【保存版】前庭系の概要とリハビリテーションへの応用 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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カテゴリー
前庭系,運動制御
タイトル
前庭系システム:運動制御のための自発的運動における多様な統合と符号化 The vestibular system: multimodal integration and encoding of self-motion for motor control?PubMedへ Cullen KE et al:Trends Neurosci. 2012 Mar;35(3):185-96
内 容
概 要
●前庭系は,日常生活において自発的な行動の高度なレベルから反射レベルまで広範囲の機能に寄与している
●このStudyでは,日常生活動作における正確な運動制御のために,脳がどのようにして自己の運動をコード化し,情報処理するかということを理解するため,中でも前庭システムについて焦点をあてている
前庭系システムの役割
●空間内の頭部の動きを検出することによって自己の運動情報をコード化する
●その情報を基に,前庭システムは下記の3つの行動の精度を保証すると考えられている (i)視界を確保するための視線の安定化 (ii)姿勢の平衡を確保するために必要な頸部および四肢の代償的な動きの生成 (iii)ナビゲーションやリーチングのようなより複雑なタスクの実行
●前庭系では,その感覚のみを処理する一次領野が存在するというよりも,基本的に空間や身体の認知に関する他の感覚と併せて処理されると考えられる
前庭神経核への入力:三半規管,卵形嚢と球形嚢,Ⅷ脳神経,固有感覚,小脳,皮質,眼球運動 等
前庭末梢部のコード化
●感覚器官は2つのタイプのセンサーで成り立つ
三半規管:角加速度を感知する 耳石器:耳石器には卵形嚢(utricle)と球形嚢(saccule)があり,線形加速度を感知する
上下方向の直線加速度?球形嚢 水平方向の直線加速度?卵形嚢
●それらの内部にはセンサーである有毛細胞がある
●その有毛細胞から規則型と不規則型との求心性神経によって(混合型もあり)シグナルを前庭核に運ぶ
●より軸索の大きい不規則な求心性繊維は,神経上皮の中央に位置する有毛細胞からの情報を運ぶ
●不規則型は高周波をキャッチし信号を送ることに長ける
●より軸索の小さい規則的な求心性線維は,末梢神経上皮におけるⅡ型有毛細胞からの情報を優先的に運ぶ
●規則型は行動に重要な周波数範囲を常にキャッチし情報を送っている
●それらが補いあって前庭神経核に情報を送っている
前庭中枢部のコード化
●VN前庭神経核は… (i)前庭動眼反射(VOR)を介して視線の視軸を安定化させる
●前庭神経核から外眼筋ニューロンに信号を送る
●ある対象物を見たまま,頭部を回転させると頭の動きとは逆向きに眼球を動かす反射運動(補足:頭部の動きから目の動きまでの遅れは0.01秒と言われる)
●対象物を目で追ったり,視線を能動的に変えると抑制される
●大部分は,PVP position vestibular neuronsである
●PVPの校正/調整としてFTNニューロンが存在する
●FTNニューロンは小脳片葉から入力を受ける(補足:小脳片葉は前庭と相互連絡をする前庭小脳である)
●PVPニューロンは補足眼野のサッカード(急速眼球運動)経路からの強力な阻害入力を受ける
●注視中のPVPニューロン応答は,頭部速度入力と阻害性サッカードの線形和によって説明することができる
(ii)姿勢制御及びバランスを維持する
●VOニューロン(vestibular only neurons):眼球運動構造に投射しないので,VORに寄与しない
●代わりに,これらのニューロンの多くは脊髄に投影され,少なくとも部分的に前庭脊髄反射(VSR)を媒介すると考えられている
●VOニューロンは小脳、視床および皮質における前庭感受性ニューロンへの前庭入力の源のようである。
●前庭系が空間的な,姿勢平衡および安定性のために必要とされる高次前庭処理の確保に重要な役割を果たす基板である
●VOニューロンは受動的な頭部の動きには確実に応答するが,能動的な動きの間は著しく(70%程)減衰する
●能動的な運動中にVSRは逆効果となり,VSRが消えていることは機能的に有利と言える
●VOニューロンは自発的な頭の動きのなかで,受動的な運動の情報をコード化しており,それは正確な運動制御に大事な役割となる
(iii)自分の動きを予測するために,上記にも一部記載したが他の脳領域に投影する
●能動的な頭部運動に対する前庭ニューロン応答の選択的消去に関与するメカニズム:能動的に発生した運動と受動的に加えられた運動を区別する能力は,運動指令を形成するために重要であるだけでなく,知覚的安定性を確保するためにも重要である
●生体は受動的か能動的かどちらの原因によって感覚信号の変化が引き起こされたかを区別する能力を有している
●頸部筋の固有感覚性フィードバックと頸部運動指令時に出された遠心性コピーから脳の内部モデルによって予測された運動とが合った時,能動的な運動と認識し前庭反射はキャンセルされる
●実際では,外界の情報など他の要素も考えトータルで計算される
ナビゲーションに関して
●人間は海馬を基盤として,自分の位置を把握するナビゲーションシステムを持つ
●移動中にこのシステムを使って自身の位置を追跡し続けている
●ナビゲーション中に頭部方向細胞によって方向の神経信号を生成するためには,前庭入力が必要であり,方向性の調整は頭部の角加速度のオンラインでの計算(情報の統合)によってと考えられる
●複雑な自発的行動中の行動の正確さを保証する役割である
私見・明日への臨床アイデア
●VSR:前庭脊髄反射などの前庭系が過剰に働いていて,体が固定的になっているケースには前庭への入力が可能な眼球や頭頸部の固有感覚受容器などを意識した介入で神経信号とその統合を治療出来,運動制御の変化が期待できる事が示唆される
●動作を評価する際に,眼球や頭頸部の動き,四肢の屈曲伸展活動の切り替えの円滑さなど,前庭系を意識した評価も大切と思われる
氏名 Shuichi Kakusho
職種 理学療法士
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
脳卒中の動作分析 一覧はこちら 論文サマリー 一覧はこちら 脳卒中自主トレ100本以上 一覧はこちら
塾講師陣が個別に合わせたリハビリでサポートします
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)