと | 代わりにできること |
|---|---|---|
| 突然、速いボールを投げる | 目を閉じる、防御的に身体を引く反応が強まりやすい | 合図、近距離、下投げ、同じ軌道から始める |
| 「よく見て」を繰り返す | どこをいつ見て、何を動かすかが分からない | 「両手を前へ」「触れたら抱える」など一つだけ伝える |
| 小さい硬いボールから始める | 見えにくく、接触時間が短く、当たる怖さも強い | 大きく柔らかいボール、風船、布ボールを使う |
| 捕れなかった回数だけを数える | 途中の変化が見えず、失敗体験が前面に出る | 最後まで見た、両手が届いた、逃げずに待てた変化を記録する |
様子を見ながら関われる場合と、相談を考えたい場合。
CDCは4歳頃の運動発達の目安として「大きなボールを多くの場合キャッチする」を挙げています。ただし、この発達項目は標準化された診断検査ではなく、ボールの条件や経験による違いもあります。年齢だけで判断せず、条件を易しくすると変化するか、ほかの生活場面にも困りごとがあるかを見ます。
| 観察ポイント | 様子を見ながら関われることが多い | 相談を考えたい |
|---|---|---|
| 条件への反応 | 大きく柔らかいボール、近距離、同じ軌道なら参加できる | 易しい条件でもほとんど手を出せず、変化が見られない |
| 見え方 | ゆっくりした大きな物なら最後まで追える | 片目をつぶる、極端に顔を近づける、二重に見える、物によくぶつかる |
| 左右差 | 両手を使い、方向によって多少差がある | 片側だけ極端に使わない、急に左右差が出た |
| ほかの生活場面 | ボール以外の遊びや生活動作には大きな困りごとがない | 書字、着替え、食具、はさみ、遊具、走る・跳ぶなど複数で困る |
| 参加と気持ち | 役割や道具を変えると遊びへ戻れる | 公園や体育を強く避け、自己評価や友達との参加へ影響する |
急に片側の手足だけ使いにくくなった、ふらつきや顔のゆがみが出た、けいれん様の動き、意識や呼吸の異常、強い頭痛や嘔吐がある場合は、キャッチ練習や発達相談より先に医療機関へ相談してください。
専門施設では、捕れない仕組みを局面と課題条件へ分け、育てたい機能と、公園・体育・友達との遊びへの参加を同時に設計します。診断、眼科検査、投薬、画像検査などの医学的判断は医療機関が担い、リハビリは生活機能の側から併走します。
専門施設で、さらに期待できること。
専門施設の目的は、訓練室でボールを何球か捕れるようにすることだけではありません。本人や家族が望む「公園で親子のやり取りを続ける」「体育で逃げずに構える」「友達とのゲームに役割を持って参加する」といった目標から逆算し、回復を狙う部分、成功しやすい方法を学ぶ部分、環境を変える部分を分けます。
困りごとを、5つの領域へ分けて評価します
評価所見から、介入系統を選びます
| 対象となるボトルネック | 選択する介入 | なぜ選ぶか | 生活で確認する変化 |
|---|---|---|---|
| 捕球点へ手が間に合わない | 予測可能な軌道で、視線・一歩・両手の輸送を一つの課題として反復 | 見る練習を切り離さず、実際の捕球点へ身体を合わせるため | 正面投球で自分から構え、左右へ一歩動ける |
| 手は届くが弾く | 接触時間が長い道具で、手を閉じる時機と肘の吸収を調整 | 把持相と吸収相を分け、その場の反応で道具・速度を選ぶため | 胸へ当てず、両手で保持できる回数が増える |
| 怖さが先に出る | 本人が道具と距離を選び、予告された低い軌道から段階づける | 防御反応を増やさず、見続けられる余裕を作るため | ボールへ顔を向けたまま遊びを継続できる |
| 個別ではできるが体育で崩れる | 投げ手、方向、人数、ルール、疲労を一条件ずつ加える般化課題 | 能力と実生活での遂行を同一視せず、環境差を埋めるため | 体育への参加時間、逃げる回数、友達とのやり取りが変わる |
まず、同じ投球条件で輸送相、把持相、吸収相を分けます。手が遅れるなら、合図と軌道を予測しやすくして捕球点へ一歩動く課題を選びます。手は届くが弾くなら、接触時間の長い道具へ変え、閉じる時機と肘の吸収を調整します。身体が後退するなら、道具の安全性と本人の選択を優先し、顔へ向かう軌道を避けます。
その場では、捕球数だけでなく、視線が残ったか、手の開始が早まったか、捕球点の誤差が小さくなったか、接触後に保持できたかを確認します。反応が変わらなければ、回数を増やす前に課題条件と仮説を見直します。
最後に、投げ手を変える、方向を二択にする、友達を一人加える、短いルールを入れるなど、生活に近い課題へ移します。一定期間後は同じ目標場面の動画と、体育への参加時間、必要な声かけ、本人の安心感で再評価します。
量と難易度は、成功と試行錯誤が両立する範囲へ調整します
研究は「全員に同じ回数」を示しているわけではありません。長時間続けるよりも、視線と手の準備を保てる短いまとまりで反復し、失敗が続く前に休憩や条件変更を入れます。できた直後に細かな指示を重ねず、子ども自身が「近い方が捕りやすい」「もう少しゆっくりがよい」と選べるようにします。
難易度を上げるときは、距離、速度、方向、大きさ、投げ手、予告、人数のうち一つを変えます。成功率が急に下がる条件を記録し、前の段階へ戻れる設計にします。保護者が療法士になる必要はなく、家庭では短く、続けやすく、親子のやり取りを壊さない形へ変換します。

キャッチ特異的:DCDのある子どもでは、リーチと把持の時機、関節の固定、把持エラーなどが課題になり得ます。
介入原理:ボール課題を含む統合的な運動練習は運動成績の改善に有望ですが、最適な方法・量の確定には追加研究が必要です。
生活実装:活動レベルの改善と、体育・友達関係・本人の自信への般化は同じではありません。参加は別に測り、環境調整と長期フォローを組み込みます。
専門施設での評価・介入も、診断、眼科検査、医学的治療の代替ではありません。効果は年齢、診断、認知・注意、怖さ、練習量、家庭・学校環境によって異なります。家庭では生活を守る工夫を、専門施設では評価にもとづいて複数の方法を組み合わせ、できる力を生活で使える力へつなげます。
STROKE LABでは、投げる条件をそろえたうえで、予測、身体の移動、両手の輸送、把持の時機、衝撃吸収、怖さ、家庭と学校の差を評価します。医療・眼科・発達評価後も、遊びや体育への参加に困りごとが残る場合にご相談ください。
よくある質問。
結果だけではなく、
成功へ向かう途中の変化を見つけます。

ボールを捕れないと、子どもは「自分は運動が苦手」と感じやすくなります。しかし、最後まで見られた、両手が捕球点へ届いた、逃げずに待てたという変化は、次の成功につながる大切な過程です。
私たちは、目と手だけでなく、予測、姿勢、両手の時間調整、怖さ、参加する環境までを動作として見ることで、その子が成功しやすい入口を探します。
医療機関や園・学校と連携しながら、親子の遊び、体育、友達とのやり取りへつながる方法を一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。見た目の結果だけでなく、知覚、予測、姿勢、運動の時間的なつながりから動作を捉える視点は、小児の運動支援にもつながります。
- STROKE LABの小児リハビリ
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- ボールを投げられない子|肩・体幹・タイミングの発達
- ボールを蹴るのが苦手な子|片足立ち・タイミング・方向づけ
- 公園遊びが苦手な子|遊具・感覚・姿勢のどこでつまずくか
本記事は、公的な発達情報、国際臨床推奨、系統的レビューと、STROKE LABの臨床経験をもとに構成しています。診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、小児科・眼科・発達支援機関等へご相談ください(最終確認日:2026年8月4日)。
- Centers for Disease Control and Prevention. Milestones by 4 Years. Learn the Signs. Act Early. Updated May 15, 2026.
- Derikx DFAA, Schoemaker MM. The nature of coordination and control problems in children with developmental coordination disorder during ball catching: A systematic review. Human Movement Science. 2020;74:102688. doi:10.1016/j.humov.2020.102688.
- Wang Z, Yu JJ, Tong J, Pan Y. Effects of ball skills interventions in children and adolescents with (probable) developmental coordination disorder: A systematic review and network meta-analysis. Research in Developmental Disabilities. 2026;175:105340. doi:10.1016/j.ridd.2026.105340.
- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Developmental Medicine & Child Neurology. 2019;61(3):242-285. doi:10.1111/dmcn.14132.
- 金子唯史.脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院.2024.408頁.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)