脳卒中後の手指の浮腫と疼痛(評価用紙付き)|原因・評価・リハビリ・家族のケアを解説
原因から見直す。
脳卒中後の手の腫れは、麻痺による動きの少なさや、腕を下げた姿勢が関係することがあります。ただし、すべてを「麻痺のせい」とは判断できません。
原因を確認し、腫れ・痛み・生活動作を記録する。その順番で、リハビリと毎日のケアを考えます。医療職が使えるA4・2枚の評価用紙も用意しました。
突然の息苦しさ・胸痛を伴う場合は119へ。手が急に冷たく白い・青紫色になる、急に強く腫れる、赤み・熱感・発熱がある場合も、リハビリより医療評価を優先してください。[1]
原因が分からないまま、強くもむ・きつく圧迫する・温めることは避けます。
手の浮腫は、何が原因?
浮腫とは、皮膚の下などの組織に余分な水分がたまった状態です。脳卒中後は、手を動かす機会が減ることで筋肉のポンプ作用が弱まり、腕の下垂とともに水分が戻りにくくなることがあります。
一方、感染や血栓、リンパ系の問題、全身の病気が隠れている場合もあります。片側か両側か、急に出たか、熱や痛みがあるかを手がかりに、背景を整理します。[1]
| 由来の候補 | 確認する手がかり | 対応の考え方 |
|---|---|---|
| 不動・下垂 | 麻痺側を動かす機会が少ない。腕を下ろすと増え、支持や運動で変化する。 | 姿勢と活動量を見直す。ただし、この反応だけで他疾患を除外しない。 |
| 静脈の問題 | 片側の腫れ、重さ、痛み。カテーテルや血栓の既往。 | 急な腫れは血栓などの確認を優先する。 |
| リンパ系の問題 | リンパ節の手術・放射線治療歴、持続する腫れ、皮膚の厚み。 | 医師・専門職へ相談。初期には軟らかく、押した跡が残ることもある。 |
| 炎症・感染・外傷 | 赤み、熱感、局所の痛み、傷、発熱、ぶつけた・ひねった経過。 | 原因に応じた医療評価を優先する。 |
| 全身性・薬剤性 | 両手や下肢・顔も腫れる。体重変化、心・腎・肝疾患、薬剤変更。 | 主治医に確認。薬や水分量を自己判断で変更しない。 |
| CRPS | 強い持続痛に、感覚・色・温度・発汗などの変化が重なる。 | 単なるむくみと決めつけず、早期に医師へ共有する。 |
原因は一つとは限りません。圧痕の有無や左右差だけで、由来を確定することはできません。リンパ浮腫の特徴は資料[2]も参照してください。
浮腫と痛みは、分けて評価する。
腫れると動かしにくくなり、痛みで手を使わなくなると、さらに活動が減ります。ただし、痛みの原因と浮腫の原因が同じとは限りません。
筋・関節の痛みと、神経に由来する痛み
関節や軟部組織への負担、痙縮などによる痛みのほか、感覚の神経経路の損傷による中枢性疼痛も考えられます。中枢性疼痛は視床の損傷だけに限らず、痛みだけで手の腫れの原因まで説明することはできません。
肩手症候群・CRPSを疑うとき
肩手症候群は、脳卒中後のCRPS(複合性局所疼痛症候群)として扱われることがある状態です。姿勢の悪さだけで起こる病気ではありません。
不釣り合いな持続痛に、触れると痛い、皮膚の色や温度が左右で違う、汗の出方が変わる、腫れや可動域制限があるなどの所見が重なる場合は、医師へ相談します。[3]
Budapest臨床診断基準では、感覚・血管運動・発汗/浮腫・運動/栄養の4領域について、本人の症状と診察時の徴候を確認します。持続痛、症状3領域以上、徴候2領域以上に加え、他の診断で説明できないことが必要です。[4]
脳卒中による麻痺や可動域制限と重なるため、チェック数だけでCRPSと判断しません。
浮腫の評価は、5つに絞る。
「腫れが減った」だけでなく、痛みや手の使いやすさも追います。初回と再評価で条件をそろえることが大切です。
— 周径・写真・痛みを組み合わせて経過を確認します。下の評価用紙はNRSを採用しています。
いつから、どこが、どのように腫れたか。左右差、朝夕の変化、下垂・支持との関係、既往や薬剤変更を記録します。
色、温度、傷、皮膚の張り、軟らかさ・硬さを確認。圧痕をみる場合は、部位・押した時間・戻るまでの時間を記録します。傷や強い痛みがある場所は無理に押しません。
手部・手関節・指の測定位置を決め、同じ姿勢・時刻・メジャーの張力で測ります。皮膚を締め付けず、自然な左右差も踏まえて、同じ側の経時変化を重視します。
NRSは「0=痛みなし、10=想像できる最悪の痛み」として数字で答える方法です。安静時と決めた動作時を分けます。回答が難しい方は、表情・防御動作・声などを記録し、本人のNRSとして代入しません。
手関節や指の可動域、手を開く・握る動き、更衣や洗手などの困りごとを確認。「袖を通すときの痛み」「手のひらを洗う介助量」など、具体的な動作を再評価します。
VASは通常、100mmの線上に痛みの位置を示す方法です。NRSと混同せず、経過では同じ尺度を使います。写真は本人の同意を得て、角度・距離・照明をそろえます。
浮腫のリハビリ評価用紙PDF。
医療職向けの印刷用シートです。チェック欄と記入欄を使い、医師・看護師・リハビリ職で情報を共有できます。
A4縦・2枚/無料。独自の記録用紙であり、妥当性が検証された診断尺度ではありません。原因疾患の診断・除外は医師が行います。
評価用紙の使い方
状態に合わせて、リハビリを選ぶ。
原因疾患への対応と並行して、支持・運動・必要に応じた圧迫などを検討します。手の浮腫に対する研究は限られており、介入前後の反応を見ながら調整することが大切です。[3]
まずは、腕を支えて無理なく動かす
座位ではテーブルやクッションで前腕と手を支え、長時間ぶら下げたままにしないようにします。挙上する場合も肩を引っ張らず、痛みのない高さを担当者と確認します。
運動は、自分で動かす、反対の手や介助で補う、専門職が動かす方法から選びます。手指の曲げ伸ばしなどを少量から行い、痛みや腫れが増える場合は負荷を見直します。
圧迫・徒手的ケアは、適応と方法を確認
圧迫グローブや包帯は、循環・感覚・皮膚の状態を確認したうえで、専門職がサイズ、圧、装着時間を調整します。新たなしびれ、冷感、色の変化、痛みが出た場合は使用を中止し、相談してください。
徒手的な浮腫ケアも、原因の確認と専門職の指導が前提です。「強く押せば流れる」と考えず、自己流の強いマッサージは避けます。
道具・電気刺激・ロボットは、目的を決めて使う
柔らかい道具やタオルなどは、手を使う練習の補助になります。ただし、強く握り続けたり、痛みを我慢して反復したりする必要はありません。電気刺激やロボットも、運動を補う選択肢として適応を判断します。
Borboniらの研究では、完全麻痺群と部分麻痺群の両群が通常のリハビリに加えてGlorehaによる手の他動運動を受けました。部分麻痺群は、完全麻痺群より手関節の浮腫と痛みの減少が大きい結果でした。[5]
ただし、痛みの減少は臨床的に重要な最小変化量に達していません。通常リハビリのみの群との比較ではないため、「ロボットなら2週間で改善する」とは言えません。
ご家族ができる、毎日のケア。
手を楽に使えることを目標に。
更衣、洗手、食事などの困りごとを一つ選び、痛みや介助量の変化も担当者と共有しましょう。
感覚が鈍い手への温熱やパラフィン浴は、やけどに気づきにくいため自己判断で行わないでください。水分制限・食事制限や薬の変更も、原因疾患に応じて主治医の指示を確認します。
訪問看護・訪問リハビリなどの利用は、主治医やケアマネジャーへ相談できます。家庭で続けられる方法に絞り、ご家族だけで抱え込まないことも大切です。
よくあるご質問。
いいえ。麻痺に伴う活動低下や下垂に加え、感染、外傷、静脈・リンパ系の問題、心臓・腎臓などの病気、薬剤が関係することがあります。急な腫れや赤み・熱感は医師に相談してください。
原因が分からない段階で強くもむことは避けてください。血栓や感染などの確認を優先します。徒手的なケアを行う場合は、担当者から方法・強さ・中止条件の指導を受けてください。
まず医師や圧迫療法に詳しい専門職に相談してください。適応、サイズ、圧の強さ、装着時間を個別に決め、皮膚・感覚・循環の状態を確認する必要があります。
はい。時期にかかわらず、原因や生活上の負担を再評価する意義があります。改善の程度や期間には個人差があり、長く続く腫れや新たな痛みは医療機関で確認することが大切です。
できません。この用紙は医療職が原因の候補と経過を整理し、医師やチームと共有するための独自記録用紙です。診断や血栓・感染の除外には、医師の診察や必要な検査が求められます。
生活の中で使える手を、一緒に考える。
STROKE LABでは、脳卒中後の動きや生活動作を評価し、姿勢・運動練習・環境調整を組み合わせた自費リハビリを提案しています。浮腫や疼痛について医療的な確認が必要な場合は、主治医への相談を優先します。
お聞かせください。
「袖を通すと痛い」「手を開いて洗いにくい」など、日常の困りごとから目標を整理します。評価用紙の記録があれば、相談時にも役立ちます。
参考文献・資料
本記事と評価用紙は情報提供・評価記録のための資料です。個別の診断や治療方針は、主治医・担当専門職にご相談ください。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)