痙直型脳性麻痺|つっぱりを運動から理解する
痙直型のつっぱりを、筋緊張と動作パターンから理解する
「足がつっぱる」「つま先立ちになる」「片方の手だけ使いにくい」——痙直型脳性麻痺では、筋肉の硬さだけでなく、姿勢、動く速さ、足裏の接地、骨盤や体幹の使い方が重なって、動きの中でつっぱりが見えます。大切なのは、硬さを責めることではありません。つっぱりが出にくい姿勢と動作の流れをつくり、生活で使える動きへ変えていくことです。

痙直型脳性麻痺とは、「硬い子」ではなく「動きの制御が難しい子」。
痙直型脳性麻痺は、脳性麻痺の中でも筋肉の緊張が高くなりやすいタイプです。医学的には、速く動かしたときに筋肉が反応して、つっぱりや抵抗が出やすい状態として説明されます。保護者の方の言葉では、「足がピーンと伸びる」「膝が曲がりにくい」「つま先立ちになる」「片方の手をあまり使わない」と表現されることが多いです。
ただし、痙直型を「筋肉が硬いだけ」と捉えると、関わりがストレッチだけに偏りやすくなります。実際には、姿勢を保つ力、足裏で支える感覚、骨盤の向き、手を出すタイミング、怖さや疲れでも、つっぱりの出方は変わります。つまり、つっぱりは「筋肉そのもの」だけでなく、「動き全体の結果」として見る必要があります。
この悩みはとても自然です。痙性は、静かに寝ているときよりも、立つ、歩く、急ぐ、怖い、疲れるといった場面で強く出ることがあります。だからこそ、リハビリでは関節を柔らかくするだけでなく、つっぱりが出にくい「入り方」と、実際に使える「動き方」を一緒に見ていきます。
痙性両麻痺と痙性片麻痺では、見えやすい課題が違う。
痙直型の中でも、主に両足に影響が出る場合を痙性両麻痺、片側の手足に影響が出る場合を痙性片麻痺と呼びます。両麻痺では、立つ、歩く、階段、しゃがむ、またぐなど、下肢と骨盤の使い方に課題が見えやすくなります。片麻痺では、片方の手を使いにくい、片側に体重を乗せにくい、歩くと左右差が出るなど、体の左右差として見えやすくなります。
ただし、ここで大切なのは、名称だけでリハビリを決めないことです。両足が中心に見えるお子さんでも、体幹や手の支え方が歩きに影響していることがあります。片側の手が使いにくいお子さんでも、骨盤や足部の支えが整うと手を出しやすくなることがあります。STROKE LABでは、診断名だけでなく、今どの動きが育とうとしているかを、姿勢と動作の連鎖から見ます。

| タイプ | 見えやすい課題 | 関わりの視点 |
|---|---|---|
| 痙性両麻痺 | つま先立ち、はさみ足、膝が伸びきる、しゃがみにくい、歩幅が小さい | 骨盤、股関節、膝、足部の連鎖を見て、立つ・歩く・移る動作につなげる |
| 痙性片麻痺 | 片方の手を使いにくい、片足に乗りにくい、歩くと左右差が出る | 左右差を責めず、体幹・骨盤・肩甲帯・手の使い方を生活動作へつなげる |
つっぱりは、筋肉だけでなく「姿勢の入り口」で変わる。
痙性は、筋肉を速く伸ばされたときに反応しやすい特徴があります。そのため、急に足を動かす、急いで立つ、怖さで体を固める、疲れて姿勢が崩れると、足や手のつっぱりが強く見えることがあります。これは「本人が頑張っていない」からではありません。体を守ろうとして、いつもの力の入り方が出ていることがあります。
たとえば、足裏が床を捉えにくいまま立とうとすると、ふくらはぎや太ももの前側に力が入り、つま先立ちや膝の伸びきりが出やすくなります。骨盤が後ろへ倒れたまま座ると、手を前に出しにくくなり、片麻痺側の手がさらに使いにくく見えることがあります。だから、痙直型のリハビリでは、どの筋肉が硬いかだけでなく、どの姿勢から動き始めているかを見ます。

ストレッチが不要という意味ではありません。関節可動域、痛み、装具、医療的治療との連携は大切です。ただし、生活で変化を出すには、柔らかくした範囲を、立つ・歩く・遊ぶ・着替える・書くといった実際の動作で使えるようにする必要があります。
研究でわかっていること。
脳性麻痺のリハビリでは、本人と家族にとって意味のある目標を決め、その動作を生活に近い形で練習することが重視されています。単に受け身で動かされるだけではなく、子ども自身が「やってみる」経験を重ね、家庭・園・学校で続けられる形にすることが大切です。
Jackmanらの国際臨床実践ガイドラインでは、脳性麻痺の子ども・若者の身体機能を高める介入として、本人と家族が選んだ目標、実際の動作全体の練習、環境や個人差を踏まえた計画が重視されています。
限界注記:研究の対象、年齢、GMFCSレベル、合併症、練習量、家庭環境によって効果は異なります。リハビリは診断・投薬・手術・装具処方の代替ではありません。医学的判断は主治医・専門医と相談してください。出典:Jackman M, et al. Developmental Medicine & Child Neurology. 2022;64(5):536-549. Novak I, et al. Current Neurology and Neuroscience Reports. 2020;20(2):3.
痙性片麻痺の上肢では、使いにくい手を引き出す練習や、両手を協力させる練習が研究で扱われています。ただし、本記事では具体的なCIMTの手順までは踏み込みません。片麻痺の手のリハビリは、別記事で詳しく扱うのが適切です。
専門リハで取り組めること。
診断、投薬、ボツリヌス療法、SDR、整形外科手術、装具処方は主治医・専門医の領域です。STROKE LABは医療・健診を先にしながら、生活の中で使える動きづくりを併走します。
痙直型のお子さんでは、硬さをゼロにすることを目標にするより、必要な場面で必要な力を出せること、怖さや疲れで硬くなりすぎないこと、家庭や学校で続けられることを重視します。
1. 姿勢・足裏・骨盤の土台づくり
足だけを見ず、座る、立つ、足裏で支える、骨盤を起こす、手を出す準備を整えます。両麻痺では歩行や立位、片麻痺では左右差と手の使い方につながります。
2. 目標志向の課題ベース練習
歩く、階段を上る、遊具に乗る、着替える、食具を使うなど、本人と家族にとって意味のある動作を選び、動作全体の中で練習します。
3. 家庭・園・学校プログラムと保護者コーチング
リハビリ室だけで完結させず、椅子、靴、床遊び、移動、体育、園や学校の場面に合わせて続け方を整理します。
個人差は大きく、発達や成長、痛み、装具、医療的治療のタイミングによって変化します。私たちは医学的判断を代替せず、主治医の方針を尊重しながら、今できる動きを生活へつなげる役割を担います。
Novakらのエビデンスマップでは、脳性麻痺の介入は、本人が能動的に参加する練習、目標志向、家庭プログラム、片麻痺上肢に対するCIMTや両手訓練などが整理されています。限界として、すべてのお子さんに同じ効果が出るわけではなく、年齢、重症度、目標、練習量、環境によって結果は変わります。出典:Novak I, et al. Current Neurology and Neuroscience Reports. 2020;20(2):3. Sakzewski L, et al. Pediatrics. 2014;133(1):e175-e204.

家庭・園・学校でできる関わり。
家庭でできることは、特別な訓練を増やすことだけではありません。椅子の高さ、足裏の接地、着替えの手順、遊びの姿勢、靴や装具の確認、疲れたときの休み方など、毎日の環境を少し整えることが、つっぱりの出方を変えることがあります。
| 場面 | 見たいポイント | 関わり方 |
|---|---|---|
| 座る | 骨盤が後ろに倒れすぎていないか、足裏が浮いていないか | 足台や椅子の高さを調整し、手が出しやすい姿勢をつくる |
| 立つ・歩く | つま先立ち、膝の伸びきり、左右の体重差、疲れやすさ | 急がせず、足裏で支える時間をつくり、必要に応じて装具や靴の状態を確認する |
| 手を使う | 片方の手を避けていないか、体を傾けて代償していないか | 使いにくい手を叱らず、両手が自然に必要になる遊びや生活動作を選ぶ |
| 園・学校 | 体育、移動、階段、机椅子、疲労、痛みの出方 | できることと配慮が必要なことを分け、先生と共有できる言葉にする |
顔色や呼吸がおかしい、けいれん様の動きがある、意識がぼんやりする、急に片側の手足が動かしにくくなった、強い痛みや急な歩行困難がある、哺乳や食事が急に悪くなった場合は、リハビリの相談より医療機関への相談を優先してください。迷う場合も、自己判断せず主治医や救急相談に確認することが安全です。

よくある質問。
医療機関での診断・治療を大切にしながら、「歩き方をどう見ればよいか」「手をどう引き出すか」「家庭や学校で何を続けるか」を一緒に整理します。
使える動きへ。

痙直型脳性麻痺のお子さんを前にすると、どうしても「硬さをなくしたい」という気持ちになります。その思いは自然です。
私たちが大切にしているのは、硬さを否定することではなく、硬さの背景にある姿勢・感覚・運動の連鎖をほどき、その子が生活の中で使える動きに変えていくことです。
医療機関での治療とあわせて、家庭・園・学校での関わりを整理したい方は、どうぞ一度ご相談ください。お子さんの育ちに寄り添いながら、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。痙直型脳性麻痺の動きを、筋肉の硬さだけでなく、姿勢・感覚・運動の連鎖として見る視点にもつながります。
- 脳性麻痺の子どものリハビリ|動作分析で見る運動発達の可能性
- 手足を突っ張る・体が硬い赤ちゃん|筋緊張の高さを運動発達から考える
- 赤ちゃんが片方の手ばかり使う・左右差がある|片麻痺の入口として知っておきたいこと
- 脳性麻痺の子どもの歩き方|はさみ足・尖足を運動分析から支える
- Centers for Disease Control and Prevention. About Cerebral Palsy. Updated 2026.
- NHS. Cerebral palsy – Symptoms. Page last reviewed 31 May 2023.
- National Institute for Health and Care Excellence. Cerebral palsy in under 25s: assessment and management. NICE guideline NG62. Published 2017, last reviewed 2024.
- National Institute for Health and Care Excellence. Spasticity in children and young people with non-progressive brain disorders. NICE clinical guideline CG145 and evidence update.
- Jackman M, Sakzewski L, Morgan C, et al. Interventions to improve physical function for children and young people with cerebral palsy: international clinical practice guideline. Developmental Medicine & Child Neurology. 2022;64(5):536-549.
- Novak I, Morgan C, Fahey M, et al. State of the Evidence Traffic Lights 2019: Systematic Review of Interventions for Preventing and Treating Children with Cerebral Palsy. Current Neurology and Neuroscience Reports. 2020;20(2):3.
- Sakzewski L, Ziviani J, Boyd RN. Efficacy of upper limb therapies for unilateral cerebral palsy: a meta-analysis. Pediatrics. 2014;133(1):e175-e204.
- 医学書院『脳の機能解剖とリハビリテーション』2024年、408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)