脳性麻痺の子どものリハビリ|動作分析で見る運動発達の可能性
脳性麻痺の動きを、姿勢連鎖と神経リハの視点で読み解く
「どんなリハビリが合うのか」「歩けるようになるのか」。脳性麻痺のリハビリに、全員共通の正解はありません。大切なのは、できない動作を繰り返す前に、どの条件なら子ども自身の動きが生まれるかを探すことです。研究で支持される原則と、臨床での動作分析を、保護者向けに整理します。

リハビリは、「何がしたいか」から始まる。
脳性麻痺のリハビリは、関節を動かすことや姿勢を整えること自体がゴールではありません。食事、着替え、移動、遊び、登校など、本人と家族が大切にしたい生活場面を先に決めます。
目標が「教室で自分の席まで移動する」なら、歩行だけでなく、速度、疲労、荷物、混雑、補助具まで含めて考えます。身体機能の変化と、生活で使える変化は分けて確認することが大切です。
その子の行動範囲と選択肢が広がるかを見る。
脳性麻痺を、リハビリの視点で簡潔に理解する。
脳性麻痺は、発達初期の脳に生じた損傷や発達の違いによって、姿勢や運動に持続的な困難が生じる状態です。脳の損傷自体は進行性ではありませんが、成長によって身体や生活上の課題は変わります。
痙直型、ジストニアを伴う型、失調型などで動き方は異なり、同じ病型でも一人ひとり違います。本記事では病型の説明を繰り返さず、動作をどう評価し、生活へつなぐかに焦点を当てます。
運動発達は、一つの順番だけではない。
発達表の順番は目安ですが、脳性麻痺の子どもが同じ経路をたどるとは限りません。床での移動を広げる、座位で手を使う、歩行器で友達と移動するなど、実用的な経路は複数あります。
次の発達課題は「年齢だけ」で決めず、今の能力から少し先にあり、本人が意味を感じられるものを選びます。成功が少なすぎる課題は学習になりにくく、簡単すぎる課題は新しい工夫を生みません。

姿勢と動作を、連鎖で見る。
手を伸ばしにくいとき、原因が手だけにあるとは限りません。骨盤が後ろへ倒れ、体幹が支えられず、視線が外れた結果として、手が使いにくくなることがあります。歩行も、足だけでなく頭部、胸郭、骨盤、支持脚の関係で変わります。
STROKE LABでは、この関係を動作の中で捉える臨床設計を「姿勢連鎖セラピー」と呼んでいます。特定の手技を万能とするものではなく、姿勢条件を整えたあと、子ども自身が目標動作を試すところまでを一続きにする考え方です。


研究で支持されるのは、「目的のある能動的な練習」。
国際的な臨床ガイドラインでは、本人が選んだ目標と、目標動作全体の練習を介入の中心に置くことが推奨されています。年齢、能力、希望に合わせて方法を選びます。
系統的レビューでは、目標志向型練習、課題に即した練習、両手動作訓練、CI療法など、目的に応じて支持される介入が整理されています。一方、診断名だけで介入を選ぶことはできません。
家庭では、「短く、成功しやすく、生活の中で」。
| 家庭で意識すること | 具体例 |
|---|---|
| 生活動作を練習にする | 袖へ手を通す、コップを両手で持つ、床から椅子へ移る |
| 成功する条件を残す | 椅子の高さ、足の位置、おもちゃの距離、声かけをそろえる |
| 疲れる前に終える | 短い反復を複数回。嫌がるまで続けない |
| 動画で変化を共有する | 朝と夕方、家庭と学校など、条件の違いを記録する |
強く伸ばす、長時間同じ姿勢に固定する、泣いても反復する、といった方法は避けます。家庭は「治療室の再現」ではなく、子どもが動きを使う場所です。

専門施設で、さらに期待できること。
同じ「立ちにくい」でも、原因は一つではありません。足関節の制限、筋緊張、筋力、選択的な運動、骨盤移動、視線、恐怖、疲労が異なる割合で関わります。専門施設の役割は、方法を先に決めることではなく、変化を妨げている要因と、変化が起きる条件を分けて確かめることです。
| 困りごと | 確認すること | 介入の選択 | 生活で見る変化 |
|---|---|---|---|
| 手を使うと座位が崩れる | 骨盤支持、体幹、視線、手の感覚、課題の距離 | 座面と足部支持を調整し、実際の手作業を反復 | 食事や描画で姿勢と手の使用が続くか |
| 速く歩くとつま先・脚の交差が増える | 速度依存性、関節制限、支持脚、体幹代償、疲労 | 速度と歩幅を段階化し、必要時は装具・医療と連携 | 廊下や屋外で転倒・疲労が減るか |
| 片手を生活で使わない | 肩甲帯、手指、感覚、自発使用、両手協調 | 片手課題・両手課題を目標と評価から選択 | 更衣、食事、遊びで自発使用が増えるか |
| 午後に動きが大きく崩れる | 運動効率、痛み、睡眠、注意、学校の予定 | 活動と休憩、移動方法、時間割、課題量を再設計 | 一日の参加と帰宅後の負担が両立するか |
介入直後には、動きやすさ、代償、痛み、成功率を確認します。その後、一定期間の動画や生活記録から、家庭・学校での使用、疲労、家族の介助量を再評価します。訓練室の変化が生活へ移らない場合は、本人の能力だけでなく、課題や環境の設定を見直します。

研究で支持されるのは、目標志向、課題特異性、本人の能動性、適切な練習量です。臨床では、これらが成立する姿勢・感覚・環境条件を評価し、個別に組み合わせます。
「姿勢連鎖セラピー」そのものを一つの確立した介入法として効果断定するものではありません。既存エビデンスに、STROKE LABの機能解剖・動作分析を統合した臨床設計です。
成長に合わせて、目標も方法も変える。
乳児期は自発運動と遊び、幼児期は移動と身の回り、学童期は学校での効率や疲労など、重点は変わります。成長期には筋・骨格の変化も加わるため、以前できていた方法が合わなくなることもあります。
定期評価では、「できる・できない」だけでなく、痛み、疲労、速度、介助量、本人の希望を確認します。GMFCSなどの分類は見通しを共有する助けになりますが、個人の可能性を一つの数字で決めるものではありません。

家庭・園・学校へつなぐ。
家庭ではできても、学校でできないことがあります。椅子、机、床、時間制限、周囲の視線、荷物、騒音が違うからです。子どもの能力だけを問題にせず、環境を変えたときの反応を見ます。

よくある質問。
Q. 脳性麻痺のリハビリは、何歳から始めるべきですか?
Q. リハビリをすれば、歩けるようになりますか?
Q. 筋肉が硬いときは、家庭で毎日ストレッチすべきですか?
Q. どのリハビリ方法が、いちばん効果的ですか?
Q. 家庭では、何を優先すればよいですか?
Q. 成長すると、動きにくさは変わりますか?
一度の評価で決めず、育ちながら見続ける。
STROKE LABでは、姿勢、筋緊張、感覚、動作、生活環境を分けて評価し、本人と家族の目標に合わせて介入を組み立てます。動画で変化を共有し、家庭や学校で使える条件へ調整します。
その子らしい生活を。

脳性麻痺という同じ診断でも、子どもが困っている動作と、家族が大切にしたい生活は一人ひとり違います。
私たちは、筋肉の硬さだけで判断せず、姿勢・感覚・運動のつながりを動作の中でほどきます。そして、本人が自分の身体で成功を見つける時間を大切にします。
医療機関での管理とあわせて、今の評価や家庭・学校での関わりを整理したいときは、ご相談ください。成長に合わせて一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。運動を姿勢・感覚・機能解剖の連鎖として見る視点は、小児の動作分析にも共通する土台です。
- 手足を突っ張る・体が硬い赤ちゃん|筋緊張の高さを運動発達から考える
- 子どものつま先歩き|癖・発達障害・麻痺を運動の視点で見分ける
- PVLの子どものリハビリ|発達の見通しと家庭での関わり
- 脳性麻痺の子どもの経過の見方|乳児期から学童期まで
本記事は、公的ガイドライン、系統的レビュー、国際臨床ガイドラインと、STROKE LABの臨床経験をもとに構成しています。診断・治療の代替ではありません。個別の医学的判断は、主治医・小児科医・小児神経科医へご相談ください(最終確認日:2026年7月13日)。
- National Institute for Health and Care Excellence. Cerebral palsy in under 25s: assessment and management. NICE Guideline NG62. Published 2017; last reviewed 2024.
- American Academy for Cerebral Palsy and Developmental Medicine. Early Detection of Cerebral Palsy Care Pathway.
- Novak I, Morgan C, Fahey M, et al. State of the Evidence Traffic Lights 2019: Systematic Review of Interventions for Preventing and Treating Children with Cerebral Palsy. Curr Neurol Neurosci Rep. 2020;20(2):3.
- Jackman M, Sakzewski L, Morgan C, et al. Interventions to improve physical function for children and young people with cerebral palsy: international clinical practice guideline. Dev Med Child Neurol. 2022;64(5):536–549.
- Novak I, Honan I. Effectiveness of paediatric occupational therapy for children with disabilities: A systematic review. Aust Occup Ther J. 2019;66(3):258–273.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)