【2026年版】坐骨神経とは?解剖・機能・分岐から坐骨神経痛の原因と評価方法まで徹底解説
坐骨神経の走行・神経支配・臨床評価を、新人セラピストのために体系化する。
「ふとももの裏がしびれる」「足が上がらない」。そのような訴えの背景に坐骨神経が関与しているかどうかを、正確に見極めるには解剖・デルマトーム・神経ダイナミクスの三角形を押さえることが近道です。この記事では走行から評価・介入まで体系的に解説します。

Visible bodyより引用
要点5項目。
臨床現場でこう出会う
60代男性・股関節後方アプローチによる人工股関節全置換術(THA)後3日目。「術前にはなかったふとももの裏から膝の外側にかけてのしびれ」を訴えた。
このしびれは坐骨神経の牽引損傷なのか、椎間板由来なのかを鑑別することが初動の要になります。まず走行と支配域を頭に入れましょう。
脳卒中リハビリの現場でも、脳卒中以外の整形外科疾患を合併しているケースは珍しくありません。坐骨神経障害は下肢機能に直接影響するため、PTはもちろんOT・STも理解しておく価値があります。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABは脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。下肢しびれや筋力低下が残存している方のリハビリプログラムを、神経解剖学的視点から丁寧に設計します。
坐骨神経の解剖と疫学
坐骨神経(sciatic nerve)は体内で最も太く長い末梢神経です。第4腰椎から第3仙骨(L4・L5・S1・S2・S3)の脊髄神経腹側枝から形成され、仙骨神経叢の上部の延長として骨盤を出ます。
大坐骨孔から骨盤を出て、大腿骨大転子から坐骨結節の間を下降します。最初は梨状筋の深部を走り、梨状筋の下・大殿筋の深部に位置します。
その後、双子筋・大腿四頭筋(坐骨頭)を横切りながら下方に進みます。大腿二頭筋の長頭が表層で斜めに交差し、膝窩の上面で脛骨神経と総腓骨神経に終止します。
体表上は「坐骨結節から大転子頂点までの線のちょうど内側から膝窩の頂点まで」引いた線で表すことができます。触診や電気刺激の際の目安にしましょう。
神経支配の全体像
坐骨神経は股関節に関節枝を供給し、大腿後面の筋群を直接支配します。下腿以遠は脛骨神経と総腓骨神経を介した間接支配になります。
| 神経根 | 主な筋支配 | 感覚・反射 |
|---|---|---|
| L4 | 足関節背屈(前脛骨筋) | 内側踝の上/膝蓋腱反射(L3,4) |
| L5 | 母趾伸展(長母趾伸筋) | 第3中足趾節関節の足背 |
| S1 | 足関節外転・膝屈曲・臀筋収縮 | 踵骨外側/アキレス腱反射(S1) |
| S2 | 膝屈曲・つま先立ち | 膝窩の中点 |
| S3 | 骨盤底・膀胱・生殖器機能 | 坐骨結節または臀部下窩 |
神経分岐のメカニズム
坐骨神経は膝窩の近位部で脛骨神経(tibial nerve)と総腓骨神経(common peroneal nerve)に分岐します。注目すべきは、大腿二頭筋短頭への神経は「総腓骨部」から出ており、それ以外のハムストリングスへの分岐は「脛骨部」から出るという点です(Baima & Krivickas, 2008)。
総腓骨神経の下腿での分岐
総腓骨神経は腓骨頭周囲に巻き付き、腓骨トンネルを通過して腓骨頸部で深腓骨神経と浅腓骨神経に分かれます。この部位は腓骨頸部骨折や外側靭帯損傷で損傷されやすい解剖学的弱点です。
出典:Baima J, Krivickas L. Evaluation and treatment of peroneal neuropathy. Curr Rev Musculoskelet Med. 2008;1(2):147-153. PMC.
主要知見:坐骨神経の外側線維(総腓骨部)は股関節障害の影響を最も受けやすいと報告。腓骨頭周囲の拘束や大腿骨の大きさが感受性に関与する。寛骨臼骨折・大腿骨折手術では神経線維損傷リスクが16〜33%。
臨床的含意:腓骨頭部への電気刺激では深腓骨・浅腓骨の両方が関わり背屈+外反が誘発される。前内下方に進むと深腓骨神経単独支配となり、外反要素が消えて内反を伴う背屈になる。目標動作に合わせた電極位置の選択が重要。
鑑別すべき3つの病態
坐骨神経走行上の障害は、原因部位によってアプローチが大きく変わります。3つの主要病態を整理しておきましょう。
1928年、Youngmanが梨状筋による坐骨神経圧迫として記述。座位や股関節屈曲・内旋動作で症状が増悪します。客観的所見としてPaceサイン(伸展した大腿を内転させると痛みが再現)が有用です。直腸・膣検査でも再現されることがあります。初期治療は抗炎症薬内服で、慢性例ではステロイド注射・外科的探査を考慮します。
主にスポーツ選手に起こる病態です。坐骨結節付近の限局的疼痛と大腿後面・膝窩への放散痛が特徴です。坐骨挿入部の腱障害に加え坐骨神経圧迫が関与することがあります。ハムストリングスに張力がかかると症状が悪化し、坐骨結節打診で放散痛が再現されます。治療は安静・抗炎症剤・ステロイド注射です。
高エネルギー外傷に伴うことが多く、多臓器損傷を合併することも多いです。坐骨神経の総腓骨部(外側線維)が最もよく侵されます。後方アプローチ(Kocher-Langenbeck法)では大殿筋を切断して坐骨神経を確認・保護します。術後は必ず神経学的スクリーニングを実施してください。
神経学的評価の完全手順
坐骨神経の評価は3つの柱(筋力+デルマトーム+反射)と神経ダイナミクス検査で構成されます。順番と所見の読み取り方を体系的に身につけましょう。
SLR
① 筋力テスト(MMT)
| 検査動作 | 対応神経根 | 臨床メモ |
|---|---|---|
| 足関節背屈 | L4 | 歩行時の踵接地・遊脚期クリアランスに直結 |
| 母趾の伸展 | L5 | EHL:L4との鑑別に有用 |
| 足関節外転・膝屈曲・臀筋収縮 | S1 | アキレス腱反射消失と合わせて確認 |
| 膝屈曲・つま先立ち | S2 | 単脚つま先立ち:10回連続で確認 |
② デルマトーム(皮膚感覚域)
触覚・痛覚・温度覚を対側と比較します。デルマトームの「境界線」は個人差があるため、分節の中央部(最も支配密度が高い部位)で評価するのが原則です。
L4:内側踝の上
L5:第3中足趾節関節の足背
S1:踵骨の外側
S2:膝窩の中点
S3:坐骨結節または臀部下窩の上
③ 神経ダイナミクス検査(SLR・スランプ)
神経ダイナミクス検査(neurodynamic test)とは、神経組織の機械的な動きと、機械的ストレス・圧迫に対する感度をチェックする評価法です。坐骨神経に対してはSLRテストとスランプテストが代表的です。
基準①:患者の症状の全てまたは一部が再現される。
基準②:正常な反応とは異なる症状が出る(左右非対称・異常な部位への放散など)。
基準③:症状のある手足の可動域が、反対側の可動域と異なる。
感作テスト:足関節背屈を追加すると神経への張力が増加し症状が増悪する(神経由来の確認)。足底屈では症状が軽減する。ハムストリングスも両テストで伸展させながら評価する。
仰臥位で膝関節を伸展位に保ちながら股関節を他動的に屈曲させます。症状が再現された位置を記録し、そこで足関節背屈(感作)を追加します。
関連する病歴・可動域減少・SLR陽性の組み合わせは、椎間板ヘルニアの程度によらず、椎間板障害の重要な身体的徴候として位置づけられています(Magee, 2008)。

坐骨神経障害による下肢症状は、正確な神経学的評価と段階的な介入で改善が期待できます。STROKE LABでは脳神経系・末梢神経系ともに専門的な徒手技術と運動療法を組み合わせたプログラムを提供しています。
介入の段階・エビデンス
坐骨神経障害への介入は、急性期・回復期・維持期の段階に応じてアプローチを変える必要があります。各フェーズの目標とパラメータを押さえましょう。
目標:炎症の鎮静と神経の除圧。安静・抗炎症薬・ポジショニングが中心です。不必要な神経への張力(過度なSLR体位など)を避けます。疼痛VAS 7以上の場合は神経ダイナミクス介入は禁忌に準じます。
目標:神経モビライゼーションの開始と梨状筋柔軟性の改善。神経スライディング(週3回・1回10反復・可動域の痛みのない範囲)から開始します。梨状筋ストレッチは30秒×3セット・週4〜5日を目安にします。
目標:筋力回復と動作再学習。股関節周囲筋(中殿筋・梨状筋・ハムストリングス)の段階的な筋力強化を行います。週3〜4回・1筋群2〜3セット×10〜15回を基本パラメータとします。歩行や階段動作への応用訓練を並行します。
目標:再発予防と生活機能の最大化。自主トレプログラムの定着(週5日・20〜30分)、姿勢・動作習慣の改善指導を行います。再評価は1ヶ月ごとを目安に。
多職種連携と環境調整
坐骨神経障害の患者は、PT単独ではなく多職種で包括的に支援することが機能回復を最大化します。各職種の役割を整理しておきましょう。
| 職種 | 主な役割 | 連携のポイント |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 神経学的評価・神経モビライゼーション・歩行訓練 | MMT・SLR・スランプの結果を他職種と共有 |
| OT(作業療法士) | ADL動作分析・座位姿勢指導・自助具提案 | 長時間座位での梨状筋への圧迫を減らす椅子・クッション選定 |
| 医師 | 画像診断(MRI/CT)・薬物療法・手術適応の判断 | 神経学的スクリーニングで悪化兆候があれば即座に報告 |
| 看護師 | 疼痛管理・ポジショニング・排泄ケア | S3支配の膀胱・生殖器機能に問題があれば排泄チームへ |
| MSW(社会福祉士) | 退院調整・就労支援・福祉用具手配 | 長期療養となる場合は早期から介入。環境改善も含めた計画 |
「術後の坐骨神経障害はPTだけが抱え込まないこと。症状の悪化は医師への即時報告が原則です。」
「OTと情報共有することで、ADL場面でも神経への負担を減らす工夫ができます。患者の1日の大半は病室で過ごすことを忘れずに。」
Pitfallsと臨床判断のコツ
坐骨神経の評価・介入は見落としが起きやすい部分が複数あります。新人セラピストが陥りやすい罠を3つ整理しました。
臨床判断の分岐点
「症状の分布がL4〜S3のどの根に近いかを地図で確認してから介入する。根拠のない”坐骨神経痛”ラベルは危険です。」
「術後に新たなしびれが出た場合、まずは医師にフィードバックしてから介入計画を立てることが基本です。自己判断で神経モビライゼーションを始めないように。」
予後とゴール設定
坐骨神経障害の予後は原因と損傷の程度によって大きく異なります。軽度の神経圧迫(ニューラプラキシア)は数週間〜3ヶ月で自然回復することが多いです。一方、軸索断裂(アクソノトメシス)では1mm/日の神経再生速度を基準に予後を推算します。
ニューラプラキシア(Neurapraxia):軸索は保たれ髄鞘のみ障害。数週間〜3ヶ月で完全回復が期待できます。
アクソノトメシス(Axonotmesis):軸索断裂。再生速度1mm/日を基準に、損傷部から支配筋までの距離で回復期間を推算。例:大腿から足首まで40cmなら約13〜14ヶ月。
ニューロトメシス(Neurotmesis):神経幹断裂。外科的修復がなければ自然回復は困難。
よくある質問
L4・L5・S1・S2・S3の5本の脊髄神経腹側枝から形成されます。仙骨神経叢の上部の延長であり、大坐骨孔から骨盤を出て梨状筋の下を通過します。
膝窩の近位部(上端)で分岐します。総腓骨神経はさらに腓骨頭周囲で深腓骨神経と浅腓骨神経に分かれます。
仰臥位で膝伸展のまま股関節を他動的に屈曲させ、大腿後面〜下腿への放散痛・しびれが再現されれば陽性です。症状の再現、正常反応との違い、左右差のいずれか1つ以上で陽性と判定します。感作として足関節背屈を加えると神経への張力が増加し、症状が増悪します。
1928年にYoungmanが記述した病態で、梨状筋による坐骨神経の圧迫が原因です。座位や股関節屈曲・内旋動作で症状が増悪し、臀部〜坐骨神経分布の放散痛が特徴です。Paceサイン(伸展した大腿を内転させると痛みが再現)が診断の指標になります。
腓骨頭部への電気刺激では、総腓骨神経(深腓骨・浅腓骨の両方)を介して足関節背屈と外反が得られます。前内下方の深腓骨神経単独域では外反要素が消え、前脛骨筋主導の内反を伴う背屈が誘発されます。目標とする動作に応じて電極位置を調整することが重要です。
主にスポーツ選手に起こる病態で、坐骨結節付近の限局した圧痛と大腿後面・膝窩への放散痛が特徴です。坐骨挿入部の腱障害に加え、坐骨神経の圧迫が関与することがあります。打診で坐骨神経痛の分布が再現されることが診断の手がかりになります。
STROKE LABのプログラム
STROKE LABは脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。「しびれが続いている」「足に力が入らない」「歩き方がおかしい気がする」という方に、解剖学・神経科学に基づいた個別プログラムをご提供しています。

— STROKE LABでのリハビリの実際の様子です。
「坐骨神経の解剖をしっかり頭に入れてから患者を診ると、症状の地図が読めるようになります。走行・分岐・デルマトームのセットを繰り返し確認することが上達の近道です。」— 理学療法士・経験16年・神経系専門
「電気刺激の電極位置は、目的とする筋収縮を明確にしてから決めることが大切です。”なんとなく腓骨頭に貼る”をやめてから、介入効果が格段に上がりました。」— 理学療法士・経験10年・整形外科・脳外科領域
諦めないでください。

下肢のしびれや筋力低下は、「神経の回路がどこかで詰まっている」サインです。適切に評価して、段階的に介入すれば、多くのケースで改善が期待できます。
STROKE LABでは、解剖学と神経科学に基づいた丁寧な評価と段階的なリハビリで、ご本人・ご家族に寄り添ったプログラムを提供しています。
まずは無料相談でお気軽にお話しください。現在の状態と、これからできることを一緒に考えましょう。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)