【2026年版】脳卒中後の痙縮はどの筋肉に出やすい?抗重力筋に偏る理由と評価・治療を徹底解説
抗重力筋に痙縮が偏る理由を、機序から読み解く。
痙縮は「なんとなく硬い」で終わらせてはいけない現象です。機序・評価・介入のパラメータを臨床エビデンスとともに整理し、新人セラピストが自信を持って評価・介入を組み立てられるようにまとめました。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
68歳男性。左中大脳動脈領域の脳梗塞、発症6週(回復期)。Brunnstrom Stage上肢III、FIM運動項目46点。主訴は「右手が開かず更衣が進まない」。
初回評価では、他動的な手指伸展速度を上げると急激に抵抗が増大し、MAS 2。一方、ゆっくり伸張すると可動域はほぼ確保できた。速度依存性の抵抗増大が明確なパターンで、拘縮の合併は乏しいと判断した。
新人のうちは「MAS2だから硬い」で終わりがちですが、この一手間で治療対象の性質が変わります。伸張速度による抵抗の変化を丁寧に観察する習慣が、以降すべての評価の土台になります。
定義と疫学。
痙縮(spasticity)は、上位運動ニューロン症候群(UMNS:大脳皮質から脊髄前角までの経路が障害されて生じる一連の症状群)に含まれる速度依存性の筋トーヌス増加で、腱反射の亢進を伴うことが多いとされます(Lance定義)。大脳皮質-脳幹網様体-脊髄の抑制系が低下し、脊髄レベルの伸張反射が脱抑制されることが主要機序です。
臨床ではspasticity(他動的な伸張反射由来)とspastic dystonia(随意運動指令の有無に関わらず持続する筋の過活動)を区別すると、治療標的が明確になります。安静時にも筋が硬いのか、動かした瞬間だけ抵抗が強いのかを観察してください。
発生率と好発パターン
発症後1年以内に25〜38%の患者が痙縮を呈すると報告されています(Wissel et al., J Neurol, 2010; Urban et al., Stroke, 2010)。
Urban et al.(Stroke, 2010)によると、上肢+下肢同時発現27%、上肢単独8.5%、下肢単独7.1%と報告されています。
抗重力筋(上肢屈筋群・下肢伸筋群)に集中しやすく、上肢は屈曲シナジー、下肢は伸展シナジーを形成する傾向があります(Sommerfeld et al., Stroke, 2004)。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは運動学・神経科学に基づいた評価から、ご本人に合わせた自費リハビリテーションプログラムをご提案しています。医療機関でのボツリヌス療法後のリハビリにも対応可能です。
神経メカニズム・責任病巣。
皮質脊髄路と網様体脊髄路(皮質から脳幹を経由して脊髄へ向かう下行性抑制路)が損傷されると、脊髄のIa抑制系が低下します。結果として伸張反射の閾値が下がり、他動的な伸張速度に応じて筋放電が過剰に生じるのが痙縮の本体です。
抗重力筋に偏る理由
網様体脊髄路は元来、姿勢保持のために抗重力筋への興奮性入力を担っています。皮質からの抑制が外れると、この抗重力筋への興奮性ドライブが相対的に優位となり、上肢屈筋・下肢伸筋に痙縮が集中しやすくなります(Physiopedia, Spasticity解説より)。

画像所見[観察研究]:内包後脚・一次運動野を含む皮質脊髄路の損傷範囲(CST lesion load)が大きいほど、広範な痙縮を呈するリスクが相対的に高いとする報告が複数ありますが、閾値は研究間で一貫していません。
臨床重症度との関連[観察研究]:NIHSSやFugl-Meyer上肢スコアが低いほど痙縮発生のオッズが上がる傾向が報告されています(Sommerfeld et al., Stroke, 2004)。
鑑別診断。
「硬い」という所見だけでは、痙縮・拘縮・疼痛性防御収縮・ジストニアを見分けられません。以下の鑑別ポイントを押さえておくと、治療対象の取り違えを防げます。

| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 軟部組織拘縮 | 他動運動での抵抗感 | 低速でも高速でも抵抗が同程度(速度非依存)。Tardieu R2-R1が20°未満なら拘縮優位を疑う。 | Tardieu Scale、超音波エラストグラフィ |
| spastic dystonia | 安静時の筋緊張亢進 | 他動運動をしなくても持続する過活動。表面EMGで安静時放電が確認できる。 | 表面EMG(安静時RMS) |
| 疼痛性防御収縮 | 他動運動時の抵抗 | NRS4以上の疼痛を伴い、疼痛部位の除痛で抵抗が消失することが多い。 | NRS、除痛前後の比較 |
| 骨盤底機能障害 | 「過緊張」という表現 | 速度依存性の明瞭なパターンは稀。尿失禁・便秘など機能的失調として現れる。 | Glazer分類、内診、超音波 |
評価尺度と採点基準。
痙縮の評価は「MASだけ」で終わらせず、Tardieu Scaleや表面EMGを組み合わせることで、拘縮との鑑別精度が上がります。

| 項目 | 採点基準(MAS) | カットオフ値の目安 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 0 | 筋緊張の亢進なし | — | 介入対象外 |
| 1 | 可動域終末でわずかな抵抗 | 経過観察の目安 | 軽度、機能への影響は限定的 |
| 1+ | 可動域の半分未満で軽い抵抗 | — | 機能訓練と並行して経過観察 |
| 2 | 可動域の大部分で抵抗増大、可動は容易 | 2以上で介入の目安 | 積極的な介入を検討する境界 |
| 3 | 著明な緊張亢進、他動運動が困難 | — | 医師との連携(薬物療法含む)を検討 |
| 4 | 屈曲・伸展位で固定 | — | 拘縮進行に留意、装具・薬物療法の適応を医師と協議 |
信頼性[観察研究]:MASの検者間信頼性は肘関節などで比較的良好な一方、足関節など関節によってばらつきが大きいと報告されています(Pandyan et al., Clin Rehabil, 1999)。
MCID(臨床的最小変化量)[専門家合意]:MASについて統一されたMCIDは確立されておらず、多くの臨床研究ではMAS1段階の変化を臨床的に意味のある変化として扱っています。数値を過信せず、ROMや機能評価と併せて解釈することが推奨されます。
介入のエビデンス。
介入は「とりあえず伸ばす」ではなく、パラメータ(時間・回数・頻度・強度)を明確にして実施することが再現性につながります。

1回30秒×5セット、1日2回を目安に実施。ROM維持と痛みを伴わない範囲での漸増が基本です。
四つ這い保持や壁プッシュアップなど、末梢の固定を利用した課題を週3〜5回、1回10〜15分で実施すると拮抗筋の随意収縮が引き出しやすくなります。
拮抗筋(手指伸筋・前脛骨筋など)へ1回20分、週3〜5回を目安に実施し、随意収縮の補助として用います。
医師によるボツリヌス毒素A注射後24〜72時間の「軟化期」に、持続伸張とFES、課題指向型訓練を重ねると神経可塑性が促進されやすいとされます。実施は医療機関との連携が前提です。
ボツリヌス療法併用リハ[SR/MA]:複数の系統的レビューで、ボツリヌス療法単独よりリハビリテーションを併用した群でMAS・機能評価の改善が大きい傾向が示されています。実施頻度・強度は個々の医療機関のプロトコルに従う必要があります。

痙縮による硬さは、正しい評価と継続的な介入によって変化が期待できます。STROKE LABでは一人ひとりの状態に合わせたプログラムをご提案しています。
多職種連携と環境調整。

骨盤底機能障害は「機能的失調」として連携する
脳卒中後の尿失禁は約50%、便秘は約48%に生じると報告されています(Care New England, Pelvic Floor PT for Stroke)。骨盤底筋は陰部神経(S2-4)による随意支配が主体で、四肢のような速度依存性痙縮としては稀にしか現れません。ICIQ-SFやPFDI-20によるQOL評価、Glazer分類による内診評価を看護師・医師と共有することが、機能的失調としての適切な対応につながります。
「四肢の痙縮ばかりに気を取られず、排泄の困りごとも忘れずに聞いてください。ご本人が言い出しにくいだけで、QOLへの影響は大きいことが多いです。」
「骨盤底の評価は専門的な手技を要するため、必要と感じたら早めに看護師・専門職へつなぐ判断力も大切です。」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | MAS、Tardieu、歩行分析 | 下肢の伸張・課題指向型訓練、装具適合評価 | 医師へ痙縮の日内変動を報告 |
| OT | 上肢シナジー、ADL場面での硬さ | スプリント適合、更衣動作訓練 | PTと屈曲パターンの共有 |
| ST | 構音・嚥下関連筋の緊張 | 口腔顔面筋の脱感作・機能訓練 | 姿勢調整をPTと共有 |
| 看護師 | 排泄状況、皮膚トラブル | 排泄パターン記録、ポジショニング指導 | ICIQ-SF等の情報をリハ職と共有 |
| 医師 | 重症度判定、治療適応判断 | ボツリヌス療法、薬物療法の処方 | リハ職からのMAS変化報告を治療判断に反映 |
| MSW | 在宅環境、介護負担 | 福祉用具・住宅改修の調整 | 退院後の介入頻度をリハ職と調整 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
新人のうちに陥りやすい失敗パターンを先に知っておくと、遠回りを減らせます。

先輩からの判断軸
「迷ったら、まず速度を変えて他動運動をしてみてください。それだけで痙縮か拘縮かの見当がつきます。」
「介入前後でMASとROMを両方記録する癖をつけると、後から振り返ったときに自分の判断の正しさを検証できます。」
予後とゴール設定。
痙縮は必ずしも「悪」ではありません。立位保持や歩行時の支持性に寄与している場合もあり、除去することが必ずしもゴールではない点に注意が必要です。
ADL阻害・疼痛・二次的拘縮リスクなど、機能面への影響を評価したうえで介入の要否とゴールを設定します。ご本人・ご家族の希望とすり合わせながら、FIMやFugl-Meyerの変化を定期的に確認しましょう。
よくある質問。
痙縮は他動的な伸張速度に依存して抵抗が増す現象で、伸張反射の脱抑制が本体です。spastic dystoniaは安静時にも持続する筋の過活動で、随意運動指令が消えても筋放電が残る点が異なります。他動運動時のみ抵抗が強いのか、安静時から筋が硬いのかを区別して観察することが治療方針の分岐点になります。
両者は測定している性質が異なるため、可能であれば併用が推奨されます。MASは簡便ですが軟部組織の拘縮と神経性の痙縮を区別しにくいという限界があります。Tardieu ScaleはV1(低速)とV3(高速)の角度差(R2-R1)を計測でき、拘縮優位か痙縮優位かの鑑別に有用です。
注射後24〜72時間は筋緊張が低下し始める軟化期にあたり、この期間に持続伸張やFES、課題指向型訓練を重ねると神経可塑性の促進が期待されます。ただし個人差が大きいため、MASやROMの再評価をしながら強度を調整することが重要です。
骨盤底筋は陰部神経による随意支配が主体で、四肢のような明瞭な速度依存性痙縮のパターンとして報告されることは稀です。脳卒中後は尿失禁や便秘といった機能的失調として現れることが多く、Glazer分類や表面筋電図を用いた機能評価がより実用的です。
痙縮そのものが常に治療対象になるわけではありません。姿勢保持や歩行に有利に働くこともあるため、ADLへの支障・疼痛・二次的拘縮のリスクなど機能面への影響を総合的に評価したうえで介入の要否を判断します。
運動学・神経科学的評価に基づき、持続伸張運動療法や課題指向型訓練、電気刺激療法などエビデンスに基づいた自費リハビリテーションを提供しています。医療機関との連携のもとボツリヌス療法後のリハビリにも対応しています。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳卒中専門の自費リハビリ施設として、運動学・神経科学に基づいた評価から一人ひとりに合わせたプログラムを提供しています。痙縮による硬さやしびれなど、医療機関だけではフォローしきれない継続的なリハビリのニーズにお応えしています。
— STROKE LABでのリハビリテーションの様子
「MAS2の利用者様で、当初は持続伸張だけを続けていましたが、Tardieuを取り入れたところR2-R1が15°と拘縮優位の所見でした。伸張時間を延ばし週内の頻度も増やしたところ、2ヶ月でROMが明確に改善し、更衣動作の介助量が減りました。数値の内訳を見る大切さを実感した症例です。」— PT・臨床8年目・脳卒中リハビリ専門
「歩行中に下肢の伸展痙縮が強い方で、最初は抑えることばかり考えていました。しかし歩行分析をすると立脚期の支持性に痙縮が寄与しており、除去よりも制御を目標に切り替えました。FESで拮抗筋を促通しつつ痙縮を活かす方向に方針転換し、歩行速度と安定性が両立できた経験があります。」— PT・臨床6年目・歩行分析専門
諦めないでください。

痙縮による手の硬さや歩きにくさは、ご本人にとって毎日向き合う現実です。私たちはその現実に、運動学・神経科学に基づいた根拠のあるアプローチで向き合い続けています。
「もう変わらない」と言われた状態からでも、評価を丁寧に積み重ねることで見えてくる可能性があります。
一人で抱え込まず、まずはお話をお聞かせください。ご本人とご家族に寄り添いながら、次の一歩を一緒に考えます。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)